クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ

三人のうち二人目の精霊


大きな響くいびきをかいている最中にスクルージはとつぜん目をさまし、ベッドにこしかけて、頭をはっきりさせようとしたが、すぐに鐘がふたたび一時をしらせるのがわかった。まさしくいい時間に目がさめたものだと思った。というのは、ジェイコブ・マーレーの招きによる使者の二人目との会合をもつという特別な目的があったのだから。ただこんどの精霊はどのカーテンをひいてでてくるのかと考え始めたらひどく寒気がしてきたので、自分の手であらかじめカーテンを片側に寄せてしまって、ふたたび横になった。ただベッドのまわりを注意深く見回しながらだが。そう、精霊がでてきた瞬間からしっかり心構えをしたいからで、不意をつかれて驚くようなことにはなりたくなったのだ。

むとんちゃくな種類の紳士というものは、抜け目がなくいつも時間にうるさいが、自分がコイントスから殺人にいたるまでありとあらゆることがこなせるのだといって、どんな冒険でもできる能力をほこるものである。なるほどたしかに、このコイントスと殺人のあいだには、ありとあらゆる物事がふくまれるといっていいだろう。スクルージがそれほどのことをするとは思わないが、わたしとしてはみなさんにスクルージが不思議な物事の内の大部分については覚悟ができていたと信じているといってもかまわないと思う。赤ん坊からしかばねに至るまでの何がでてきても、それほどはスクルージをおどろかせないだろうということも。

さて、ほとんどありとあらゆることに覚悟ができていたが、スクルージは何も起きないということには準備が整っていなかった。鐘が一時をしらせても、何も姿をあらわすものはなかった。スクルージはひどい身震いを感じた。五分、十分、十五分がすぎたが、何も起こらなかった。このあいだずっとスクルージはベッドに横たわっていて、炎のような赤みがかかった光のまさに真ん中にいた。その光は時計が時間をしらせたときから拡がったものである。ただの光だが、スクルージにはそれが何を意味しているのか、あるいはそもそも何かを意味するものなのか全くわからなかったので、何十もの精霊よりずっと恐ろしいものに感じられた。ふと頭によぎったのは、そうと分かればほっとできるのに、分からずに自分が自然発火現象のめずらしいケースに遭遇しているのではなどということだった。ただ、とうとう、わたしやみなさんなら最初に思い当たっただろうことに、スクルージも思い当たった。まあ当事者というものは、いつも何をしなければならないのか、しなければならないことが全く分からない状態にあるものだから。で、とうとうスクルージはこの不思議な光がきている源と秘密がとなりの部屋にあるらしいということに思い当たった。たどっていくと、そのあたりから光が発せられているようだった。この考えが心の全てを占めてしまい、スクルージはゆっくり起き上がると、スリッパをつっかけドアの方へとむかった。

スクルージの手がノブにかかった瞬間に、奇妙な声でスクルージの名が呼ばれ、中へとはいるように命じ、スクルージもそれにしたがった。

そこはまちがいなく自分の部屋だったが、驚くべき変化がもたらされていた。壁や天井からは生き生きとした植物がたれさがり、まるで森の中のようだった。いたるところで、きらきらと明るくかがやく木の実が光っていた。ひいらぎやヤドリギ、つたの生き生きとした葉っぱが光を反射し、まるで無数の鏡があちこちにばらまかれたかのようだった。えんとつへは大きな炎がうねりをあげており、それはさえない石の暖炉がスクルージが住んでいるときにも、あるいはマーレーが住んでいたとき、冬の時期にもひさしくなかったような勢いだった。床の上につみあげられていて、まるで王座を形作っているかのようだったのは、七面鳥、がちょう、鳥獣、家禽、ブローン、大きな肉片、子豚、長い輪になったソーセージ、小さなパイ、プラムプディング、大量の牡蠣、焼いたクリ、真っ赤なりんご、新鮮なオレンジ、甘美なナシ、とても大きなクリスマスケーキ、そしていろいろなものが入っているポンチ、それぞれのおいしそうな湯気が部屋を満たしていた。そしてこの大きな椅子のうえにゆったりと、楽しげな巨人が腰をおろしていた。とても楽しげで、光り輝くたいまつを手にしていたが、それは豊穣の角に似てなくもなかった。そしてそれを高く掲げ、スクルージが部屋のドアから顔をのぞかせたとき、その顔を照らし出した。

「入って来い」精霊は声をかけた。「入ってきて、よく私を見るんだ」

スクルージはおずおずと入ってきて、顔をあげて精霊をみた。スクルージはもう以前のような強情な彼ではなかったので、精霊の目は澄んでいて優しげだったが目をあわせることはできなかった。

「私は今のクリスマスの精霊だ」精霊は語った。「よく私をみるんだ」

スクルージは敬意をはらって精霊を見た。緑色の上着というか外套を一枚はおっており、それは白い毛皮でふちどられていた。この服はあんまりゆったりしていたので広々とした胸がはだけられており、それはまるでどんなものでもさえぎったり隠したりできないとでもいうようだった。足は上着の大きなひだの下から姿をのぞかせておりやはりむきだしで、頭といえばヒイラギの冠のほかはなにもなく、その冠のあちこちにはつららが光っていた。黒い髪の毛はながくゆったりとカールされていた。そのゆったりさ加減は、にこやかな表情、活気のある目、開いた手、華やいだ声、くつろいだ物腰や楽しそうな雰囲気にみられるものと同じだった。腰の周りには、アンティークなさやをぶらさげていたが、刀は入っておらず、その古いさやも錆びだらけだった。

「私のようなものはみたことがないだろう」精霊は語りかけた。

「見たことがありません」スクルージはそれに答えた。

「私の一家の若者たちと一緒にぶらぶらしなかったかな? といっても私が一番若いんだから、最近生まれた私の兄たちとということだが」精霊はつづけた。

「なかったように思いますが」スクルージは答えた。「なかったと思います。ご兄弟は多いんですかね、精霊さま」

「1800人以上はいるかな」

「食わせていくのも大変ですな」スクルージはぶつぶつつぶやいた。

今のクリスマスの精霊は立ち上がった。

「精霊さま」従順にスクルージは口をひらいた。「どこへでもわしを連れて行ってください。昨晩はむりやりといった具合でしたが、今も胸にきざまれている教訓が得られました。今晩もなにかおしえてくださることがあるなら、よろしくおねがいします」

「私の上着にふれるんだ」

スクルージは言われたとおりにしっかりと上着をつかんだ。

セイヨウヒイラギ、赤い木の実、蔦、七面鳥、がちょう、鳥獣、家禽、ブローン、肉、豚、ソーセージ、牡蠣、パイ、プディング、フルーツ、ポンチはすべてただちに消え去った。そして部屋の暖炉の火、赤い光も消えてなくなり、時間も夜から、クリスマスの朝になって街の街頭に二人はたちつくしていた。寒さがきびしく、人々はそうぞうしいがきびきびとした気持ちのいい音をたてて、自分たちの家の前や屋根の上の雪かきをしていた。男の子にとってみれば屋根から雪が下の道路にズシンと落ちて、自分が小さな雪嵐をおこせるのをみるのは何物にもかえがたい喜びでした。

屋根の上につもった真っ白な一面の雪や、地面につもったそれよりは汚れた雪とくらべても家や窓はくろずんでみえた。地上に積もった雪には馬車や荷馬車の車輪で深いわだちができていた。わだちは大きな通りが交差するところでは、何百となく交差しており、いりくんだ経路になっていて、黄色っぽい厚いどろや氷で跡をたどるのはむずかしくなっていた。天候もさえず、みじかい通りでさえどんよりした霧がはんぶん溶けてはんぶん凍っていて、息苦しくなりそうだった。その霧の重い粒がすすのシャワーとなってふりそそぎ、まるでイギリス中の煙突がそろって火をつけ、思う存分すすをはきだしているといった具合だった。天候にも街のようすにも心がうきたつようなところはどこもなかったが、それでもすみきった夏の大気やすがすがしい夏の太陽がどれほどかきたてようとしてもできないような楽しげな雰囲気が街じゅうにただよっていた。

その理由はといえば、家の屋根の上で雪かきをやっている人たちが陽気で歓声をこれでもかと上げていたからだ。屋根のへりのところからお互いに話しかけたり、ときどきは口で言う冗談よりもよっぽど楽しい口撃である、雪合戦をやり、あたったといっては心から楽しそう、あたらなかったといっては残念そうにしていた。七面鳥をあつかう店はもう半分開業休店状態だったが、一方果物をあつかう店はかなりにぎわっていた。形がまるで陽気な老紳士のチョッキのような、大きくまんまるでだるま型のクリが入った籠があり、ドアのところにもたれかかっていたり、ふくれすぎて表にまで転がったりしているものがあった。色つやのいい、茶色のまんまるとしたスペインタマネギがあり、その肥え具合はスペイン修道士さながらで、とおりすぎる女性たちにいやらしい目つきで棚の上からウィンクしてみせたり、おどおどとつるされてるヤドリギの方をみつめたりしていた。なしとりんごも巨大なピラミッドのようにつみあげられ、とおりがかりの人たちの渇きを潤すようにとの店主の寛大さでぶどうが人目につくようにぶらさげてあった。こけのついたいい色のハシバミの実も山とつまれていて、その香りはくるぶしまで落ち葉にうもれながら歩いた楽しい散歩を思い起こさせた。ノーフォーク産りんごもとれたてでよく日に焼けていて、オレンジやレモンの色合いを補ったり、ひきしまったジューシーさで、どうか紙袋でお持ち帰りいただいて夕食後に召し上がってくださいと懇願しているかのようだった。金魚や銀色の魚がこうしたフルーツのあいだの金魚鉢にいれられて飾られていたが、こうした頭のにぶく血の巡りのわるい連中にも何がおきているのかわかっているように思われた。魚たちもゆっくり興奮を表にださず、その小さな世界を息もたえだえに回遊していた。

食料品屋、えぇ食料品屋は、シャッターを一、二枚ほどおろしほぼ店を閉めかけていましたが、開いている場所は盛況なものでした。カウンターの上で天秤皿が陽気な音をたてているだけではなく、糸と滑車は天秤皿をいきおいよく動かし、おかげでジャグリングでもしているかのように天秤皿は上下していました。紅茶とコーヒーの香りが鼻をつき、レーズンは極上のものがたっぷりあり、アーモンドはこれでもかというほどまっしろでシナモンはまっすぐで長く、その他の香辛料もとても香ばしそうだった。砂糖漬けの果物が溶けた砂糖でしっかりかためられ、それにはいかなるそっけない見物人でも気が遠くなり、しまいにはおこりっぽくなるほどだった。またいちじくは汁気が多く熟れていて、フランス産のプラムは赤みがかって、適度なすっぱさで箱の中にきれいに陳列されており、なにもかもが食べごろでクリスマスのよそおいをしていた。ただお客さんたちはみなこの日にうかれせかせかしていて我先にとほしがり、ドアのところでおしありへしあいをやり、買い物かごをひどくぶつけあうは、カウンターの上に買い物を忘れてまた急いで取りにもどるなど、そういった間違いを数限りなくこれ以上ないほど上機嫌で繰り返すのだった。一方食料品屋の店員たちはあまりに機嫌よく生き生きとしており、エプロンを後ろでとめている心臓の形をしたかざりは、まるでみんなに見てもらいたいかのようで、自分たちの心臓をクリスマスのコクマルカラスがほじくりかえしたとでもいうかのようだった。

しかしまもなく協会の尖塔の鐘が教会や礼拝堂へと善良な人々を呼び集め、みんなせいいっぱい着飾って通りへとあふれ、その顔も喜びにあふれていた。それと同時にありとあらゆる横道、路地、名前もついてないような曲がり角から大勢の人が、みずからの夕食を手にパン屋へと姿をあらわした。そういった貧しい人々のどんちゃんさわぎはいたく精霊の興味をひいたようだった。というのは精霊はスクルージとともにパン屋の入り口に立ち、食事を運ぶものがパン屋を通り過ぎるときにその覆いをとると、カンテラから夕食へと香料をふりかけたからだった。たいまつはふつうのものとは全く違ったもので、一度ならず二度、夕食を運んでいるものがおしあいへしあいで怒号がとびかうと、カンテラから数滴しずくをふりかけるだけですぐに騒ぎはしずまった。そしてかれらは口々にクリスマスに喧嘩なんて恥ずかしいにもほどがある、と話すのだった。たしかにその通りだった。神もまったくそうであることを望んだにちがいない。

そのうちベルがなりやみ、パン屋も店を閉めた。ただ運ばれていた夕食の前方や料理の進む先にはあたたかい影のようなものがあり、パン屋のオーブンの上で水が蒸発するように、舗道の上で石が調理されたかのように湯気をあげていたのだ。

「カンテラからふりかけていたのは特別な香料ですか」スクルージは尋ねた。

「あぁそうだよ、私の香りだよ」

「今日のどんな料理にも合うんですか?」

「どんな種類でも。とくに貧しいものの食事にはね」

「なぜ貧しいものの食事に合うんでしょう?」

「いちばん必要としているからだよ」

「精霊さま、」スクルージはしばし黙り込んだあと続けた「なんだってわしたちの世の中のすべての存在のなかで、あなたがそうした貧しい人々のむじゃきな喜びの機会をうばうたいとおもっているのか、わしには全く不思議です」

「わたしがかい」精霊は声を大きくした。

「あなたは七日おきに貧しい人々が夕食を得る手段をうばってるじゃありませんか。とくにこういった夕食が必要な日に」スクルージは言った「そうじゃありませんか」

「わたしがかい」精霊は繰り返した。

「あなたがこうした場所を七日おきに閉めるようにしてますよね」スクルージは続けた「だから結局同じことになるんじゃないでしょうか」

「わたしがかい」精霊はさけんだ

「間違っていればお許しください。ただあなたの名のもとや少なくとも同じようなものの名のもとでそういうことが行われてきているのです」

「たしかにおまえたちの世の中ではそういうこともあるようだ」精霊は答えた。「わたしのことを知ってると声を大きくしながら、自分の欲望やプライド、悪意、憎悪、ねたみ、偏見、身勝手さをわたしの名のもとに行うが、それはまったく存在したことがなかったようなもので、わたしやわたしの知ってるものからしてみれば、全くなじみがないものなんだ。それをおぼえておいてくれ、やつらの行為は全くもってやつらのせいで、わたしたちのせいではないよ」

スクルージはそうすることを約束し、二人は先をいそいだ。前といっしょで姿はみえなかったが、街の郊外へと足をふみいれた。精霊のすばらしい能力で(スクルージはすでにパン屋で目にしていたが)それほどの巨体にもかかわらず、どこにいてもさして苦もなく体をあわせ、天井の低い屋根の下でも、まるで天井の高いホールでそうしているように、摩訶不思議な存在として優雅に立ち振る舞うことが可能だった。

だからたぶん善なる精霊がまっすぐスクルージの店員の家へといそいだのは、こうした能力をみせつけるのが楽しかったからか、あるいはやさしい、親切な、心温まる性根、そして貧しいすべての人々への共感のせいだったのだろう。精霊は道をいそぎ、スクルージは精霊のローブをつかみ同行していた。そしてドアの戸口のところで微笑み、立ち止まってボブ・クラチェットの住まいをカンテラからのしずくで祝した。考えても見れば、ボブは自身週に15ボブ(シリングの俗称)をえるにすぎなかった。毎土曜日に自分と同じ名前のものを15枚手に入れるわけだ。現在のクリスマスの精霊は、かれの4つの部屋の家を祝福したのだった。

それからクラチェットと妻はたちあがり、妻は二回は裏表にしたガウンを羽織って、それはみすぼらしいものだったがリボンをつけ飾っていた。リボンも安物だったが、6ペンスにしてはみばえがよかった。同じようにリボンでかざりたてていた二番目の娘のベリンダ・クラチェットの助けをかりテーブルクロスを拡げると、そのときご子息のピーター・クラチェットはじゃがいもを煮ていた鍋の中にフォークをつきたて、ぶかっこうなシャツの襟の両端をくわえながら(そのシャツはもともとはボブの持ち物だったが、クリスマスのお祝いとして息子にして後継ぎへと譲り渡されたものだ)、きちんと礼装したのが自分ながらにうれしくて、友達の集まる公園に行ってリネンのシャツの襟をみせびらかしたくてたまらなかった。そこへ弟と妹がパン屋の外で七面鳥のにおいをかいだと騒ぎ立て、それが自分たちのだと知って、いそいで駆け込んできた。ぜいたくなサルビヤやたまねぎが食べられると思って、子供たちはテーブルの周りで踊り、大いにピーター・クラチェットをほめそやした。ピーター・クラチェットは別に誇らしげではなく、襟で首をきつくしめられ窒息しそうになっていたが、ゆっくり煮えるじゃがいもが外にだしてくれ、外をのぞかせてくれとふたをたたいて煮あがるまで、火を吹いておこしていた。

「お父様はどうしたんだろうね?」クラチェット夫人は話しかけた。「それにおまえの弟のちびっこのトム。それにマーサは去年のクリスマスは30分も遅れなかったのにねぇ」

「マーサがきたよ」妹が姿をみせ教えてくれました。

「マーサがきたぜ」二人の男の子たちがさけびました。「ほーら、七面鳥だよ、マーサ」

「ほら、よくかえってきたね、おまえ、なんだってこんなに遅かったんだい」母親はそういうと、十回は娘にキスをして、ショールや帽子をぬがすのをおせっかいにてつだった。

「昨晩で終わらせなきゃいけない仕事が山ほど」娘は答えた。「それを今朝までに片付けなきゃいけなかったわけ、お母さん」

「はいはい、来てくれたんだからもう気にしないわ」母親は答えると「暖炉の前におかけなさい、あったまるのよ」

「だめ、だめ、お父さんが帰ってきたよ」いたるところに姿をあらわす男の子二人組がそうさけぶと「隠れて、マーサ、隠れなよ」

マーサが隠れると同時に、ふさをのぞいて少なくとも3フィートは襟巻きを前にたらしながら小さなボブが帰ってきた。着古した服はつぎはぎだらけだが、クリスマスにふさわしくよくブラシがかかっていた。ちびっこティムは肩車をしてもらっていた。かわいそうに、小さな義足をつけていて、両足を鉄製の器具で支えていた。

「おい、マーサはどこだい」ボブ・クラチェットは、あたりをみまわしながら声を大きくした。

「まだ帰ってこないのよ」とクラチェット夫人は答えた。

「まだだって」ボブは、高揚していた気分がすっかり落ち込んだというように言った。じっさいのところ教会からの道すがらずっとティムを肩車し、息せき切って家にかえってきたのだった。「クリスマスだというのにまだ帰ってきてないんだ」

マーサは、冗談にせよ父親ががっかりしているところを見ていられなかったので、クローゼットのドアの陰から早々に姿をあらわし、父親の胸にとびこんでいった。そうこうしているあいだに二人の息子はちびっこティムを急かして、プディングが蒸されている音を聞かせるために台所につれていった。

「ティムはどうでした?」クラチェット夫人は、夫がだまされやすいのをひやかしながら言った。ボブは娘をだきしめてすっかり満足していた。

「それはもうすばらしかった」ボブはそう言うと「よかったよ。あんなに長く一人きりでこしかけていたから考え込んだんだな。思いもつかないことを考えてた。帰り道で私に言ったんだ。教会でみんなに自分のことをみてほしいと思ったってね。その理由がふるってて、あいつは足が不自由だろ、だからみんながクリスマスに足が不自由な人が歩けるようになって、目が見えない人が見えるようになったっていうのを思い出してくれれば、幸せな気分になるんじゃないかっていうんだ」と続けた。

ボブの声は話しながら震え、そしてちびっこティムが元気でたくましく育っているといったときにはその声はもっと震えた。

床に義足のおとがコツコツと響き、次の言葉をもらす前にちびっこティムが兄と妹につきそわれて暖炉のまえの椅子にもどってきた。その間に、ボブは袖口をまくりあげ、あぁその袖口のみじめなこと、あんなにぼろぼろになるものだろうか、ジンとレモンをまぜて体の温まる飲み物をつくり、よくまぜ、ぐつぐつ煮るために暖炉のわきに置いた。ピーターとどこにでも顔をだす二人の兄弟は七面鳥をとりにいき、すぐに興奮したあしどりでもどってきた。

そうした騒ぎをみると、七面鳥があらゆる鳥のなかでもっとも貴重なものだと思うほどだ。羽の生え方、それは黒い白鳥も同然で、この家にはありうべかざるものだった。クラチェット夫人はグレイビーソース(ちいさなシチュー鍋で前もってつくっておいたもの)を煮立たせ、ピーターはこれでもかといわんばかりの力でマッシュドポテトをつくり、ベリンダはアップルソースを甘く煮詰めた。マーサは暖かくしたお皿をふき、ボブはちびっこティムをテーブルのすみの自分の横にすわらせた。二人組みの兄弟は自分たちもふくめたみんなの席を準備し、くちいっぱいにスプーンをほおばりながら自分たちの場所を見張っていた。つまりじぶんたちの番がくる前に七面鳥がほしくてさけびごえをあげないようにというわけだ。とうとうすべてのお皿がでそろい、お祈りの言葉もおわった。一瞬の間のあと、クラチェット夫人が肉切用のナイフをゆっくりみまわし、胸のところを開こうとした。ただじっさいに開いて、待ち焦がれた内の詰め物がでてきたときには、まわりからいっせいに歓声があがり、ちびっこティムでさえ、例の二人組に興奮させられて、ナイフをつかんでテーブルをたたき、か弱い声で万歳とさけんだりした。

かつてないほどの七面鳥だった。ボブは、こんなふうにすばらしく料理された七面鳥は見たことがないと口にした。そのやわらかさ、香りといい、大きさ、値段といいどこをとっても非のうちどころ一つなかった。アップルソースがかかり、マッシュドポテトがそえられ、一家全員にじゅうぶん過ぎるほどの量の夕食だった。とくにクラチェット夫人が感極まっていったのは(お皿の上の小さな骨のひとかけらをみやりながら)、とうとうそれを全部食べきらなかったということだ。ただ全員がおなかいっぱいで、ちびっこにいたってはのどの上までセージとたまねぎがつまってる勢いだった。そこでベリンダがお皿をかえ、クラチェット夫人は部屋を一人で離れた。プディングをもってくるのを見守られるにはあまりに神経質になりすぎていたのだ。

上手くできていなかったら。ひっくりかえすときにくずれてしまったら。裏の塀をのりこえてきて誰かが盗んでいったら。そうみんなが七面鳥に夢中になっているときに。そうしたことを考えるとクラチェットの二人組にはかっかとしてならなかった。ただそうしたありとあらゆる種類の恐怖があたまにうかんでくるのだった。

うぁー、すごい蒸気。プディングは鍋から出され、洗濯をしたときのような香りがした。服の香りであり、食べ物屋とお菓子屋がとなりあわせになっていて、さらにその隣に洗濯屋があるような香りだった。プディングのおでましだ。すぐさまクラチェット夫人が入ってきて、顔をまっかにしてただそこには誇らしげな笑みがみてとれ、プディングをはこんできた。そう、ほんの少しのブランデーで火がつき、クリスマスのひいらぎが一番上にかざられている、まるでまだらの砲弾のたまのようにしっかりとがっちりしたプディングが運ばれてきた。

あぁ、なんてすばらしいプディングなんだ。ボブは思わず感嘆して口にした。結婚してからまちがいなく一番の出来のプディングだと。夫人も心の重荷がとれたといい、じつは粉の量が心配だったのと口にさえした。だれもがそれについてとやかく口にしたが、こんなに大家族にしては小さなプディングだと口にしたり、ちらっと考えたりするものはこの家族にはいなかった。そんなことをしようものなら、すっかり家族のつまはじきものだ。そんなことをほのめかすだけでクラチェット家の人なら顔を赤らめてしまうだろう。

とうとう夕食は終わった。テーブルクロスも片付けられ、暖炉も掃除し、火がおこされた。カクテルは味見をしてみるとすばらしく、りんごとオレンジがテーブルの上に、山ほどのクリが暖炉の上におかれた。それから家族全員で暖炉を囲み、ボブにいわせればそれは丸く囲むということだったが、じっさいには半円を意味していた。そしてボブクラチェットのひじのところには、一家中のガラス容器、二つのタンブラーと取っ手のないカスタードコップが飾られていた。

こうした容器に、まるでそれらが黄金のゴブレットであるかのように、温かいカクテルが注がれた。ボブはそれを笑顔でやりとげ、そのあいだも暖炉の火にかかったクリはパチパチと音をたてていた。そしてボブが口にした。

「メリークリスマス、神のご加護がみなにありますように」

家族全員が復唱した。

「神のご加護がみなにありますように」と一番最後にちびっこティムが言った。

ティムは父親の一番近くの小さな椅子にこしかけていて、まるで愛していてずっとそばにおいておきたいのに、誰かが引き離すのではないかと恐れているかのように、ボブはその力のない小さな手をにぎりしめていた。

「精霊さま」スクルージは前には決して考えもしなかった興味をもってたずねた。「あのちびっこティムは生き延びれるのでしょうか教えてください」

「わたしには空になった椅子が見えるな」精霊は答えた。「あの貧素な煙突の隅のところにな。それから使うものがいなくなった義足が大事にとってある。もしこうしたものが将来もかわらないままなら、あの子供はなくなることになるだろう」

「だめです、だめです」スクルージは続けた「あぁ、なんてことだ。慈悲深い精霊さま、あの子を助けてやってください」

「ああしたものが将来かわらないなら、わしの種族のものとしても」精霊は答えた。「あの子を救うことはできないな。それがどうしたというんだ。もしあの子がしにたきゃそうするがいいだろう。過剰な人口がへらせるじゃないか」

スクルージは自分のことばを精霊がつかったのを聞いてうなだれて、懺悔と悲しみの念にふかくうたれた。「おまえ」精霊は語りかけた「もしおまえに人間らしい心があるなら、石のような心でなければ、あんなことを口にするべきじゃない。過剰っていうのがなにか、それがどこにあるのかを見るまではな。おまえがどの人間が生き残って、どの人間が死ぬのかを決めるつもりかい? 神にしてみれば、おまえなんかあの小さな貧しい子のような何百万の人たちとくらべたら、より取るに足らない存在だし、生きるに値しないものかもしれないな。あぁ神よ。葉の上の虫けらが、地面の上にはあまりに多くの飢えた仲間たちがたくさんいすぎるなんて言うのを聞こうとは」

スクルージは精霊の叱責のまえで頭をたれていて、視線をおとしていた。ただ自分の名前がよばれるといそいで頭をあげた。

「スクルージさん」ボブは言った「このごちそうの源であるスクルージさんのために祈ります」

「このごちそうの源だってねぇ」クラチェット夫人は顔を真っ赤にしてさけんだ。「ここにつれてきてみたいもんだよ。小言の一つでもお見舞いしてやるんだけどね、それを堪能してくれるといいんだけど」

「おまえ」ボブは言った「子供たちがいるし、クリスマスじゃないか」

「たしかにクリスマスなんでしょうよ」

「あんな嫌らしくてけちな上に人情のかけらもありゃしないスクルージみたいなやつにも乾杯するんですもの。どんなやつかロバート、あなたが一番よく知ってるじゃないの、かわいそうに」

「おまえ、」ボブは優しい声で答えました。「クリスマスじゃないか」

「あなたのためとクリスマスに乾杯しましょう」夫人は言った。「スクルージさんのためじゃないわ、せいぜい長生きするといいわ。メリークリスマス、それに新年おめでとう。スクルージさんも楽しいでしょうし、きっと幸せにちがいないわ、まちがいなくね」

子供たちも母親にならって乾杯した。今までの行動で心がこもっていないのはこの乾杯だけだった。ちびっこトムも最後に乾杯したが、かれにとってはそんなのは知ったことじゃなかった。スクルージは一家の蛇蝎のごとき存在で、その名前を口にだすだけでも一家だんらんに暗い一筋の影がなげかけられるほどだし、それもまるまる五分というものその影は消えることはなかった。

その影が消え去ると、みなは不吉なスクルージのことが片付いたので以前よりも十倍は陽気になり、ボブ・クラチェットは自分の見立てではピーターにはもし職についたら週に五から六ペンスはかせぐだろうとぶちあげた。双子のクラチェットはピーターがお金を稼ぐだなんてことに大うけだった。ピーター自身ときたら、その途方もない収入を手にしたらどんな投資でもしてやろうかと入念に考えているかのように襟の間から暖炉をみつめていた。それから帽子屋で見習をしているマーサがみんなにどんな仕事をしなきゃならないのか、やすまず何時間働かなきゃいけないのか、明日は家で休みだから朝はゆっくりとベッドで過ごすんだなどということを話し始めた。それから数日前に伯爵夫人と伯爵をみたんだけど、伯爵の背丈ときたらピーターとまったく同じくらいだったことを話した。するとピーターは襟をひときわたかくあげたので、その顔はすっかり襟にかくれてしまうほどだった。こうしているあいだも栗と容器はみなのあいだをくるくると廻っていて、そのうちちびっこトムが雪のなかを一人うろつく迷子の歌を歌い始めた。ちびっこトムときたらその歌をもの悲しげな小さな声で歌い、とってもうまく歌い上げ、みんなはそれにききほれた。

こういった一連のことにこれといって特筆すべきことがあったわけではない。見栄えのいい立派な家族とはいえなかったし、着ているものもすばらしいとはいえなかった。靴は穴があいていたし、服もみすぼらしく、ピーターはおそらくというかたぶん質屋のこともよく知っていたことだろう。ただ一家は幸せで、思いやりの心をもっていて、お互いに楽しんでいて、今を満喫していた。そしてだんだんかれらの姿がかすんでいき、ただ別れにおいても精霊のたいまつの明るい光でいっそう幸せそうにみえるのを、スクルージはまばたきもせず見つめていて、とくにその視線はちびっこトムに最後まで釘付けだった。

このときにはすでにあたりは暗くなっていて、雪もはげしくなっていた。スクルージと精霊は通りをすすんでいたが、台所や客間やそういった部屋からもれる明かりの明るさといったらすばらしかった。こちらでは、きらきらした明かりが温かなご馳走が用意されているのを示していて、そこには暖炉の前ですっかり熱くなったお皿や、寒さ暗さはだんこお断りとでもいうようにきっちり閉められた深紅のカーテンがうかがえた。あちらでは家中の子供が雪の中を外にかけだして、結婚した兄弟姉妹そして従兄弟、叔父叔母をわれさきに出迎えようとしていた。そしてまたこちらでは窓のブラインドのところにお客が集まっている影がうつり、そしてフードをかぶり毛皮のブーツをはいた綺麗どころのグループでみんながいっせいにおしゃべりしながら、足取りも軽くどこか近所の家をたずねていった。あぁかわいそうな独身の男は、手練手管を心得た魔女たちがまっかな顔をして家に入ってくるのを目にしてしまうのだった。

楽しげな集まりを目指して通りにでている人の数から考えると、目的の家でまちうけたり、煙突の半分までたきぎをつみあげて歓迎してくれものは一人もいないように思えるほどだった。みなに幸あれ、そして精霊がよろこんだこと。どれほど胸をはだけ、大きな手のひらをひろげ、宙にうき、慈悲深い手で届く範囲すべてのものに明るく無邪気な喜びをばらまいたことだろう。先をいそいでいた街灯に火をともし、薄暗い通りに明かりをつける点灯夫でさえ、夜のために一張羅をはおっていたが、精霊がとおりすぎるときには大きな声をあげて笑ったものだった。点灯夫はクリスマスにいっしょに明かりをともすものがいるなんて思いもよらなかっただろうが。

そして精霊からは一言も警告がなかったが、二人はまるで巨人の墓地のようにばかでかい石のかたまりがあちこちに点在している寒々とした不毛の荒地にやってきた。水は傾いているありとあらゆるところに広がっていた、というかもし凍っていなかったらきっとそうなっていたことだろう。こけとシダそれから雑草が生い茂っている以外はなにも見当たらなかった。西の方には一筋の真っ赤な閃光を残して夕陽がしずんでいき、荒野を少しの間まるで不機嫌でもあるかのようににらみつけ、いっそうどんどん不機嫌さをましていくかのようだったが、とうとうまっくらな夜の濃い闇のなかに姿を消していった。

「ここはどこです」スクルージは尋ねた。

「坑夫たちのいる場所だ、かれらは地底の奥底で働いているんだ」精霊は答えた。「ただ坑夫たちで私のことを知ってるぞ! ほらみろ」

一軒の小屋の窓から一筋の灯りが差し、二人はいそいでそちらのほうへと進んでいった。泥と石の壁を通り抜けると、もえさかる炎のまわりに愉快な一団が集まっているのが目に入った。一組の爺やと婆や、その子供たち、孫たちやその子供たち全員が、祝日用の衣装でかざりたてていた。爺やは不毛の荒地をふきすさぶ風の音にかき消されてしまうような声でクリスマスソングをうたっていた。子供の頃から歌っているとても昔の歌で、ときどきみながコーラスに加わった。みなが声をはりあげると、爺やも心が浮き立ち声をはりあげた。ただみなが歌うのをやめると、爺やの元気も失せてしまうのだった。

精霊はこの場所でぐずぐずしたりはしなかった。ただスクルージに自分の上着にしっかりつかまっているように命ずると、荒野の上を通り過ぎていった。どこへ急いでいたのか? 海だろうか? そう海へだ。スクルージが恐れおののいたように、ふりかえると、陸地の端がみてとれ、恐ろしい岩場をあとにしていた。あたりには水のたけ狂う音しか聞こえず、それはまるで吼えさかっていて、うがった恐ろしい洞窟の中で荒れ狂い、地球を削り取ろうとせんばかりの勢いだった。

海の底深くの岩々の不吉な岩礁の上には、岸から数マイルばかり一年をとおして波がよせては崩れるところに灯台がひとつ建っていた。その土台には海草が何層にもつみかさなり、海草が海から生まれたように海鳥たちはまるで海草から生まれたかのように、波をかすめとるかのように灯台のあたりを上昇したり下降したりしていた。

しかしこの場所でも灯台を見守っていた二人の男が火をおこしていた。その火は厚い石壁の灯台の小窓から恐ろしい海へと一筋の光をはなっていた。ごつごつした手をすわっていた粗末なテーブルの上で組みながら、おたがいにラム酒で乾杯しながらクリスマスを祝っていた。年長の方が、まるで荒れた天候で古い船の船首像がぼろぼろになっているかのような顔で、まるで強風そのもののようなのふうずな歌をがなりたてた。

ふたたび精霊は暗く重苦しい海の上をどんどん進んでいった。スクルージに言ったところによればどの岸からもあまりに離れていたので、船の上に降り立った。二人は操舵手、船首の見張り役、監視をしている船長の横にならんだ。彼らの姿は暗く、それぞれの持ち場での姿はまるで幽霊のようだったが、だれもがクリスマスのメロディーをくちずさむか、クリスマスのことを考えており、あるいは昔のクリスマスの話を、そこには故郷に帰りたいという希望がともなっていたが、仲間に小声でささやいていた。甲板のだれもが、歩いていても寝ていても、良き者も悪しき者も、一年のどの日とくらべてもその日には優しい言葉を他人にかけていた。そしていくぶんかはおまつり気分をあじわっていて、遠くにいる気にかけている人たちのことを思い出し、その人たちが自分のことをよろこんで思い出してくれていることを分かっていた。

スクルージがとてもおどろいたことに、風の唸り声をきいたり、どこかもわからないまるで地獄とおなじくらい深遠な奈の果てのさびしい暗闇を航海するなどという陰鬱なことを考えていても、まったくスクルージがおどろいたことに、心からの笑い声をきくことがあるのだ。その声が自分の甥の声で、きれいでさっぱりした明るい部屋にその姿をみとめたときはなおさらいっそうスクルージは驚いてしまった。精霊はそのよこで微笑んで立っており、満足げな優しさをもって同じ甥を見つめていた。

「はっはっは」スクルージの甥は笑い声をたてた「はっはっは」

もしたまたまであっても、ありそうにないことだが、スクルージの甥よりも笑いに恵まれている男をしっていたなら、わたしがいいたいことは一つだけ、そうその人となんとしても知り合いになりたいものだということだ。ぜひ私にも紹介してもらいたい、お近づきになりたいものだ。

病気や悲しみが感染するように、笑いやユーモアもいやおうなしに感染するものだということはこの世の公正にて、公平、厳然たる事実である。そしてスクルージの甥がこのように腹を抱えて、七転八倒し、顔をこれ以上ないといった具合でゆがめて笑えば、妻であるスクルージの姪も心から笑うのだった。そして集まった友人たちもまったくそれに遅れをとらず、いっしょに大きな笑い声をあげた。

「はっはっはっはっは」

「言うにはクリスマスはたわごとだって、驚いたね」スクルージの甥はさけびました「それを信じてるって言うんだから」

「叔父さんのことをもっと恥ずかしくおもうべきだわ、フレッド」スクルージの姪は憤然といいはなった。こうした女性を許してください。何事もいいかげんにしておくことはできなく、いたってまじめなのだ。

彼女は美しく、それもとびぬけて美しかった。えくぼが一つあり、あっけにとられるほど美しく、すばらしく綺麗な顔で、真っ赤な小さな口があり、それはまるでキスするために作られたかのようだった、それはまた疑いようのない事実だったのだが。あごのあたりには小さな斑点がいくつかあったが、わらうと一つになってしまうかのようだった。また見たこともないようなすてきな目がついていて、全体としてみればまったく癪にさわるほどだと言いたくなるような、ただそれはもちろん申し分ない存在ということだった。

「こっけいな老人だよね」甥はこうもらした。「それは本当のことだし、もっと楽しくできると思うんだけど。でも自業自得ではあるし、僕には特にこれといっていいたいこともないな」

「お金持ちなことは確かでしょ、フレッド」スクルージの姪は助け舟をだした。「少なくともいつも私にそういってるじゃない」

「それがどうしたんだい、君」甥は答えた。「富があっても何の役にも立たないんだからねぇ。富があっても自分自身でだって心地よさそうじゃないし、ぼくらによくしよう、はっはっは、と考えてもこれっぽっちも満足しないんだろうよ」

「我慢できないわ」姪は断言した。姪の姉妹たちもその他の女性陣もまったく同意見だった。

「そうでもないな」甥も答えた。「かわいそうには思わないかい。僕は怒りたくても怒れないんだよな。だって意地が悪いといっても誰が困ってるんだい? いつも自分自身じゃないか。さて、叔父さんは僕らのことを嫌いだと思い込む、ここにきて僕らと一緒に夕食をたべたくない。で、どうだというんだい? たいしたご馳走を食べそこなうわけじゃない」

「いいえ、じっさいのところたいしたご馳走を食べそこなうんだわ」姪はさえぎり、全員がそれに賛同した。いま夕食をたべおわったばかりで、テーブルにデザートがあり、暖炉のまわりのランプのそばに集まっていたところだから適切な判断をくだす資格があっただろう。

「それを聞けてうれしいよ」甥はそう口にした。「なんといっても近頃の若い主婦にはあまり信用がおけないものな、どうだいトッパー君?」

トッパーはあきらかにスクルージの姪の姉妹の一人に目をつけていたようだった。というのも独身はそうした話題には口をはさむ資格のない悲しい存在だよと逃げをうった答えをかえしたからだ。そうするとスクルージの姪の姉妹でバラをさしたほうではなく、レースの衣装をまとったふっくらしたほうは顔をまっかにした。

「つづけなさいよ、フレッド」と姪は両手を叩いてあおった。「言い始めたことは最後まで言ってもらいましょう。まったくばかげてるったらありゃしない」

甥はまた大笑いをはじめ、感染をふせぐのはまったく不可能だった。ふっくらした姉妹も香酢をつかってそれに抗おうとしてみたけれど、まわりは全員フレッドの例にならった。

「僕はただこういいたいだけなんだ」甥はつづけた。「叔父さんが僕らのことを嫌って僕らと楽しく過ごさない結果は、僕が思うには、叔父さんが楽しくすごす時間を失ってるってことだからね、それもその時間はなんら叔父さんに不利益をもたらすものじゃないのに。あのうすぐらい古い事務所やほこりっぽい寝室で一人で考え込んでるんじゃぜったい見つけられないような仲間をみすみす失ってるのは確かだと思うんだけどなぁ。僕は叔父さんが好もうと好まざると、毎年チャンスをあげるつもりだよ。かわいそうじゃないか。死ぬまで永遠にクリスマスに毒づくつもりかもしれないけど、それでも僕が叔父さんに挑戦すれば少しは考えるようになるでしょう、そう、僕が毎年毎年、上機嫌であそこへ訪ねていって、スクルージ叔父さんご機嫌いかがというのをきけばね。もしそれであのあわれな事務員に50ポンドでも遺していく気になったら、万々歳だよ。僕が思うに、昨日も少しはゆさぶったんじゃないかな」

スクルージをゆさぶっただなんて、こんどはみんながその考えに笑う番だった。でも根っからのよい気性だったので、自分が笑われることは大して気にせず、みんなはとにもかくにも笑ったけれど、みんなをもっと陽気に笑わせ、ボトルを楽しそうに廻した。

お茶の後は、かれらは音楽をはじめた。音楽をたしなむ一家であり、無伴奏で歌ったり輪唱させたらそれはなかなかのものだった。まさしくトッパーなんかはバスでなかなかの美声を聞かせ、それでいておでこに太い血管をみせたり、顔中を真っ赤にすることもなかった。スクルージの姪は上手にハープをならし、いろんな曲をひくなかで一つ小曲をやったが(なんでもない曲で、二分もあれば鳴らせるようなもの)、それは過去のクリスマスの精霊が思い出させてくれたようにスクルージを寄宿舎から連れ帰ったあの子がよくやっていたものだった。この曲の旋律がなりひびくと、精霊がみせてくれたすべてのものが心の中に浮かんできた。スクルージの頑な心もだんだんやわらいでいき、もしこの曲をもっと何年も前からよく聴いていたなら、ジェイコブ・マーレーを埋葬した墓堀男のクワをもってしてでなくとも、自分の力で幸せで優しさにあふれた人生をはぐくめたのかもしれない。

ただみんなは一晩音楽だけをやったわけではなかった。しばらくすると、罰金遊びをはじめた。ときには子供になって悪いわけもなかろうし、なによりクリスマスで、クリスマスには全能なるキリスト自身が子供なわけだから。さて、ここらでやめておこう。まず目隠し遊びをやった。もちろんまず最初にだ。ただ私はトッパーは靴に目がついてないのと同じくらい、ちゃんと目隠しがされてなかったと思う。私に言わせれば、スクルージの甥とのあいだで話がついてたに違いない。そうして今のクリスマスの精霊もそれをしっていた。レースの服を着たふっくらした女性を追いかけるやり方ときたら、人の信じやすさにこれでもかとつけこんだものだった。暖炉の器具をけっとばしたり、椅子をひっくりかえしたり、ピアノにぶち当たったり、カーテンにくるまったりしたが、女性のいくところはどこへでもついていった。ふっくらした女性がどこにいるかを常に把握していて、他のものを捕まえる気は毛頭なかった。わざと本人に捕まるようにしても(中にはじっさいにそうするものもいたが)、つかまえようとするふりこそするものの、ほとんど理性に対する侮辱といってもいいほどで、横にそれてはふっくらした女性の方へと逸れていくのだった。女性もフェアじゃないわと抗議の声をあげたが、まさしくそのとおりで、とうとう彼女はつかまってしまった。彼女はシルクのさらさらする音や、目の前をぱたぱた急いで通り過ぎていったりしたが、逃げられない角に追い詰められてしまった。それからの彼の行動ときたら、まったくひどいものだ。彼女だとわからないふりをして、かみかざりにさわってみる必要があるふりをしたり、そのうえ、たしかに彼女だと確かめなきゃとばかりに指にはめている指輪だの、ネックレスをさわったりしたのは卑しい、恥ずべきことである。次のゲームがはじまったとき二人がカーテンの陰でこっそり話してたのは、そうしたことを彼女が言ってたものに違いあるまい。

スクルージの姪は目隠し遊びには参加していなかったが、大きな椅子と足台でゆったりとしていて、その隅は快適な場所であり、精霊とスクルージも彼女のすぐ後ろにいた。しかし姪も罰金遊びには参加し、アルファベットすべてをつかって見事に自分の夫のことを愛している文をつくりあげた。同様に「いつ、どこで、どのように」のゲームでも姪は抜群で、スクルージの甥が口にはださずひそかに満足していたことに、姉妹を完全にうちまかした。敢えて言っておくが、姉妹たちとてけっして頭の働きのにぶい娘たちではなかったのだが。20人やそこらの人がいて、老いも若きもゲームをやり、それにはスクルージも加わっていた。というのも自分がなにに興味をひかれていたのか、そして自分の声が彼らの耳には届かないことをすっかり忘れ、ときには自分の推測を大きな声で口にしたりして、その推測はまたしばしば的中していた。なぜなら針の穴が壊れないと保証つきのホワイトチャペル製のもっとも鋭い針でさえ、あまりさえた状態じゃないスクルージよりもずっとするどくはなかったからだ。

精霊はスクルージのそうしたようすをみて楽しげにやさしく見守っていた。しかしスクルージが子供のようにお客がかえるまでずっといたいとお願いしたときは、それはできないと言下した。

「ほら新しいゲームがはじまった」スクルージはこぼした「30分、あと30分だけ」

それはYesNoとよばれるゲームだった。スクルージの甥がなにかについて考えなくてはいけなくて、残りのメンバーがそれがなにかをあてるのだ。甥が他の人の質問に答えていいのは、そういったわけでYesかNoだけというになる。やつぎばやにそこに質問がなげかけられ、動物のことを考えているのがわかってきた。生きている動物で、どちらかといえば好ましからざる動物で、残忍な動物であり、ほえたりうめいたりもするし話もして、ロンドンにもおり、道も歩くといった具合だった。ただ動物園にいるわけではなく、誰かに引き回されてるわけでもなければ、見世物にもなっていないし、市場で殺されるわけでもない。馬でも、ロバでも、牛でも、雄牛でも、虎でも、犬でも、豚でも、猫でも、クマでもなかった。新しい質問が投げかけられるたびに、甥は大爆笑して、それ以上ないくらい面白がり、ソファから立ち上がり足踏みするくらいの勢いだった。とうとうふっくらした娘が、おなじような状態になり、大声でさけんだ。

「わかったわ、なんだか分かったの。もう分かったわ」

「なんだい?」フレッドはさけんだ。

「あなたの叔父さんのスクルージよ」

大正解だった。一堂納得といったようすだったが、幾人かは「クマか?」という問いには「Yes」であるべきだとこぼした。Noの回答はスクルージかなと思っていても、そこから考えをそらすのに十分だからというわけだ。

「こんなに楽しませてくれたんだから」フレッドは言った。「彼の健康を祝すのも悪くはあるまい。ちょうど温まったワインがグラスになみなみと注がれている。さぁ『スクルージ叔父さん、乾杯』」

「スクルージ叔父さん、乾杯」と全員が斉唱した。

「スクルージ叔父さん、メリークリスマス、そしていい新年を、本人がどうあれね」スクルージの甥は続けた。「僕にそういってほしくはないだろうけどね、でもそうあることを祈るよ、スクルージ叔父さん」

スクルージ叔父さんはだれも気づかないが明るく快活になり、そのためにもし精霊が時間さえくれれば、お返しに無意識に仲間入りをして、誰にも聞こえない声で感謝をのべようとしたほどだった。でもそうした光景は、甥が話してる最後の言葉が終わらないうちに消え去ってしまった。そうしてスクルージと精霊はふたたび旅立った。

多くのものを見聞し、はてしないところまで二人は旅した。多くの家庭を訪れたが、そのいずれもが幸福な結果をもたらした。精霊が病人の床の側に立てば回復し、遠い国にいる人の側にいけば故郷を近く感じることができた。苦難にみちているものにはより希望を大きくしてやることで耐えられるようにし、貧困にあえぐものは豊かにしてやった。救貧院、病院、刑務所、あらゆる惨めなものたちの集まるところには、ちいさな誇りを胸にいだきつまらぬ虚栄心を見せびらかす人間が固くドアを閉ざし精霊をしめだすようなことはなく、精霊はかれらに祝福をあたえ、スクルージには教訓をあたえた。

もし一晩だとすれば、それは長い長い夜だったが、スクルージにはそのクリスマスは今まで自分たちがすごしてきた時間を圧縮したもののように思え、到底一晩だとは思えなかった。またスクルージの外見がまったくかわらないのに、精霊が歳をとっていく、明らかに老けていくのも奇妙なことだった。スクルージはこの変化にすでに気づいていたが、子供たちの十二夜のパーティを離れるまではそのことを口にしなかった。というのもパーティでは外に二人はいたので、そこで精霊の方をみると白髪になっていたからだ。

「精霊の寿命とはそんなに短いものですか」とスクルージが尋ねると、

「この世界での寿命はとても短い」と精霊は答えを返した。「今晩でつきるんだ」

「今晩ですって」スクルージは思わず声を大きくした。

「今日の真夜中だよ。よく聞くんだ、ほらその時間がせまってるよ」

そのとき鐘は11時45分をうちならした。

「失礼なことを尋ねてしまうかもしれませんがご容赦あれ」スクルージは、精霊の上着を注意深く見守りながら口火をきった。「なにか奇妙なものが目にはいるんですが、あなたの体の一部とは思えないようなものがすそから飛び出てるようなんですが、足かツメですかな」

「ツメかもしれんな、というのもその上にも肉体があるからな」と精霊は悲しげに答えた。「ほらここをみるんだ」

と、上着のひだの間からに二人の子供をとりだした。みじめでさもしく、むかむかするような醜く悲惨な子供たちだった。そして精霊の足元にひざまづくと、上着の外側をのぼりはじめた。

「よくこれをみるんだ、しかとな、ここをだぞ」精霊はさししめした。

二人の子供は男の子と女の子で、黄色く、やせほそっており、ぼろをまとい、しかめつらで、残忍な顔つきをしていたが、自分を恥じてうずくまっていた。形姿に美しい若さがみち、生き生きとした肌色で彩られているべきところが、若さをうしないしなびたまるで老人の手が、かれらをつまみあげ、こねくりまわし、ずたずたにしていた。天使たちがすわりこんであがめているべきところに、悪魔たちがはびこりにらみつけていた。ありとあらゆる生き物の神秘で、どれほど人間に変化や堕落や悪化があろうとも、この怪物たちの半分ほども恐ろしく恐怖をいだかせることはなかっただろう。

スクルージはぞっとしてあとずさりした。こんなふうに子供たちをみせられたので、かわいいお子さんたちですねと言おうとしたが、そんな大それたウソをつくような言葉は出てこなかった。

「精霊さま、あなたのお子さんですか」スクルージはそれ以上いえなかった。

「人類の子供だよ」精霊は子供たちを見下ろしながら答えた。「かれらはずっと祖先から私に訴えかけているんだ。男の子が無知で、女の子は貧困だ。二つともに、それに関わるありとあらゆるものに気をつけねばならん。特に男の子には。そいうのもその額には消されていなければありありと破滅とかかれているのが見えるからな。それを否定してみろ」精霊は街のほうに手を伸ばしながらさけんだ。「そして破滅を教えてくれるものをそしるがよい、争いを好むなら破滅をみとめ、事態を悪化させ、結果を甘受するんだな」

「逃げる場所や方法はないんですか」スクルージは尋ねた。

「監獄はなかったんだっけ」精霊はスクルージのほうをむいて、スクルージが前に言った言葉を繰り返した。「感化院はないのかい?」

鐘は十二時をうった。

スクルージは精霊をもとめてあたりをみまわしたが、目には何もうつらなかった。鐘の余韻がやんだときスクルージはジェイコブ・マーレーの予言を思い出し、視線をあげると、着飾ってフードをかぶった一人の精霊が地面にそった霧のようにこちらの方にやってくるのが目に入った。


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