宝島 ロバート・ルイス・スティーヴンソン 第一部

船長の地図


僕たちはリバシーさんの家まで馬を走らせ、玄関にたどりついた。表からみると家はまっ暗だった。ダンスさんは、僕に馬をおりてドアをノックするようにといったので、ドガーさんがあぶみを差し出してくれて僕は馬を下りた。それと同時に玄関が開き、メイドが顔をだした。

「リバシー先生はいますか?」と僕は尋ねたが、いいえというのがメイドの答えで、午後に先生は帰宅しましたけれど、大地主さんの家に夕食に呼ばれて、今晩はそこで過ごしているということだった。

「では、そこへ行くとしよう、さぁ」とダンスさんは言った。

今度はすぐ近くだったので僕は馬にも乗らず、ドガーさんのあぶみにつかまりながら走り、門番の小屋のところまで行った。すっかり葉が散っていて、月明かりに照らされている長い並木道を上っていくと、古くて立派な庭の両側に屋敷の白い輪郭が見えるところまでやってきた。そこでダンスさんも馬をおり僕を一緒に連れて、ひとこと断ると家の中に通された。

召使が先導し、僕らはマットが敷いてある廊下を歩き、つきあたりの大きな書斎に案内された。そこには書棚がならんでいて、その上には胸像がおいてあり、大地主さんとリバシー先生はパイプを手にして暖炉の両脇に腰かけていた。

僕は、そのときまで大地主さんをそんな近くで見たことはなかった。大地主さんは背の高い人で6フィート以上あり、相応に肩幅がひろく、ぶっきらぼうで無骨な顔立ちをしており、長い旅行を重ねたためすっかり荒れた、赤茶けてしわだらけの顔をしていた。まゆげはまっくろで、よく動いていた。そのために機嫌がわるいというのではないけれど、いくぶん短気で怒りっぽいようにもみえた。

「お入り、ダンス君」と大地主さんが堂々として、ていねいにこういうと、先生も「こんばんは、ダンス君」と言ってうなずいた。 「こんばんは、ジム君。ここにくるなんてどういう風のふきまわしだい?」

監察官はピンとまっすぐ立つと、授業でもするかのように話を始めた。2人の紳士が身を乗り出しお互いに見つめあいながら、驚きと興味のあまりタバコを吸うことも忘れている姿がどんなふうだったか、みなさんにお見せしたかったくらいだ。2人が僕の母親がどうやって宿屋に引き返したかを聞いたとき、リバシー先生は腿をパンと打ち、大地主さんは「偉いぞ!」と叫び、長いパイプを暖炉にぶつけて壊してしまった。話し終わるずっと前から、トレローニーさんは(おぼえているだろうか、それは大地主さんの名前だ)立ち上がって、部屋を大またで歩き回っていた。そして先生はもっとよく聞こうとでもするかのように髪粉をつけたかつらをはずして座り込んでいたが、短く刈り込んだ黒い頭はとても奇妙に見えたものだった。

とうとうダンスさんは話し終えた。

「ダンス君」大地主さんは言った。「君は見上げた男だよ。あの腹黒いたちの悪い悪党を馬で踏みつけたことについて言えば、ゴキブリを踏みつぶすような善行と考えていいと思うな。ホーキンズ君も大手柄だ。ホーキンズ君、ベルをならしてくれるかな? ダンス君はビールを飲まなきゃいかん」

「そしてジム君」先生は言った。「君はやつらが捜し求めてたものをもってるんだね、そうだろう?」

「ええ、ここにあります」と僕は言って、油布の包みを先生に渡した。

先生はそれをよく調べると、先生の指はそれを開けたくてうずうずしているようだったが、開ける代わりにコートのポケットに静かにしまいこんだ。

「大地主さん」先生は言った。「ダンス君がビールを飲み終わったら、もちろん陛下のために働くため席をはずさなきゃなりません。でもジムはここにおいて、家に泊めてやろうと思うんです。お許しねがえるなら、冷たいパイをとりよせてジムに夕食をとらせてやりたいんですが」

「どうぞ、リバシーさん」大地主さんはそういうと、「ホーキンズ君は、冷たいパイよりずっとすごいものを手に入れたんだしな」と続けた。

そして大きな鳩みたいなパイが運ばれてきて、僕は鷹みたいに腹を空かせていたので心ゆくまで食事をした。その間ダンスさんはいろいろ誉められて、そして退席した。

「さて、大地主さん」先生は言った。「さて、リバシーさん」大地主さんも同時に口を開いた。

「一人ずつ、一人ずつ」リバシー先生は笑いながら言った。

「フリントのことは聞いたことがあるだろうねぇ」「フリントのことを聞いたことがあるかだって!」大地主さんが叫んだ。「聞いたことがあるかって言いましたな! やつほど残虐無比な海賊はいませんぜ。黒ひげでさえフリントに比べれば子供みたいなもんだ。スペイン人のやつらときたらあんまりやつを恐れるもんで、正直な話、私はフリントがイギリス人なのを自慢したこともあったくらいだ。実際私はこの目でフリントのトップセイル(トップマストの帆)をみたことがあるんだ、トリニダードの沖合いでね。私の乗ってた船の、あのラムばかりあおっていた臆病者の船長が逃げ出したんだ、そう、ポートオブスペインにね」

「そう、私もイギリスで彼のことは耳にしましたぞ」先生は言った。「ただ肝心なのは、やつが金をもっていたかどうかですな?」

「金だって!」大地主さんは叫んだ。「話をちゃんと聞いてなかったな? あの悪党どもが探し回っているのが金じゃないなら何なんだい? やつらが金以外のなにを欲しがるというんだ? やつらが金以外のいったい何のために、自分の身を危険にさらすもんかい?」

「すぐにわかりますよ」先生は答えた。「でもそんなにひどく興奮して大声をだされるようだと、一言もいえやしませんよ。私が知りたいのはこういうことです。私のいまこのポケットにあるものが、フリントが宝物を埋めた場所への手がかりだとしたら、その宝物はすごいものでしょうかな?」

「そりゃあ!」大地主さんは叫ぶと、こう続けた。「そうですな、あなたが言うとおりの手がかりがあるなら、わたしはブリストルの波止場で船を見つけてきて、あなたとこのホーキンズ君と一緒にいきますぞ。一年がかりでもその宝物を手に入れますよ。そう、それくらいの価値は十分にあるでしょうよ」

「よろしい」先生は続けた。「では、ジム君が賛成してくれるなら、この包みをあけてみることにしましょう」と包みをテーブルの上に置いた。

包みは縫いつけられていたので、先生は自分の医療箱を取りだしてきて、医療用のはさみで縫い目を切らなければならなかった。中には2つのものが入っていて、1冊の帳簿と、一枚の封をした紙があった。

「まず帳簿を調べてみよう」先生はそう言った。

大地主さんと僕は、先生の肩ごしに帳簿を開くのをみていた。リバシー先生は親切に僕にも食事をしていたサイドテーブルからこちらへくるように手招きしてくれたので、僕もそれを調べる楽しみに加わることができたのだ。最初のページには、ペンを手にした人が試し書きでもしたような殴り書きがあるだけだった。その一つはあの入れ墨と同じ「ビリーボーンズのお気に入り」というものだったし、「W・ボーンズ氏、船乗り」、「ラムはけっこう」、「パルムキーの沖でそれを手に入れた」とかそんな殴り書きが、ほとんどは単語ではっきりしない文字が書かれていた。僕は「それを手に入れた」というのは誰がなのかとか、手に入れた「それ」とは何なのか、不審に思わずにはいられなかった。背中にナイフでもくらったとかそんなことなんだろう。

「ここにはたいした手がかりはないな」リバシー先生はページを送りながらそう言った。

次の10 〜12ぺージは奇妙な書き込みで埋めつくされていた。行の端に日付があり、もう一方の端に金額があるのは普通の会計の帳簿と同じだったが、2つの間には説明書きのかわりにただ十字のしるしがそれぞれの行に違った数記入されているだけだった。例えば、1745年の6月12日には明らかに70ポンドを誰かに支払っていたが、その理由を説明しているのは6つの十字だけだった。確かに場所の名前を「カラカッサ沖」とか、単に緯度経度が62度17分20秒、19度2分40秒といったぐあいに書いてあるところもあった。記録はおおよそ20年をこえるくらいも続いていて、金額の合計は年を経るにつれだんだん大きくなっていき、ついには総合計が5、6回も間違って合計されたあげくにはじき出されていて、「ボーンズ、その財産」となっていた。

「まったく訳がわからんな」と先生が言うと、

「きわめて明らかじゃないか」大地主さんは叫んで、「これはあの悪魔のような犬畜生の会計簿ですよ。この十字のしるしはやつらが沈めたり、略奪した船や町の名前を示しているんでしょう。金額があの悪いやつの取り分で、あいまいかもしれないと思ったところに、あんたも見たようにはっきりと書き加えているんですな、“カラカッサ沖”とか。つまりその沖合いで海賊どもが横付けした不幸な船が何艘があって、乗ってた人の骨はかわいそうにずっと昔にさんごにでもなってるかな、冥福を祈るよ」

「その通りだ!」先生は言った。「やっぱり旅行家たるものは違うなぁ。その通りだ! 金額が増えているのは、そう、やつが偉くなるにつれてなんだ」

後はその冊子の最後の数ページの白紙にいくつかの場所の方角と、フランスとイギリスとスペインの換算表が書いてあるくらいのものだった。

「しっかりした男だ!」先生は叫んだ。「だまされるような男じゃないな」

「さて」大地主は言った。「もう一つだ」

その紙は何ヶ所も指貫で封印がされていた。たぶん僕が船長のポケットで見つけたあの指貫だ。先生はとても注意深く封を開けると、島の地図が出てきて、緯度経度と、水深、丘や湾そして入り江の名前があり、船が安全にその岸の停泊所に入港するのに必要な点がすべて記入されていた。縦に9マイル横に5マイルほどで、その形は、こう言えるかもしれない、太った竜が立ち上がっているような形だと。2つの陸に囲まれた良港があり、中央には「望遠鏡」という名前の丘が一つあった。その後の日付でもいくつかの追記があったが、結局、赤いインクで3つの十字が、2つは島の北の方に、1つが南西の方に記されていた。南西の方のしるしの側には、同じ赤いインクだが、小さなきちんとした字で、船長のよろめいた字とは似ても似つかない文字でこう書かれていた。「宝物の大部分はここに」

裏にも同じ筆跡でより詳しいことが書かれていた。

北北東より1ポイント北の、望遠鏡の丘の肩の部分、高い木 どくろの島の東南東より東10フィート 銀の延べ棒が北の隠し場所。 東の小高い丘の傾斜面で、10尋(ひろ:手をひろげた大きさ)南の黒いごつごつした 岩に面したところで見つかるだろう。 武器はすぐにも見つかる。北の入り江の岬の北方の、東から四分の一北の砂丘にある。 J・F

以上で、短いけれども僕にはなんのことやらさっぱり分からなかったが、大地主さんとリバシー先生ときたら大喜びだった。

「リバシーさん」大地主さんが言った。「君はその惨めな仕事をさっさとやめるんだね。私は明日ブリストルに行く。三週間のうちに、三週間! いや二週間、いや十日だ。われわれはイギリスで最上の船で、とっておきの船員を手にいれるんだ。ホーキンズ君も客室のボーイとして一緒にくるんだ。ホーキンズ君、君はすてきなボーイになるよ。リバシーさんは船医だ、私は提督だな。レッドルースとジョイス、それからハンターも連れて行こう。順風満帆で、その場所も簡単にみつかるさ。そしてそれから後は、食べて、贅沢にくらして、湯水のように使えるくらいの金を手に入れるんだ」

「トレローニーさん」先生は言った。「ご一緒しますよ。ジムも行くことは請合いましょう。この冒険の名誉を担うでしょう。でもたった一人だけ心配な人がいるんですよ」

「だれだい?」大地主さんはさけんだ。「そいつの名前をいいたまえ、君!」

「あなたですよ」先生は答えた。「あなたは黙っていられないお人だから。この紙のことを知っているのは、私たちだけではないんです。今晩あの宿を襲ったやつら、乱暴な手におえないやつらですよ。たしかにあの小船に残っていたやつらも、それから言っておきますが、それほど遠くにいないやつらも一人残らず、なにがあろうと、その金を手に入れようとするでしょう。海にでるまでは、誰も離れちゃいけません。ジムと私は、それまで一緒にいましょう。あなたはジョイスとハンターと一緒にブリストルに行って下さい。最初から最後まで私たちの誰一人として、見つけたものについて一言でももらしちゃいけません」

「リバシーさん」大地主さんは答えた。「あなたのいうことはいつも正しい。わたしは墓場のように静かにしてることにするよ」


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