寝つかせ話:ふとっちょあらいぐまの物語, アーサー・スコット・ベイリー

ふとっちょあらいぐまと怪物


ある晩、ふとっちょあらいぐまは、くねくねと曲がりくねった谷間の道を、ぶらぶら歩いていました。先を急いではいませんでした。農夫のグリーンのリンゴ畑で、食べられるだけのリンゴを飲みこむようにお腹に詰めこんできたばかりでしたから。まだそれほど夜おそくないというのに、辺りは暗く、この土地にくらす住民たちは、みなベッドに入って眠っているかのようでした。道を馬車で走ってくる農夫もいませんでした。ふとっちょは、すべてが自分のものであるというような、いい気分になっていました。ですから、家路にむかってのんびり歩いていました。そのときです。恐ろしい怪物に、もうちょっとでつかまえられそうになったのは。

それは、このようにして起こりました。ブル、ブル、ブル、ル、ル、ル、という音が、辺りにひびきわたりました。ふとっちょは、本当ならばもっとはやくその音が聞こえていなければいけませんでした。でも、あんまりたくさんのリンゴを食べて、眠くなり始めていました。耳がいつもよりもするどくなかったのです。ブル、ル、ル、ル、という音がようやくふとっちょの耳にとどいたとき、ずいぶん大きな音になっていました。ふとっちょは、ぎょっとしました。そして、音をよく聞こうと、道のまん中で立ち止まりました。そんな音は前には一度も聞いたことがありませんでした。

その奇妙な動物は、ふとっちょがそうと知る前に、おそいかかってきました。その動物のギラギラと光る目に、ふとっちょの目はくらまされました。もしもその動物がふとっちょにむかって金切り声を出さなかったら、ふとっちょは決して逃げ出していなかったでしょう。その怪物の金切り声のものすごさに、ふとっちょはとうとう飛びあがりました。恐ろしいさけび声でした――まるで、六ぴきのヤマネコがいっせいに鳴きさけんだような声でした。怪物につかまえられるまさに直前に、ふとっちょは道のはしに飛びのきました。

巨大な生き物は、まるで丘を引きさく突風のようないきおいで、ふとっちょのわきを通りすぎました。その生き物は、あんまりはやく走りすぎて、止まることができないようでした。その生き物が道の急な登り坂にさしかかると、登りながらあえぐ声が、ふとっちょの耳に聞こえました。

ふとっちょあらいぐまは、家にむかって急いで走りました。怪物が止まることができて、彼をさがしに戻ってくるといけません。その前に家に帰りたかったのです。

危ないところで命びろいしたてんまつをふとっちょから聞かされると、あらいぐま夫人はひどく動ようしました。ふとっちょが見まちがえたわけではないと、彼女は信じました。わたしが聞いたおかしなさけび声は、それだったのではないかしら?

また聞こえました! ウウウ、ウウウ、ウウウ、ウウ、ウ! 始めは低いうなり声だったのが、高まって金切り声になり、そして、ふたたび消え入りました。

あらいぐま夫人とふとっちょは、わが家である古いポプラの木のてっぺんに登り、谷間を見下ろしました。

「見て、お母さん!」ふとっちょがさけびました。「農夫のグリーンさんの家で止まってる! ここからでもあいつの目が見えるよ!」

あらいぐま夫人は、そちらを見ました。まあ、本当だ! ふとっちょが言ったとおりでした。その怪物の恐ろしいさけび声が、ふたたび谷間にこだましました。

農夫のグリーンは、自動車に乗った男の頼みごとをよく聞こうと、寝室の窓から外に頭をつき出しました。

「ここから一番近い村の場所を教えていただけませんか?」と、そのよそ者はたずねました。農夫のグリーンが教えてやると、男はまた自動車を走らせました。

ふとっちょとお母さんは、お家の木のてっぺんから、怪物がすごいいきおいで谷間をつっ切っていくのをながめました。怪物が去っていくのが、ふたりにはわかりました。なぜなら、ギラギラ光る恐ろしい目が、遠くからでも見えましたから。

「あの怪物、農夫のグリーンさんとグリーンさんの家族を食べちゃったの?」ふとっちょは、おびえた声でたずねました。

「そうだといいよ」お母さんは言いました。「そしたら、もう森の中にわなをしかけられなくなるかもしれないからね」

「でも、だれがとうもろこしを作ってくれるの?」ふとっちょはたずねました。

あらいぐま夫人には、ふとっちょの質問が聞こえないようでした。


©2005 Kameo. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。