メイカーズ コリイ・ドクトロウ 第二部

第十三章


事業再建は経験したことがあったのでそれがどう進んでいくのかサミーはよく知っていた。まず最初に大勢の人間を解雇する。つらくて大変な仕事だ。組合に入っている年かさの雇用者の相手をするためにくび切りの専門家を雇い、何度か「ネットワーク作りイベント」を開催する。そこで解雇の対象となる者は他の失業者たちと知り合いになり、手作りの名刺を交換して回るのだ。

ユダとなるヤギも必要だ。他の雇用者に事業再建について話してくれる信頼のおける人間のことだ。デス・ウェイツはファンタジーランドをゴス系に作り変える時にユダのヤギとなってくれた。彼は辛抱強くそのアイデアを同僚に説いていき、事業再建について一ミリ残さず徹底的にブログに書いてくれる本物のゴスファンを探し出し、ありとあらゆる雑用をこなしてくれた。

だがゴス系に作りなおしたものを取り除く時にはその情熱もあてにはできなかった。当然それを予想しておくべきだったがサミーにはそれができなかった。デス・ウェイツを疑問を持たずにパークに隷従する人間とみなすことに慣れきっていたのだ。

「さあ、元気をだせ! この絶叫系ライドがどれだけクールになるか見てみろよ。これは君のアイデアだろ。この棺桶カーと出口の写真撮影を見ろよ。乗客を全員、ゾンビに写真加工するんだぜ。君の好みぴったりだろう? 君の友達たちもきっとこれを気に入る」

デスはゴス系特有のふさぎ込み方をしていた。ゆっくりと気乗りしない様子で彼は自分の仕事をこなし、サミーが彼を呼び止めて直に質問をすると前髪で目を隠し足元に視線をやって黙りこくった。

「まったく。いったいどうしたんだ? 今朝にはフェンスが用意されてるはずじゃなかったのか!」計画では消え去るライドの解体を始められるように開園前には整備班が周りにフェンスを張り巡らしているはずだった。だが彼が八時に姿を現してみるとフェンスや整備班は影も形もなく、ライドはそっくりそのまま残っていた。

デスは自分の足元を見つめたままだ。サミーの中に怒りがわき起こった。仲間を信頼できなければ途方に暮れるしかない。パークには既に彼の足を引っ張ろうという人間が大勢いるのだ。

「デス、僕は君に言ったよな。頼むから聞き分けのない赤ん坊のような真似をするのはやめてくれ。このくそったれなライドを閉めてあのドラッグ中毒どもを叩き出すんだ。昼には解体班を呼ばなくちゃならないんだ」

それでもデス・ウェイツは足元を見つめたままだ。垂れた黒い髪が彼の顔を覆っていたが鼻をすする音が聞こえ、サミーは髪の向こうで彼が泣いていることに気がついた。

「泣き言を言うなよ」彼は言った。「さもなきゃとっとと出て行け」

サミーはきびすを返してドアへと向かった、その時だった。デス・ウェイツが彼の背中に跳びかかり、彼を地面に引き倒すと殴りつけたのだ。対して力のはいった打撃ではなかったがその指にはおおぶりなシルバーのスカルリングが山のようにつけられていてそれが皮膚をえぐった。彼が好き勝手にサミーを何度か殴った所でサミーは判断力を取り戻し、やせた少年を払いのけた。不思議なことにその現実の物理的な暴力がサミーの怒りを消し去った。彼はこれまでの人生で人を殴ったことがなかった。賭けてもいいがそれはデス・ウェイツも同じはずだ。実際に殴り合いをしてみるとそれはどこか滑稽なものだった。

デス・ウェイツは起き上がるとサミーを見た。少年のアイライナーはこすれて頬につき、髪の毛は乱れて逆立っていた。サミーはゆっくりと頭を振った。

「自分のロッカーの整理を心配する必要はないぞ。私物は送ってやる。パークからまっすぐに出て行け」

警備員を呼ぶこともできたが、そうすると彼らが到着するまでデス・ウェイツとここに座っていなければならなくなる。少年は逃げ出して二度と戻ってこないだろう。彼の面目は丸つぶれだ。

彼は立ち去った。サミーはデス・ウェイツの社員証を失効し彼のロッカーの中身……ハーブの香水くさい黒いTシャツの山とちびたアイライナーペンシル……を一番安いメール便で彼の家に送った。もはやデス・ウェイツの助けを借りる事はできなかった。残されたのは閉鎖されて無用の長物と化したライドだけだった。彼は解体作業の指揮をとり、オンラインでオークションにかけるためにライドの部品とわかるものはそのかけらの一片まで会社のオークション部門に引き渡した。収益に貢献するなら何でもありだ。

だがデスが殴りつけた頬はずきずきと痛み、新しいプロジェクトへの彼の意気を削いだ。果たしてファトキンスは十分な大きさのマーケットセグメントなのだろうか? それについては調査するよう指示を出さなければならなかった。だが一方で執行委員会をなだめるのに間に合うように計画をまとめる必要もある。さらに言えば彼には毎日のように目にしているある事実があった。パークはもうずっと以前からファトキンスでいっぱいだったのだ。

デス・ウェイツの亡霊はいたる所に現れた。誰を解雇するか、どうやってそれをおこなうかサミーは自分で決めなければならなかった。最近ライドで働いてるゴス系の少年たちの誰一人として彼はよく知らなかった。今まではデス・ウェイツが雇って指示を出していたのだ。彼はさんざん泣きつかれたり怒りをぶちまけられたり脅されたりした。彼が解雇しなかった少年たちにしても次は自分の番だとでもいうように振舞った。こうなったからにはもし収益を維持するためにそうする必要が無くてもサミーは彼ら全員をお払い箱にするつもりだった。

その後、少年たちが退職金の算段をしているのに彼は気がついた。ハリウッドに向かって南に移動し、あのショッピングモール跡地に入っているいまいましいつぎはぎの死にぞこないライドに乗りこんでそいつをゴス系の楽園に作り変えようと企んでいるのだ。目にしたメッセージボードから判断するに全てはデス・ウェイツのアイデアだった。くそったれめ。

ボストンでの出来事がよみがえった。彼が面倒を引き起こした後もあのライドは動き続けた。彼のライドはフェンスに覆われて解体されたというのに彼のかつての雇い人全員と風変わりなアイライナーを引いたその変態仲間たちはみなどこか別の所に消え、あいも変わらずにパーティーを繰り広げている。彼のライドの入場者数は下降を続けた。そしてある写真ブログにつぎはぎの死にぞこないライドに群がる黒衣のゴスの人だかりを写した写真が載り、彼らがどこに消えたのかが明らかになったというわけだ。

いいだろう彼は思った。上等だ。見に行ってやろうじゃないか

あのおかしな形の眉をした男はすぐに彼に気がついたが何かを疑っている様子はなかった。たぶん彼がボストンでやったことを彼らは突き止めていないのだ。ゴス系の少年たちは露店で忙しそうにしているか、クローブやハーブの水パイプをふかしながらあたりをぶらぶらしていた。少年たちは彼に気がついてもそれを表情に出さずに真面目くさった顔で無視していた。

最後のいまいましい訪問以来、ライドはとてつもない変化を経ていた。もちろん話としては聞いていた……ダークライドを取り扱っている雑誌は今週の社説記事でこのライドのことを詳しく説明していた。だがそのライドが持つ物語……子供じみた純朴さから始まり青年期に特有の快活さ、そして大人らしい皮肉っぽい態度を経て懐古的で老人的な喜びへと展開していく人間の人生がゆるやかな調子で描き出されているように見えた……についてはいつものようにひどく誇張された論評だった。

そこには彼が昨日取り壊したばかりのライドの一つにあったロボット製のゾンビの頭があった。そして別の場所には棺桶コースターの看板の一部だ。生け垣迷路にあったコウモリの形に刈られた低木もある。あのくそガキどもが取り壊されたライドの廃棄物の中から盗みだして持ち込んだのだ。

ライドを降りる頃には彼の顔には残忍な笑みが浮かんでいた。明日にはあの商標の付いたライドの装飾品がコピーされて合衆国中の十の街に散らばるプリンターから吐き出される。こいつはたいした違法行為だ。どこへ行けばそういうことを追及するのが大好きな攻撃的で飢えた弁護士を見つけることができるのか彼はよく知っていた。彼は再びライドに飛び乗ると暗い場所でも撮影ができるようにカメラの調整に取りかかった。


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