ケンジントン公園のピーターパン ジェームス・マシュー・バリー

小さな家


だれもがケンジントン公園の小さな家のことを聞いたことがあるでしょう。小さな家は世界でたった一つの、妖精が人間のために作った家です。でもほんの3、4人しかそれを見た人はいません。でもその3、4人は見ただけでなく、その中で寝泊りさえしました。でも寝泊りしないかぎり、見ることもできません。なぜなら小さな家は寝ているときは見えなくて、起き出して外にでると見えるものだからです。

あなたがたは、まちまちの方法で小さな家を見るでしょうが、見えたものは本当の小さな家ではなくて、窓の明かりだけということもあります。門が閉まった後は、その家の窓の明かりが見えるのです。例えば、デビットはパントマイムを見た帰り道で、木々の間から遠くに見える明かりをはっきり目にしました。そしてオリバー・ベイリーは、テンプルと言う名前の父親の事務所に遅くまでいた晩にその明かりを見ています。アンジェラ・クレアは、店でお茶をご馳走になると、ついでに歯の一本もよろこんで抜いてもらうといった女性でしたが、一つより多くの明かりを、何百もの明かりを一度に目にしました。それは、妖精たちが家を建てていたところだったのでしょう。妖精たちは毎晩家を建てるのですが、いつも公園の違う場所に建てるのです。アンジェラには明かりの一つが、はっきりというわけではありませんが、他のものより明るい感じがしました。まあ明かりは飛びはねたりもしていましたし、大きかったのは何か別のものだったのかもしれません。いいえ、もしその明かりが別のものでなければ、ピーターパンの明かりでしょう。多くの子供たちがピーターが飛ぶところを見ていますから、それほど珍しいことでもありません。でもマイミー・マナリングは、初めて家を建ててもらったことで有名でした。

マイミーは、常日頃から変わったところのある女の子でした。4才で、昼間はいたって普通ですが、夜になると変わるのです。6才で素敵なお兄ちゃんのトニーがかまってくれると、マイミーはうれしがりましたし、お兄ちゃんをとても慕っていました。お兄ちゃんの真似をしようとしますができなくて、お兄ちゃんにぐいっと押されてもいやがるどころかうれしがる始末でした。ボールを打つ時なんかも、ボールがまだ宙にあるというのに、新しい靴をはいてるのといって一休みしてしまいます。昼間は、本当に普通の女の子なんです。

でも夜のとばりがおりると、いばっていたトニーがマイミーを馬鹿にするどころか恐いものでも見るような目でみつめます。不思議でも何でもありません。暗くなるとマイミーの顔にはずるがしこいとしかいいようのない表情が浮かぶのでした。その顔は、トニーの不安そうな表情と正反対の落ち着き払った表情でした。そしてトニーは自分の一番好きなおもちゃをマイミーに差し出して、マイミーときたら人を不安にさせる笑みを浮かべてそれを受け取りました。ただ翌朝になると、トニーがおもちゃを取り返すのです。トニーがどうしておもちゃを差し出すのか、マイミーがどうしてこんなにミステリアスなのか、簡単に言えば、まさにベッドに行くところだからです。ベッドでのマイミーといったら、それは恐いものです。トニーは今晩はそうしないでねと頼み込み、お母さんや黒人の乳母も脅すように言ってきかせるのでしたが、マイミーは人を不安にさせるような笑みを浮かべるだけでした。そして2人きりになり、だんだんナイトライトがついているだけの頃になると、マイミーがベッドの中で「あら、あれはなに?」と叫び出すのでした。「なんでもないよ、マイミー、だめだよ!」トニーはマイミーにお願いするように声をかけ、頭からシーツをかぶりました。「近づいてくるわ!」マイミーは叫びます。「見て! 隅でお兄ちゃんのベッドを探ってるわ、つつこうとしてる、お兄ちゃん!」トニーが下着のまま叫びながら一階へ駆けだして行くまで、マイミーは話しつづけました。マイミーに罰をあたえるため、みんなで上がってくると、いつもマイミーが静かなねいきをたてて寝ている姿をみるのでした。ねているふりをしているわけではありません。そうです、本当に寝ています。愛らしい小さな天使のような寝顔で、それだけにいっそう薄気味わるく思えるのでした。

ただもちろん公園に行くのは昼間でしたから、その時はトニーのおしゃべりばかりです。おしゃべりの内容からも、トニーがとても勇敢な男の子だということはうかがえます。そしてマイミーほどそれを誇りに思っている子もいなかったでしょう。マイミーは、自分がトニーの妹だと誇りをもってふれまわりたいくらいでした。トニーがマイミーにこう断言してくれるときほど、トニーを尊敬したことはありません。トニーはいつか閉門時間の後まで公園にいるんだと言ったのでした。

「でも、お兄ちゃん」マイミーは、尊敬の念を隠すこともなく口にだしたものです。「妖精たちは、それは怒るでしょうねぇ!」

「かまわないさ」トニーは大したことじゃないよといった風に答えました。

「たぶん」マイミーはどきどきしながらつづけました。「ピーターパンが、お兄ちゃんをボートに乗せてくれるかもね」

「僕がピーターにそうさせるんだ」トニーは答えました。このときほどマイミーがトニーを誇りに思ったことはありません。

でも2人は、そんなに大きな声で話をするべきではありませんでした。ある日ひとりの妖精が、2人が話していることを耳にしました。妖精は、サマーカーテンを作るために筋だらけの葉っぱを集めていました。そしてそれ以降、トニーは要注意人物となったのです。トニーが柵にもたれかかろうとすると、妖精たちが前もってがたがたにしておいたので、頭からうしろに落ちてしまいます。その他にも、靴ひもをつかんでつまづかせたり、あひるにトニーのボートを沈めさせたりしました。あなたが公園ででくわすほとんど全てのいやな出来事は、妖精たちがあなたに悪意をもってるがために起きることです。だから妖精のことを口にするときは、よっぽど注意しなければいけません。

マイミーはその日のことはその日にすませるのがすきなたちでしたが、トニーはそうではありません。マイミーがトニーに「いつ公園に残るの?」と聞いたときも、トニーはただ「その日がきたらね」と答えるだけでした。いつやるのという質問に対するトニーの答えはいつでもあいまいでしたが、「今日やるの」とマイミーが尋ねた時は、はっきりと「今日じゃないね」と答えるのでした。だからマイミーはお兄ちゃんは本当にいいチャンスを待っているんだわと思っていたのでした。

こうして、公園がまっしろな雪で覆われたある午後のお話をしましょう。丸い池には氷がはりました。スケートができるほどは厚くはありませんが、いずれにせよ子供たちが石を投げ込んで次の日にも滑れなくしてしまうのでした。多くの元気で小さな男の子や女の子が、石を投げ込みました。

公園につくとトニーと妹はすぐに池に向かおうとしましたが、乳母が最初はきちんと歩かなくてはというのです。乳母はそう言ったあと、その夜は何時に公園が閉まるか時間の表示をみると、5時半でした。かわいそうな乳母! 彼女は世界中にこんなにたくさんの白人の子供がいるなんて笑い転げるくらいでしたが、その日ばかりは笑ってもいられないことになるのです。

そして、みんなは赤ん坊の道を行って、戻って来ました。時間の表示のところまで戻ってくると、乳母は公園が閉まる時間が5時になっていてびっくりしました。でも妖精たちのいたずらには詳しくなかったので、妖精たちが舞踏会があるからといって時間を書き換えたことには気づきません。マイミーとトニーはすぐにそう気づきました。乳母は、もう丘の上まで上がってる時間しかありませんよ、と言いました。ただ2人が乳母といっしょに急いでいるとき、2人が小さな胸でどれほどスリルを感じているか乳母には全然思いもよりませんでした。あなたがたも思うとおり、妖精の舞踏会をみるチャンスがやってきたのです。トニーもそう思いましたが、これほどいいチャンスはないでしょう。

トニーはそう思うべきだったのです。というのも、マイミーも明らかにトニーの代わりにそう思っていたぐらいですから。マイミーの目はこう訴えかけているようでした。「今日でしょ?」トニーは息をのみ、うなずきました。マイミーはトニーの手に自分の手を滑り込ませると、マイミーの手はとても暖たかでしたが、トニーの手は冷え切っていました。マイミーはとてもやさしくしました。スカーフをとると、お兄ちゃんに渡したのでした! 「寒くなったらね」マイミーはささやきました。マイミーの顔は赤らんでいましたが、トニーの顔ときたらまっさおでした。

3人が丘の上までやってきたとき、トニーはマイミーに耳打ちしました。「ばあやに見つかっちゃうと、なんにもできないや」

マイミーは、これからまだ未知の恐ろしいことが起きるかもしれないのに、乳母のことしか恐れていないなんて、いよいよお兄ちゃんを尊敬し、大きな声でこういいました。「お兄ちゃん、門までかけっこしよう」そして小さな声で「それで、かくれればいいわ」と。2人は駆け出しました。

トニーは、いつも簡単にマイミーをはるかに引き離すことができました。今ほどの勢いでかけていくお兄ちゃんを見たことはありません。マイミーは、隠れる時間をかせぐために急いでいるに違いないと思っていました。「勇敢だわ、勇敢!」マイミーの信じきっているひとみは、そう訴えかけていました。とその時マイミーは大ショックをうけました。かくれるどころか、尊敬すべきお兄ちゃんは門の外へと駆け出して行ってしまったのです! このつらい光景を目にして、マイミーはぽかんと立ちつくしました。まるでエプロンいっぱいのすばらしい宝物を、突然あたり一面に撒き散らしてしまったみたいにです。そしてあまりに軽蔑しきったので、泣くことすらできませんでした。あまりに臆病なお兄ちゃんへの反感でいっぱいになって、マイミーは聖ガーバーの井戸へ駆け出して行き、トニーの代わりにそこに隠れました。

乳母が門のところまでやってきたとき、トニーははるか前に行っており、乳母はもう一人、マイミーもいっしょに行って姿が見えなくなったのだと思いました。たそがれどきになり、みんな公園から出て行きます。最後の一人は、いつも駆け足で出て行かなければなりません。マイミーは目をぎゅっと閉じて、思いがけず涙がでて目を開けることができませんでした。目を開けたとき、なにかとても冷たいものが手と足をすーっと登ってきて、心臓のところに落ちてきました。それは公園の静けさでした。それからカランという音を聞き、他からもカラン、別でカラン、遠くでカラン、門の閉まる音でした。

すぐに最後のカランという音も聞こえなくなり、マイミーははっきりとこう言っている声をききました。「万事問題なし」木がしゃべっているような音で、上から聞こえてきました。そこで見上げてみると、すぐに楡の木が両腕を伸ばして、あくびをしているのが目に入りました。

マイミーは思わず「木がしゃべるなんて!」と声にだすところでした。ただ金属からでるtような声が井戸のところのひしゃくから聞こえてきて、楡の木に意見しました。「そこはちょっと寒くないかい?」そして楡の木は答えました。「そうでもないよ、ところで君はそんなに長い間一本足で立っていて、しびれてくるだろう」そして楡の木は、ちょうど御者が動き出す前にするように力強く手を振り回しました。マイミーは多くの背の高い木が、楡の木とおなじような動作をするのをみて本当にびっくりしました。そしてこっそりと赤ん坊の道まで出ていくと、注意を払いながらミノルカのヒイラギの木の下に身をかくしました。ヒイラギの木は両肩をひょいとすくめましたが、マイミーには気づかないようでした。

マイミーはすこしも寒くはありません。あずき色の子供用オーバーを着ていましたし、頭にはフードもかぶっていました。そして外から見ると、かわいい小さな顔と巻き毛以外はなにも見えません。その他の部分はあたたかな洋服にすっぽりつつまれていて、姿はまるまるとしたボールのようでした。まるでウエストのサイズが40もあるみたいです。

赤ん坊の道には、いろいろなものが行き来しました。マイミーが着いた時は、マグノリア(もくれん)とペルシアライラックが柵を越えて、さっそうと歩いて行くところでした。たしかに彼らはてきぱきと動いていましたが、それは松葉杖を使っていたからです。ニワトコは道をびっこを引きながら横切り、年若そうなカリンと立ち話をしていました。みんな松葉杖をついていて、松葉杖とは若い枝や下のほうの枝に結び付けられたステッキのことです。松葉杖はマイミーにとって、よく目にするものでしたが、今夜までどんな風に使うものか知りませんでした。

マイミーは道をこっそりのぞいて、初めて妖精をみました。その妖精は男の子の浮浪児で道をかけまわっては、垂れ下がった枝を閉じているのでした。そのやり方はこうです。妖精が木の幹に飛びかかると、木は傘みたいに枝を閉じ、木の下の小さな草木の上に雪をどさりと落とすのです。「わんぱく坊や、まったくわんぱくなんだから!」マイミーは腹をたてて叫びました。マイミーも、耳元のところに雨がしたたる傘をもってこられることがどういうことかは知ってましたから。

運がよいことに、いたずらな妖精はマイミーの声が聞こえなかったみたいです。ただ菊の花が、マイミーの声を聞いていました。菊の花は辛らつに「いやはや、どういうことだい?」と言い放ち、マイミーは出て来ざるをえませんでした。そして植物界は、どうしようかすっかり困ってしまいました。

「もちろん、私たちには関係ないですから」マユミの木は、みんなと何やらささやきあってからそう言いました。「でもここにいちゃいけないって知ってるでしょうに、私たちとしてはあなたのこと、妖精たちに言わなきゃならないわ。自分ではどう思ってるの?」

「妖精たちには言わないで」マイミーがそう答えたので、みんなは困ってしまって、怒りっぽい口調でマイミーのことなんかあれこれ言いたくもないと言いました。「もし自分で悪いことだと思ってたら、頼まないわ」マイミーはみんなに断言しました。もちろんこう言われては、告げ口できません。みんなは口々にこういいました「なんてことのなの」とか「人生なんてそんなもの!」とか。木たちの口ぶりときたら、まったく嫌みになるときがあるのです。でもマイミーは、松葉杖をもっていない木たちのことをかわいそうに思ったので、いい子の発言をしました。「妖精たちの舞踏会に行く前に、一人ずつ散歩に連れていってあげる。私にもたれかかればいいわ」

これを聞いて、みんな拍手喝さいです。マイミーは、みんなを赤ん坊の道まで連れていき戻ってきました。一度に一人ずつ。とてもよろよろしている木は腕や指でささえてやり、足元がおぼつかない木にはまっすぐ歩けるようにしました。外国の木が何を言ってるのかさっぱりマイミーは分かりませんでしたけど、英国の木と同じくらい礼儀正しく接しました。

木たちもみんなだいたい礼儀正しかったですが、なかにはナンシーやグレースやドロシーを連れて行ったところまで私をつれて行ってくれないの、とめそめそ泣くものもいました。またマイミーにぎざぎざをつけるものもいました。ただわざとではありませんし、マイミーは礼儀正しい女の子でしたので叫び声はあげませんでした。マイミーはあんまり歩いたので疲れましたし、舞踏会に遅れるのではと心配になりました。でも、もう恐い気持ちは全然ありません。恐くなくなったのは、夜の時間になったからでもあります。暗くなると、そうです、マイミーはかなり変わった女の子になりますから。

木たちはマイミーを行かせたがりません。それで「妖精たちがあなたを見たら、いたずらするよ。つついたり子供の面倒をみさせたり、なにか退屈なもの、一年中緑のかしの木なんかにかえてしまうかもしれないよ」と注意しました。こういいながら、木たちは悪いなぁと思いながらかしの木を見ました。実は、一年中緑のかしの木をねたましく思っていたのです。「ふーん!」かしの木は辛らつに言い返しました。「ここに首までボタンをしめて立っていて、君らがはだかでぶるぶる震えてるのを見るのはどんなに楽しいことか」

自分たちで言い出したくせに、こう言われると他の木たちは、すっかりすねてしまいました。そしてマイミーにもし舞踏会に行くとだだをこねると、どんな危険がまちうけているかさも憂鬱そうに説明するのでした。

マイミーは、すでにムラサキハシバミから宮殿はいつものような平穏な様子ではないということを聞いていました。それは、クリスマスひなぎく公爵のじりじりさせる心のせいなのです。クリスマスひなぎく公爵は東洋の妖精で、ひどい病気にかかっており、つまり愛することができないためにとても不幸でした。いろいろな土地でさまざまな女の人を愛そうとしたのですが、誰も愛することができませんでした。ケンジントン公園を治めていたマブ女王は、自分の娘たちなら公爵をうっとりさせることができるだろうと自信をもっていました。ただ医者がいうには、公爵の心は凍ったままなのでした。このかなりいらいらさせる医者は、公爵のかかりつけの医者で、女性が公爵の面前に現われるとすぐに公爵の心に手をあてて、はげあがった頭をいつも左右にふると、「冷たい、きわめて冷たいですな」とつぶやきました。もちろんマブ女王は面目をつぶされたと感じて、最初は、9分間の間、宮殿を涙であふれさせることを試してみました。それからキューピッドを責め、公爵の凍りついた心をとかすまで道化者の帽子をかぶるよう命令しました。

「なんとしても、道化者の帽子をかぶったキューピッドをみたいわ」とマイミーはさけぶと、向こう見ずにもキューピッドを探しにかけだしました。キューピッドというものは、笑われるのが大嫌いなのですが。

妖精たちの舞踏会が開かれている場所を探し出すのは、いつも簡単なことです。というのも舞踏会の場所と公園の人通りがはげしい場所との間にはリボンがはりわたされていて、招待された人たちは舞踏用の靴が濡れないように、ダンスするところまでその上を歩いて行けましたから。今夜のリボンは赤で、雪の上でひときわ映えました。

マイミーは、誰にも出会うことなくしばらくリボンの一つにそって歩いて行きました。しかしついにマイミーは妖精の大パレードが近づいてくるのを目にしました。びっくりしたことに、パレードは舞踏会から引き返してくるようでした。マイミーは膝を折り両腕をのばし、公園の椅子のようなふりをしてぎりぎりパレードから姿を隠しました。前に6人、後ろに6人が馬に乗っていて、真ん中に2人の小姓に服の長いすそをもたせている上品な女性が歩いていました。まるで長いすに腰かけているようで、一人の愛らしい少女がもたれかかっており、これが上流階級の妖精たちが旅をするやり方でした。女性は金色のドレスに身をつつんでいましたが、なんといってももっとも羨望の的なのは首でした。色が青くビロードの手触りで、白いのどではそれほど映えないぐらい、ダイアモンドのネックレスをいっそう引き立たせていました。生まれが高貴な妖精たちは、このみとれる効果を上げるために、肌に針をさすのです。針をさすと、青い血が出てきて肌が青く染まるのです。そしてあなたが宝石商のショーウィンドウで女性の上半身でも見たことがない限り、それほど目がくらむものを想像することさえできないでしょう。

マイミーは、大パレードが怒っているようにも見えることにも気づきました。妖精ができうるかぎり鼻をつんと上に向けていたのです。マイミーはまたあの医者に「冷たい、きわめて冷たいですな」と言われたにちがいないと思いました。

さて、マイミーはリボンをたどって、水のかれた水たまりにかかっている橋のようになっている所までやってきました。そこでは、ある妖精が水たまりにはまりこみ這い上がれなくなっていました。初めこの小さな少女はマイミーを恐がっていましたが、マイミーがやさしく彼女を助け出したので、すぐにマイミーの腕の中で楽しそうに話し出しました。自分の名前はブローニーで、今はしがない街の歌い手だけど、舞踏会に行って公爵にお目にかかろうと思うのと話してくれたのです。

「もちろん、わたしは目立たない女の子よ」少女がそう言うのを聞いて、マイミーは居心地が悪くなってしまいました。というのもこの飾り気のない小さな少女は、妖精としては全く地味でしたから。

なんて答えていいのかわかりません。

「あなたが、わたしにはチャンスがないって思ってるのはわかるわ」ブローニーはためらいながら言いました。

「そんなこといってない」マイミーは礼儀正しく答えました。「もちろんあなたの顔は、少しばかり平凡だけどね、でもね」マイミーは、実際のところとても困ってしまいました。

運がいいことに、マイミーはお父さんとバザーのことを思い出しました。お父さんは社交界のバザーへ出かけて行ったのです。そのバザーでは、2日目にはロンドン中の全ての美しい女性を半クラウンでみることができました。でも家に帰ってくると、マイミーのお母さんにがっかりするどころが、こう言ったものでした。「また平凡な顔を目にするのが、どれほど落ち着くかわからないだろうなぁ」

マイミーがこの話を繰り返すと、ブローニーはとても勇気づけられたようでした。実際ブローニーは、公爵が自分を選ぶだろうということをこれっぽちも疑っていませんでした。そして彼女はリボンの上を駆けていきました。マイミーには、女王がなにかするといけないから後をついてこないようにと言い残していきました。

でもマイミーの好奇心は、彼女の足を前へ前へと進ませます。そして7本のスペインのクリの木のところで、素敵な明かりを見ました。マイミーは明かりのごく近くまで、這って近づきました。そして木の陰から覗き見しました。

その明かりは、ちょうどあなたの頭ぐらいの高さのところにあり、無数のホタルがひとかたまりになって形作られているようで、妖精たちの輪の上で目も眩むようなパラシュートの傘の形をしていました。何千人もの小人が見物していましたが、あの光り輝く輪の中にいる燦然たる妖精に比べると陰になっていて、色もくすんで見えました。妖精たちはどぎまぎするほど明るくて、マイミーは眺めている間はずっと、はげしく瞬きしなければなりませんでした。

マイミーにとっては、クリスマスひなぎく公爵がほんのひとときでさえ人を愛することができないことが驚くべきことで、またいらいらさせられることでした。でも公爵の憂鬱な態度からは、まだ人を愛してないことがありありとわかります。気にしてはいないふうは装っても、辱められたような女王と宮殿のものたちの様子からもわかります。また公爵によい返事をもらうため連れてこられた魅力のある女性たちがだめだと言われて泣き出したことや、公爵自身のつまらなそうな顔からも人を愛していないことはわかります。

マイミーは、公爵の心を触診しているもったいぶった医者の姿も見ることができました。医者がオウムの鳴き声みたいな声をだしているのが聞こえます。マイミーは、キューピッドたちのことは本当にかわいそうに思いました。キューピッドたちは道化帽をかぶり、人目につかない場所に立ち、例の「冷たい、きわめて冷たいですな」を聞くたびに面目ないといった感じで小さな頭を垂れていましたから。

マイミーはピーターパンを見ることができなくてがっかりしました。ピーターがその夜はどうしてそんなに遅れたかお話ししておきましょう。それは、ピーターのボートがサーペインタイン池で一面の流氷に囲まれて閉じ込められたからです。ピーターは、頼みのかいで危険な道を切り開かなければなりませんでした。

妖精たちは、今のところピーターがいないことに気づいていません。というのもまだ心が重くなっていて踊るどころではありませんから。妖精たちは悲しくなるとダンスのステップを忘れてしまい、楽しくなると思い出す生き物です。デビットがわたしに教えてくれました。妖精たちは“幸せ”とは言わない、“踊りたい”と言うんだと。

今のところ、妖精たちは全然踊りたくなさそうでした。そのとき突然、見物人の中から笑い声が起こりました。ブローニーが引き起こした笑い声です。ブローニーは、いま到着したところで公爵にお目にかかりたいと申し出たのです。

マイミーは、友達のブローニーがどうなるか首を伸ばして見守りました。実際のところ見こみはなさそうでした。ブローニーは自信満々だったんですが、ブローニー以外には少しでも望みがあると思っているものはいませんでした。ブローニーは公爵の前につれて行かれ、そして医者が公爵の胸の上にそっけなく一本指をあてました。公爵のダイヤモンドのシャツの胸のところには、ちいさな扉がついていて指をあてるのに便利なようになっていました。そして無意識に「冷たい、きわ、」と言いかけて、突然いいよどみました。

「これはいったい?」医者は叫んで、はじめ胸を時計のように揺さぶりました。それから胸の上に耳をあてました。

「なんてことだ!」医者は叫ぶと、この時には見物人からのどよめきも大きくなり、妖精たちがあちこちで気を失いました。

全ての人が固唾をのんで公爵を見守り、公爵もとても注目をあびて、逃げ出したいようにも見えました。「これは驚いた!」医者がつぶやいているのが聞こえます。そして今、心には明らかに火がついていました。医者は公爵の心にあてていた指をひっこめて、口の中に入れて冷やしたぐらいです。

興奮は絶頂でした!

そのとき医者は低い声で、頭をさげて「わが公爵どの」と勢い込んで言いました。「謹んで申し上げます。公爵どのは愛してらっしゃると存じます」

あなたは、こう言われた後がどうなったかは想像できないでしょう。ブローニーは両腕を公爵にさしのべ、公爵はその腕の中にとびこみました。女王は侍従長の腕の中にとびこみ、宮廷の女性たちは紳士の腕の中にとびこみました。全てのことにおいて女王のするとおりにするのが、エチケットでしたから。その瞬間に50組の婚礼がとりおこなわれました。お互いの腕の中にとびこむことが妖精の婚礼です。もちろん牧師も一人はいなければなりませんが。

どんなに観衆は騒いで、とびはねたことでしょう。らっぱが響き渡り、月が姿をあらわしました。そして、すぐさま数多くのカップルがまるで5月の踊りのときリボンをつかむように月の光を手につかみ、妖精たちの輪の周りで、はめをはずしてワルツをおどりました。そのなかでも一番おおはしゃぎなのは、キューピッドでした。あのいやな道化帽を脱ぎ捨て、宙高くほうり投げました。それからマイミーが姿をあらわし、全てを台無しにしていまいました。マイミーもそうせずにはいられなかったのです。マイミーは、自分の小さな友達の幸せに大喜びで、思わず足が前にでてうれしそうに叫んだのでした。「あぁブローニー、なんてすばらしいの!」

全員がたちすくみました。音楽はやみ、明かりは消え、全てはあなたが「まあ」というぐらいの時間で起こりました。マイミーはあぶないわと思いましたが、自分が閉門から開門までの時間に禁じられた場所にいる迷子だと思い出すには遅すぎました。怒りに満ちた観衆のぶつぶつ言う声がマイミーの耳に入り、数多くの剣がマイミーの血を求めてきらりと光りました。マイミーは恐怖のあまり叫び声をあげ、逃げ出しました。

どれほど走ったことでしょう! 走っている間マイミーの両目は、顔から飛び出しそうになったほどです。何回も転んで、その度に飛び起きてまた走りつづけました。その小さな心は恐怖に絡め取られて、もはや公園にいることもわからないありさまでした。ひとつだけ確かだったことは、走る足をとめてはいけないということでした。なので、マイミーはイチジクの森に転がり込んで、眠りに落ちたあともずっと走りつづけてるんだと思ったぐらいでした。自分の顔に降り積もる雪をお母さんがお休みのキスをしてくれてるんだと思ったのでした。積もった雪を暖かい毛布だと思って、頭までかぶろうとしたぐらいです。夢の中で話し声が聞こえましたが、それはマイミーが寝ている時に、お母さんがお父さんを子供部屋のドアのところまで寝顔を見せにつれてきたのだと思いました。しかしそれは妖精の声でした。

すでに妖精たちがマイミーに危害を及ぼす意思がないことをお話しできるのは、とてもうれしいことです。マイミーが走り去ったとき、「殺しちゃえ!」「なにかヘンなものに変えろ!」なんて叫び声が響き渡りましたが、誰が最初に追いかけるべきかなんてことを相談している間に追跡するのが遅れてしまいました。そうしていると公爵夫人のブローニーが女王の前にひれ伏して、贈り物をいただきたいと申し出ました。

花嫁には、贈り物をもらう権利があるのです。ブローニーが望んだのは、マイミーの命でした。「それ以外のものを」マブ女王は厳しく答えました。そして全ての妖精たちが口々に「それ以外のものを」と気勢をあげました。でもどれほどマイミーがブローニーに力を貸したかが分かりましたし、マイミーを舞踏会に招待することが自分たちの栄誉と名声に結びつくことがわかりましたので、小さい人間の子のために妖精たちは万歳三唱しました。そしてマイミーに感謝するため、軍隊みたいに出発しました。宮殿のものたちが先頭で、傘のような明かりがそれに歩調を合わせます。雪の上の足跡でマイミーの跡をつけるのは簡単なことでした。

イチジクの森の雪ふかくにマイミーを見つけましたが、マイミーに感謝の言葉は伝えられそうにありません。というのもマイミーを起こすことができないのです。みんなは、マイミーに感謝をする式典を始めました。つまり新しい王様がマイミーの体の上に立ち、長い歓迎の挨拶を読みあげるのです。マイミーの耳には、その挨拶の一言さえも届きませんでしたが。マイミーの上に降り積もった雪もどかしたのですが、すぐにまた降り積もってしまいました。そしてマイミーが寒さで危険なことが、妖精たちにはわかりました。

「寒さを気にしないものにかえてはどうだい」医者の提案はよいものに思えましたが、彼らが寒さを気にしないものとして思いついたのは雪だけでした。「雪ではとけてしまうよ」女王が注意を促しました。そこでなにかにかえてしまう案は、あきらめなければなりませんでした。

屋根があるところまでマイミーを運ぼうというのもいい案でしたが、おおぜいの妖精がいたにもかかわらず、マイミーは重すぎました。すでにこの時、女性たちはハンカチを目にあてていました。そこでキューピッドが素敵な案を思いつき、声を大きくしていいました。「彼女の周りに家をたてればいいよ」すぐに全員が、それこそしなければならないことだということが分かりました。ただちに百人の木こりの妖精が木々の間に入っていき、建築家はマイミーの周りを走りまわり、測量をします。れんが職人もマイミーの足元で作業を始めました。75人の石工が家の基礎になる石の作業に急いでとりかかり、女王がそれを積み上げました。そして子供たちを近づけないように、監督員が任命されました。足場が組み上げられ、かなづちやのみや旋盤の音があたり一面になり響き、こうして屋根が架けられ、ガラス工は窓にガラスをはめこんでいきました。

家はちょうどマイミーのサイズにぴったりで、まったくかわいらしいものでした。マイミーの片腕は伸びていたので、これがいっとき妖精たちを悩ませましたが、腕の周りにベランダをつくることにしました。それが玄関につながるようにしたのです。窓は色がついた絵本の大きさで、ドアはそれよりいくぶん小さめです。ただマイミーが外にでたければ、屋根を取り外した方が簡単でしょう。妖精たちはいつもの癖で、自分たちの賢さにうれしくなって手をたたきました。そしてその小さい家に夢中になって、もう作り終えたとは考えたくないほどでした。そこで家にいつまでもたくさん小さな修正を加えました。そして加えた後にも、もっとつけ加えたのです。

たとえば、妖精のうち2人がはしごを登って煙突をつけて、「もうすっかり終わりだな」とため息をつきました。

でも他の2人がはしごを登って、煙突にけむりを少しつけ加え、「これでおしまい」としぶしぶ言いました。

「いやいや」あるホタルが大きな声でいいました。「もし目をさまして明かりがなかったら、こわがると思うよ。だから僕が彼女の明かりになるよ」

「ちょっとお待ち」ある瀬戸物の商人が口をはさみました。「わたしが明かりのお皿を用立てよう」

さぁ、もうこれで本当のおしまいでしょうか?

いいえ、ちがいました!

「しまった」と一人のしんちゅうの金具屋がさけびました。「ドアに取ってがないや」そしてすぐに、取ってをつけました。

金物屋は玄関の中にくつのよごれをおとすマットを、ある老婦人は玄関の外にくつのよごれをおとすマットを備え付けました。大工は雨水をためる樽を持ってきますし、ペンキ屋はそれにペンキをぬらなきゃと言い張りました。

とうとう終わりです!

「おしまいだって! どうして終わったっていえるんだい、」鉛管屋があざ笑うようにいいました。「お湯と水がなくてね?」そしてお湯と水がでるようにしました。庭師の一団が妖精の手押しと鍬と種と球根と温室をもって駆けつけて、すぐにベランダの右側に花壇を左側に野菜園を作りました。家の壁は、ばらとぼたんづるで飾り立てます。そして数分もしないうちに、家も庭も花が咲き誇ったのでした。

まぁ、どれほどその小さな家は美しかったことでしょう! でもとうとう本当のおしまいです。妖精たちはその場を離れて、ダンスに戻りました。去るときは家にむかって投げキッスをして、最後に家を離れるのはブローニーでした。ブローニーは、煙突から楽しい夢を投げ込むために、他の妖精たちより少しあとまでとどまっていたのでした。

よくできた小さな家はイチジクの森のその場所にマイミーを守るようにして、夜通し立っていました。マイミーはまったくそのことを知りませんでした。マイミーは夢がすっかり終わるまでぐっすり寝ており、まるで朝がたまごから生まれてきたようなとても快適な気分で目をさましました。そしてそれから再び眠くなって、「トニー」と声をかけました。

マイミーはすっかり家の子供部屋にいると思い込んでいましたから。トニーがなんの返事もしないので、マイミーは起き上がると、屋根に頭をぶつけてしまいました。すると屋根は箱のふたみたいに開きました。さらにマイミーを驚かせたことに、ケンジントン公園はあたり一面雪景色でした。マイミーは自分が子供部屋にいないので、本当にこれが夢じゃないかと、自分のほおをつねってみました。そして現実だということがわかりました。頬をつねって、マイミーがすごい冒険の真っ最中だということも思い出しました。マイミーは、閉門以降、妖精たちから逃げ出すまでに起こったこと全てを思い出しました。でもマイミーは自問自答してみました。このすてきな場所にはどうやってはいりこんだのかしら? 屋根から外へ、庭の右のあたりにでてみると、一晩をすごしたその素敵な家を見ることができました。あまりに魅力的だったので、他のことはなにも考えられないくらいでした。

「あらまぁ、素敵、なんてきれいなお家なの!」マイミーはおもわず声をあげました。

たぶん人の声が小さな家を驚かせたのでしょう、あるいは役目は果たしたと思ったのかもしれません。マイミーが話しかけると、すぐにその家は小さくなりました。とてもゆっくり小さくなったので、マイミーには小さくなっているのが信じられませんでした。でもすぐにもう自分が中には入れないことはわかりました。全てが前と同じなのですが、ただだんだん小さくなっていくのです。そして庭も同時にだんだん小さくなるのでした。雪がしのびよってきて、家と庭をすっかり包んでしまいました。もう家は犬小屋と同じ大きさぐらい、そしてノアの箱舟と同じ大きさになりました。でもまだ煙突の煙やドアの取ってや壁のばらはみることができましたし、全てがそのままでした。ホタルの明かりも青白くともっています。「ねぇ、きれいなお家、行かないで!」マイミーはひざまずいてさけびました。小さな家は、今や糸巻きくらいの大きさになりましたが、まだ全てがそのままでした。マイミーがお願いするように両手をのばしたとき、雪があちらこちらから忍び寄りました。そして小さな家があった所は、まっさらな雪が広がっているだけでした。

マイミーはやんちゃにも足を踏みならしましたが、指で涙を拭おうとしたときに、やさしい声が聞こえました。「泣かないで、かわいい子、泣かないで」マイミーが振り返ると、彼女の方を何かを求めるように見つめる、美しい小さなはだかの男の子を目にしました。マイミーは、すぐにピーターパンにちがいないと分かりました。


<< 前へ 目次 次へ >>
©2000 katokt. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。