寝つかせ話:ふとっちょあらいぐまの物語 アーサー・スコット・ベイリー

雪の上の足あと


冬のある晴れた日、ふとっちょあらいぐまは雪の上におかしな足あとがあるのに出くわしました。それは大きな足あとでした――クマの足あとさえ、これよりずっと小さいくらいでした。ふとっちょはクマの足あとなら何度か見たことがありました。辺りがひどく冷え込んでクマが冬眠する季節がせまると、クマは時どき彼の家のあるブルー山を下りて谷間にやって来るのです。

けれどこの足あとは、クマの足あとの六倍もありました。ふとっちょは、恐ろしさに背中の上から下までふるえが走るのをかんじました。

ふとっちょは足あとを少したどっていきました。けれどとても用心深くしていました。いつでも木に駆け上れるように身がまえていました。ふいにおかしな動物と出くわしたときにそなえて――というか、そのおかしな動物が彼の姿に気づいたときにそなえて。

その巨大な足あとは、農夫のグリーンの家にまっすぐにむかっていました。ふとっちょはそこへは近づきたくありませんでした。ですから、お母さんに見つけたもののことをたずねようと、家に走っていきました。あらいぐま夫人はふとっちょの話に耳をかたむけました。

「あの怪物だと思うんだ。去年の夏に、ぼくが道でもうちょっとでつかまえられそうになったやつさ」と、ふとっちょは言いました。怪物とは自動車のことです。彼はそれにたいそう恐い思いをさせれたのです。「もしかして、農夫のグリーンさんと家族をつかまえにもどって来たのかなあ……あの人たちは食べられちゃうんだと思う?」

あらいぐま夫人は困わくしました。それに、少しょう警戒しました。自分の目でそのおかしな足あとを見てみたいと思いました。それでほかの子どもたちに、彼女がもどって来るまで家から一歩も出てはならないと命じました。そしてふとっちょに、ひとっ走り行ってその怪物の足あとに出くわした場所に彼女を案内するように言いました。

お母さんの先に立って沼を横ぎり、森に入る道すがら、これは重大事だとふとっちょあらいぐまは思いました。お母さんを案内することなんてめったにありませんもの。彼は誇らしい気分にひたるあまり、恐ろしいのをほとんど忘れかけました。

「ぼくの目がするどいんで、お母さんもよかっただろ」道をいそぎながら、ふとっちょは言いました。

「その足あとがお前が言うほど大きいんなら、たいしてするどくなくたって見えるだろう」お母さんはふとっちょに言いました。あらいぐま夫人は、自分の子が自慢話をするのを聞くのが大嫌いでした。どんな者であろうと自慢話をするのは嫌がられることの一つであるのを、知っていたのです。

「ふーん……ぼくが怪物の足あとを見たっていうの、ぜんぜん信じてないんだね」ふとっちょは言いました。「ぼくがあいつの絶叫を聞いたっていうのも――」

「いつ絶叫を聞いたんだって?」あらいぐま夫人がたずねました。「『絶叫』だなんて言うの、これが初めてじゃないか。それはいつのことなの?」

「去年の夏だよう」ふとっちょが言いました。

あらいぐま夫人は笑いませんでした。おそらく、あんまり心配しすぎていたせいでしょう。

「同じ怪物ではないかもしれないよ」あらいぐま夫人は言いました。「ちっとも怪物ではないかもしれないよ」

けれど今回は、ふとっちょは自分は間違っていないと確信していました。ふとっちょは、お母さんよりも自分のほうが多くのことを知っているのだと確信しました。

「このまま農夫のグリーンさんの家へ行こうよ、ニワトリをつかまえにさ」ふとっちょは言いました。「あの怪物、今ごろきっとグリーンさんを食べてるよ。グリーンさんの家族も全員ね」

けれどあらいぐま夫人は、そんなことをするつもりはありませんでした。

「足あとをお見せ」あらいぐま夫人はがんとして言いました。そして、ふたりは森の中に入っていきました。

「これだよ!」数分後、ふとっちょあらいぐまはさけびました。「ほらね、お母さん!ぼくが言ったよりも大きいくらいじゃないか」ふとっちょあらいぐまは、背後がおかしな音がするのを聞きました。辺りを見まわしてみますと、まさにお母さんが両腕でわき腹を抱え込んだところでした。お母さんは、はげしく笑い転げました。

「それは農夫のグリーンの足あとさ」さんざん笑ってようやく話せるようになると、お母さんはすぐさま言いました。

「どうして……こんなに大きいんだよ?」ふとっちょは、雪の上の巨大なこん跡を指さしました。

「かんじきだよ!」あらいぐま夫人は言いました。「かんじきをはいていたのよ――かんじきっていうのはね、木の枝と革ひもで作った大きなげたのことよ。これをはくと、雪の中に足が沈みこむのを防げるのさ」

それが、ふとっちょの怪物の正体なのでした。彼はいくぶんがっかりしました。けれど、それがわかって大よろこびしました。カケスのジャスパーにおかしな動物の話をしないで済んだのですもの。もしも話していたら、一生うわさされ続けるに決まっていますから。

ふとっちょは別のことでもよろこびました。お母さんが、ふとっちょが農夫のグリーンのニワトリをつかまえに行くのをゆるさなかったのは、とても幸運だったと思うのでした。

おしまい


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