牧師館の娘, デーヴィッド・ハーバート・ローレンス

第四章


幾日かが過ぎて後、老デュラント氏は亡くなった。ルイーザはアルフレッドにもう一度会いに行ったが、しかし、そこで彼は、彼女に四角四面の態度を見せ、あたかも彼女が一つの命令に従っている意志であり、彼自身も、彼女と隔てられた、命令を待ち設けている、別個の意志であるかのように──つまり、彼女を人間と見なしていないかのように、目の前で振舞った。ルイーザはこんな風に、鋼鉄の板でさえぎられるように、人から拒絶されたことはなかった。彼女は困惑し、おののいた。彼はどうしてしまったんだろう? 彼女の憎しみは、軍隊風の紀律に向けられた──彼女はそれに対する敵意に燃えた。今やアルフレッドは、自分らしさを失ってしまった。彼はもう、命を下す意志をもつ人々に服従する、一つの意志でしかない。しかしそれは、彼女には受け入れ難いことだった。彼は、自分を、彼女と近しい者とは見なさなくなってしまっているのだ。彼は自分を、彼女より劣った、下級の者として位置づけている。そして、まさにそのことによって、すなわち、彼女とは相容れない側の者として、無表情に、彼女と向き合うことによって──下級の者という、抽象的な立場におさまることによって、彼は、ルイーザから逃れ、彼女とのかかわり合いを避けようとしているのだ。

彼女はこの事態について、一途に、むやむやと思い乱れ、懊悩し、また懊悩し続けた。彼女の強情で、激しい心は、この事態を割り切ることができなかった。彼女は自分自身の願望に固執した。そして時とすると、彼女は、もう彼のことを忘れ去ろうとした。彼が自ら下位におさまろうとしているのなら、何故彼のことで、彼女が思い悩まねばならないのか?

だが、それから直ぐにまた彼女の考えは、彼のことに立ち戻り、ともすれば、彼を憎悪することさえもあった。あんな風な態度を見せることで、彼は彼女と、距離を置こうとしている。ルイーザは、それを卑怯だと思った──感じ易く、彼に愛情を持っている女性、ルイーザを、虚仮にするかのように、平然と彼女を上位に据え、自分を彼女と無縁な、近付きがたい、下位の立場に切り下げる、その男の態度を。この状況を甘受するつもりは、彼女にはなかった。アルフレッドへの愛執の念が、彼女の心につきまとって、離れなかった。


©2006 稲富裕介. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。