ガンジーからヒトラーへの手紙, マハトマ・ガンジー

二通目


ワルダにて
一九四〇年十二月二十四日
友へ

私があなたを友と呼ぶのは決して儀礼からではありません。私には敵対者などいません。過去三十三年の間、人種、肌の色、信条に関係なく人々と友人になり、それによって人類全体の友情を手に入れることが私の人生における関心事でした。

あなたには時間をとっていただきたいのです。そして普遍的友情という教義を信じ、その下で暮らすという展望を持つ人類の中の多くの人々がどれほどあなたの行動を注視しているかを知っていただいきたいのです。祖国に対するあなたの勇気と献身については私たちの誰ひとりとして疑いを持つ者はいませんし、あなたが敵対者から怪物と呼ばれているなどまったく信じられることではありません。しかしあなたやあなたのご友人、そしてあなたの信奉者が書いたものや声明を見るとあなた方の行為の多くが怪物的で人間の尊厳を侵すものであると疑わざるを得ません。特に私のように普遍的友好を信じる者にはそう思われるのです。あなた方のチェコスロヴァキアに対する辱め、ポーランドに対する侵略、デンマークの併合といった行為のことです。あなたの観点に立てばこれらの略奪行為が良い行いであるということは私にもわかっています。しかし私たちは子供の頃からこういったものは人間性を傷つける行いであると考えるよう教えられています。ですからあなたの戦いの成功を願うことなど私たちにはとうていできないのです。

しかし私たちは奇妙な立場に置かれています。ナチズムに劣らず私たちはイギリス帝国主義に抵抗しているのです。違いがあるとすればそれはその度合です。大雑把に見ても人類の五分の一はイギリスの足の下で踏みつけにされているのです。それに対する私たちの抵抗はイギリスの人々を傷つけることではありません。私たちは彼らの考えを変えようとしているのであって、戦場で彼らを打ち負かそうとはしていないのです。私たちが行っているのはイギリスの支配に対する非武装の抵抗なのです。しかし彼らが考えを変えようと変えまいと、非暴力・不服従によって彼らによる支配を不可能にすることを私たちは決心しています。その性質からしてそれは防ぎようがない方法なのです。これは、自発的なものであれ強制的なものであれ被害者とある程度の協調をすることなしには略奪者は目的を達成することはできないという知識に基づいています。私たちを支配する者は私たちの土地と肉体は好きにできるかもしれませんが、私たちの魂はそうできません。前者にしても全てのインド人……男、女、子供を完璧に滅亡させなければ不可能でしょう。彼ら全員が英雄的行動に至ることは無いでしょうし、十分な恐怖によって抵抗運動への支援が減るであろうことは確かですが、それについての議論は要点を外しているように思います。なぜなら支配者への敵意無しに、自らの膝を屈するのではなく命を投げ出すことができる十分な数の男女をインドにおいて見い出せば、暴力による圧政から抜け出し自由へといたる道を示してみせることができるからです。そして思いがけないほど多くのそういった男女をインドで見つけ出すことができるという私の言葉をあなたには信じて欲しいのです。彼らは過去二十年間にわたってそのための訓練を続けているのです。

私たちは過去半世紀にわたってイギリスの支配を打ち倒そうとし続けています。独立運動は決して現在のように力強くはありませんでした。最も強力な政治組織、つまりインド国民会議派はこの目標を達成しようと活動を続けています。私たちは非暴力的な努力によって非常に大きな成功を収めました。イギリスの権力を象徴する、世界で最も組織的な暴力に対抗するための正しい手段を探り続けたのです。あなたが戦いを挑んでいるのと同じものです。ドイツのものであれ、イギリスのものであれそれはよく組織化されていると思われています。私たちや世界に住む非ヨーロッパ人種にとってイギリスの圧政が何を意味するのか私たちは理解しています。しかし私たちは決してドイツの援助によってイギリスの支配を終わらせようとは願ってはいないのです。世界で最も暴力的な力を全て合わせたものに対しても疑いなく対抗し得る力を私たちは組織された非暴力の中に見出したのです。私が語ってきたように非暴力の技法においては敗北などないのです。「実行するか、死ぬか」が全てであって、殺すことも傷つけることもないのです。実行には資金もほとんどかからず、またあなたが完成させたような破壊のための科学の助けを必要としないことは誰の目にも明らかです。この手法が誰にも独占されていないことにあなたが気がついていないことは私には驚きです。それはイギリスではないかもしれませんが、必ずや他の勢力がいずれあなたのやり方を洗練させてあなた自身の武器によってあなたを打ち倒すことでしょう。あなたの支持者たちが誇りに思うような遺産をあなたは何も残してはいません。それが巧みに計画されたものであろうとも冷酷行為の独演に誇りを持つことなどできはしません。ですから私は慈悲の心の名のもとに戦争を止めることをあなたに訴えるのです。あなたとイギリスの間で争われている全ての問題をあなたの選び出した国際法廷に委ねたところで失うものは何もありません。戦争で成功を収めたところで正しさが証明されたことにはなりません。ただ手にした破壊の力が優れていることが証明されるだけです。それに対して公平な法廷の下す裁定は、それが人事を尽くしたものであればどちらの側が正しいかを示してくれることでしょう。

つい最近、非暴力的抵抗という私の手法を使うよう全てのイギリス人に対して私が訴えたことをあなたはご存知かと思います。私がそうしたのは私が友人であり謀反人ではないということをイギリス国民が知っていたためです。あなたとあなたの支持者にとって私は見知らぬ人間です。全てのイギリス人に対して行った訴えをあなたに対して行う勇気は私にはありません。イギリス人に対して使ったのと同じ力があなたに通用しないだろうということではありません。しかし私が今行っている提案はもっと単純なものです。もっと実際的で見慣れたものです。ヨーロッパの人々の心が平和を切望している今、私たちは私たち自身の平和的取り組みさえ差し控えています。時間をとって平和のためにお力添えをしていただきたいというあなたへのお願いは差し出がましいでしょうか? あなた個人には何の意味も無いことかもしれませんが、多くのヨーロッパの人々にとっては疑いなく大きな意味を持つことなのです。彼らの平和を求める無言の叫びが私には聞こえます。私の耳には声なき数百万の叫びが聞こえてくるのです。私はこれらの訴えをあなたとムッソリーニ殿に宛てて書いています。彼とは、私が円卓会議への使節として訪英した折にローマで面会の機会を得ました。彼がこの手紙を自分に宛てられたものであると考え、必要な方針の変更を行ってくれることを私は望んでいます。

あなたの誠実なる友
M・K・ガンジー


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