ロウソクの科学, マイケル・ファラデー

炎の輝き――燃焼に必要な空気――水の生成。


こないだは、ロウソクの液体になった部分の一般的な性質や仕組みについて考え、さらにその液体が燃える場所までくる様子にばかり気をとられていました。ロウソクが均質で安定した空気の中できれいに燃えているときは、ごらんのように、この図にあるような形をしています。性質はとてもおもしろい炎ですが、形は均質ですね。さてこんどは、炎のここの場所で、それぞれなにが起きているかを見極めるための手段について考えてみましょう。さらには、いろんな場所でなぜそういうことが起こるのか。起こる結果としてどうなるのか。そして最終的に、ロウソク全体はどこへいってしまうのか。というのも、よーくご存じのように、ロウソクを目の前にもってきて火をつけたら、きちんと燃やせばそれは消えてしまうからで、あとにはロウソクの泥一つさえ残らないでしょう。これはなかなか不思議なことなのです。というわけで、このロウソクを注意深く調べるために、いろいろ道具を用意しました。使い方は、わたしが先に進むにつれてわかってきます。ここにロウソクがあります。このガラス管のはしっこを、炎の真ん中につっこみます――老フッカーの図で、かなり暗く書かれているところですね。あまり息をかけたりしないで、注意深くロウソクを観察すれば、いつでも見える部分です。この暗い部分からまず見ていきましょう。

さあこの曲がったガラス管を持って、その炎の暗いところにかたっぽをつっこんでやりましょう。するとすぐに、炎から何か出てきているのがわかります。ガラス管の反対側のところですね。で、そこにフラスコをおいて、しばらく放っておくと、炎の中程のところからくるものが、だんだん引き出されて、ガラス管をとおってフラスコに入り、そこで開けた場所とはまったくちがったふるまいをしているのがわかります。ガラス管の端から出てくるだけでなく、フラスコの底に落ちていきますね。まるで重い物質のようです。そしてこれは、本当に重い物質なんです。これはロウソクのワックスが、液体の蒸気になったものであって、気体ではないことがわかっています(気体と蒸気とのちがいはおぼえておいてください。気体は気体のまんまですが、蒸気はいずれ凝集します)。ロウソクを吹き消すと、すごくいやなにおいがします。これは蒸気が凝集したせいです。これは、炎の外にあるものとは、かなりちがいます。これをもっとよくわかってもらうためには、この蒸気をもっと大量につくって火をつけてみましょう――というのもロウソクの中にあるのはほんのわずかで、これを十分に理解するには、科学者としては、必要なら大量に作ってみて、いろんな部分を調べて見なくてはならないんです。というわけで、この蒸気がいったい何なのかを見せてあげましょう。こちらはガラスのフラスコにワックスをちょっと入れました。さあ、これをランプにかけて熱くしましょう。ロウソクの炎の中は熱いですからね。芯に入ったロウだって熱い。さあ、中にいれたロウがとけてきたのがわかります。ちょっと煙も出ています。まもなく蒸気があがってきますよ。どんどん熱くしましょう。もっと蒸気がでます。これで、この蒸気をフラスコからこのたらいに文字通り流し出して、そこで火をつけることができます。で、これはまさに、ロウソクの真ん中にある蒸気とまったく同じ蒸気なんです。それをみんなに納得してもらいたいので、このフラスコの中にあるのが、ロウソクの真ん中から出てきた燃える蒸気なのかどうか、試してみましょう。ほら、こうして燃えますね。さて、これはロウソクの真ん中の蒸気で、自分自身の熱でつくられているものです。そしてこれは、ロウソクが燃えるまでの進行と、それがくぐりぬける変化の中で、真っ先に考えるべきことの一つです。

こんどは炎の中に別のガラス管を注意して差し込んでみましょう。そしてちょっと気をつければ、この蒸気がガラス管を通って反対側に出てきて、そこに火をつけてやれば、ずっと離れたところにまさにロウソクの炎そのものをつくってやれるんじゃないかな、と思うでしょう。ほーらごらん。とってもきれいな実験じゃないですか! ガスを引くって言うけれど――ロウソクだってこうやって引けるわけですな! そしてここからわかるのは、二種類のちがった活動がここにはあるってことです。一つは蒸気の生産で、もう一つは蒸気の燃焼です。そしてそのそれぞれが、ロウソクの中の別々の場所で起きているわけです。

すでに燃えた場所からは、蒸気はとれません。ガラス管を、炎の上の方に持っていってみましょう。さっきの蒸気が出きってしまったら、あとから出てくるものは、もう燃えません。燃えたあとのものなんですね。どういうふうに燃えたのか? えー、それはこういう具合です。炎の真ん中には、この燃える蒸気があります。炎の外側には、あとで見ますが、ロウソクが燃えるのに必要な空気があります。その中間で、激しい化学反応が起こっていて、そこでは空気と燃料がお互いに作用しあっていて、光が得られるのと同時に、中の蒸気も破壊されるんですね。ロウソクの熱がどこにあるかを調べると、とてもおもしろい配置になっていることがわかります。このロウソクに、こうして紙切れを近寄せますよね。そうしたら、炎の熱はどこにあるでしょう。炎の内部にあるんじゃないってことがわかりませんか? 熱は輪になってるんですね。まさにわたしが、化学反応が起きている場所だと言ったところに。いまやったこの実験は、あまりちゃんとやってはいないんですけれど、でもあまり炎が乱れなければ、必ずこの輪っかができます。これはみんな、家でやってみるのにいい実験ですね。紙切れを一枚用意して、部屋の中の空気が静かになるようにして、その紙切れを炎の真ん中にこう、横切らせます――(この実験中はわたしもしゃべっちゃいけませんね)――そうしたらそれが 2 カ所で焦げているのがわかるでしょう。そして真ん中の部分はぜんぜん、というかほんのちょっとしか焦げないのがわかるでしょう。そしてこの実験を1、2回やって、きちんとできるようになったら、その熱があるのがどの部分なのか知りたくなるでしょう。見てやると、それは空気と燃料がまざりあうところなんですな。

これは、わたしたちのテーマについて進めるうえで、すごくだいじなところです。空気は、燃焼には絶対必要なんです。さらにもっといえば、ただの空気じゃなくて、新鮮な空気が必要なんだということを、ぜひとも理解してもらわなきゃいけません。さもないと、理論展開や実験のうえで、不完全になっちゃいます。ここに、空気の入ったびんがあります。これをロウソクにかぶせると、最初はきれいに燃えますねえ。だからわたしが言ったのが真実だってことがわかります。でも、やがて変化が起きます。ほら、炎がだんだんたてにのびて、すぐにうすれて、ついには消えちゃいました。そして、なぜ消えたんでしょうか。単に空気がいるからというだけじゃないですね。びんにはいまでも、空気がいっぱい入ってます。炎は純粋で新鮮な空気がほしいんです。びんにいっぱい入っている空気は、一部は変化して、一部は変わっていません。でも、ロウソクの燃焼に必要な新鮮な空気は、じゅうぶんにはないんです。これはどれも、若き化学者としてわれわれがまとめあげなくてはならない点です。そして、こういう活動をもうちょっと詳しく見たら、とってもおもしろい理由づけのステップが見つかることになります。たとえばここには、前に見せた灯油ランプがあります――われわれの実験用には最高のランプです――昔ながらのアルガン灯です。これを、ロウソクみたいにしてみましょう(と、炎の中心への通気口をふさぐ)。ここに綿があって、ここに灯油があがってきます。そしてここにコーン状の炎がありますね。でも、あまりよく燃えません。空気がかなり制限されているからです。炎の外側からしか空気がこないようにしたので、あまりよく燃えないわけです。外からはこれ以上空気は入れられません。この芯がでかいからです。でも、アルガンがとても賢くやったように、炎の真ん中に空気を通すような通路をあけたら、ほら、こんなにずっときれいに燃えますね。空気をとざすと、煙が出ます。でもなぜでしょう? さあ、研究にとてもおもしろい点が出てきました。まず、ロウソクの燃焼の問題があります。空気が足りなくてロウソクが消えるという問題があります。そして今度は、不完全燃焼の問題があります。これはわたしたちにしてみれば、すごくおもしろいので、最高の状態で燃えているロウソクのことと同じくらい、これもじゅうぶんに理解してほしいんです。さあ、でっかい炎を作ってみましょう。実証するにはできるだけ大きいほうがいいですからね。ここに大きな芯があります(と綿の玉で松ヤニ脂を燃やす)。こういうのは、だいたいロウソクと同じことです。もし芯がでっかいなら、空気ももっとたくさん供給してあげないと、不完全燃焼が起こります。ほらほら、こうやって黒い物質が空気中にあがってますね。しかもそれがずっと筋になって続いています。ここに、不完全燃焼している部分を分ける装置を用意しました。さもないと(くさくて)みんながいやになっちゃいますからね。ほら、炎からすすが飛んでますねぇ。不完全燃焼ってのがよくわかるでしょう。空気が十分にないからです。すると、なにが起きているんでしょうか。ロウソクが燃えるのに必要なものが、いくつか欠けてるんです。だから結果として、ろくでもない結果が出てくるんです。でも、ロウソクが純粋できちんとした状態の空気の中で燃えると、どうなるか見てください。さっき、紙のこっち側が焦げる実験をしたときに、あの紙の裏側をひっくり返して見せてあげたほうがよかったですね。ロウソクが燃えると同じようなすすができるのがわかったでしょう――黒炭や、カーボンみたいな。

でもそれを見せる前に、まず話しておくべきことがあります。わたしたちの目的のためには是非とも必要なことです。ロウソクを使うと、ふつうの結果としては、こういう炎の形で燃焼が起こりますね。でも、燃焼が必ずこういう形になるのか、それとも別の状態の炎があり得るのかどうか、確かめなきゃいけません。そしてすぐにわかりますが、別の状態があるんです。そしてそれはわたしたちにとって、とてもだいじなんだということもわかるでしょう。たぶん、われわれ子供にとって、こういうののいちばんいい例というのは、ぜんぜんちがった結果が出てくるところを目の前で見せることでしょう。こちらにあるのは、火薬が少々。火薬は、炎をあげて燃えます――まあ、炎といって問題はないでしょう。火薬には炭素やその他の成分があって、それがいっしょになって、炎をあげて燃えるようにするんですな。さてこちらは鉄粉、つまりは鉄にやすりをかけた粉です。さて、こいつらをいっしょにして燃やしてみましょう。ここにちょっとモルタルがあるので、混ぜます。(この実験をはじめるまえに、おもしろがってこの実験を自分で再現してみようという人は、注意してやってくださいね。こういう物質はみんな、きちんと注意して扱えば思い通りになるけれど、でも不注意だとひどいことになるから)。さてそれじゃ、ここに火薬がちょっと。これをこの木の入れ物の底にいれます。そして鉄粉をそれに混ぜましょう。わたしは、火薬が鉄粉に火をつけて空中で燃えるようにしたいんです。そうして炎をあげて燃えるものとそうでないもののちがいをお見せしたいわけです。さあまぜましたよ。そして火をつけるから、燃焼を見ていてくださいよ。二種類の燃焼があるのがわかりますから。火薬が炎をあげて燃えて、鉄粉が上にまきあがります。鉄粉も燃えますが、炎は出ませんから。それぞれ独立して燃えます。[ここで講師、混合物に火をつける]はい、火薬がありますね、炎をあげて燃えています。そしてこっちは鉄粉ですが、燃焼の形がちがいます。ほら、二つがまったくちがっているのがわかりますねー。そして明かりをとるのに使う炎の効用と美しさは、すべてこのちがいに基づいているんです。油やガスやロウソクを照明に使いますけれど、それが照明に適しているのは、こういう燃焼の種類のちがいからくるんですな。

炎にもいろいろあって、中にはとても変わっているので、燃焼の種類を識別するのにかなりの知恵と繊細な区別が必要になります。たとえば、ここにある粉はとってもよく燃えます。これはいろんな小さな粉でできていてヒゲノカズラ粉末原注2-1というものです。この粉のそれぞれが蒸気をつくりだせて、それぞれが炎をつくれます。でもいっしょにして燃やすと炎が一つしかないように見えます。さあ、粉をまとめて火をつけてみましょう。どうなるでしょう。雲みたいな炎が見えて、一見一つの炎です。でも音を聞いてください [と、燃えるときの音を聞かせる]。このパチパチいう音は、これが連続した炎ではなく、均質な炎でもないことを証明するものです。これはパントマイムの人形劇で使う雷ですけれど、雷の代用としてはなかなかのもんですね。[この実験は、ヒゲノカズラをガラス管からアルコールランプに吹きこんで繰り返された。] さて、これはわたしがさっきまで話をしていた鉄粉の燃焼とはちがったものです。ここらで話を鉄粉に戻しましょうか。

ロウソクをもってきて、いちばん明るく見える部分を調べてみたとします。するとほら、こういう黒い粒子が出てきます。炎から何度もあがってきたのを見た、あの黒い粒子です。これをいまから、別のやりかたでつくって見ましょう。さあこのロウソクをとって、ロウがたれたあとをきれいにします。これは空気の流れのせいでできるんでしたね。ここでガラス管をもってきて、このいちばん明るいところにうまく入れてみましょう。最初の実験と似てますが、場所が少し高めです。ほら見てください。さっきみたいな白い蒸気が出てくるかわりに、こんどは黒い蒸気が出てきます。ほーら見てください、インキみたいに真っ黒ですねえ。前の白い蒸気とはぜんぜんちがってます。そして火をつけてみても、燃えませんね。むしろ火が消えちゃいます。さて、この粒子は前にも言いましたが、ロウソクの煙なんですな。そしてこれは、スウィフト学長が召使いたちの暇つぶしに奨めた練習を思い出させてくれます。つまり、部屋の天井にロウソクで自分の名前を書いて見ろ、という練習です。でもこの黒い物質はなんなんでしょう。これは、ロウソクの中にあるのと同じ炭素なんです。なぜロウソクから出てくるんでしょうか? ロウソクの中にあったのはまちがいないですね。そうでなければ、ここに出てきたわけはありませんから。さて、これからする説明は、よーく理解してくださいよ。あなたたち、ロンドンの町中を飛び交っている、すすだの黒いほこりだのといった物質が、炎の美しさと生気のまさに源泉だなんて思いもしないでしょう。そしてそういうすすや黒いほこりが、ここで燃やした鉄粉みたいな形で、炎の中で燃えているんだというのもわかりませんね。ここに金網があります。炎はこれを通り抜けられません。さあ、これを炎のとても明るい部分にまで下げていくと、金網がふれたところはすぐに炎がなくなって、そこから煙があがってきますね。

さあ、これから話すことをよく理解してください――何かが燃えるとき、火薬の炎の中で燃える鉄粉でもそうですが、蒸気状態にならずに燃えることができます(液体になるか固体のままかは関係ありません)。このとき、それは大量の光を出します。ここでロウソク以外の例を 3 つか 4 つお見せしましたが、それはこの点をはっきりさせておきたかったからです。いま言ったことは、あらゆる物質にあてはまります。燃えるものでも燃えないものでも――固体のままであれば、すごく明るい光を出します。そして、ロウソクの炎が明るく輝くのも、こういう固体粒子が存在しているからなんですね。

これはプラチナの針金です。これは熱しても変化しない物質なんです。これをこの炎の中で熱してみると、ほーら、とても明るく輝くようになります。ちょっと炎をおさえて暗くしてみましょう。それでも、炎がプラチナ線に与える熱のおかげで、その熱源の熱よりもずっと低くても、プラチナ線をもっと明るく光る状態に持っていけるんですね。炎には炭素が入ってます。でも、炭素が入っていない例もやってみましょう。あの容器の中にある材質は、一種の燃料です――蒸気、ガスのどっちと言ってもいいです。固体粒子は入っていません。そこでこれを、固体をいっさい含まない炎の例として使いましょう。ここにこうして固体を入れてみると、すごい熱が出ているのがわかりますね。固体が輝いてますから。このパイプを通じて、あのガスが運ばれてくるわけです。このガスは、水素と呼ばれます。これについては、次回お目にかかるときになにもかもお話しましょう。さてこちらは酸素という物質で、これがあることで、水素も燃えられるんです。そしてこの両者を混ぜると、ロウソクなんかよりもずっと高温の炎が得られるんですけれど原注2-2、でも光はぜんぜん出てきません。ところが、固体を持ってきて中に入れてみると、強い光が出てきます。石灰石を持ってきましょう。これは燃えないし、熱しても蒸気になりません(そして蒸気にならないので、固体のままで、ひたすら熱くなります)。これを炎にいれてみると、輝き具合がやがてわかります。水素と酸素が混ざって燃えているので、強烈な熱が出ています。でも光はぜんぜんありません――別に熱がないからじゃありませんね。固体のままでいられる粒子がないからです。でも、酸素の中で燃える水素の炎に、こうして石灰岩を入れてみましょう。ほら、こんなに光ります! これはまばゆいライムライトというやつで、電気の光にも匹敵し、ほとんど日光くらい強いものです。ここにあるのは、炭素または木炭のかけらです。これは、ロウソクの中で燃えたのと同じように、燃えるしまったく同じく光も出します。ロウソクの炎の中にある熱は、ワックスの蒸気を分解して、炭素の粒子を解放します。それが熱されて上昇して、これと同じようにかがやいて、それから空中に入ります。でもその粒子は燃えると、ロウソクから炭素の形で出ていったりはしません。まったく目に見えない物質になって、空中に出ていきます。これについてはまたあとで調べましょう。

こんなプロセスが起きているというのは、すごいことではないですかね。そして木炭のような汚らしいものが、こんなに光り輝く状態になるとは。結局のところは、こういうことです――すべての明るい炎には、こういう固体の粒子が含まれているんです。そして、燃えて固体の粒子をつくるもの――これはロウソクみたいに、燃えている最中につくってもいいし、火薬と鉄粉の場合のように燃えた直後でもいいんですけれど――そういうのはすべて、このすばらしく美しい光を放つんです。

いくつか見本を。ここにあるのは燐のかけらで、明るい炎をあげて燃えます。よろしいですね。ということはですよ、燐は燃える瞬間か、あるいはその後で、固体粒子をつくるはずだと結論していいはずですね。じゃあこうして燐に火をつけて、出てきたものを逃がさないように、こうしてガラスで覆いをしておきましょう。この煙はなんでしょう。煙はまさに、燐の燃焼でできた粒子そのものなんです。こっちはまた、別の物質が二種類です。カリウムの塩化物で、こっちはアンチモンの硫化物です。こいつをちょいと混ぜてやりますと、いろんな形で燃やせるようになります。化学反応の実例として、硫酸を一滴たらしてみましょう。ほら、すぐ燃えるでしょう原注2-3。 [講師、ここで硫酸によって混合物に火をつける。] さて、これがどう見えるかに基づいて、これが燃えるときに固体を作っているかどうか、自分で判断してみてください。固体ができているかできていないか、判断できるだけの理由づけの仕方は教えましたね? この明るい炎というのは、固体の粒子が光っている以外のなにものでもありませんね。

アンダーソンさんがかまどの中に、とても熱いるつぼを用意してくれましたよ。ここにこれから亜鉛の粉末を入れますが、すぐに火薬みたいに炎をあげて燃えます。この実験をやるのは、みんなが家でもできる実験だからですよ。さて、この亜鉛の燃焼の結果としてなにができるかを見てほしいんです。こうして燃えますよね――ロウソクみたいに美しく燃えてる、といっていいでしょう。でも、えらく煙があがってますね。それとこの小さな綿の雲みたいな固まりはなんでしょうか? 前に出てきて見られなくても、あとでまわして見せてあげますからね。いわゆる古い哲学的な綿(old philosophic wool)の形で、さわれるようになってます。るつぼの中にも、この綿っぽいものがかなり残ります。じゃあ同じ亜鉛のかけらをとって、もっといわば手近な実験をやってみましょう。同じことが起きます。こちらは亜鉛のかけら。こちらは(と水素バーナーをさす)かまどですね。さあがんばってこの金属を燃やしてみましょう。こうして輝きますね。そして、ほら燃えます。そして燃えた結果の白い物質がこれです。さてここで、水素の炎をロウソクだと考えて、炎の中で燃える亜鉛みたいな物質を示したら、この物質が輝いたのは燃焼という活動の最中――つまり熱くなったときだけだったというのがわかります。だから水素の炎でこうして、さっきの亜鉛から出てきた白い物質を中にいれて見ますね。するとほら、ずいぶんきれいに輝くでしょう。これはもう、これが固体だからそうなるというだけのことです。

さて、ついさっき作った炎を使って、そこから炭素の粒子を解放してやりましょう。こちらはカンペンです。煙をあげて燃えますね。でもこの煙の粒子を、このパイプ経由で、こうして水素の炎に送ってみましょう。するとこれが燃えて、明るくなります。炭素粒子が改めて熱されるからですな。ほーらごらんなさい。これが、再点火された炭素の粒子です。炭素粒子は、紙を炎の向こう側にかざしてやると、簡単に見えるようになります。それが生み出された熱に点火されて、点火された結果として、こうして明るくなるんです。粒子が分離しないと、明るくなりません。炭素ガスの炎が明るいのは、燃焼途中にこういう炭素粒子が分離するからです。これはまさにロウソクと同じです。

この実験の環境は、すぐに変えてやれますよ。たとえばここに、ガスの明るい炎がありますね。仮にこの炎にものすごくたくさん空気を加えて、粒子が分離する前にすべて燃えてしまうようにしたとしましょう。そうしたら、こんな明るい炎にはなりません。こうすればそれを実現できます。まずガスの流れに、こうして金網の帽子をかぶせましょう。そしてその上からガスに火をつけます。すると、炎はまったく明るくなりません。燃えるまでに、空気とたっぷりまざるからです。そしてこうして金網を持ち上げると、金網の下では炎が燃えていないのがわかるでしょう原注2-4。ガスの中には、炭素はたっぷり含まれています。でも、空気がそこに到達できて、燃える前にガスと混じれるから、炎はほとんど無色に近い青になってるのが見えますね。そしてこっちの明るいガスの炎に息を吹きかけて、炭素が輝くほど熱される前に燃え尽きるようにしましょう。するとこっちの炎も青くなります。 [講師、ガスの炎に息を吹き付けて、いまの発言を実証する。] こうやって息を吹き付けると、明るい炎にならない理由というのは、炭素が炎の中で分離されて、自由な状態になる前に、十分な空気と出会ってしまうということだけです。ちがいはひたすら、ガスが燃える前に固体粒子が分離されないという点にだけあるんですな。

ロウソクの燃焼の結果として、いくつかできるものがあるのはわかりましたね。そしてその産物の一部は、炭やすすと思っていいこともわかりました。その炭は、後で燃やすと、さらに別の産物をつくります。そしてこんどは、その別の産物ってのがなんなのか、というのがどうしても気になっちゃいますね。なにかが空中に出ていっているのはもうごらんにいれました。さあこんどは、どれだけのものが空中に放出されているかを理解してほしいんです。このためには、ちょっと大がかりに燃焼をやってみましょう。ロウソクからは、熱い空気が立ちのぼります。でも、そうやって上昇する物質の量をつかんでもらうために、燃焼から出てくる産物の一部をつかまえてみましょう。

このために用意したのが、男の子たちが熱気球と呼んでいるものです。ここではこの熱気球を、われわれの考えている燃焼から出てくるものをはかるための、計量容器がわりにだけ使いましょう。さあ、この目的にぴったりの形で、簡単かつ楽に炎をつくってみましょう。このお皿は、いわばロウソクの「くぼみ」にあたります。このアルコールが燃料です。そしてこいつに、こうやって煙突をかぶせましょう。めくら滅法につかまえるより、こうしたほうが都合がいいからです。アンダーソンさんが燃料に火をつけてくれますよ。そしててっぺんのところから、燃焼の結果が出てくるはずです。この管のてっぺんから出てくるものは、一般的にいって、ロウソクの燃焼から出てくるものと、まったく同じです。でもここでは炎は明るくありません。アルコールには炭素があまり含まれていないからです。さあこの気球をこうして――飛ばしはしませんよ、それはここでやりたいことじゃないですから――ロウソクからあがる産物の働きの結果を示したいだけです。ここの火から立ちのぼってくるのと同じようにね。 [気球をロウソクの上にかぶせると、すぐにふくらみだした。] さあ、こいつが上昇したがってるのがわかりますね。でも行かせてはだめです。このままあがると、天井のガス灯に接触しちゃうでしょう。そうなったらとても困りますからね。 [天井のガス灯が、講師の要望で消されたので、気球は上昇させてもらえた。] これで、大量の物質が生み出されているのがわかりませんか訳注2-1

さて、こちらのガラス管の中は [とロウソクに大きなガラス管をかぶせる] 、このロウソクの産物すべてが通過するわけですが、すぐにわかるのは、このガラス管がかなり曇ってくるということです。別のロウソクを、こんどはびんの下に置いてみましょう。そしてびんの向こう側から光をあてて、ちょっと見やすくしましょう。びんの横のところが曇ってきて明かりも暗くなってきますね。明かりがこんなに暗くなるのと、びんの内側がこんなに曇ってくるのとは、同じ産物のせいなんです。おうちに帰ったら、冷たい空気の中にあったスプーンを用意して、それをロウソクの上にかざしてみましょう――すすがつかないくらいには離してくださいよ――すると、いまのびんが曇ったみたいに、スプーンも曇るはずですよ。銀のお皿かなんかがあったら、もっとはっきりわかる実験ができるでしょう。そして次回お目にかかるときまでのお楽しみに、こうやって曇るのは水のせいだということをお話しておきましょう。今度集まったときには、その水を簡単に液体にさせられるんだ、ということをお見せします。

原注 2-1:
ヒゲノカズラ粉末は黄色っぽい粉で、ヒゲノカズラ (Lycopodium clavatum) の果実からとれ、花火に使われる。
原注 2-2:
ブンゼンの計算によると、酸化水素の吹官の温度は 8,061℃ である。空中で燃焼する水素は、3,259℃ になり、空中で燃える石炭ガスは 2,350℃ になる。
原注 2-3:
硫化アンチモンと塩化カリウムの混合物に硫酸が火をつける化学反応は以下のとおり。塩化カリウムの一部が硫酸によって、塩素酸と二硫化カリウム、過塩素カリウムに分解される。塩素酸が燃えやすい硫化アンチモンに火をつけて、全体がすぐに燃え出す。
原注 2-4:
実験室でとても重宝する「エアバーナー」は、この原理を使って特徴を出している。このバーナーにはシリンダー状の金属の煙突がついていて、そのてっぺんを、ちょっと粗い金網が覆っている。これがアルガンバーナーの上に取り付けられて、このためガスが煙突の中で空気とまじり、炭素と水素を同時に燃やし尽くせるようになる。このため、炎の中で炭素が分離されず、したがってすすも出ない。炎は、金網を通れないので、金網の上のところで安定してほとんど目に見えない炎となって燃え続ける。
訳注 2-1:
そうかな。単に熱で空気が膨張しているだけ、とも考えられるから、これで物質が出てきているかどうかはわからないのではないかな。

©1999 山形浩生. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。