メイカーズ コリイ・ドクトロウ 第一部

第十一章


「あのジャングルジムは何なの?」それはまるで悪ふざけか火星から来たなにかのようだった。

「大切なものです」テジャンが大きな笑みを浮かべていった。「ほとんどの人は気づくことさえないですがね。託児所か何かだと思うんです。確かに最初はそうだったんですが目ざとい者が何人かでジャングルジムの部品をいじり始めましてね。かつて自分たちがどれだけそれで遊んでいたかを思い出したんでしょう。毎晩、ジャングルジムを改造したり一番刺激的に見えるよう部品にバリエーションを加えたり、がらくたを取り外したりしていました。次にCAD技術者たちがセンサーのデータを入力にして同じ基礎部品に対してランダムなバリエーションを生成するアルゴリズムを付け加えました。最後に何人かのロボット技術者が活動に参加して進化的コンピューティングによるデザインの自動生成をできるようにしました。自己改変型ジャングルジムのできあがりというわけです。子供たちはあれに夢中だ。ジャングルジム版のクラックコカインですよ。もちろん宣伝文句にこの言葉を使うつもりはありませんがね」

「そりゃそうね」スザンヌはそっけなく言った。ティジャンが話をはじめた時、彼女は反射的にノートに手を伸ばしてメモを取り始めていた。ノートを見返しながら彼女は戻って何枚かこいつの写真を撮らなければならないと思い、ティジャンに頼んだ。

「ロボットは夜通し活動します。もしそのつもりなら睡眠不足は覚悟しておいてください」

フレディに会いにホテルに戻らなくてもいいということだ。なんとも残念なことだ。「防寒用にホテルから何枚か毛布を取って来る」彼女は言った。

「いえ、その必要はありません」彼が言った。「夜間従業員とその家族の見学用にガスヒーター付きのベンチがあります。ちょっとした見ものですよ。個人的な意見ですがね」

二人はドライブスルーでハンバーガーの夕食を手早く済ませ、ジャングルジム・プロジェクトへと戻った。スザンヌは空いてる席に座るとショッピングモールの後ろに赤い大きな太陽が沈み作業が開始されるまでの数時間、メールチェックに没頭した。彼女がベンチに腰を下ろすと同時にコーヒーの入った魔法瓶とウィスキーの入ったフラスコを持ったフィオナが彼女を見つけた。数人のギークの群れのまっただなかで二人は毛布にくるまった。ガスヒーターのうなり声に包まれた屋外パジャマパーティーだ。

次第にロボットたちがその姿を現し始めた。ほとんどは尺取り虫によく似たこぶのある形をしていて、その長いボディーの連なりで新しい遊具を運んでいた。何体かにはマニピュレーターハンドが付いていたがほとんどが手ぶらだ。「レアアース磁石を使っているのよ」フィオナが言った。「正確に取っ手を握るための人工視覚を作るより手間がかからないから」

ティジャンが彼女をつついて組み上げられつつある新しい塔を指さした。ロボットたちは互いにねじり合わさって足場を作り、その上を何台ものロボットが上へ上へと這い上っては耐衝撃プラスチック製の部品をはめ込んでいっていた。部品をはめるパチンという音はロボットのモーターのたてる音の中でもはっきり聞こえた。

スザンヌはカメラの暗視モードをオンにして写真を撮った。「あのロボットはいったいどこで手に入れたの?」

ティジャンがにやりと笑った。「オープンソースの設計なんです……EPAアメリカ環境保護庁がウェスティングハウスを雇ってスーパーファンド区域の揮発性有機化合物の検出と除去をおこなうためのロボットを作りました。公共事業だったので私たちは成果物の設計に対して著作権や特許を主張しないという合意書にサインせざるを得なかった。ウェスティングハウスにはそういう代物が詰まった驚くべき倉庫があるんです。ウェスティングハウスはこういう風変わりな代物を放置しています。特許保護が不十分なので製品化しようとすると市場で競争するはめになると心配しているんです。しかし私たちにはうってつけです」

今では広場は光沢を放つ金属製の尺取り虫ロボットでいっぱいだった。行ったり来たりして入り乱れ、巨大な山となって積み重なりながら上へと登っていく。まるでまんがに出てくるピクニックバスケットを持ち去ろうとする蟻の群れのようだ。彼女の眼前で遊具の形が変わっていく。時に粗雑で時に繊細なそのやり方からは目が離せなかった。

「近寄って見られる?」彼女は聞いた。「つまり聞きたいのは安全かどうかってことなんだけど?」

「大丈夫」フィオナが言った。「もちろんよ! このロボットはあなたを傷つけたりしない。鼻先を押し当ててそれから方向を変えるだけ」

「だがなるべく進路には立たないようにした方がいいでしょう」ティジャンが言った。「やつらが動き回っている周りには重たい物もいくつかある」

そこで彼女は遊戯場へと踏み出し、動きまわるロボットの間を注意深く進んでいった。何台かが目の前を這っていく。数台が彼女の足の間で互いに絡まり合い、もう少しで彼女はそれにつまづくところだった。彼女がロボットを踏んでしまった時にはそのロボットは止まって彼女が足をどかすのをおとなしく待った。

ロボットたちのまっただ中に立つと彼女はビデオのスイッチをいれて暗視フィルター越しに撮影を始めた。めまぐるしくあたりを動きまわるロボットとやかしい音、それに自己再構築するジャングルジムのうねるような動きのまっただ中に立つと彼女は自分が人間の滅んだ後のもはや彼女も彼女の同胞も必要としない未来の世界に入り込んだような感覚を覚えた。人間の創造物が自らの創造主を超えて進化していったかのようだった。

ベッドに入る前に書いておかなければならないことが山ほどありそうだった。

ティジャンが午前五時に彼女をホテルの前に下ろした時、フレディはロビーでチェックアウトしようとしているところだった。気づかれずに通り抜けることは不可能で、通り過ぎる彼女に彼は出っ歯をむいていやらしい笑みを送った。そのことに注意を奪われて原稿書きの速度は鈍ったがそれでも彼女はプロらしい働きぶりを見せ、読者は色々なメールを送ってきた。その中にレスターからのものがあった。彼はまだ謎の用事で姿を消したままだったがメールの内容から見ると本当に目が回るような忙しさだったここ数ヶ月よりも幸せそうだった。

彼女は目覚まし時計をセットした。こうすれば起きて次の目的地に向かうことができる。次の目的地はノースカロライナ州のリサーチトライアングルのはずれ、数人の地元の億万長者が十あまりのニューワークのチームを支援している場所だ。

これからの三週間を取材で過ごしてそれから彼女は家路へと就く予定だった……フロリダへ戻るのだ。いまではあのマンションが我が家だった。そしてあのジャンクヤード。蒸し暑くて創造に富み、絶え間なく変わっていくあの場所。彼女はそれを思いながら笑みを浮かべて眠りへと落ちていった。

レスターが彼女に追いついたのはそれから二週間後、よりによってデトロイトでのことだった。以前いた場所に戻るというのは彼女の思いつきではなかった。地元のフォードとGMのニューワークチームの熱心な依頼で引きずり出されたのだ。彼らは失業者の第二世代で、その先祖から利益を搾取して放り出した会社から提供された金で再起を果たした古いラストベルト工業地帯の一家だった。

ラストベルトで大きな注目を集めているのは自動車からの脱却だった。ある者は老朽化したガソリンスタンドを取り壊し汚染された土壌を掘り返して除去するためのロボットを作っていた。またある者は古い大型車の内装から素材を回収して再利用するための自動車分解プラントを作っていた。フォードとGMのチームは直近の緊急援助、そして自動車メーカーとの和解を勝ち取ったUAW自動車労働組合が設立した基金を得ていた。デトロイトは再び活気を取り戻しつつあった。

レスターは彼女がデトロイトに向かったことをブログで読んだ、同じ街にいるから夕食を一緒に食べないかとメールで誘ってきた。

二人はデビルズナイトで会うことにした。ブラシパーク地区の再開発された屋敷の一つにあるレストランだ。近隣の木造建築はティーンエイジャーたちによって数十年かけてハロウィンの夜に焼き落とされていた。デビルズナイトとは打ち捨てられた建物に火をつけるハロウィン前夜におこなわれるデトロイトの伝統行事なのだ。ブラシパークの建物はどれも数十年間放置されたものばかりだった。その美しい家屋は真夜中に飛び回る虫を惹きつける格好の的だったのだ。

そうした建物の再生は黒焦げの木材のウレタン加工、パテやセメントやガラスを使用した巧みな職人芸のなせる技だった。それは全て燃え落ちた残骸の外見を保ったまま構造的に完璧な再生をおこなうためのものだった。レストランの階の一つは完全に失われていてそこにはマジックミラー式の磨かれた強化ガラスがはめ込まれていた。それによって上階で食事をする人間は下階で食事する者の禿げ上がった頭や胸の谷間を見下ろすことができるというわけだ。

スザンヌは数分遅れて店に到着した。デトロイトの通りで迷ったのだ。彼女が去ってからの数十年でデトロイトの地図はすっかり書き変わっていた。彼女は落ち着かなかった。遅刻したということだけが理由ではない。彼女とレスターの間にはなかなか消えない気まずさがあったし、彼に再び会えるという高揚の奥底の方には拭えない不安があった。

ウェイターが彼女のテーブルを手で指し示した時、思わず彼女は間違えているのではないかとウェイターに確認した。そこにはレスターではなく、会ったこともない人物が座っていた。髪を短く刈り上げ、たくましい体をしている。ここ何日かひげを剃っていないようで無精ひげを生やしていた。仕立てのいいブレザーを羽織り、その下にはゆったりとしたストライプのコットンシャツを着ている。彼が彼女に笑顔を向けた。

「スザンヌ」彼が言った。

文字通り彼女のあごが下に落っこちた。自分が口を開けて突っ立ていることに気がつくと彼女は音をたてるようにして口を閉じた。「レスターなの?」彼女は訝しげな様子で聞いた。

ほとんど笑い出しそうなほほえみを浮かべて彼は立ち上がると彼女を抱きしめた。レスターだった。その匂いを間違えるはずがない。それに彼の大きな温かい手のひら。

彼女から体を離すと彼はもう一度笑った。「ああスザンヌ。これまでで一番のリアクションだったよ。ありがとう」二人は周りの目を引いていた。ぼんやりとしたまま彼女は腰を下ろし、彼もそうした。

「レスターなの?」彼女は再び言った。

「そうだよ。俺だ」彼が答える。「話は夕食を食べながらだ。ウェイターがドリンクの注文を待っている」

芝居がかった様子で彼女はスコッチのダブルを注文した。ウェイターが立て板に水を流すような口調でおすすめの銘柄を上げ、彼女は適当にその中の一つを選んだ。レスターもそうした。

「それで」そう言って彼は洗濯板のような腹を叩いてみせた。「十週間でどうやってこうなったのかを知りたいんじゃないかな。どうだい?」

「メモをとっていい?」スザンヌは言うとメモ帳を取り出した。

「どうぞ好きなだけ」彼は言った。「君があとで取材するだろうってことで治療の割引をしてもらったんだ」

その病院はサンクトペテルブルクにあった。その近隣には歯の治療にアメリカ価格を払いたくない治療目的のアメリカ人旅行者向けのロシア人歯医者がたくさんあるのだ。治療法はそこで考案されたものではなかった。筋肉への電気刺激と化学治療による皮膚の引き締めは出産後の肥満を避けたいハリウッドの裕福な妊婦の間では標準的なものだ。食欲抑制ホルモンはメキシコの製薬産業では長年使われている。筋肉を発達させることがわかると幹細胞は世界中のアスリート業界でステロイドの効果的な代用品として使われるようになっていた。ハチドリからの遺伝子導入を使った遺伝子治療は代謝を加速させて一日中静かに座っているだけでも肉体が一万カロリーを消費するようにさせる。

サンクトペテルブルクの病院はそのさまざまな治療をリッピングし、ミックスし、焼き付けて一つの総合的な治療方法に仕立てたのだ。それによって十週間でレスターの体重は四百ポンドから百七十五ポンドに減少したというわけだ。

「安全なの?」彼女は聞いた。

「みんな同じことを聞く」彼は笑いながら言った。「ああ、安全だよ。ちゃんと専門家の下で大量の診断装置を使いながらやればね。だがもっとゆっくりと体重を減らすつもりなら監視が必要ないもっとゆるい体制でやることもできる。こいつはこれから医薬品業界の巨大なグレーマーケットになるぜ。もちろんあらゆる種類の医薬品特許に違反してるがそれはキューバやカナダも同じことだろう? 一年以内にアメリカの太った人間はみんな錠剤のボトルをポケットに入れて持ち歩くようになる。二年以内に太った人間は一人もいなくなるだろう」

彼女は頭を振った。「あなたの姿ときたら……レスター、信じられないわ。あなたをとても誇りに思う」

彼は首をすくめた。本当に彼の姿は信じがたかった。体重が減ったことで十歳は若く見え、髪を切ったことや新しい服を着ていることも相まってまったく見違えて見えた。

「ペリーは知ってるの?」

「ああ」レスターが答える。「こいつをやるって決める前にあいつとは話し合った。ついでに言えばこいつを教えてくれたのはティジャンだ。こいつは彼の前の奥さんがその黒いコネクションがらみで巻き込まれたビジネスなんだ。まずネットで調べてそれから治療を受けたやつの何人かに話を聞いた。中には医学博士号を持ってるやつらもいた。それからようやくやるって決めたのさ」

コダセルの仕事で稼いだ金をほとんど全て使い果たしたが安いものだった、彼は夕食を食べながら力強い調子でそう言った。

夕食が終わると二人は気持ちのよい夜の空気の中、ウッドワードアベニューを散策した。アールデコ調の装飾が施された超高層ビル、耕された野原、コミュニティーガーデン、動物の穏やかな鳴き声がする家畜囲いの前を二人は通り過ぎて行った。

「またあなたに会えて本当に嬉しい、レスター」彼女は本心から言った。彼がいなくなって彼女は本当に寂しかった。たとえ彼女のブログのメッセージボードへの彼の参加頻度が以前とほとんど変わらなかったとしても(そして彼がロシアにいたという事を理由に妙な混乱が生まれようとしていたとしても)。彼の横を並んで歩きながらその匂いを嗅ぎ、視界の端だけで彼を見ているとまるで以前と何も変わらないかのようだった。

「俺も君に会えて本当に嬉しいよ」ためらいがちに彼はその大きな手のひらで彼女の手をとった。その手は暖かかったが湿ってはいない。自分がもうずいぶん長い間、誰かに手を握られたことがないことに彼女は気がついた。心臓が高鳴り、彼女はその手を強く握り返した。

二人は話しながらとめどなく歩いた。手をつないだことに対しては何も言わなかったがときおり彼女は彼の手を優しく握りしめ、彼もそうした。そうして二人は彼女のホテルまでたどり着いたのだった。どうしてこうなったんだろう?彼女は自問した。

しかしそれでも二人は就寝前の一杯を共にし、彼は彼女と一緒にエレベーターに乗り込んだ。彼が彼女の部屋の前に立つ。ドアを開くために自分のクレジットカードを通している間、彼女には自分の血流の逆巻く音が聞こえた。

待って彼女は何とか言おうとした。レスター、少し待って彼女はそう口にしかけたが彼女の舌は口の中で動こうとしなかった。彼女と一緒にドアをくぐり抜けると彼は「ちょっとトイレを借りたいんだが」と言った。

安堵しながら彼女は小さなトイレの方向を指さした。部屋は必要最低限のものだった……今や彼女は自分自身の上司で、彼女はクラウンプラザやヒルトンに金を払う気はなかった。つまり部屋はほとんど棺桶と変わらないものだった……ベッド以外には腰かける場所もない。彼女のラップトップが開きっぱなしになっていてメールボックスには大量のメールがあったが今回ばかりは彼女もそれを気にかけようとはしなかった。彼女はドアの向こうから聞こえる水音に耳をそばだて、物音がするたびに小さく飛び上がった。いったい彼は何をやっているのだろう。くそったれなペッサリーでも入れてるっていうのだろうか?

彼がドアを開く音が聞こえ、彼女はできる限りの笑顔を作った。そわそわして落ち着かなかった。彼はほほえみ返すとベッドに座った彼女の横に座り、再び彼女の手をとった。手を洗ったせいで彼の手は湿っていて少し滑りやすくなっていたが気にはならなかった。彼女は彼の樽のような胸に頭を乗せた。彼の心臓は早鐘を打っていた。彼女の心臓も同じだ。

ゆっくりと二人は後ろに倒れこんでいったがベッドの上に並んで寝転ぶまで彼女の頭は彼の胸の上にあった。まるで夢でも見ているかのような動きで彼女は頭を彼の胸から持ち上げて彼の目を見つめた。彼の目は大きく見開かれて怯えていた。彼女は優しく彼にキスした。彼の唇は震えてきつく結ばれていた。彼女はもっと強く彼にキスした。両手を彼の胸と肩に這わせ、片方の足を彼の体に持たれかけた。彼は目を閉じるとキスを返してきた。下手ではなかったが怯えて神経質でぎこちなかった。

彼女は彼の首にキスし、匂いを嗅ぎ、三日ほど剃っていないヒゲのざらざらとした触感を楽しんだ。ためらいがちに彼の手が彼女の背に置かれ、その手が次第に下がっていった。そこで彼の手が止まった。

「どうしたの?」彼女は自分の手を支えに彼の上に身を乗り出したまま聞いた。

彼の目に涙が浮かんでいるのが見えた。

「レスター? どうしたっていうの?」

彼は一度口を開いたがそのまま閉じた。涙が耳に向かって流れていく。ホテルの枕の隅で彼女はそれを拭った。

彼女は彼の頭をなでた。「レスター?」

彼はむせび泣きながら彼女を押しのけた。体を起こすと顔を手に埋める。彼の背中が揺れた。彼女は彼の肩をためらいがちにさすった。

ようやく彼も落ち着いてきたようだった。鼻をすすって彼は言った。

「もう行かなきゃ」

「レスター、いったいどうしたっていうの?」

「俺にはできない」彼は言った。「俺は……」

「はっきり言って」彼女は言った。「何でもいいからわけを教えて」

「君は前は俺の誘いを断った」非難の色はなかったがまるで顔を叩かれたようにその短い言葉は突き刺さった。

「ああ、レスター」彼を抱き寄せるようにしながら彼女は言ったが彼は彼女を押しのけた。

「行かなきゃ」彼は言って体を引き起こすようにして立ち上がった。彼は背が高かった。しかし以前とは全く違って見えた。本当に背が高い。六フィートと少しかそれ以上はある。部屋に収まりきらないほどだ。その目は赤くむくんでいたが彼は彼女に笑いかけた。「ありがとう、スザンヌ。会えて本当に嬉しかった。フロリダでまた会おう」

彼女はすばやい動作で立ち上がると爪先立ちになって彼の首に手を巻きつけて強く抱きついた。彼も抱擁を返し、彼女はその頬にキスした。

「フロリダで会いましょう」彼女は言った。

そして彼は行ってしまった。彼女はベッドの縁に腰掛け、涙が流れだすのを待ったが結局泣くことはできなかった。そこで彼女はラップトップに手を伸ばすとメールの山を相手に仕事を始めたのだった。


前へ 目次 次へ