宝島 ジョン・シルバー, ロバート・ルイス・スティーヴンソン

黒点ふたたび


海賊たちの会議はいぜん続いていたが、そのうちの一人がふたたび部屋へ入ってきた。ふたたび同じ敬礼をすると、それは僕の目にはいくぶん皮肉に思えたが、たいまつを借りますよと断った。シルバーはすぐ、よしと言って、この使者は僕らを暗闇に残してふたたび出て行った。

「ごたごたがおこるぜ、ジム」シルバーが言った。このときまでにはすっかりうちとけて、親しげでさえあった。

僕は近くの覗き穴のところに行き、外をみた。大きなたきびの残り火は消えていて、明かりはすっかり暗くなっていたので、僕は共謀者たちがたいまつが必要なわけも分かった。柵への坂を半分くらい下ったところに、やつらは一団に集まっていた。一人が明かりを照らし、もう一人が集団の真ん中で両膝をつき、僕はその手にナイフの刃がにぎられ、月やたいまつの光でさまざまな色に輝いているのが見てとれた。残りのものはみんな、まるでその男がやっていることを見守っているかのように少しかがみこんでいた。僕はその男の手にナイフだけではなく、一冊の本があるのをみてとった。そしてなんでこんなに似つかわしくないものを持っているのだろうと不思議に思っていると、ひざまずいていた男が再び立ち上がり、全員が丸太小屋にむかって歩き始めた。

柵への坂を半分くらい下ったところに、やつらは一団に集まっていた。

「そら、みんながくるよ」僕は言って、もとの場所に戻った。動向を見守っていたなんて知られるのは、なんだか僕の威厳をそこなうみたいだったから。

「あぁ、好きにさせておけ、ぼうや。好きにさせておくんだ」シルバーは陽気に言った。「わしにはまだ、とっておきの手があるんだ」

ドアがあき、五人の男が中に入るのをみんなためらっていて、そのうち一人を前に押し出していた。他の場合だったら、その一人がおずおずと、固く握った右手を前にだしながら一歩一歩、歩む姿はおかしなものだっただろう。

「さぁこいよ、おまえ」シルバーはさけんだ。「とって食いやしないよ。わたすんだ、まぬけ。規則はわかってる、もちろん。代表者を切りつけたりはしねぇ」

それに励まされて、その海賊の男は前に勢いよく出て、何かをシルバーに手渡した。そして仲間のところにもっと急いで戻っていった。

料理番は、わたされたものを見ていた。

「黒点か! そうだと思ったよ」シルバーはこぼした。「こんな紙をどこで手に入れたんだか? おや、おやおや! 見ろよ、よくねぇぞ! 聖書をやぶるとはな。誰が聖書を破ったんだ?」

「あぁ、そうだよ!」モーガンが言った。「そうだよ! おれがいったろう? 聖書をやぶるのはまずいって、おれは言ったぞ」

「まあ、決めたんだろ、おまえらでな」シルバーは続けた。「おまえら全員しばり首だろうな。いってぇ、どこのぼんくらやろうが聖書なんてもってたんだ?」

「ディックだよ」一人が答えた。

「ディックだと? ディックは祈った方がいいぞ」シルバーは言った。「やつの幸運もこれまでだな、ディック、そうだぞ」

しかしここで、黄色い目の背の高い男が割って入った。

「ごたごたいうのはやめてもらおう、ジョン・シルバー」その男は言った。「このみんなで十分に相談して、おまえに黒点をつけたんだよ、決められたとおりにな。さぁ裏返してみな、決められたとおりに。そこになんて書いてあるかをみるんだ。それから口をきけよ」

「これはこれは、ジョージ」料理番は答えた。「おまえはいつもてきぱきしてるし、規則はしっかりおさえてる、ジョージ、見ていて楽しいよ。さて、とにかくなんだって? あぁ! 『免職』だって? きれいな字だ、確かに。印刷されてるみたいだ、誓ってな。おまえが書いたのか、ジョージ? おまえがこの船員たちを先導しているんだな。次の船長というわけだ。わしはそう思うぞ。どうかわしにたいまつを頼む。パイプの火が消えちまった」

「おい、」ジョージは言った。「これ以上船員をばかにするなよ。みんなが言うには、おまえはひょうきんな男だ。でもやりすぎだぞ。樽から降りてきて、投票したほうがよくはねぇか」

「わしは、おまえが規則を知ってると言ったと思ったがな」シルバーは軽蔑したように返事をした。「少なくとも、おまえが知らないにせよ、わしは知ってるし、ここで待つぞ。わしはまだ船長なんだ。覚えとけ。おまえらが不平を言っておれが答えるまではな。そのあいだは、おまえの黒点はビスケット一枚の価値もないんだ。話のあとにしてくれねぇか」

「あぁ」ジョージは答えた。「おまえはぜんぜん心配しなくていいぜ。全員、準備万端だからな。第一に、おまえは航海でしくじった。おまえもしくじってないなんて言うほど、あつかましくはないだろうよ。第二に、おまえは敵をここのわなから何の理由もなく解放した。なぜやつらは出て行きたがったんだ? おれもわかんねぇ。でもそうしたがっていたのは明らかだ。第三に、やつらが出て行く時におれたちがやっつけるのを止めた。あぁ、おまえの魂胆はみえすいてるよ、ジョン・シルバー。おまえはやつらとぐるになって、おれたちをだまそうとしてるんだ。それがおまえの悪いところだ。そんで、四つ目はこのぼうやだよ」

「それで全部かな?」シルバーは物静かに尋ねた。

「じゅうぶんすぎるだろ」ジョージは答えた。「おまえがへまをしたために、おれらは首をつられて天日干しだ」

「あぁ、そうだな。四つの点について答えてやろう。一つずつ答えてやるよ。わしがこの航海でへまをした、わしがか? おい、おまえらはみんなわしがどうしたかったか知ってるな。もしそうしてたら、今晩はヒスパニオーラ号に乗り込んでて、もちろん全員生きのこって、そんで元気いっぱいで、プラムブディングをたらふく食べ、宝物をずっしり積み込んでたろうよ、間違いなく! さぁ、誰が邪魔したんだ? 誰が正当な船長のわしにこうさせたんだ? 誰が上陸したあの日にわしに黒点をつけて、このおどりをはじめたんだ? あぁ、楽しいおどりだよ。わしも賛成するぜ。まるでロンドンの処刑波止場でロープの先にぶら下がるおどりみたいなもんだな。で、誰がそうしたんだ? そうだ、アンダーソン、ハンズ、そしておまえのせいだぞ、ジョージ・メリー。そんでおまえが、余計なお世話やろうの最後の一人というわけだ。それでわしをさしおいて船長になろうだなんて、海神もびっくりだ。わしらを貶めたおまえがな! なんてこった! こんなばかげたほら話は聞いたこともないぜ」

シルバーはそこで一息置いて、僕はジョージやその仲間の顔をみて、シルバーの言葉が全くの無駄ではないことを確認した。

「それが一つ目に対する答えだ」額からふきでる汗をぬぐいながら、被告人が大声でいった。というのもシルバーは丸太小屋をゆるがすほどの激しさで話していたのだ。「おまえらに物をしゃべっていると、嫌になるぜ。分別もなけりゃ満足に物も覚えてられねぇ。わしは、なんでおまえらの母親がおまえらを海へとだしたのか見当もつかねぇや。海へとな! 成金が! しょせん仕立て屋ふぜいなんだよ」

「つづけてくれ、ジョン」モーガンは言った。「他のやつに対する答えも頼む」

「他のやつだって!」ジョンは答えた。「なかなかたくさんあるからな、そうだろ? この航海が失敗したって言ったな。あぁ! くそったれ、もしどれくらい失敗してるかを自覚してくれたらなぁ! 考えただけでもぞくぞくする首つりまで、ほんの少しのところにいるんだぞ。おまえらも見たことくらいあるんだろ。鎖でぶらさげられて、鳥がたかってる姿をな。潮に流されて行くのを船員たちが指さすんだぞ。『やつは誰だ?』ってな。『そうだ! あれはジョン・シルバーだ。おれはやつをよく知ってるぞ』って他のやつが言うんだ。おまえたちは、次のブイのところまで行くと、鎖がじゃらじゃら鳴ってるのがきこえるってわけだな。ふん、それがわしらの末路だよ、わしら全員のな。やつに感謝するんだな、あとハンズ、アンダーソン、それから救いがたいばかもののおまえら自身にも。もし四つ目について知りたいなら、このぼうやだろ、なんてこったい、こいつは人質じゃねぇか? 一体なんだって人質を殺しちまうんだよ? わしらがやることじゃねぇだろう。こいつは、最後にわしらに残されたチャンスじゃねぇか、間違いなくな。このぼうやを殺すだって? わしはいやだぜ、みんな! それから三つ目か? あぁ、よしよし、三つ目についてはいいてぇことは山ほどあらぁ。おめぇらは、本当の大学出の医者が毎日診にきてくれるのを何とも思ってねぇんだろうな、たぶん。ジョン、おまえは頭をけがしてるんじゃねぇのか? おい、ジョージ・メリー、おまえはマラリア熱にかかって六時間もたってねぇだろ、おまえの目ときたら今だってレモン色じゃねぇか。そんで、たぶん、おまえらは助け船がやってくることもしらねぇんだろ? でも来るんだよ、それもそんなに遠くない先にな。だからそんときがきたら、人質をとっててよかったってことになるだろうよ。二つ目は、どうしてわしが取引をしたかってことだな、よし、おまえらはそうするためにわしの膝にすがってきたんじゃねぇか。わしの膝によ。すっかり落ち込んで、おまけに飢え死にしそうだったじゃねぇか。もしわしが取引しなかったら、まあそんなことはどうでもいいんだ! こいつをみるんだな、こいつを!」

そしてシルバーが床になげだした紙は、僕はすぐにわかったが、まさにあの黄色い紙に他ならなかった。三つの赤い十字がついてて、僕があの船長の衣装箱の底で油布に包まれていたのをみつけたあの紙。どうして先生がその地図をシルバーに渡したのか、僕には想像もつかなかった。

でももし僕にとってもわけがわからないくらいなら、その地図があらわれたのは生き残った海賊たちにとっては奇跡みたいなものだった。やつらはネズミにおどりかかる猫のように、その地図にとびかかった。それは手から手へと受け渡され、次から次へとひったくられていた。そして悪態をついたり、どなったり、調べては子供のように笑ったりする姿は、もしその姿をみたら、宝物を手にしているだけでなく、その上、もう無事に宝物を海へ持ち出しているんだと思っただろう。

「おい」一人が言った。「これはフリントのやつに間違いねぇ。J・Fで、その下に印があって、巻結びみたいになってる。やつはいつもそうしてた」

「違いねぇ」ジョージも言った。「でも、船もねぇのにどうやって宝物をもってくんで?」

シルバーはとつぜん立ち上がって、壁に片手をついて体をささえ「おまえに警告しとくぞ、ジョージ」とどなった。「もう一言でも生意気な口をきこうもんなら、どなりつけ、やっつけてやる。どうやってだって? わしが知るかい? おまえらがわしに教えてくれて、しかるべきだな。おまえとその他全員だ。わしの邪魔をしてスクーナー船をなくしたおまえらがな、くそったれ! でもおまえらにはできねぇ、無理ってもんだな。おまえらにはゴキブリほどの頭もねぇからな。でも、てめえらだって丁寧な口くらいきけるんだろ、ジョージ・メリー、おまえにもそうしてもらおうか」

「そいつはもっともだ」年とったモーガンがもらした。

「もっともだとわしも思うぞ!」料理番は言った。「おまえらは船をなくした。わしは宝物を見つけた。だれがえらいんだ? とっとと辞めてやらぁ! 誰でもすきなやつを船長に選んでくれ。わしは辞めたんだから」

「シルバー!」やつらは叫んだ。「バーベキューは永遠だ! バーベキューが船長だ!」

「じゃあ、それできまりだな?」料理番はさけんだ。「ジョージ、わしが思うに、おまえは別の機会をまたなきゃなんねぇみたいだな、兄弟。わしが執念深い男じゃなくて運がいいぞ。それはわしのやり方じゃねぇからな、兄弟。で黒点か、あんまりいいもんとはいえねぇな? ディックが自分の運を悪くして、聖書をだいなしにしたなんてところだな」

「くちづけするには十分だろ?」ディックは、ぶつぶつつぶやいた。ただ明らかに、自らが招いて、自分の身にふりかかったのろいを不安に感じているようだった。

「切り取った聖書がか!」シルバーが、あざけるような声で言い返した。「そんなわけないだろ。そんなもんは民謡集ほどの価値もないな」

「そんなこともないだろ?」ディックときたら少しうれしそうに叫んだ。「でも、もってりゃいいこともありそうだ」

「そら、ジム、おまえにはおもしれぇだろ」シルバーはそう言って、僕にその紙を渡してくれた。

それはクラウン硬貨ほどの大きさの丸だった。裏は最後のページだったので、白紙だったが、表には黙示録の一編か二編の詩がのっていた。そのなかでもこういう文句が僕の心に響いた。「犬や殺人者は除いて」印刷されている側が炭で黒く塗られていたが、すでにはげてきていて僕の指を黒くした。白紙の方には炭で「免職」と一言、書かれていた。僕はその紙を今でももっている。でも書いてある文字のあとはほとんど残っておらず、一つ傷があるくらいで、それはまるで親指の爪でつけたような傷だった。

その夜のさわぎは、それでおしまいだった。すぐに飲んだりなんだりがあって、僕らは横になって寝た。シルバーの復讐はたかだか、ジョージ・メリーを歩哨にたたせて、心をいれかえろと死ぬほどおどすくらいのものだった。

僕はずいぶん長い間寝つかれなかった。そして神様だけが、僕にたくさん考えることがあるのを知っていた。僕はその午後に人を殺したし、非常に危険な立場に立たされたし、そしてとりわけ、シルバーが見せたすばらしい腕前、片手で海賊たちを結束させ、もう一方の手でできるかどうかは分からないが、あらゆる手段を使って自分の安全をまもり、惨めな人生を救おうとしてるのをみた。シルバーはぐっすりと眠りこみ、大きないびきをかいていた。僕の胸はシルバーのことを思うと痛んだ。悪いやつだが、彼をとりまいている暗澹たる危険や待ち構えている首吊りのことを思うと特にである。


©2000 katokt. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。