メイカーズ コリイ・ドクトロウ 第三部

第三十二章


レスターはもうライドで働こうとはしなかったのでペリーは自分でその仕事をやらなければならなかった。ヒルダは町に食料品を買いに行っている……食べ物を詰め込みすぎたせいで大型冷蔵庫のコンプレッサーが壊れ、中に入っていた鹿肉やサワーブルーベリーソースや鴨肉のパンケーキといったもの全部がだめになってしまったのだ……そういうわけで今、彼は一人きりだった。いつもであれば彼はその状態をおおいに楽しんだことだろう。ごった返すファンや観光客、露店商の真ん中でカーニバルの客引きを演じて見せるところだ。だが今日はやけにギプスがむず痒かった。ほとんど眠れていないし弁護士どもは彼を追いかけ回していた。それも大量の弁護士どもだ。

駐車場に自動車の一団が入ってきたのはその時だった。まるでティム・バートンの映画に出てくる葬列のようなおかしな形の霊柩車が長い列を作る。高々と持ち上がった後輪や傾いた煙突の煙出し、ガーゴイル、さらには強烈なブラックライトLEDの仕込まれた夜雀が安っぽい光に照らされて不気味に光っていた。中には普通の車も混じっていたが車は後から後へと湧き出してきた。一団が駐車場へと進み、やがて通りにあふれだすようになっていく間に露店商たちは追加の商品を取り出してどんどん並べてその一団を待ち受けた。

車から降りてきたライド目当ての客のほとんどはひどくやせたゴスだった……そういえば数年前にオレゴンのポートランドにある家族経営のカフェがフォーチュン五〇〇企業に急成長を遂げたという話を聞いたことがある。そこの売りはとんでもなく低カロリーな菜食主義者版のビクトリア朝風内臓肉料理なのだそうだ……彼らはみんな手の込んだ手作りの服を着ていた。黒光りする素材、ペチコートやショートコート、ボディスや厚底ブーツ、膝のあたりで引きちぎったように切り落とされたズボンといった格好だ。

ライド目当ての客たちはありふれた車の一台に集まっていった。彼らはそのベージュ色のミニバンの周りを囲んでいたが、しばらくするとペリーのいるチケットカウンターへ向かって移動を始めた。近づいてくるにつれて集団はばらけていき、中心にいる人間がペリーにも見えるようになった。やせたゴス系の少年でライドで使っているような車いすに乗っている……車いすに乗った客はこれまでにもときたまいた。そういう客には小さなワイヤレス式のプラス一・マイナス一の採点装置を渡すだけでいい。少年のシャギーにした黒い髪には緑色のメッシュが入れられていてそれがまるでアニメのコスプレイヤーのようによく目立った。肌はまるでワンダーブレッドのパンのように白く、口元がどこかおかしな具合になっている。ギプスがはめられた両足は黒いガーゼで覆われ、足には複雑な銀色の渦巻き模様で飾られた尖ったつま先の黒い靴をつっかけていた。

車いすがすばやい動きで近づいてくるのを見ているうちにペリーはそれが誰か気づいた。デス・ウェイツだ! 思わず開いた口をあわてて閉じると彼はカウンターの前へと出ていった。

「なんってこった!」彼は言うとデスの手をとった。その手はごついシルバーのアクセサリーで覆われ、それぞれの指に異なった動物の頭蓋骨をモチーフにした指輪がはめられていた。デスの傷ついた唇が歪んで笑みのようなものが浮かぶ。

「またお会いできて嬉しいです」弱々しくペリーの手を握り返しながらデスが言った。「病院まで見舞いに来てくれて本当にありがとうございました」

その時からこれまでに起きたことを思い出してペリーはもしデスがそのことを知ったらどんな顔をするだろうかと考えた。周りの見物人の目を避けるように彼はデスのそばに身を寄せた。「訴訟とはおさらばした。俺とレスターはな。あいつらはくびにしたよ」鏡のようなカラーコンタクトの後ろでデスの目がわずかに見開かれた。

彼は少し元気を失くしたようだ。「俺のせいですか?」

ペリーは少し考えこんだ。「全部が全部ってわけじゃないが、多少はな。まあ俺たちには向いてなかったんだ」

デスがほほえんだ。「ありがとう」

ペリーは体を伸ばした。「たいした人数を引き連れているじゃないか」彼は言った。「友達が多いんだな!」

デスが頷く。「最近、増えたんです」彼が言った。魅力的な若い女性が近づいてくるとデスの肩を抱きしめた。

奇抜な集団だった。みんな手作りのゴス衣装に身を包み、超少量生産のカスタムされたブーツを履いて複雑な模様のタトゥーやインプラント、ピアスで身を飾っている。しかしそれを除けばその愛嬌やひたむきさはギークたちのそれと何も変わらなかった。口が裂けるのではないかというほどの笑みが自分の顔に浮かぶのをペリーは感じた。

「俺のおごりだ。おまえら」彼は言った。「さあ、中にはいれよ。金はいらない。デス・ウェイツの友達なら今日は誰でも無料だ」

彼らは歓声を上げると彼の背中を叩きながら中に入っていった。デス・ウェイツは車いすの上で三インチほど背筋が伸びたようで、あのかわいらしい少女は通り過ぎるときにペリーの頬にキスをしていった。デス・ウェイツは思わず口元の傷も見落としてしまうような盛大な笑顔で笑った。

彼らはぶっ続けで六回もライドに乗った。ライドから降りてきてはまた乗り込み、熱心に物語のことを話していた。話題はそのことばかりだ。その物語についてはペリーも知っていた。彼もそれを目にしてレスターとはときどきそれについて話し合っていた。しかしそれでもその物語がライドの客へ訴えかける力には今でも驚かされていた。

それに混じって金を払って乗る客も出入りしていた。物語について語る集団の熱気に何がしかの影響を受けているようだ。彼らは物語の話をしながら連れ立って出てくるとしばらく露店で買い物をしたりして過ごしてからまた物語を求めてライドに戻ってきた。

ライドにはこれまで名前がなかった。ずっとただの「ライド」だった。「ライド」という固有名詞でさえない。こいつはそのうち「ザ・ストーリーあの物語」と呼ばれるようになるんじゃないかという考えが一瞬、ペリーの頭に浮かんだ。


前へ 目次 次へ