寝つかせ話:ふとっちょあらいぐまの物語, アーサー・スコット・ベイリー

ふとっちょ、お月さまを見つける


ある日森を歩きまわっていたふとっちょあらいぐまは、かがやく目でなにやら奇妙な光るものをとらえました――なにかがピカピカと光をはなっているのが、森の木々の葉のあいだから見えました。食べ物だとはとても思えませんでしたが、それでもふとっちょは、それがなんなのか見てみたいと思いました。とはいえ、なにか真新しいものにぶつかったときには、彼はいつも必ず確かめたいと思うのでした。それで、その奇妙なものを見てやろうと先をいそぎました。

それはふとっちょがこれまで見たものの中で、一番おかしなものでした――平たくて、丸くて、銀色をしていました。木の下の、ちょうどふとっちょの頭の上あたりの空中に、それは浮かんでいました。ふとっちょあらいぐまはその光るものを注意ぶかくながめました。それのまわりをぐるりと歩いて、あらゆる方向から見てみました。そしてついに、それがなんなのかわかったと思いました。お月さまです! そうに違いないとふとっちょは決め込みました。

ふとっちょは空に浮かんでいるお月さまをたびたび見ていました。ここにある光るものは、きっかり同じ大きさで、ふとっちょが前足を伸ばせばとどくくらいとても低いところに浮かんでいました。彼はそれをおかしなことだとは思いませんでした。お月さまが時どき地面にくっついているのを知っていたからです。ブルー山の山すその上でお月さまがお休みしているのを、何度も見たではありませんか? ある晩、彼はお母さんにたずねました。山にのぼったらお月さまと遊べるかしらって。けれどお母さんは笑うだけでした。ここにきてついに、お月さまがふとっちょのところにやって来たのです! ふとっちょはひどく興奮し、家にむかって全速力で走っていきました。お母さんや弟の黒っちょや妹のふわっちょやかわいっちょに教えるためです。

「ああ! 月! 月!」ふとっちょはさけびました。彼はとてもふとっており、あまりにはやく走ったので、すっかり息が切れていました。言うことができたのはそれだけでした。

「まあまあ! 月がどうしたっていうのさ!」あらいぐま夫人がたずねました。「なにか見つけたってところだね、だいたい」あらいぐま夫人はほほ笑みました。

ふとっちょはハーハーゼイゼイと息をつきました。それからとうとうまた話せるようになりました。

「そうなんだ――見つけたんだよ! 森の中でね――ここからすぐのところだよ!」ふとっちょは言いました。「おっきくて、丸くて、光ってるんだ! みんなで行ってお家に連れてこようよ!」

「まあ、まあ、まあ!」あらいぐま夫人は困りはてました。森の中でお月さまを見たなんて話は、聞いたことがありません。あらいぐま夫人は、それについてどう考えればいいのかわかりませんでした。「確かなのかい?」彼女はたずねました。

「確かだよ、お母さん!」ふとっちょはぐずぐずしていられませんでした。先に立ってみんなを連れていきたくて仕方がありませんでした。ふとっちょに何度も説得されて、あらいぐま夫人とその家族は、しぶしぶながらお月さまを見に出かけました。

「ここだよ!」光る丸いものが見えるところまで来ると、ふとっちょはさけびました。「ほらね――ぼくの言ったとおりだろ!」みんなはおどろいて大きなさけび声をあげました。

あらいぐま夫人もさけび声をあげましたが、彼女はそれでもまだ、ふとっちょが見つけはのは本当にお月さまだろうかとちょっぴり疑っていました。彼女は光るもにに近づき、じっと見つめました。けれど近づきすぎてはいけません! あらいぐま夫人はそれに近づきすぎたりはしませんでした。彼女は子ども達に、後ろにさがっているようにときびしく言いつけました。彼女のしたことは正しいことでした。あらいぐま夫人はふとっちょの月からふと目をそらし、その下の地面に目をやりました――あぶない! 彼女は後ろに飛びのきました。あんまりすばやく飛んだので、後ろにいた二人の子どもにぶつかってたおしてしまいました。

わなです! あらいぐま夫人は、自分のすぐ足元にわながあるのを見つけたのです。農夫のグリーンか、彼のやとい人か、あるいはだれかが、ブリキ缶の光る板をぶらさげたわなを仕掛けたのです。あらいぐま夫人の家族の一ぴきがこれにじゃれつけばいいと考えて――それがわななのです。そうなのです――ふとっちょがわなの中に歩いていかなくて運がよかったのです。もしもふとっちょがわなの中に足をふみ入れていたら、わなが閉まっていたでしょう――パチン! このようにね。そうなったら、ふとっちょはしっかりととらえられてしまっていたところでした。

あらいぐま夫人が家族を連れていそいでその場を立ち去ったのは、当然のことでした。ふとっちょは、またしても家族の先頭に立って家に帰りました。だってお月さまからあまりはやく逃げることができないのですからね。


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