気のよい連中のための学術的寓話 マーク・トウェイン 第二部

森の動物が科学的探求をなし遂げた顛末


一週間後、探険隊は驚嘆するような珍奇なもののただ中にキャンプしていた。それは一種の巨大な石の洞窟群で、それは彼らが森を抜け出したとき最初に見た川のほとりの平原から個々に分かれてはいるが房状になってそびえていた。この洞窟は、一列の並木に縁どられた広い通路の両外側に、長いまっすぐな列をなして立っていた。どの洞窟の頂も両側に急勾配で傾斜していた。それぞれの洞窟の正面には、大きな四角い穴がいくつか水平な列をなして穿たれており、その穴は薄くて輝く透明な物質でふさがれていた。内部には洞窟の中の洞窟があった。そして、段々に高くなっていく連続した規則正しい壇からなる奇妙な曲がりくねった道をたどって登っていき、こうした小さな区画を訪れることができる。それぞれの区画には巨大で形の定まらない物体が多数あったが、思うに、これはかつては生き物であったものが、今では薄い褐色の皮が縮んだり伸びたりして、動かすとハタハタと音をたてるのだった。ここにはクモがたくさんいて、そのクモの巣があらゆる方向にひろがり、一緒になって皮ばかりとなった死体を飾りたてているのは、愉快な見ものだった。というのは、それが生命を吹き込み、そうでもなければ見捨てられたわびしさだけを思い起こさせる光景に快活な喜びを与えてくれたからである。このクモは探険隊に加わったクモとは異なった種類のもので、その言語はただの音楽的な意味のないたわごとのように思われた。彼らは臆病で優しい種族であったが、無知であり、未知の異教の神を信奉していた。探険隊は布教のための大分遣隊を送って、それまでは三家族がたがいに仲良く暮らしたことがなく、またどんな宗教体系であれ確固とした信仰のなかったその暗黒の文化に、一週間のうちにすばらしい成果をあげた。このことに勇気づけられて、探険隊は恩寵の御業を続くようそこに永続的な宣教師の居留区を設置しようとした。

だが、我々の物語から逸脱しないようにしよう。洞窟の正面を綿密に調べ、よく考察し、意見を交換した後で、科学者たちはこれらの奇妙な構成のもつ特性について結論を出した。彼らが言うには、それぞれの洞窟は主に古赤色砂岩期に属しており、洞窟正面は無数の驚くほど規則的な層状となって空中にそびえたっている。それぞれの層はおよそ五カエル幅の厚みがあり、今ここにある発見物はこれまで広く認められた地質学を完璧に覆すものであるということだった。というのも古赤色砂岩のどの二つの層の間にも分解した石灰岩の薄い層が挟まっており、それで古赤色砂岩期が一度しかなかったのではなく、百七十五回以上あったのは確かだ!それに同じ証拠から、大地は百七十五回洪水に覆われ石灰岩層が分解されたのは明らかだ!この一組の事実から推論すれば、世界の年齢は高々二十万年ではなく、百万の百万倍ほどの古さだという否応のない真実が、結論されるのは避けられない。そして、もう一つ奇妙なことは、古赤色砂岩のどの層も、石灰岩の縦貫層が数学的に規則的な間隔で貫通し分割していることだ。水成層の破砕面を貫いて火成岩が上昇することは普通だが、これは水成岩が同じように貫入している初めての事例だった。これは偉大で素晴らしい発見であり、その科学的価値は測り知れなかった。

低いところの層をいくつか綿密の検査してみると、アリとタマオシコガネの化石(後者はその特有の財貨が一緒だった)があるのがわかり、大いに満足して、この事実は科学的記録に記載された。それというのは、こうした下賎な労働者は被造物の最初にして最下層に属するという事実が証明されたからである。とはいえ、同時にそこには、最上層の完璧で申し分のない生き物は、摩訶不思議な種の発展の法則によって、こうした卑しい存在にその起源をもつのだと考えると、なにか嫌悪を催すものがあるのだが。

タマオシコガネは、この議論を小耳にはさんで、「当代の成金どもが連中の知恵を絞った理論の中にどんな慰めを見出そうとかまわんね、だって自分としちゃあ、古い最初の一族の出で、土地の古くからあるもともとの貴族制の中の自分の居場所を示してもらうだけで満足だからな。」と言った。

「あんたたち成り上がり者の威厳とやらをお楽しみなされ。お望とあれば、つい昨日に張った化粧板のニスの悪臭でもお嗅ぎなされ。」と彼は言った。「タマオシコガネ一族にとっちゃ、わしらが古代の荘厳な回廊で香しい球体をころがしていた種族の出で、時の大通りを行進しながら、過ぎさっていく幾世紀にもわたってそのことを高らかに言うために、不滅の言葉を古赤色砂岩に留めてきたというだけで十分だ。」

「こら、とっとと消えるんだ!」と探険隊長が、あざけりを込めて言った。

夏が過ぎ、冬が近づいていた。多くの洞窟の中や周囲には、碑文とおぼしきものがあった。多くの科学者がこれは碑文であると言ったが、少数派はそうではないと言った。主任言語学者のワラジムシ教授は、これは碑文であるが、学者たちには全く未知の文字で、また同様に未知の言語で書かれているのだと主張した。彼は早いうちから、部下の美術家や製図工に発見したものをすべて模写を作るよう命じていた。そして自分でこの神秘の言語を解く鍵を見つけようと取り組んだ。この作業で、彼は以前から暗号解読家がいつも使ってきた方法にならった。それはつまり、たくさんの碑文の写しを自分の前に並べ、それらを概括的かつ詳細に研究するというものだった。まず手始めに、彼は次のような写しを一緒に並べた。

アメリカン・ホテル
二十四時間お食事できます
サングラス
禁煙
廉価貸しボート
合同祈祷会 午後四時
ビリヤード
ウォータサイド・ジャーナル
最優秀の理髪店
電報局
ポリ公立ち入るべからず
ブランドレス錠をお試しください
雨季中貸し別荘
廉価販売
廉価販売
廉価販売
廉価販売

最初、教授にはこれは符号言語で、それぞれの言葉は異なった符号で表されているように思えたが、さらに検証を進めると、これが書かれた言語であり、そのアルファベットのそれぞれの表音文字はその字そのものの表意記号によって表されていると確信するようになり、最終的にはこれは一部は表音文字で、一部は符号ないし象形文字で伝えられた言語であると判断した。次のような種類の見本がいくつか発見されたことから、彼はそうした結論を出さざるをえなかったのだ。

彼は、ある碑文がほかのものより目にする頻度が高いことに気づいた。それは「廉価販売」とか「ビリヤード」とか「S.T.—1860—X」とか「キーノー」とか「生ビール」とかいうものだ。そこで、当然、こうした碑文は宗教上の金言にちがいなかった。しかし、未知のアルファベットの謎が明らかになってくるにつれて、この考えはしだいに捨て去られた。ついに教授は、いくつかの碑文を、かなりもっともらしく翻訳することができた。とはいっても、学者全員を完全に納得させたわけではなかった。それでも、彼は倦まず弛まず作業を進めた。

最後に、次のような碑文のある洞窟が発見された。

ウォーターサイド博物館
終日開館
入場料五十セント
蝋人形、古代化石等の
素晴らしい収集物

ワラジムシ教授は、「博物館」という言葉は「ルムガトゥ・モロ」あるいは「埋葬所」という語句と同じものだと断言した。入ってみると、科学者たちはど肝を抜かれた。さてまあ、彼らが見たものは、連中の公式報告書の言葉がうまく伝えてくれるだろう。

「一種の硬直した大きな像が、列をなして建ち並んでいたが、我々はこれが、我々の古代の記録に述べられている、ずっと以前に絶滅した人間という爬虫類の種に属するものの像だとただちに気づいた。これは特に満足のいく発見であった。なぜなら、最近では、この生き物は神話や迷信、はるか昔の祖先が想像の産物だと見なすことが流行するようになっていたからである。しかしここに、人間が化石状態で完全に保存されていたのである。ここはその埋葬所であり、そのことはすでに碑文から確実である。また今や、我々が調査してきた洞窟が、人間が地上をうろついていた昔には、その古代の根城ではなかったのかと推測され始めている。というのは、これら背の高い化石のどの胸にも、以前から注目されてきた表意文字で碑文があるのだ。あるものには「海賊キッド船長」、あるものには「ヴィクトリア女王」、またあるものには「エイブ・リンカーン」、べつのものには「ジョージ・ワシントン」等々といった具合である。

「激しく興味をかきたてられて、我々の古い科学的記録を捜し出し、そこに書かれた人間の記述が、我々の前にある化石と一致するかどうか知ろうとした。ワラジムシ教授が、その風変わりで古くさい言い回しで、それを大声で読み上げた。すなわち

言い伝えで知られるがごとく、我が父祖のころには、人間はまだ地上を歩き回っていた。それは極めて巨大なる生き物にて、時には単色、時には多色のたるんだ皮膚に包まれるが、その皮膚、意のままに脱ぎ捨てることをえて、そのようにしていた。後ろ脚はモグラの鉤爪に似るも、より幅広の短い鉤爪を備え、珍妙にも細く、カエルよりはるかに長き指の生えた前脚もまた、大地より餌を掻き出さんがための鉤爪を備えておった。その頭には、ネズミのごとき羽毛があったが、それより長く、また餌を匂いにて探すに適した嘴が生えていた。幸せで感極まれば、眼より水のあふれ、苦しみ、あるいは悲しいときは、それを示すのに、ぞっとするほどひどく騒ぎたて、聞くに耐えられぬほど恐ろしげで、わが身を引き裂き滅し去るほど長々と続け、そうやってその災厄を終わらせるのだ。二人の人間が一緒にいると、互いに「やぁ−やぁ−やぁ−、ごき、ごき」みたいに叫びあい、そのあとに多少なりともそれに似た音を続けるのだ。それゆえに詩人は彼らが話していると考えたのだが、知ってのとおり、詩人というものは、狂気の沙汰の愚行に飛びつこうと身構えているものだ。時には、この生き物は、長い杖をもってうろつき、その杖を顔に押し当て、同じ杖から突然、ひどい騒音をたてて火と煙を噴き出し、驚きのあまり獲物は死んでしまうのだ。そうして、獲物を鉤爪でつかんで住処に戻り、獰猛で残忍に喜びをもって喰い尽くすのだ。

「さて我々の先祖が書き残した記述は、驚くべきことに我々の前にある化石によって保証され確かなものとなった。それをこれからみていこう。「キッド船長」と記された標本を詳細に調査した。その頭部および顔の一部には、馬の尾部にあるのと同様の一種の毛があった。非常に苦労して、そのたるんだ皮膚を取り去ると、その体は光沢のある白い肌理で、完全に石化していることがわかった。それが食べた麦ワラは、長い年月を経ても、まだ未消化のままその体内に残っており、脚にすら残っていた。

「これらの化石の周囲にあるものは、無学の者には無意味であろうが、科学の眼にとっては天啓なのだ。それらは過ぎ去った時代の秘密を解き明かす。このかび臭い記録が、人間が生きていた時代やどんな習性だったかを語りかけてくるのだ。というのも、ここには、人間と共に、それが創造の最初期に生きていたことを示す証拠、つまりそれに随伴して、忘れ去られた時代に属する下等生命が見られるのだ。ここには太古の海を泳いでいたイカの化石、マストドンやイクチオサウルス、ドウクツグマ、巨大なヘラジカの骨格があったのだ。またここには、こうした絶滅した動物のいくつかや人間自身の幼生の焦げた骨があったが、縦に割けており、その味覚にとって、骨髄がおいしい贅沢品であったことを示していた。こうした骨には獣の歯跡がないことから、人間がそれから中身を抜き出したことは明らかだ。タマオシコガネの「どんな獣もどうやったって骨に歯跡をつけることなんかできない」という意見表明があったとしても、そうであるのだ。ここには人間がぼんやりした、野卑な芸術概念の持ち主だった証拠があった。というのはこの事実は「原始人の燧石製手斧、ナイフ、鏃、および骨製装身具」という翻訳不能の言葉が記されたいくつかの物からわかるのだ。そのいくつかは、燧石から削り出した粗雑な武器のように思われた。また隠れた場所には、製造中のものが見つかったが、そのそばには、薄くて脆い素材に次のような翻訳不能な記載があった。

ジョーンズ君、博物館をクビになりたくなかったら、次に原始時代の武器を作るときは、もっと慎重にやるんだね。最近のものでは、君はあのクーリッジ家の寝ぼけた科学狂いのお節介屋どものだれひとりとして、だますことすらできないだろう。それに、骨製装身具に彫刻する動物が、いつもばかをやっていた原始人にしちゃあ上出来すぎるのも、非難の眼で見られるってことに、気づきたまえ。

支配人 ヴァーナム

「埋葬所の後には灰が堆積していたが、そのことは人間が葬儀の際にはいつも宴会を開いていたことを示している。そうでなければ、なぜこんな場所に灰があるのだろうか。また、それは人間が神と魂の不死なることを信じていたことを示している。そうでなければ、なぜこうした厳粛な儀式をおこなっていたのだろうか。

「約言すれば、こうだ。我々は人間が書かれた言語を持っていた思う。我々にわかっているのは、人間がかって実際に存在したのであって、神話ではないこと、人間はドウクツグマやマストドンその他の絶滅種に随伴しており、こうした動物を調理して食し、また同様に自分自身の種の幼生も食していたこと、粗雑な武器を身につけていたが、芸術は全く知らなかったこと、また自分たちが魂を持っていると思っており、その魂が不死であると想像することで自らを慰めていたことである。だが我々は嗤いはすまい。我らもその虚栄心も深遠な思いも、滑稽とみなす生き物があるやもしれぬゆえ。」


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