宝島 防護柵, ロバート・ルイス・スティーヴンソン

先生による続きの物語:小型ボートの最後の航行


この五回目になる航行は、前回のどの航行とも全く違ったものだった。第一に、われわれの乗っているこの小さな壺みたいなボートは明らかに過積載だった。五人の大人が乗っていて、しかもそのうちトレローニーさん、レッドルース、船長の三人は背丈が六フィートを超えていたから、それだけでも船で運べる量を超えていた。それに加えて、火薬、豚肉、パンの入った袋があった。ボートの後ろは船べりまで水がせまっていた。何回もボートは水をかぶり、百ヤードも行かないうちに私のズボンと上着のすそはびしょぬれになっていた。

船長がわれわれの座る位置を調整し、ボートのバランスを上手くとってくれて、船はすこしは水平に近くなった。ただ依然として、息をするのにもびくびくするほどだった。

第二に、引き潮になり、強いさざなみのたつ流れが入り江の中を西の方に流れ、それから南の方へ、そしてわれわれが朝入ってきた海峡を海の方へと流れていた。さざなみでさえ、われわれの過積載の船には危険だった。でもなんと言っても最悪だったのは、本来のコースから離れ、目標の上陸地点から離れていっていることだった。流れのままにしていたら、われわれはあの海賊の船のそばに着岸して、そこへ海賊たちがいつ何時現れても不思議ではなかった。

「船を柵の方へ向けておけません、船長」と私は言った。私は舵をとり、船長とレッドルース、二人の元気いっぱいの男がオールをこいでいた。「潮のせいで流されているんです。もう少し強くこげませんか?」

「ボートがひっくり返ります」船長は言った。「持ちこたえてください、先生、どうか進んでいくのがわかるまで持ちこたえてください」

私はなんとかやってみたが、潮がわれわれを西の方へ流すので、へさきは東へ向いてしまった。つまりわれわれが向かわなければならない方向に対して、ちょうど直角になったのだ。

「このままじゃ着岸できません」私は言った。

「それがわれわれのとりうる唯一のコースなら、先生、そのコースをとらざるを得ないでしょう」船長は答えた。「流れにさからいましょう。わかりますな、先生」船長は続けた。「上陸場所の風下に流されでもしたら、どこに上陸できるかわかりません。おまけに海賊の船に襲われる恐れさえありますから。としても、われわれが進んでいく方では流れもゆるやかになるだろうし、そうすれば岸に逃れられるでしょう」

「流れはもう大丈夫ですよ、船長」へさきに座っているグレーが言った。「船の速度を少しゆっくりにしても大丈夫でしょう」

「ありがとう、君」まるで何事もなかったかのように、私は答えた。というのもわれわれはすでに口には出さないが、彼をわれわれの一員として取り扱うことを心に決めていたのだ。

突然、船長が再び口火を切った。そして私は船長の声色が少し変わったのに気づいた。

「大砲だ!」船長は言った。

「私もそれは考えましたよ」私は言った。というのも私は船長はとりでの砲撃のことを考えていると思ったのだ。「やつらは大砲を上陸させられないでしょう。出来たとしても森の中を運ぶなんてできっこないですよ」

「後ろをごらんなさい」船長は答えた。

われわれは九ポンド砲のことをすっかり忘れていた。恐ろしいことに、五人の悪党どもが立ち回っていて、航海の間は丈夫な防水コートと呼んでいたカバーを外していた。そればかりでなく、同時に私がぴんときたのは、砲弾と大砲の火薬を残してきたことだった。斧のひと振りでそれらは全部、船の悪党どものものになるのだ。

「イスラエルはフリントの砲手だったんだ」グレーはしわがれ声で言った。

あらゆる危険を冒して、われわれはボートのへさきをまっすぐ上陸地点へと向けた。このときは、われわれは流れからすっかり離れていたので、やむをえずゆっくり漕がざるをえなかったが、舵をきかせることはできた。私はボートを上陸地点にしっかり向けておくことができた。しかし最悪なことに私が今とっているコースだと、ヒスパニオーラ号に船尾を向ける代わりに舷側をむけることになるのだった。それは納屋のとびらみたいなものでかっこうの標的だった。

私にはブランデーづけの悪党イスラエル・ハンズが砲弾を一つ甲板にどしんと投げ出したのが、目に見えただけでなく耳にもその音が届いた。

「だれが一番射撃が上手い?」船長はたずねた。

「断然トレローニーさんです」私は言った。

「トレローニーさん、やつらのうちで一人でも狙って撃ってもらえませんか? ハンズがいいですな、できれば」船長は言った。

トレローニーさんは全く動ずることもなく、自分の銃の火薬の装填を調べた。

「ただ」船長はさけんだ。「静かに撃ってくださいよ、そうしないとボートがひっくり返りますから。ねらいをつけているときは、バランスをとるよう準備してください」

大地主さんは銃をもちあげ、ボートが止まり、われわれはバランスをとるために反対側にもたれかかった。全ては上手くいって、ボートは一滴も水をかぶらなかった。

やつらもこのときには、大砲を回転台の上で回転させ、ハンズは砲弾をつめる棒をもって砲口のそばに立っており、したがって一番姿をさらしていた。ただわれわれには運が悪いことに、トレローニーさんが撃ったそのときハンズはかがみこみ、銃弾はハンズをかすめていった。倒れたのは、他の四人のうちの一人だった。

倒れた男の叫びに呼応したのは船上の男たちだけではなく、岸からもいろいろ声が聞こえてきた。その方向をみると、他の海賊たちが木々の間からぞろぞろ出てきて、船のそれぞれの場所にころがりこんだ。

「やつらの船がきますよ」私は言った。

「では、全速力だ」船長は叫んだ。「ひっくり返らないように気をつけてなんていられない、岸に着けなきゃおしまいです」

「片方の船にしか人は乗ってませんよ、船長」私はつけ加えた。「どうやらもう一方の船に乗ってるやつらは、岸づたいにわれわれの行く手をさえぎるつもりらしいですな」

「やつらは息を切らしてるでしょう、先生」船長は答えを返した。「陸に上がった船乗りですからな。やつらのことなんて全然気にしてません。私が気にしているのは、砲弾です。カーペットボーリングみたいなもんです! はずすわけないですよ。大地主さん、火縄が見えたら言ってくださいよ、漕ぐのをやめますから」

その間も、われわれは過積載のボートにしてはいいペースで前進していたし、進んでいるときもほとんど水もかぶっていなかった。岸までもう少しのところまで来ていて、あと三十か四十こぎで着くことができただろう。というのも干潮のために、生い茂った木々の下に狭い砂地がすでに現れていたからである。やつらの船には心配はいらなかった。海岸線のまがった所のために、やつらの船は見えなくなっていたからである。われわれをひどく手間取らせたあの干潮は、今はそのかわりにわれわれの敵を手間取らせていた。唯一の危険は大砲だった。

「もしできるなら」船長は言った。「停まって、もう一人を間引いてやりたいんだがな」

でも何をしても、やつらが大砲を撃つのを遅らせることができないのは明らかだった。やつらは倒れている仲間を一瞥だにしなかった。まだ生きていて、這って逃げようとするのが私からも見えたくらいなのに。

「用意!」大地主さんが言った。

「停まれ!」船長はこだまのようにすばやく叫んだ。

そして船長とレッドルースは、ボートの船尾がすっかり水に沈むほど大きくひと漕ぎしてバックした。砲声がその瞬間に響き渡った。これがジムが耳にした最初の砲声で、大地主さんの一発はジムには聞こえていなかった。砲弾がどこを通ったかは、われわれの誰もきちんとは分からなかったが、私が思うに、われわれの頭上を越えていったに違いない、その風もわれわれを襲った惨事に一役かっていたのだろう。

とにかくボートは、船尾からゆっくりと三フィートほど沈んでいった。船長と私は向かい合って、自分の足で立っていた。他の三人は頭からまっさかさまに水に落ちて、ずぶぬれで泡をふきながら立ち上がった。

ここまでは、深刻な被害はなかった。誰も命を落としていないし、無事岸まで歩いていけた。しかしわれわれの荷物はすっかり水につかってしまった。もっと悪いことに、銃は五丁のうち二丁しか役にたたなくなっていた。私の銃は、反射的にひざの上から頭上に持ち上げていたし、船長の銃は弾薬帯で肩の上にのせられていて、賢いことに引き金が上になっていた。他の三丁の銃はボートといっしょに水没してしまった。

さらに困ったことに、われわれは岸沿いの森から迫ってくる声も聞きつけた。そしてわれわれは半ば手足をもがれた状態で防護柵への道を断たれる危険があっただけではなく、もしハンターやジョイスが半ダースばかりのやつらに攻撃されたら、常識を働かせて、ふみとどまってくれるかどうかという恐れもあった。ハンターは大丈夫だとわれわれは知っていたが、ジョイスは疑わしかった。ボーイとして人の服にブラシをかけるには、陽気で礼儀正しい男だったが、戦うのには全く適していなかった。

こんなことを考えながら、ボートを捨て、火薬と食料の半分あまりはそのままほって置いて、われわれはできるかぎり急いで岸まで歩いた。


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