メイカーズ 第三部, コリイ・ドクトロウ

第三十五章


レスターは何日もスザンヌの部屋に入り浸ったていた。彼女が借りているのはバラック街の部屋だった……不法占拠者に家賃を払うというのはどこか倒錯した行為だったがレスターとペリーのマンションが緊張状態となっている今、自分の自由になる場所があるのは彼女にとってありがたかった。

彼はディズニーのプリンターを調べるのにかかりっきりだった。彼女はぼんやりと形にならない興味をいだいてそれを見ていた。手元には動作するものが一台、それから分解されたものが何台かあって彼は動作する一台が動く様子をとりつかれたように一日でも二日でも見つめていた。とは言えそれは一チャンネルしかない3Dテレビのようなものでしかない。それも一日に放送されるのは一コマだけだ。

彼女は律儀にそのプリンターのこととライドを再オープンしようとするペリーの悪戦苦闘のことを記事にしていた。彼は破産して飢え死にしてしまうのではないか、そう彼女は思った。レスターと彼はいつだってお金には無頓着だったが新しいロボットを買い揃え、プリンターを用意し、窓を取り替え、屋根を修繕するのにかかる費用はどれも安くはなかった。さらに言えば市場は壊滅状態だったから彼には賃料も入らない。

彼女はレスターの肩越しに覗きこんだ。もう五十回も同じことを繰り返している。「どんな調子?」

「こいつは記事にしないでくれよ。OK?」

今まで彼が彼女にそんなことを言ったことはなかった。

「あなたの作業が終わるまでは記事を差し止めておくわ」

彼がうなった。「まあいいだろう。OK。代替品の樹脂でプリンターを動かしているんだ。これは別に難しくない。同時に自分で作った設計図を読み込ませている。だがそれを実行するには物理的なアクセスが必要だ。新しいファームウェアを読み込ませるためだ。こいつはそう簡単にはいかない。かなりややこしい。やつらはいったん出荷したプリンターのファームウェアについてはアップデートするつもりはないみたいだ……たぶん定期的に製品自体を置き換えていく計画なんだろう」

「なぜそのファームウェアが重要なの?」

「そこにその日の設計図をどこに取りに行くかの情報が保存されているからさ。それにこいつに俺たちの設計図を食わせるには俺たちが用意した材料に同調する簡単な方法を中の小人たちに教える必要がある。そのための一番いい方法がファームウェアの書き換えなんだ。いや本当は他にも方法はあるかもしれない。他のマシンをネットワークの上流につないでプリンターがディズニーのサイトにアクセスしていると思い込ませるとかな。そうすれば本当にこいつは俺たちのものになる。だがそれには別のマシンを用意しなくちゃならない……そんなことをしたいと思うのはごくわずかなハードコアなギークだけだろうな」

スザンヌは頷いた。だがどっちにしろこのプロジェクトの観衆は全員その「ごくわずかなハードコアなギーク」なのではないだろうかと彼女は思ったが口にはしなかった。レスターが眉間に深く皺をよせる。鼻の上のその皺に十セント硬貨を隠せそうなほどだった。

「まあ、あなたならうまくやるでしょう」彼女は言った。

「ああ。問題なのはブートローダーだけだ。ブートローダーさえ攻略すれば後はどうにでもできる」

かろうじてスザンヌはブートローダーが何かは知っていた。電源を入れた時にどのOSを読み込むか選ぶやつだ。全ての斬新で魅惑的なテクノロジーのプロジェクトはちょうど今みたいに気難しいハッカーが怒ったような口調でブートローダーのことをつぶやきながら始まるのだろうかと彼女は想像した。

スザンヌはロシアが恋しかった。バイオ技術の取材をしながら彼女はそこで幸せに暮らしていた。向こうのハッカーはレスターやペリーよりずっと恐ろしかったがそれでも同じように愛嬌があり自分の関心ごとに夢中だった。かつてはお近づきになる必要のあったフォードやGMの役員よりずっとましだった。

ロシアの躁病的な大騒ぎやその華やかさとみすぼらしさを彼女は愛していた。彼女はロシアの片田舎に邸宅を共同購入して週末はそこで過ごしていた。ペテルブルク在住の外国人たちとパーティーや夕食会を開いてはペトログラードでの暮らしをこき下ろして楽しんだものだった。

「私、行くわ。レスター」彼女は言った。DiaBから顔をあげたレスターは何度か目を瞬かせ、それから会話の途中だったことを思い出したようだった。

「おい」彼が言った。「おいおい。すまない。スザンヌ。ただ……最近のことを考えこむ代わりに手を動かしているだけなんだ。考えだすと腹が立ってくるからな。俺にはどうしたらいいかわからないんだ……」口をつむぐと彼はプリンターの側面をひっぱたいた。

「ペリーのライド再建の具合はどう?」

「あいつがやってるよ」レスターは言った。「俺の知るかぎりでは。あのデス・ウェイツって子とその仲間が手伝いに来ているって記事は読んだ。どれだけ役に立っているのかは知らないがな」

「彼と会うのが怖いわ」スザンヌが答える。「なんていうか彼が恐ろしいのよ。彼、病院に行った方がいいように見える。だけどあの人たちはみんな……彼の周りに集まって彼について行っている。理解できないわ。まるでうちの国のカリスマ的なカルトみたい」自分がロシアを「うちの国」と呼んだことに気がついて彼女は顔をしかめた。いったい自分はいつまでここにとどまってここの人たちと一緒に過ごすつもりなのだろう?

レスターは気がつかなかったようだった。「みんなやつに同情しているんじゃないかな。それに彼らはやつの語る物語の話が好きなんだ。俺は最近はライドにはあんまり食指が動かないがね。もうやるべきことは全部終えちまった気がするんだ。次のことに移るべきなんじゃないかと思う」

スザンヌは何も言えず、レスターも特に何か答を期待しているわけではなかった。仕事をさせてくれという空気を明らかに彼が発していたので彼女は部屋……彼女の部屋だ! ……を出てバラック街へと向かった。ライドへ行く途中の道で彼女は小さな喫茶店の前を通り過ぎた。ケトルウェルとティジャンが計画を練っていた場所だ。唐突に彼女は自分がとてもとても歳をとったように感じた。彼女はこの場所にいるただ一人の大人だった。

携帯電話が鳴った時、彼女はちょうど幹線道路を渡ってライドへ向かう所だった。電話にでた彼女はもう少しで電話を落としてしまいそうになった。電話の相手はフレディだったのだ。

「もしもし。スザンヌ」彼が言った。その声に潜む嘲り笑いは間違えようもない。どこかひどく粘着質な話し方なのだ。

「何か御用?」

「記事に書くコメントが欲しくて電話したんだよ」彼が言った。「私の理解では君のところの若者、ペリーが癇癪を起こしてライドの経営マネージャーをくびにしたうえ、ディズニーの相手をしている代理人弁護士どもに訴訟を取りやめると言っているとか」

「それについて何かご質問が?」

「それはもうたくさんありますよ。お嬢さん。まず一つ目ですが私はこれが本当のことなのか疑問に思っているんです。というのもこいつについて君のすてきな『ブログ』になにも書かれていない……」当てこるような強調のかぎかっこが電話越しでもわかった。「……フロリダでの君のお友達の活躍については本当に細かい所まで記事になっているのに」

「なぜ私がコメントしないのかについてのコメントをくれと頼んでるわけ?」

「まず一つ目はそうだね」

「ペリーにはコメントを求めた?」

「申し訳ないが彼は取り付く島もなかった。それに彼に仕える中西部出身の女神は捕まらなくってね。残された道は君に電話することだけだ。スザンヌ。何かコメントは?」

スザンヌはライドの前の道を渡り始めた。ここで彼女は乱闘劇を目撃し、武装した男たちに追い回され、催涙ガスを浴びせかけられたのだ。

「ライドにはちゃんと秩序だった意思決定プロセスはない」彼女はようやく言葉を発した。「つまり『くび』みたいな言葉はここでは無意味なのよ。彼らの間でどうやったら一番いいかについて意見の違いがあったらしい。ただしそれが事実かどうかは彼らに尋ねるべきでしょうね」

「君のボーイフレンドの親友がビジネスパートナーとけんか中かどうかわからないとそう言うわけかい? 一緒に暮らしているんだろう?」

「私が言っているのはもしレスターとペリーが何をやっているのか知りたかったらレスターとペリーに尋ねるべきだということよ」

「でも一緒に暮らしているんだろう?」

「私たちは一緒に暮らしていない」彼女は言った。厳密に言えばそれは正しかった。

「本当に?」フレディが言った。

「電話が遠かったかしら?」

「一緒に住んでいないの?」

「ええ」

「それじゃあ君はどこに住んでるのさ?」

「自分の家よ」彼女は答えた。「情報提供者に騙されたんじゃないの? かわいそうに。フレディ、まだあなたが情報料を支払っていないといいんだけど。おっと、たぶんあなたはそんなことしないわね。悪意に満ちたゴシップを心から楽しむ変人には限りがないわ。そういうやつは喜んで自分がでっちあげたおとぎ話をあなたにメールするのよ」

フレディが舌打ちをした。「それじゃあケトルウェルとティジャンに起きたことも知らないってわけかい?」

「彼らに聞いてみれば?」

「そうしよう」彼が答える。「だけど君は現場にいる一流の報道記者だろう」

「私は単なるブロガーよ。フレディ。忙しいブロガー。それじゃあ、さようなら」

電話を切った彼女は動揺していた。しかし落ち着いた声で会話できたことを彼女は誇らしく思った。なんという忌々しい野次馬根性だろう。そのうえ今度こそこの事について記事にしなければならなくなった。

ライドの端の方にははしごが立てかけられ、寄せ集めの屋根ふき職人やガラス職人の集団がはしごや屋根に群がって嵐が残した大穴を元通りにしようと働いていた。働いてる者のほとんどは黒い服を着て髪を染めている。働く彼らの耳や顔には金属製のアクセサリーが輝いていた。何人かは上半身裸になって背中一面に彫られたタトゥーやピアス、皮膚の下に埋め込まれたインプラントがあらわになっている。まるで背骨や肩甲骨を覆う鎧のようだ。置かれた数台の大型スピーカーからは雑音と不協和音で構成された音楽が電気的な叫び声とともに爆音で流れ出していた。

ライドの周りには市場の露店が戻ってきていた。駐車場に積まれたまだ新しい木材の山を使って再建されたのだ。その作業はとても効率的におこなわれていた。露店商の連中が手早く木材を規定サイズに切断してそれぞれ位置センサーの上に置くと正しい配置になっているかどうかをセンサーのライトが光って教えてくれる。それを確認したらそれぞれの木材を金具でつなぎ合わせるだけだ。この方法で市場の露店が次々に作られていく様子をスザンヌは観察した。五分ごとに露店商たちは次の露店の作業へと移っていった。まるでハイテク版のアーミッシュの小屋作りだった。作業するのはひげを生やした技術嫌いたちではなくバンダナを巻いた怪しげな露店商たちだ。

彼女は室内でペリーを見つけた。プリンターの上に覆いかぶさるようにしてその中身をいじっている。掛けているゴーグルの額にはLEDランプが取りつけられていた。片方の腕しか使えずに困っている彼を見かねて彼女は彼に工具を手渡す手伝いを買って出た。十五分ほどそれを続けているとようやく彼は立ち上がって彼女の方にちゃんと顔を向けた。

「手伝いに来てくれたのか?」

「記事を書くためよ」

部屋の中は活気に満ちていた。さまざまな年齢のさまざまな格好をしたゴスの子供たちと何人かの不法占拠者の子供たち。何人かはデス・ウェイツが再び現れた時に見かけた顔だ。だがその場にデス・ウェイツはいないようだった。

「そう。まあいいさ」彼がプリンターの電源をいれるとあたりにおなじみの電子レンジにいれたサランラップの匂いが満ちた。不意に初めてこの場所を訪れた時のことが彼女の脳裏によみがえった。歪んだウォーホール風のバービー人形の頭をプリントする様子を彼らが見せてくれた時のことだ。「レスターのプリンターのクラッキング作業の調子はどうだ?」

なぜ自分で彼に訊かないの?だが彼女はそれを口には出さなかった。あの浸水事件の後でなぜレスターは家に帰る代わりに彼女の家に来たのか、なぜペリーの名前を口に出すときに態度が固くなって鼻で笑うのか、なぜヒルダのことを話すと目をそらすのか彼女はわからなかった。

「なにかファームウェアをいじっている」

彼は背筋をさらに伸ばして音を鳴らすといたずらっぽい笑顔を彼女に向けておかしな形の眉を上下に動かしてみせた。「いつだって大事なのはファームウェアだ」言うと彼は少し笑い声を上げた。たぶん二人とも昔のことを思い出しているのだろう。あのブギウギエルモのことだ。

「手伝いが大勢いるようね」スザンヌがメモ帳とペンを取り出しながら言った。

ペリーがその言葉に頷く。何度こうして二人で並んで立ったままメモ帳にペンを走らせたことだろうと彼女は不意に思った。彼女はこの男の人生の多くを書き留めてきたのだ。

「みんないいやつだ。大工仕事や電子工作の経験があるやつもいるし、そうじゃないやつも学びたいと思っているやつばかりだ。思っていたよりも早いペースで作業が進んでいる。他にも世界中から支援が集まっているんだ……みんなが部品を交換するための現金を送ってくれている」

「ケトルウェルやティジャンから何か連絡は?」

彼の顔に影が落ちた。「いいや」彼はそう答えた。

「弁護士たちからはどう?」

「ノーコメント」彼が言った。冗談を言っているようには聞こえなかった。

「お願い。ペリー。みんなが質問を始めている。この件については誰かが記事を書くわ。あなたの味方に書いて欲しいとは思わないの?」

「思わないね」そう言うと彼は背中を向けてプリンターの中身をいじる作業へと戻った。

彼女はずいぶん長いこと彼の背中を見つめていたがやがてきびすを返すと「まったく」とつぶやきながら太陽の光の中へと歩み出ていった。ライドの中はかび臭かったが外はフロリダの匂いがした。柑橘類とガソリンと周りにいる人々の汗の匂いだ。仕事に精を出し、世界から生活の糧を得ようとしている人々だ。

バラック街に向かって幹線道路を渡っているところで彼女は反対の方向から走ってくるヒルダに出くわした。この若い女性は彼女を冷たく一瞥すると顔を背け、二人はすれ違った。

うんざりだわとスザンヌは思った。あの子供たちと遊ぶのはもう十分。誰か大人に会いにいく時期だった。ここにいるのは健康に悪い。レスターに彼女と一緒に来る気があろうがなかろうが、ペリーが彼女にうんざりしていようがしていまいが、どこか別の場所にいく時期なのだ。

彼女は自分の部屋へと戻った。そこではまだレスターがDiaBをいじっていた。スーツケースを取り出すと彼女は荷造りを始めた。長年の経験でたいして手間はかからない。レスターは気がついていなかった。手洗いして彼が座るいすに干していたブラウスを彼女が手に取ってたたみ、スーツケースにしまってそのふたを閉めても彼は気がつかなかった。

作業台に向かって作業している彼の背中を彼女は長い間ながめた。彼のかたわらにはチョコレートプディングのパックが六つ、それに食べ物の包み紙があふれ出ているくずかごが置かれている。いすのうえで姿勢を変えた彼が小さな音でおならをした。

彼女は立ち去った。女主人には週末までの家賃を先払いしている。レスターには後でメールを送ればいいだろう。

タクシーに乗って彼女はマイアミに向かった。空港に到着して初めて彼女は自分がどこに向かうか決めていなかったことに気がついた。ボストン? サンフランシスコ? ペテルブルグ? ラップトップを開くと彼女は次の便のチケットの値段を調べ始めた。旅行者の集団が彼女の周りを通り過ぎ、彼女は何度も押しのけられた。

格安航空券サイトにはたくさんの選択肢が載っていた……マイアミからジョン・F・ケネディ国際空港そしてロンドン・ヒースロー空港からペテルブルグへ、あるいはマイアミからフランクフルト国際空港そしてモスクワからペテルブルグへ、またはマイアミからダラスそしてサンフランシスコ……。組み合わせは大量にあった。彼女自身がどこに行きたいのかはっきり決めていなのだから無理もない。

そのうち彼女の耳になつかしい聞き慣れた話し声が聞こえてきた。ロシア人観光客の大きなグループが彼女のかたわらを通り過ぎていく。長時間のフライト、まずい食事、自分たちの選んだ旅行業者がいかに無能かをロシア語の大きな声でしゃべっている。きっちりとウェストのあたりまでズボンを引き上げて履いた年配の男性たちやふわふわとした髪型の年配の女性たちを見て彼女はほほえみを浮かべた。

彼女は思わず聞き耳をたてた……とは言え彼らの声の大きさでは嫌でも話の内容は聞こえる。TSA国土安全保障省の警備員が咎めるようににらみつける中、小さな少年と少女が空港の中を駆けまわっていた。二人は叫び声を上げながら走っていた。「ディズニーワールド! ディズニーワールド! ディズニーワールド!」

彼女はそこには行ったことがなかった……ロシアにある悪趣味な強制収容所跡地のテーマパークはいくつか行ったことがある。子供の頃はよくシックス・フラッグスのジェットコースターに乗ったものだし、トロントのオンタリオ・プレイスやカナディアン・ナショナル・エキシビジョンにも行ったことはある。デトロイトからそう遠くはない場所だ。だがもっとも有名な場所には行っていなかった。今なお世界中のテーマパーク業界を支配しようとしているあの場所には。

格安航空券チケットの代わりに彼女はディズニーホテルの部屋を検索し、入園料と食事代こみでいくらになるかを調べた。フロリダの幹線道路脇の売店には百ヤードごとにその広告が掲げられている。広告効果は疑問なものだと彼女は常々それを見て思っていた。

ブラウザに検索結果が表示された瞬間、彼女は自分の間違いを悟った。ディズニーで一週間過ごすには心臓が止まるかと思うほどの費用がかかった……ペテルブルグでの家賃六ヶ月分とほとんど変わらない。あのロシア人たちはどうやってこの旅行の費用を賄っているのだろう? なんだってこんなとんでもない額の金を人々は払う気になるのだろう?

その答えをぜひとも探しに行かなければと彼女は思った。これは調査だ。それに彼女は休暇を必要としていた。

彼女は予約を取り、特急列車のチケットを買うとスーツケースの取っ手をつかんだ。列車を待つ間、彼女は案内パンフレットの内容を調べた。彼女が宿をとったのはポリネシアンリゾートという名のホテルでパンフレットには人工の白い砂浜に建つ安っぽい建材のポリネシア風ロングハウスとメキシコ系やキューバ系の従業員の写真が載っていた。従業員は首にレイをかけ、ハワイアンシャツを着てポリネシア風の巻きスカートをなびかせながらほほえんでいる。パックには無料のハワイ式パーティーも含まれていた……その様子を写した写真は彼女がマウイで参加した観光客向けのハワイ式パーティーとは似ても似つかなかった。パックではやりすぎなほど飾り立てられた衣装を着た低賃金労働が呼び物の「キャラクター朝食会」に参加することもできたし、「リゾートカウンセラー」との一時間の面談もあった。楽しさを最大限引き出すために旅行計画の助言をしてくれるというわけだ。

特急列車が到着し、期待に胸を弾ませる家族連れや乗客が乗り込んでいく。あらゆる種類の言語でふざけあったり笑いあったりする声が聞こえた。この人たちはアメリカの税関検査を通り抜けてやって来たのだ。彼らの様子はまるでこの世界はなんとすばらしい場所だろうとでも言っているかのようだった。ディズニーのビジネスには何かがあるに違いない。彼女は確信した。


©2014 Cory Doctorow, H.Tsubota. クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示-非営利-継承 3.0