メイカーズ コリイ・ドクトロウ 第二部

第六章


ボストンのライドに滞在している一週間のうちに三番目と四番目のノードがライドネットワークに加わった。三番目のものはサンフランシスコの郊外にあり、既にフリーマケットとして使われていた巨大なショッピングモール跡地に入っていた。以前は二つの中核店だったスペースがあって、片方はスタジオを必要としているアーティストたちがすでに無断占拠していたがもう片方は空いていて新しいライドを作るのにうってつけだった。ライドの建設を企画したギークたちは手の込んだバーニングマンの菓子作りで腕を磨いた連中だった。それもあってペリーは彼らの参加に大喜びだった。

四番目のものはローリーのリサーチ・トライアングルで営業している小さなショッピングセンターに入っていた。ライドの建設を計画したのは穏やかな物腰で辛辣な皮肉を飛ばす南部人たちで、かつてのIBMの青ネクタイ信者の娘たちだった。彼女たちは女性によるテクノロジー共同体を運営していた。動機は自分たちが金銭的な問題で大学に行くだけの余裕がなかったり、ドロップアウトせざるを得なかったりしたことだった。得た利益を地元の女性のための奨学金にする場合、入場料をいくらに設定できるか彼女たちは知りたがった。

そういう人たちが自分でライドをオープンしたがったり、そのためにペリーの許可を欲しがるなど彼には信じられなかった。改めて彼はあのニューワークの黄金時代を思い出した。新しいギズモを百も持った五十ものニューワークの現場。毎日のようにメールリスト上をメールが飛び交い、人々は販売業者を探し、求人し、競争し、群れ動き、論争し、離合集散を繰り返していた。独自バージョンのライドをオープンする許可を求める人々がそのためにティジャンと交渉しているのを見ても彼はまだ信じられず不思議そうにそれを見つめた。

「なぜ彼らは俺たちの許可を求めるんだ? APIは開け放たれている。ただ実装するだけだ。寝ぼけてるかどうかしてるんじゃないか?」

昔のようにティジャンは彼を見つめた。「彼らは礼儀正しいんですよ。ペリー……ライドの創設者の君に敬意を払っているんです」

「気に食わない」ペリーは言った。「あのがらくたをライドで使うことに対して俺は誰からも許可をもらっていない。誰かが持ち込んだ物をプリンターで複製するときにもその人たちから許可はもらっていない。なのになんだって許可を求めるのが敬意を払うことになるんだ? まったく。俺がメールを受け取って不機嫌にならないか手紙で尋ねてくるやつはいないのか? いつになったらこんなことは終わりになるんだ?」

「彼らは君と仲良くなりたいんですよ。それだけです」

「ああ、そいつも気に食わない」ペリーは答えた。「こんなのはどうだ。今この瞬間から誰かが許可を求めたら俺たちはノーと答える。このネットワークへ参加する許可を俺たちは与えも奪いもしない。だがどんなやり方だろうが参加してくれることを望む。こいつをサイトのFAQに載せとくといい」

「みんなを困惑させるだけですね」

「困惑させるつもりはないんだ。やれやれだな! 彼らを教育するんだ!」

「クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを追加しておくというのはどうです? とてもリベラルなものもありますよ」

「俺はこいつをライセンスしたくないんだ。何かをライセンスするにはそいつを所有していなくちゃならない。ライセンスというのは『これこれのライセンスが無い限り、あなたはこれこれをしてはならない』って言うための道具だ。リンクをクリックしてウェブページをダウンロードするのにライセンスは必要ない……誰もそれをやるための許可を与えることはできないし、あんたの手からそれを奪い取ることもできない。ライセンスは人々に所有権と許可と所有物に関するひどい考えを植えつけちまうんだ!」

「好きにしたらいい。これは君のショーだ」ティジャンは言った。

「いいや。そうじゃない! こいつは重要なところだ!」

「OK、OK。これは君のショーじゃない。だが私たちは君のやり方にならうことになります。君は憎めない気難しい変人だ。そうでしょう?」

彼らはペリーにならって物事を進めていた。数日後にはフロリダに戻る予定だったが彼はチケットの行き先を変えてサンフランシスコに向かい、そこでライドを作っている連中と会うことにした。その中のひとりにSFSUサンフランシスコ州立大学でインタラクションデザインを教えている者がいて学生に話をしてくれないかと彼に持ちかけた。学生相手に何を話したらいいか彼にはよくわからなかったのだが、いざその場になってみると彼は自分とレスターとティジャンとスザンヌとケトルベリーがいかにしてニューワークムーブメントを作り上げ、その崩壊を目の当たりにしたのかを何の苦労もなく話していた。事の始まりからそれが終わるまでの全てを語るのは楽しかった。学生たちは昼休み中も語り合い、その後、学生のグループが彼をミッション地区にある大きな中庭のあるバーに連れて行った。そこで彼は日が沈んでビールの飲み過ぎでもはや話を続けられなくなるまで悪戦苦闘の日々について語り続けた。

学生たちはみんな、彼よりも十歳から十五歳は若く、少女も少年もこぎれいで中性的で彼とは大違いだった。だがやじを飛ばしたり冗談を言ったり馬鹿げたことを声高にしゃべる若くてこぎれいな人々に関心を持たれ取り囲まれるのは悪くなかった。何度も抱擁を交わした後、かわいらしい少女のうちの二人(後で思い出してみると彼女たちは彼よりもむしろお互いに関心を寄せていたようだった)が三つの駐車場を横切って彼をカプセルホテルまで送リ届けてベッドに押し込んだ。

朝食はみじん切りの豚肉と味気ない二種類の豆が詰まったフットボールほどもあるサイズのブリトーだった。それを一クォーターのオルチャータというよく冷えたシナモンと米のドリンクで流し込むと二日酔いも醒めた。

何時間か自分のラップトップをいじりながらテカテを二、三本飲むとだいぶ心持ちも人間らしいものになった。エレキギターを持った朝の早いストリートミュージシャンが目の前の通りを歩いていった。そのギターに合わせて膝ほどの高さのロボットの小さな一群が踊ったり、歌ったりしている。歌っているのはホセ・アルフレド・ヒメネスの古い曲だった。

いい一日になりそうだった。ラップトップが呼び出し音をたて、彼はマイクの付いたヘッドホンをはめるとティジャンと話を始めた。

「おい、この場所はすばらしいぞ」彼は言った。「昨晩はここ何年かで一番の夜だった」

「じゃあきっとこいつも気に入るに違いない。同じ事をやりたいという連中がマディソンにいます。少しアドバイスが欲しいそうです。今朝、話をもらったんですが喜んで飛行機代を払うそうです。SFOサンフランシスコ国際空港の六時の便で飛べますか?」

マディソンの連中は彼にチーズをおごり、バイオハッカーたちを紹介した。マディソンが幹細胞を合法的に研究できる六ヶ所の一つだった気まぐれのように一瞬存在した時代の精神を受け継いだ者たちだ。バイオハッカーたちの姿にはぞっとさせられた。エラを持った者もいたし、暗闇でぼんやりと発光する者もいた。オレンジ色の肌をした光合成ができると主張する者もいた。

彼を招いた連中は彼を市庁舎近くのレストランに連れて行った。席につくとまるでコメディーに出てくるように大きなビールジョッキと得体のしれない肉が詰まった巨大な蒸しソーセージが出てきた。

「場所はどこなんだ?」

「建物を新たに建てようかと考えているんです……周りに農地が広がった場所を考えています」話しているのは十六歳の少年だった。あるいはペリーが誰を見ても十六歳だと思うくらい酔っ払った老いぼれのまぬけになってしまったのかもしれない。ともかく髭を剃る必要がない年齢であることは確かだ。ペリーはなんとか相手の名前を憶えようとしたが無理だった。時差ぼけか睡眠不足かそれとも他の理由のせいかはよくわからなかった。

「そいつはちょっと変わってるな。他の所ではみんな空き物件を借りてやっている」

「そういう物件があまり見つからなかったんです。オフィスやなんかは全部大量に設立されたスタートアップでいっぱいです」

「大量に設立されたスタートアップ? この時代に?」

「スーパーベビーですよ」少年は肩をすくめていった。「ここの人間なら誰でも考えることです。それからガン治療ですね。僕はスーパーベビーはやばいと思ってます……二十歳になったスーパーベビーを想像してください。遺伝子には二十年前のテクノロジーが詰まっている。もちろん生殖細胞にもね! 時代遅れのスーパーベビーを生み出すわけだ。狂ってる。だけど中国人たちはそいつにとんでもない額を投資しています」

「それで廃業したショッピングモールがないのか? やれやれだな。まるで砂や水素やなんかを使い尽くしたみたいな話だ。本当にここはアメリカなのか?」

少年は笑った。「大学は学生寮を建てまくってます。このへんで僕らが家を借りるのはもう無理ですから。だけどさっき言ったように農地はたくさんあります。即席のプレハブを建ててそこにライドをいれれば何の問題もありません。ハロウィンの時にトウモロコシ畑にお化け屋敷を作るようなもんです。昔はネブラスカでもACLUアメリカ自由人権協会が資金を工面するために毎年のようにやってました」

「それはそれは」ネブラスカにACLUアメリカ自由人権協会があっただって?そう彼は言いたかったがそれが失礼な言い方だということぐらいはわかった。今まで彼が会った中西部の人間は総じてとんでもないギークやハッカーだった。だからこの少年を鼻であしらう言われはないのだ。「それでなぜこいつをやりたいと思ったんだ?」

少年がにやりと笑った。「ニューヨークに引っ越さなくてもできるクールなことを見つけたからです。僕はここが好きなんだ。背骨が曲がったねずみが巣食う荒れ果てて廃墟になったくそみたいなマンションに住みたいとは思わない。広い場所が好きなんです。だけど農業をして働いたり大学の研究者になったり学生向けのバーの経営をしたりはしたくない。そんなの将来性がないってことは目に見えている。だって誰がいまさらビールを飲むんです? 現実世界にはもっと楽しくて興奮するようなものがたくさんあるっていうのに」

ペリーは自分が飲んでいるビールを見た。ビールはドイツ風ゴシックのけばけばしい装飾が施された陶器製のジョッキに注がれていた。どうやらジョッキはセラミックとエポキシ樹脂を混ぜてプリンターで印刷したもののようだった。移動遊園地の会場にでも行けば同じ物が手に入れられるだろう。

「俺はビールが好きだ」彼は言った。

「だけどあなたは……」少年はそこで口を閉じた。

「年寄りだ」ペリーは言った。「気にするな。おまえは何歳だ。十六か?」

「二十一です」少年は答えた。「よく若く見られます。思春期よりも重要なものにリソースを投入しているんです」

さらに二人の若者がボックス席に滑りこんできた。少年と少女でこの二人はちゃんと二十一歳に見えた。「こんにちわ、ルーク」少女が言って少年の頬にキスした。

ルーク、それが少年の名前だった。こんどは忘れないように語呂合わせで彼は憶えた……ネブラスカのベビーフェイスの農場少年。まるでルーク・スカイウォーカー。ライトセイバーを振り回す少年の姿を思い描いて今度は名前をちゃんと憶えたことを確認する。

「こちらはペリー・ギボンズ」ルークが言った。「ペリー、こちらはヒルダとアーニー。二人とも、ペリーはこの前話したライドを作った人なんだ」

アーニーと彼は握手を交わした。「まじかよ。あれは俺が今まで見たものの中で一番クールです。すげえ。いったここに何をしに? とにかく俺はあれが大好きなんです。ああ、すごいな」

ヒルダが彼の耳を指で弾いた。「よだれを拭きなさいよ。ミーハー」彼女が言った。

アーニーが耳をさする。ペリーはあいまいに頷いた。

「すみません。ただその……ええっと、大ファンだって言いたいだけなんです」

「そいつは光栄だ」ペリーは言った。ボストンやサンフランシスコでも何人か彼のファンだという人々に会っていたがどちらの時もそれになんと答えたらいいか彼にはわからなかった。ニューワーク時代に会ったレポーターたちも彼のファンだと名乗ったがそれは自分は彼のことを理解しているのだと主張するためのポーズだった。今、ここにいる彼らは本心からそう思っているようだ。ありがたいことに数はそんなに多くない。

「まるで子犬みたいね」ヒルダは言ってアーニーの頬をつねった。「すっかり興奮しちゃって」

アーニーが自分の頬をさする。ルークが不意に手を伸ばし二人の髪をなでてくしゃくしゃにした。「この二人がライドの建設を手助けしてくれる予定になっています」彼が言った。「ヒルダは資金集めのエキスパートです。昨年は予約無しで診療を行う診療所まるまる一件分の資金を集めたんですよ」

「婦人科診療所か何かか?」ペリーは尋ねた。少し酔いが醒め始めていた。中西部の若い女性の例にもれずヒルダは信じられないくらい胸が大きかった。マディソンに降り立ってから五分ごとに彼は女性の胸に目をやってしまっていたのだ。彼女みたいな子には今まで会ったことがなかった。

「違います」ヒルダが答えた。「代謝異常治療のためのものなんです。多くの人たちが思春期にファトキンス処置を受けています。ファトキンスをやっている両親に勧められたり、親が自分の子供が太っているのが気に入らなかったりという理由で」

ペリーは頭を振った。「なんだって?」

「一日に千カロリー摂るのが簡単なことだと思いますか? 消化器官にとっては最悪の事態です。食費がかかるということは言うまでもありません。多くの人は大学に来ると高カロリーな粉末サプリに頼ることになります。健康を維持するためにちゃんとした食事を十分摂るだけの金銭的な余裕がなくなるからです。そのせいで子供たちはみんな餓死しないように一日中、バニラ味のゲルを飲み続けることになります。私たちは必要としている子たちにカウンセリングと緩和治療を提供しているんです」

「それで大学を卒業したら……もう一度、ファトキンス処置を受けるのか?」

「それは無理です。緩和は永続的なものなんです。受ければ残りの人生はサプリを飲み食事に気をつけて運動をし続けなければなりません」

「太るのか?」

彼女は視線を逸らし、次に視線を落とし、それから彼の方に向き直った。「ええ。ほとんどの人は。それは避けようがないことじゃありませんか? 身の回りにあるもの全てが必要な量の五倍も食べなければならない人たちに合わせて作られているんです。サラダにさえプロテインの粉末が混ぜあわせてある。けれど正しい食生活を送ることは可能です。あなたはファトキンス処置を受けていないですよね?」

ペリーは頷いた。「だがこれは気まぐれな代謝のおかげだ。俺は豚のようによく食うが一オンスも体重が増えない」

ヒルダは手を伸ばすと彼の二頭筋をつかんだ。「本当ですか……この引き締まった筋肉もあなたの気まぐれな代謝の賜物だと?」

彼女は手を離そうとしなかった。

「OK、たしかに肉体労働もかなりやっている。だが俺が言いたいのは……ファトキンス処置を元通りに戻した後にまた太るっていうなら……

太ったままでいるよりも残酷だ」

彼女の手はまだ動かなかった。おそらくは彼女のボーイフレンドであろうアーニーがどんな様子か確認するために彼は目をやった。アーニーはどこか別の所を見ていた。視線はレストランのホールを横切り巨大なテレビに向けられている。そこには何か団体競技の試合が映しだされていた。どうやら決勝戦かなにからしい。まるで同じホッケーボード上で百のエアホッケーが同時におこなわれているかのような混乱っぷりだった。何かが何千個も疾走し跳ね回り飛び交い、めまぐるしく動き回っている。あまりに速すぎてどういうルールなのかペリーには想像もつかなかった。

少女の手はまだ彼の腕をつかんだままだ。その手は暖かかった。口が乾いたがこれ以上ビールを飲むとまずいことになりそうだった。「水をくれないか?」彼は少しかすれた声で言った。

ルークが飛び上がって水を取りに行き、テーブルに沈黙が落ちた。「それでその診療所だがどうやって資金を集めたんだ」

「ペーパークラフト」彼女は言った。「私には折り紙に入れ込んでいる友達が大勢いるの。私たちでいくつも折り方を考えだした。すごい大作を作ったのよ……ベッドフレームだとか、ソファーだとか、キッチンテーブルやイスや……」

「本物の家具みたいなやつを?」

「本物の家具みたいなやつを」彼女は真面目くさってうなづきながら答えた。「ものすごい量の紙を使った。頑丈で水にも火にも耐えるように薬品加工したりね。男の子の社交クラブ用のアウトドア・バーとサウナを作った。風力発電機付きのね……蒸気エンジンまで作ったのよ」

「紙から蒸気エンジンを作ったって?」彼はわくわくしてきた。

「普通じゃない材料で建物をたてるとは驚いたって言いたいの?」

ペリーは笑った。「その通りさ」

「私たちはただ数百人の学生に暇な時に折り紙を折ってもらってそれを売っただけ。キャンパスのみんなは本棚を必要としているからまずそこから始めたの……蛇腹折りでアーチを作って支持材にしてそれぞれの棚を支える。色を塗ったり模様を印刷することもできたんだけどほとんどの人は真っ白なやつがよかったみたいね。その次はイスや簡易台所一式や食卓用の敷物や……とにかくあらゆるもの。私はこのプロジェクトを『マルチ折り紙』って呼んでた」

ペリーは鼻からビールを吹き出した。「すごいな!」折り紙で作ったハンドバッグから彼女が取り出したティッシュで吹き出したものを拭きながら彼は言った。近くでよく見ると彼女がかぶっている白いベースボールキャップも紙を折って作ったものだということに彼は気がついた。

彼女は笑うとさらにハンドバッグをかき回してボール紙を一枚取り出した。すばやいきびきびとした動きで彼女があらかじめ入れられたミシン目にそって手際よく折っていくと、すぐに彼女がかぶっているのと瓜二つのベースボールキャップができあがった。テーブルの上に身を乗り出すと彼女はそれを彼の頭の上に置いた。

ルークが水を取って戻ってくると二人の間に座ってみんなのグラスに水を注いでいった。

「いかしたキャップだ」ペリーの帽子のつばに触れながら彼が言った。

「ありがとう」水を飲み干し、さらにもう一杯注ぎながらペリーは答えた。「ああ、たしかにここではかなりクールなことが進行中のようだな」

「すばらしい街ですよ」ルークが間延びした口調で言った。まるで放浪の旅を終えてマディソンに落ち着くことにしたのだとでも言うようだ。ウィスコンシンは実際、国際的にもホットな場所だった。「僕らはまじでかっこいいライドを作ろうと思っているんです」

「全部、紙で作ろうっていうのか?」

「まあ一部はそうなるでしょう」ルークは答えた。「ヒルダは他のやり方をするつもりはないだろうし。そうだろう?」

「これはあなたのショーよ。ルーク」彼女は言った。「私はただの資金調達係」

「お腹すかない?」ヒルダが言った。「何か食べに行きたいわ。出所不明の内臓肉が混ざってないやつがいい」

「俺ぬきで言ってくれ」アーニーが言った。「この試合に賭けてるんだ」

「やらなくちゃいけない課題がある」ルークも答える。

ペリーはさっき食事をしたばかりで今夜は部屋でメールチェックをして過ごすつもりだった。「いいね。俺もはらぺこだよ」彼は言った。まるで高校生にでもなったような気分だったが悪くなかった。

二人が向かったのはウクライナ料理屋だった。ペリーはウクライナ料理を食べるのは始めてだったがクレープとブラッドソーセージはなかなかいけた。だが彼の関心のほとんどはヒルダに向けられていた。彼女はマルチ折り紙での資金集めの苦労話を話し続けていた。面白い話、悲しい話、ぞっとするような話、そして成功した話。

彼女の語るストーリーの一つ一つが彼に自分の経験を思い出させた。彼と同じように彼女は組織のまとめ役で二人とも同じような苦労を経験していた。二人は食事の後で大量のコーヒーを飲み、レストランが閉店して外に放り出されると低いテーブルとソファーのあるメインストリートのカフェに移動して話しを続けた。

「ところで」ヒルダが伸びをしてあくびをしながら言った。「もうすぐ午前四時よ」

「まさか」彼は言ったが彼の腕時計もその時間を指していた。「まじかよ」彼はどうやればさりげない調子で自分と寝ないか持ちかけられるか考えた。会話の間中、二人は恋人同士のように触れ合っていた……あるいは言葉の一つ一つが求愛の言葉だったと言っても良かった。

「ホテルまで一緒に歩きましょう」彼女が言った。

「ああ、それは本当に助かるよ」彼が答える。わざとらしく作った声が彼の耳に響いた。突然、疲れが吹き飛んで代わりに胸の中で心臓が強い鼓動を打ち出したかと思うと耳の中を流れる血液の音が聞こえるようになった。

ホテルへ戻る道ではあまり会話はなく、ただ互いに調子を合わせるような二人の足音だけが冬の終わりの通りに響いた。この時間では通りを行く者も無く、風の音の他にはほとんど何も聞こえなかった。街は二人のものだった。

ホテル……子供のもとを訪れた両親向けのありふれたカプセルホテルだ……のドアの前で二人は立ち止まった。まるでコメディードラマに出てくるデート終盤の子供のように目をむいて二人は互いを見つめた。

「えーと、君の専攻はなんだっけ?」彼は聞いた。

「純粋数学よ」彼女が答える。

「それが何かくらいはわかるつもりだ」彼は言った。通りは凍えそうに寒かった。「理論系だ。そうだろ?」

「応用数学と反対っていう意味の純粋数学」彼女は言った。「本当に興味ある?」

「うーん」彼は言った。「まあ、あるよ。だけど興味津々ってほどじゃない」

「あなたのホテルの部屋に入るわ。だけどセックスは無し。OK?」

「OK」彼は答えた。

カプセルにはなんとか二人が入れるだけの広さがあった。カプセルは大量生産品のプレハブでさまざまなサイズになるやつだった……中西部では大きくし、サンフランシスコの駐車場に積み重ねるときには小さくするのだ。だがそれでも彼とヒルダの膝はほとんど触れ合うような狭さで彼女の匂いが鼻に届き、彼女の髪が耳をくすぐった。

「君は最高だな」彼は言った。深夜になって彼の悪ふざけを続ける力も枯渇していた。彼はただ思ったことをそのまま口に出していた。「俺は君が大好きだよ」

「ええ。それじゃまたマディソンに来てライドに乗ってくれなきゃね?」

「うーん」彼は答えた。翌日はルークと彼の他の仲間と会う予定で、そのあとはオマハに向かうことになっていた。ティジャンがセッティングした別の連中に一席ぶたなければならないのだ。この調子ではフロリダに戻るのは六月になってしまうだろう。

「ペリー、あなたはプロの活動家じゃないでしょう?」

「もちろん違う」彼は答えた。「そいつがどんなものなのか想像もつかないよ」

「私の両親がそう。両方ともね。プロの活動家がどんなものか教えてあげる。ほとんどの時間は旅行をして過ごすの。出かけて行って人々に会って一緒に強烈な体験をする……戦争に行ったり、バンドでツアーするみたいな感じね。千回も恋に落ち、その後でその人たちを残して立ち去る。飛行機から降り立って見知らぬ人たちを親友に変え、また飛行機に乗るとその街に戻るまでは彼らのことをすっかり忘れ去る。その繰り返し。

もしこの状況を乗り切りたいと思うならあなたはこの状況を愛さなきゃならない。飛行機を降りて、人々に会い、その人たちと恋に落ちなければならない。全ての瞬間を心に刻んでそれが自分の持っているものの全てだと理解しなければ。そしてまた飛行機に乗って、それでも彼らを永遠に愛し続けること。さもなければ新しい出会いは全て辛いものになる。それがすぐに終わることを知っているんだもの。まるでダッフルバッグの荷を解く前にサマーキャンプのさよならを言い始めるようなもの。受け入れなければ……もしそれが無理なら少なくとも忘れなくては……どんなお祭りも一日、二日で終わるんだってことをね」

しばらくの間、彼はそのことについて考えた。思い当たることがいくつかあって彼は頷いた。何年もの間に大勢の人が彼の工場やライドを訪れ、去って行った。レスターは行ったり来たりだ。スザンヌは去ってしまった。ティジャンは去ったがまた戻ってきた。ケトルベリーはもはや彼の人生とは全く関わりがなかった。満面の笑みも高価なコロンの匂いも記憶の彼方だった。既にボストンの人々やサンフランシスコの人々の顔も忘れ始めている。ヒルダのこともひと月ほどすれば忘れるだろう。

ヒルダが彼の腕を軽く叩いた。「私はアメリカのほとんど全部の町に友達がいる。両親はこの国の共和党支持の州を行ったり来たりして幹細胞関係の活動をしていた。スーパーマンにだって会ったことがあるのよ。彼が死ぬ前にね。彼は私の名前を憶えてくれたわ。十年間、二人にくっついてあちこちを旅して過ごした。ブッシュが大統領だった間とその後の数年ね。あなたならそういう生き方ができるだろうし楽しくやっていけると思う。だけど常に冷静でなければならないわ。

あなたは出会った人たちに本心から『君は最高だ』って言えなくちゃならない。だけどそれと同時にその最高の人たちも一週間か二週間のうちには自分の人生から消えていくということを冷静に受け止めなくちゃならない。彼らと再会することがあるかどうかはともかくね。あなたは最高に素敵な人だと私は思う。だけど私たちが付き合うことは絶対にない。たとえもし今夜私たちが一緒に寝たとしてもあなたは明日にはいなくなってしまう。飛行機を降り立った時に喜んで会うことができる友達を全ての街に持つのと、新しいボーイフレンドを連れてあなたの前に姿を現すかもしれない昔の彼女を全ての街に持つのと、何も持たないのと、どれを自分が望んでいるのかあなたはよく考える必要があるわ」

「なぜ俺たちが一緒に寝ないか説明するためにこの話をしているのか? 俺はてっきり君があの男、アーニーとデートしていたのかと思ったよ」

「アーニーは私の弟よ」彼女は言った。「だけどそうね。私があなたにこんな話をしている理由はそんなところ。私、あなたがデートと呼ぶようなものには一度も行ったことがないわ。友達とならそういうことも多いけどね。一緒に働いて一緒に暇つぶしをして相手の瞳に映る自分の姿を何度も見つめたりする。それからお互いに少し探りを入れてから自分のベッドに戻るか相手のベッドで激しい情熱的なセックスをするかして、後で色々細かいことを整理してあとは終わりが来るまでそれがずっと続いていく。私たちはそれの圧縮バージョンを今夜やった。もう少しでセックスまでいきそうになって私は思った。私たちは手札を晒すべきじゃないかって。こんな言い方しても許してくれる?」

ペリーはレスターとのダブルデートのことを思い出した。あの女の子はかわいくて頭も良くてもし少し頑張れば彼を家に連れて行ってくれただろう。だが彼はそうしなかった。この少女は色々な点でまずい。若いし彼の住処から数千マイルも離れた街に住んでいる……なぜ彼は彼女をホテルまで連れて戻ったのだろう?

ある考えが彼を襲った。「なんだって君は俺が残りの人生を飛行機で行ったり来たりするつもりだなんて思うんだ? 俺には帰る家があるんだ」

「あなたメッセージボードを読んでいないの?」

「どのメッセージボードのこと?」

「ライドを作ろうとしている人たちのよ。そこら中でプロジェクトが始まっている。みんなが見聞きしたものに魅了されて昔のあなたのことを思い出している。あなたがやろうとしているマジックで一役買いたがっている。私たちのほとんどは互いに知り合いだったりするの。他の共同プロジェクトを通じてね。あなたの飛行機代を出すためにみんなで帽子を回してカンパを募って誰のうちのソファーにあなたを泊めるか議論しているわ」

そういう連中がいることは知っていた。いつだってそういうメッセージボードはあった。だがたんにおしゃべりしているだけだ……わざわざ読んだことはなかった。そいつはレスターの役目だ。彼がやりたいのは何かを作ることでおしゃべりじゃない。「やれやれだ。いつ誰が俺にそいつを知らせるつもりだったのかね?」

「ボストンにいるあなたのお友達よ。私たちは彼と連絡をとっているの。あなたを困らせるなって言っていた。あなたは今でも十分忙しいんだからって」

彼がそう言っただって? かつてティジャンは計画を担当していてペリーはアイデア、つまり計画の対象を担当していた。気づかないうちに一周して元の所に戻ってきたのだろうか。もしそうならまんざら悪くないのではないか?

「よしてくれよ。俺は自分のベッドで過ごすのを今か今かと楽しみにしているんだぜ」

「このベッドより居心地がいいって言うの?」彼女は狭い棺桶のようなベッドを叩いてみせた。ベッドは驚くほど快適だった。サイズの調整ができて暖房完備でマッサージ機能まであった。

彼は鼻で笑った。「OK。確かに俺が家に戻った時に寝るのは床に敷いたマットレスだ。だがこいつは物事の原則の話だ。俺はホームシックになっているんだな。きっと」

「それじゃあここでの滞在が終わったら二、三日家に戻るかしてから次の場所に向かうのね。充電をして洗濯物を洗う。だけどすぐにスーツケースがあなたの家になると思うわ。ペリー」その声は眠気で間延びし、彼女の目はまぶたが落ちかけてぼんやりしていた。

「たぶん君が正しいんだろう」話しながら彼はあくびをした。「まったく。君は正しいさ。本当にお利口さんだ」

「疲れて家に帰る気がしない」彼女は言った。「私はあなたと一緒に泊まる。お利口さんだからね」

突然、彼の眠気がふっとび心臓が跳ね上がった。「ああ、いいよ」彼はできるだけ何気ない様子を装ってそう答えた。

シーツをめくってから彼は狭苦しい部屋の片隅を向いてジーンズと靴と靴下を脱ぎ、下着とTシャツ姿でシーツの間に体を滑りこませた。服を脱ぐ物音……洗練された動作だ……がした後、彼女は彼の後ろに滑り込んで寄り添った。驚きとともに彼は彼女の裸の胸が背中に押し付けられたことに気がついた。彼女の腕が彼を包み、回転するぜんまいのように跳ねる彼の胃の上に置かれた。かすかな桜色を帯びて性器が立ち上がるのを彼は感じた。彼女の息が首筋にかかる。

彼女にキスできるようにさり気なく寝返りを打とうかと思ったがそこで彼はセックスはしないという彼女の忠告を思い出した。彼の腹の上で彼女の指先が小さな円を描く。指先がへそをかすめる度に彼の胃が跳ね上がった。

目はすっかり覚めていた。彼女のとてつもなく柔らかい唇が……あまりに柔らかくてかろうじて触れられているのがわかるほどだ……彼の頭の付け根に擦り付けられた瞬間、思わず低いうめき声が彼の口からもれた。もう一度唇が擦りつけられた後、首筋に歯が軽く当てられ、最初は軽く、次第に荒々しく揺すぶられた。繊細な甘い痛みが電気のように走り、彼は浅い呼吸を繰り返した。彼女の手は今では腹の上で動きを止めて彼を抱きしめていた。張り詰めた勃起がそこに向かってそそり立っていた。

体に彼女の腰が押し付けられる。彼女の口元が彼の耳へと動いて噛みついた後、舌が耳先に触れた。彼女の腕が再び動いて肋骨のあたりを撫でる。指先が彼の乳首を最初は優しく次第に強く撫で、ときおりまるで歯で噛みつくようにつめ先で強く刺激した。彼が思わず声を上げると耳元で彼女がくすくすと笑ってその振動が彼の背骨に伝わってきた。

彼はぎこちない動きで背後に手を伸ばし手を彼女の尻に置き、そこで彼女が何も履いていないことに気がついた。幅のある固い尻だった。スチールの上に発泡ゴムを貼りつけたようだ。彼は尻を撫でて指先を潜り込ませた。耳元で彼女がうめき、背中にしがみつく。

彼の肩が狭いベッドに押し付けられたかと思うと彼女が彼の体の上に乗っかった。肘を彼の二の腕に押し付けて彼を釘付けにすると彼女の胸が彼の顔に当てられる。彼女の胸は良い香りがして柔らかかった。熱い何も身に着けていない彼女の陰部が彼のパンツに押し付けられる。彼は彼女の胸に噛み付いた。少し強く噛むと彼女が喘いだ。硬くなった乳首を見つけると彼はそれを口に含み、舌を打ちつけた。彼女は股を彼に強く押しつけて何か声を漏らした。ああとうめいたようだった。

彼女が体を起こすと彼にまたがって高飛車に見下ろした。編み込んだ髪が体の前で揺れている。その目は喜びに満ちていた。彼の上で体を揺らす彼女の顔には強い集中の表情が浮かんでいた。

再び彼は指先を彼女の尻に潜り込ませ、撫で回して指先を陰唇や尻の穴に擦りつけた。彼女の体を抱き寄せてその体を引っ張りあげると彼は彼女の陰部を自分の口元に引き寄せた。彼が何をしようとしているのか見て取ると彼女は膝立ちですばやくベッドの上を三、四歩進み彼の体の上に乗っかった。彼女の香り、味、手触り、体温が彼の五感を満たし、部屋も自意識も消え去って甘い切迫感だけが残った。

彼女の陰唇にくちづけしてから彼は舌先を彼女の股に滑りこませ尻や陰部、クリトリスを弄んだ。彼女は腰を揺らしてそれに応え、彼の口元に陰部を押し付ける。彼は舌先の激しく早い動きで彼女を攻めた。彼女が背後に手を伸ばし彼の性器をつかんだ。小さな力強い手がボクサーパンツの下に滑り込み、彼の硬くなったものに巻き付くと激しく上下動を始める。

彼が陰部の下でうめくと彼女が体を揺らした。彼はクリトリスを口にふくみ、短い間隔でその充血した陰部を舐め続けた。彼女の太ももが耳の上からギュッと締め付けられたが、それでもまだ太ももの震えと性器をつかむ手の動きに合わせて彼女に声を上げさせることが彼にはできた。

不意に彼女が彼から転がり落ち、周囲の世界が戻ってきた。二人はキスも交わさず、言葉も発しなかった。彼女は彼のそばに横たわって半分彼の上半身に体を預けたまま震えながら子猫のような物音をたてていた。彼はまず優しく、それから力を込めて彼女にキスした。彼女は彼の背中につめをたてたまま彼の唇と舌を噛み、吸いつき、なぶった。

呼吸が落ち着くと彼女は彼のボクサーパンツのウェストを引っ張った。察した彼はパンツを脱ぎ捨てた。自由になった彼の性器が跳ね起きかすかに揺れ、彼の心臓の鼓動に合わせて脈打った。彼女はカナリアを咥えた猫のようににやりと笑って彼の首元や胸にキスを始めた……乳首に強く噛みつかれた瞬間、思わず彼は悲鳴を上げて背を反らした……腹に、腰に、陰部に、太ももに彼女はキスしていった。それはひどく苦しく、そして甘美なものだった。彼女の愛液が顔の上で乾いてその匂いが彼の鼻を捕らえた。息をする度に彼の情欲は掻き立てられた。

まるでミルクの皿を舐める猫のように彼女の舌がしきりに彼の睾丸を舐めた。ゆっくりとした長い間隔で陰嚢、睾丸と太ももの間の皮膚、会陰を舐め、彼が彼女にしたのと同じように彼の尻をくすぐった。体を引き起こして陰毛を吐き出すと笑ってまた元の体勢に戻り、やさしく陰嚢をなめたかと思うとすばやい動作で彼の性器の根本をつかんだ。

彼は叫び声を上げてうめいた。彼女の頭が彼の硬くなったものに沿ってせわしなく上下する。彼女の手は睾丸を締め付けていた。マットレスを強く握りしめて食いしばった歯からうめき声を漏らしたまま彼が射精をするまで長くはかからなかった。陰毛に鼻を潜り込ませて根本まで彼の性器を飲み込んだ彼女の喉に大量の精液が放たれた。彼女は彼の体を離そうとせずにまだ敏感なままの彼の性器を舌でなぶり続けた。彼は低いうめき声を上げて痙攣しながら無意識に逃れようと抵抗した。その間もずっと彼女の手は彼の睾丸を愛撫し続け、彼の尻と睾丸の間に位置する前立腺を刺激し続ける。

最後に唇をひと舐めしてキスしながら彼女は彼の体から身を離した。

「ごきげんいかが」彼女が彼の喉もとに顔をうずめながら言った。

「すごいね」彼は答えた。

「もし一瞬一瞬を生きてそれを後悔しないとあなたが思えるのならその第一歩としてこれは悪くないでしょう。もし来年また私たちが会ったらそれはすごい刺激的なものになると思うわ……その時には友達になれるかしら? 私があなたの脳みそをファックしたことでばつの悪い思いをするかしら?」

「君が俺を襲ったのはそれが理由か?」

「いいえ。そうじゃない。私はその気になったし、それはあなたもそうだった。だけどあと付けの説明としては悪くないでしょう」

「なるほど。君は自分が本当は俺の脳みそをファックしていないってわかってるだろう」彼は言った。

「まだよ」彼女は言った。ベッドの横に置いてあったバックパックを手元に引き寄せると彼女はその中を引っ掻き回し、つながったコンドームのパッケージを取り出した。「それはこれから」

期待で彼は自分の唇を舐めた。直後に彼女が口を器用に使ってコンドームを彼の硬くなったものにかぶせた。彼は笑い声を上げてから彼女の腰をつかんで押し倒した。彼女は自分の足首をつかんで足を大きく広げ、彼は彼女の体に飛び込むとまだ敏感な性器の先を彼女の性器に二、三回擦りつけた後、彼女の陰部に深く沈み込ませて出し入れを繰り返した。

彼は穏やかに彼女と交わりたかったが彼女は耳元でもっと激しく動くようにうめいて求めた。彼の睾丸が彼女の尻を叩くたびに彼女は満足気な声を上げた。

彼を押しのけ背を向けたかと思うと彼女は尻を高く突き上げ、陰唇を押し広げて肩越しに彼の方を見た。二人は後背位で交わり、それは彼の足が痙攣して膝が痛み出すまで続いた。その後は彼女が彼によじ登り、前後に体を揺らしながらクリトリスを彼の恥骨に押し付け、彼を彼女の奥深くに導いた。乱暴に彼女の胸をまさぐりながら彼は睾丸への圧迫感を感じた。彼女から乱暴に体を引き抜くと耳元で彼女が品のない叱咤の声を上げて彼を求め、もっと激しく攻めるよう訴えた。脳みそへの刺激と足の間のものはこれ以上は耐えられなかった。射精とともに二人はベッドから打ち上げられた。

「ああ」彼が言った。

「最高」彼女が答える。

「やれやれ午前八時だ」彼は言った。「三時間後にはルークと会わなくちゃならないんだ」

「それじゃあシャワーを浴びましょうよ。それから彼と会う三十分前に目覚まし時計を合わせましょう」彼女が言った。「何か食べるものあったかしら」

「君のそういうところが好きだよ、ヒルダ」彼は言った。「ビジネスライクで力に溢れていて人生を徹底的に生きている」

ブラインドの下からもれ出るかすかな明かりの下でも彼女のえくぼがはっきり見てとれた。「お腹がすいたわ」彼女は言って彼の耳たぶをかじった。

靴箱ほどの大きさの冷蔵庫にはウィスコンシン製の牛の形をしたチェダーチーズの塊があった。飛行機から降り立った時に彼がもらったものだった。二人はそれをちぎり取ってベッドの上で食べ、さらにサンフランシスコで会った人物から彼がもらった大豆のクリスピーの袋を空けた。それからゆっくりと二人でシャワーを浴び、互いの背中を流し終わると目覚まし時計をセットし数時間後に目覚まし時計に起こされるまで泥のように眠ったのだった。

二人はよそよそしく服を身につけた。気恥ずかしさのせいではなく、互いに気を向ける余裕のないほど朦朧としていたからだった。心地良い筋肉痛がペリーを襲っていた。他の痛みもあった。鈍いかすかな、しかし心地良い睾丸の痛みだ。

服を全て身に着けると彼女は彼の体に手を回して長い抱擁をし、暖かいキスをした。キスは彼の喉から始まって口へと動いていき、最後に舌先がかすかに触れて終わった。

「あなたはいい男だわ。ペリー・ギボンズ」彼女は言った。「楽しい夜をありがとう。私が言ったことを忘れないでね。後悔しないこと、過去を振り返らないこと、楽しむのよ……落ち込んだり私がいないからって寂しがったりしないで。次の街に行って新しい友達を作って新しい会話をして。そして私たちがまた会った時には気まずい思いをしないで友達でいましょう。いい?」

「わかったよ」彼は答えた。かすかないらだちを彼は感じた。「一つだけ言わせてくれ。俺たちは一緒に寝るつもりはなかったんだ」

「後悔しているの?」

「もちろん違うさ」彼は言った。「だけどそいつのせいで君の言いつけを守るのが難しくなるだろうな。俺は一晩限りの見知らぬ相手との関係は苦手なんだ」

彼女は片方の眉を上げてみせた。「もしもーし、ペリー。これは見知らぬ相手との関係なんかじゃないし、一晩限りの関係でもない。一日に圧縮されて起きた親密な愛にあふれた関係よ」

「愛だって?」

「その通り。もし一、二ヶ月あなたと過ごしたら私は恋に落ちたと思う。あなたは私のタイプぴったりだもの。あなたのことを恋愛の対象として見ているわ。だからこそ今回の出来事の意味をあなたにちゃんと理解してもらいたいの」

「君は本当におもしろい人間だな」彼は答えた。

「私は頭がいいのよ」そう言って彼女は再び彼を抱きしめた。「あなただって頭がいい。だから今回のことも理解して。そうすれば永遠にいい思い出になるわ」

彼女とはルークと計画立案チームの他のメンバーと会う予定の場所で別れた。ルークたちとは一緒に計画の概要と理論と実践方法について検討する約束だった。そんなことは全てオンラインで可能だ……実際、彼らはそうしているのだ……だが実際に顔を合わせた関係には何かがあった。議論は六時間にも及び、最後はネブラスカに向かう飛行機の時間が迫っていることを理由に彼はどうにかそこから抜けだした。

自分の便にチェックインして形式張ったセキュリティチェックが始まるのと同時に泥のような眠りがまるでハンマーのように彼を襲った。何度か指示を聴き逃して最後には「詳細な身体検査」を受ける羽目になったがそれでも目は覚めなかった。待合室でも、飛行機の中でも、ホテルへ向かうタクシーの中でも彼は眠り続けた。

だがホテルのベッドに倒れ込んだ瞬間から眠れなくなった。そのホテルは彼がウィスコンシンで後にしたホテルにそっくりだった。ただヒルダと、セックスの後に二人が残したジャコウの香りだけが無かった。

日常的に付き合う恋人がいなくなってから何年もたっていたが彼は寂しさを感じたことはなかった。女との付き合いはあった。性欲の強いファトキンスの女や行きずりの見知らぬ人間、一、二度のデートで終わった者たちだ。だが何か特別な感情を抱いた相手はいなかったし、そうしたいと思う相手もいなかった。もっともそれに近かったのは……彼ははっとして起き上がった。彼が何かしら強い感情を抱いた最後の女性はスザンヌ・チャーチだった。


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