メイカーズ コリイ・ドクトロウ 第三部

第四十三章


ディズニーワールドの案内をするのはデートやドライブのためのプレイリストを作るのに似ている。これまでにも何度か口説き落とそうとしている相手(ほとんどは彼が親密になりたい女性だった)にサミーは同じことをしてきた。そして繰り返す度にそのテクニックは洗練されていっていた。

まず彼は彼女をカルーセル・オブ・プログレスへ連れて行った。パーク内で最古にして不可侵のライドで、一九六四年の万国博覧会でウォルト自身がゼネラル・エレクトリック社のために作り上げたもののレプリカだった。長年にわたって改装の試みが続けられてきたが、結局は全てを剥ぎとって栄光の六十年代中盤の姿に復元されていた。

ライドは回転式の舞台になっていてそこでロボットが歌い踊りながら石炭ストーブの最期から宇宙時代の夜明けまでのアメリカの世紀を語っていくのだ。能天気な耳に残る歌や垢抜けないジョークが繰り広げられ、彼はアトラクションの解説や不注意なキャストメンバーがこの回転式舞台のコンベアに巻き込まれて死んだ時に責任を問われたことを面白おかしく話した。アメリカ企業の陽気で能天気な様子とろくに読み書きもできない最低賃金で働く労働者が日々世界中の富裕層の子供たちを改造された脱穀機に放り込んで過ごすパーク運営の恐ろしい現実を並べて見せるのだ……実に楽しい行為だ。

席に座った瞬間からスザンヌの身ぶりは彼に全てを物語っていた。彼女は腕を組み、その唇には隠しきれない冷笑があった。ライトがGEのロゴを照らし出す。最後に見た時よりも時代錯誤な感じが増したようだった。今ではゼネラル・エレクトリック社はニューヨーク証券取引所から追い出されている。スポンサーの立場から引きずり降ろされるのも時間の問題だ。だが今のところはそのロゴもライドがタイムマシンの一部であるように見せる助けになっている。企業の更新世、巨大恐竜の鳴き声が草原に轟いていた時代へのタイムスリップだ。

舞台が回転し、最初のロボットの一団が現れると歌ったり皮肉の効いた口上を述べたりした。彼女の眉が持ち上がって困惑したように彼女の頭が振られた。二番目、三番目のロボットの群れが姿を現す……場面はあのすばらしい四十年代で、アンドリュー・シスターズが歌う場面を映し出すテレビをおじいちゃんロボットとおばあちゃんロボットが目をまん丸くして見ていた。シスターズは電動式のダイエットベルトで体を震わせている。ジョークはどんどん激しいものになり、耳触りのいい歌のフレーズ……「偉大で美しいすばらしい明日が待っている、一日が終わるたびに輝きながらぁぁぁぁぁ!」……が次第に音量を増しながら繰り返された。

「まるでアメリカ製ロボットで演じられる意志の勝利ね」彼女がささやき、彼は笑い声を上げた。シアターにいるのは彼ら二人だけだった。このライドは満員になったためしがない。別のライドと置き換えるべきだという意見には彼も賛成だった。しかし制度上、ディズニーパークスは自身の意思でこのライドを閉鎖することはできないのだ。理由はいくつかあった……熱狂的なファン、歴史的な重要性、他の優先事項……しかし結局のところその理由はこのロボット一家の頭に斧を振り下ろそうとする者が誰もいないということに尽きた。

舞台上では最後の場面が演じられていた。一家は音声認識レンジがめちゃくちゃな動きをしているハイテク完備のキッチンで未来的なクリスマスを楽しんでいた。舞台の上に全てのロボットが姿を表して観客に一緒に歌い、手拍子をするように促す。サミーはそれに従って手拍子を打ち、あまりの馬鹿馬鹿しさに笑いながら少し遅れてスザンヌもそれに加わった。明かりがつき、退屈しきった……だがそれをおくびにも出さない……キャストメンバーが二人をライドの外に誘導した。頭の中で歌を反芻しながらサミーはうきうきとした足取りで歩いていった。

ひどいものね!」スザンヌが言った。

「すばらしいでしょう?」

「やれやれだわ。ずっと耳からあの歌が離れないんじゃないかしら」二人はトゥモローランドのきらめく光の中を歩いていった。

「見てください……スペースマウンテンなら並ばずに乗れる」サミーが指さしながら言った。

そこで二人はスペースマウンテンに乗った……二回も。それから打ち上げ花火を眺め、その後でサミーはメンテナンス用のボートでトム・ソーヤー・アイランドへ彼女を連れて行った。二人はツリーハウスの中に座って人々が群れになって踊ったり駆けまわったり笑い声を上げたりおしゃべりに花を咲かせているパークを眺めた。

「あのかさかさ言う音が聞こえますか?」

「ええ。何です? うさぎか何か?」

「巨大なねずみです」サミーが暗闇の中でにやりと笑った。「巨大な野生のねずみです」

「まさか。冗談でしょう」

「神にかけて誓います。ときどき湖の排水をするんですがその時にこの島に移り住んだんです。外敵はいない。フライドポテトがたくさん落ちている……ここはねずみの楽園なんですよ。まるで猫みたいにでかくなっている。態度もでかい。ここで一人夜を過ごしたがる者はいません」

「わたしたちはどうなんです」

「わたしたちは一人じゃない」

かさかさという音は次第に大きくなり二人は息を潜めた。まるでアライグマのようなねずみがふてぶてしく二人が見下ろす目の前の道を横切った。さらに二匹がその後に続く。スザンヌは身震いし、サミーもそれにならった。ねずみは巨大で残忍そうな恐ろしげな姿をしていた。

「行きませんか?」

もちろん」彼女は答えた。彼女はハンドバッグの中を探ると点滅する小さなハイビームの懐中電灯を取り出した。まさか営業時間外のこの島で懐中電灯を使うことになるとは思いもよらなかった。パークの他のアトラクションはまだ営業中だ。だがサミーはそのライトをありがたがった。

島から戻ると二人はビッグサウンダーマウンテンに乗り、その後で真新しい改装中のファンタジーランドをぶらついた。ゾンビ迷路がまだ開いていて二人はうめき声とよろめき歩くアニマトロニクス、そしてくすくすと笑いながら垣根を突っ切って走り回る子供たちに囲まれながら迷路の中をさまよい歩いた。

迷路の中で何かが起きたようだった。迷路へ入って出るまでの間に二人の間にあったよそよそしさが消えたのだ。パークとハッカーバーグのことを話す代わりに二人はどうやって迷路を抜け出すかや次にどちらにゾンビが現れるか、それに今まで見た中で一番良かったゾンビ映画やハロウィンの思い出を語り合った。出口が近づいてくると二人は次にどのライドに乗るが一番いいのかについて作戦を練り始めた。スザンヌは既にパークに到着した日にホーンテッドマンションに二回行っていたが……。

「行きましょう。定番コースです」サミーは言った。「ホーンテッドマンションを嫌いな人なんていません。ちょうどみんながミッキーのファンになるのと同じです。グーフィーのファンになるのとはわけが違う」

「あなたはグーフィーファンかと思っていたけど?」

「そうですよ。それにジャングルクルーズが大好きです」

「冗談はそれだけ?」

「私たちはあなたが来てくれるのを待ち焦がれていたんです……つまらない冗談も言いますよ」

二人は話しに出たライドの両方に乗った。パークは店じまいを始め二人の周りでは堰を切ったように人々がライドから流れだしていた。行列はどこにもなかった。絶叫マシンの前にも、ダンボの前にも、ゾンビ世界の上空を飛ぶ超暴力的な遊覧飛行(かつてはピーターパンズ・フライトだったが改装されてから長い間、人気を集めている)の前にも。

「おわかりでしょうがこの歳になると純粋にパークを楽しむことができなくなります」かぶった大きなスポンジ製のグーフィーの帽子が彼の頭の上で踊り跳ね、近くにいる別のグーフィーの帽子とパ・ド・ドゥを踊ろうとする。帽子からはときどき含み笑いと歌のフレーズが流れ出していた。

「口を閉じて」スザンヌは言った。「魔法を語ってはだめ。魔法を生きるのよ」

二人はパークを後にすると残っていた他の客と一緒にメインストリートに沿って歩いていった。鉄道の駅の下にかかるアーチをくぐり抜けながら彼が肩越しに振り向いた。見ると夜間スタッフが人気のないメインストリートを動きまわって通りにホースで水をまいたり、掃き掃除をしたり、ブラシで擦ったりしていた。見ているうちに作業用ライトが点灯して全てのものが真昼のような照明に照らしだされた。照明の下ではワンダーランドの魔法がいくぶんか解け、まるで人工的な映画セットのように見えた。まがい物だ。

早朝に目にするものと同じだ。彼は疲れきっていた。そしてハッカーバーグは訴訟を始めようとしている。

「サミー。あなたはわたしにどうして欲しいの。ハッカーバーグを脅迫しろと?」

「わからない……そうですね。こういうのはどうでしょう? 彼に電話してこう言うんです。『あなたが訴訟をしようとしていると聞きました。しかしあなたのこの悪事の数々を前にするとそれは言行不一致というものでは……』」

「誰かを脅迫するつもりはないわ」

「いいでしょう。それではご友人たちにそう言ってください。弁護士に電話すればいい。うまくいくかもしれません」

「サミー。私たちはこの訴訟で本質的な点を争わなくてはいけないと思うの。盗み聞きした情報に基づいて争うべきじゃない。あなたが犯してくれたリスクには感謝している……」

「私たちはレスターが書いたコードをDiaBで拝借しています」彼は思わず口走った。自分がそんなことを口にするとは自分でも信じられなかった。「その時にはわからなかったんです。ネット上にライブラリーがあって私たちのスタッフは急いでいた。彼らはビルドにそいつを組み込んでそのままにしたんです……二回目の出荷の時には自分たちで書き直しました。しかし私たちが出荷した百万台のユニットではレスターが体積イメージング用に書いたライブラリーが走っているんです。ライブラリーはある異常なほど感染性の高いオープンソースライセンスを採用していてそれに従えば私たちは全ての修正点を公表しなければならない。しかし私たちはそうしていない」

スザンヌがのけぞって笑い声を上げた。長い大きな笑い声だった。気がつくとサミーも彼女と一緒になって笑っていた。

「OK」彼女が言った。「OK。それはいい情報だわ。レスターに教えておく。たぶん彼はそれを利用したがるでしょうね。それに対して訴えを起こしたいと思うはずだわ」

サミーは彼女が自分の名前を隠したままにしてくれるか知りたかったがそれを尋ねることはできなかった。この情報が公にされたらできるだけはやくハッカーバーグに知らせ、沈黙を守るよう合意を取りつけることにしよう。イマジニアの責任者とは緊密な話し合いをすでにしていた。イマジニアの責任者は内心の好奇心を認めながらサミーに呆れ返っていた。ビールを飲み交わしながらのその話し合いは人目につかないよくあるものだった。陪審員の誰ひとりとして気がつくことはないだろうことに彼は確信があった。

スザンヌが突然、力強く心のこもった抱擁を彼に与え彼を驚かせた。「あなたは世界で一番の悪人ってわけじゃない。サミー・ペイジ」彼女が言った。「あなたのパークを案内してくれてありがとう」


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