メイカーズ コリイ・ドクトロウ 第三部

第二十七章


ペリーが喫茶店のドアから入ってくる音にケトルウェルとティジャンが顔をあげた。彼らはこの喫茶店を実質的な作戦本部に変えてしまっていた。

怒りに駆られたペリーも根城のライドに着く頃には落ち着いてきていた。しかし喫茶店に向かう途中、弁護士ともくだらないたわ言とも無縁に暮らす通りを行き交う人々とすれ違ううちにまた怒りがわいてきた。喫茶店の外で立ち止まって深呼吸をしたのだが心臓は強い鼓動を打ち、手は固く握りしめられていた。誰しも時にはそうなる。

テーブルまでたどり着くと彼はその上にあった書類をつかんで肩越しに放り投げた。

「あんたらはくびだ」彼は言った。「荷物をまとめて明日の朝までに出て行ってくれ。あんたらのここでの仕事は終わりだ。あんたらはライドの代表者じゃないし、それはこれからもそうだ。失せろ」口を開くまで何を言うつもりか自分でもわからなかった。だが自分は正しいことをしていると感じた。これこそが彼の気持ちだったのだ……自分のプロジェクトは盗まれ、良くないことが自分の名前でおこなわれている。止めなければならない。今すぐにだ。

ティジャンとケトルウェルはまず自分の足元を見て、それから彼を見た。ショックで顔は無表情のままだ。最初に我に返ったのはケトルウェルだった。「ペリー、まずは座ってくれ。それから退職者面接といこう。こういう時はそうするものだろう?」

今ではペリーは怒りのあまり震えていた。この二人の友達は自分を騙していたのだ……自分の名前を使って汚い仕事に勤しんでいたわけだ。だがケトルウェルは彼にいすをすすめ、彼は喫茶店の他の客の注目を集めていた。エヴァと子供たち、そしてあの野球グローブのことが頭をよぎって彼は腰を下ろした。

握りしめた拳を太ももに押しつけ、深く息を吸うと彼は抑揚のない声でデス・ウェイツが自分に語ったことを話して聞かせた。

「そういうことだ。あんたらが弁護士どもにそうするよう指示したのか好きにやらせたせいでやつらが勝手に自分でそうしたのかは知らない。重要なのはあんたらのやり方は俺たちを信じてくれている人たちをひどい目に合わせているってことだ。俺たちのせいでくそみたいな、本当にくそみたいな目に遭っている人たちの人生をさらに悪くしている。俺はそんなことに手を貸すつもりはない」

ケトルウェルとティジャンは互いに顔を見合わせた。ペリーが二人を非難している間も二人は無表情なままだったが話が終わるとケトルウェルがティジャンに小さな身振りで発言するよう促した。

「弁護士がやったことについては弁解のしようもありません。そんな権限は与えてないし、そんなことが起きているとは知りませんでした。もし知らされていたら許可はしなかった。スーツはこういうものなんです。動きまわる部品はたくさんあって常に全てを把握しておくことはできません。あなたも世界中にいるライド運営者が何をしているかわからないでしょう。世界のどこにライドがあるかさえわからないはずだ。分散的な事業では避けようのないことです。

ですが重要なことがあります。その弁護士の言うことは部分的には正しいということです。その子がブログやメールに書いたり、話したりすることは最終的に公的な記録になる可能性があります。好むと好まざるとにかかわらず、その子はもう裁判が終わるまで自分にプライバシーがあるとは考えられなくなるでしょう。ついでに言えばそれはあなたや私も同じです。それが訴訟というものなんです……今のところこれは私たちにはどうすることもできないことです」

まるで彼が遠くで話しているようにペリーには聞こえた。血流の音が聞こえる。何も言い返す言葉が思い浮かばなかった。

ティジャンとケトルウェルは互いに顔を見合わせた。

「ですから私たちを『くび』にしたところで……」最後にティジャンは皮肉をこめるかのように「くび」という言葉を強調しながら言った。「この問題は解決しないでしょうね。私たちは組織を立ち上げてそこにこの訴訟事案を任せています。もしあなたがこいつを放り出そうとすれば彼らからの訴訟も相手にしなければならなくなる」

「俺はそんなものに……」ペリーは言いかけた。だが彼は全ての書類にサインをしていた。まずライド運営者の協同組合を法人化するための書類、それから例の組織とやらを法的な代理人とするという書類だ。

「ペリー。私はボストンのライド運営者たちの議長です。あそこの協同組合理事会の代表者だ。あなたが私をくびにすることはできません。私を雇っているわけではないですからね。私を雇っているのは彼らだ。ですからそんなに鼻息を荒くしないで落ち着いてください。誰も弁護士にその子を見張らせようなんて望んじゃいません」

彼らの言い分はわかったが知ったことではなかった。仲間だと思っていたこの男たちのおかげで今の状態に追い込まれたのだ。

彼らと仲直りすればさらなる深みはまっていくことなるだろう、そう彼は思った。善人がとんでもないことをしでかすときはこういう風にものごとが進んでいくのだ。不愉快な小さい譲歩が一つづつ積み上げられていく。だが彼はその手に乗るつもりはなかった。

「明日の朝だ」彼は言った。「出て行ってくれ。どうやって体制を変えていくかはメールで話し合える。ともかく今の状態はたくさんだ。責任を背負うのも、俺の名前を使われるのもな」

彼は憤然とした足取りで出て行った。最初からこうすべきだったのだ。分別がなんだ。そんなものはくそだ。


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