宝島 ロバート・ルイス・スティーヴンソン 第六部

仮釈放


僕が目をさましたときには、全員が目をさました。というのは戸口の柱によりかかって寝ていた見張りもおきあがったくらいだ。大きな通る声で、森の境目のところから僕らによびかける声がした。

「丸太小屋!」その声は言った。「医者がきたぞ」

そして先生が来た。その声をきくだけでうれしかったが、僕のよろこびは複雑なものだった。僕はどきどきしていたが、自分が命令に従わなかったことやこそこそと行動したことを覚えていたし、その結果がどうなったかを、どんなやつらに囲まれ、どんな危険に取り囲まれたかを思うと、僕は先生に会わす顔がなかった。

先生は、まだ暗いころに起きたにちがいない。というのもまだ日は明けてなかったから。僕はのぞき穴のところに走って行き、外を見た。そして先生がまるでいつかシルバーがそうしていたように立っていて、きりが立ちこめる中に膝までつかっているのがわかった。

「さぁ、先生! 朝早くからどうもどうも、先生!」シルバーはさけんだ。すっかり目をさまし、そのときはずいぶん機嫌もよさそうだった。「朝早いが天気もいい、たしかに。ことわざでいうとおりだ、早起きは三文の得ですな。ジョージ、どうか先生が柵をこえるのを手伝ってくれ、いいですぞ、先生、あなたの患者は、みんないい調子で元気ですよ」

そうしてシルバーは、片手のわきに松葉杖をはさみ、丸太小屋のわきの丘の上までぱたぱたと歩いて行った。声も、態度も、表現もまさしくジョンそのものだった。

「わしらも先生をおどろかせますぜ」シルバーは続けた。「ここに小さなよそものがいるんでさぁ、あいつです! あいつ! 新しい間借り人ですぜ、先生、とっても元気そうですがね。積荷監督人みたいに寝てますぜ、そうです、ジョンの側でね。一晩中、わしらは枕をならべて寝たんでさぁ」

リバシー先生は、このときまでには柵をこえて料理番のすぐ近くまできていた。そして、シルバーの言うことをきき、声の調子をかえるのが僕にも聞こえた。「ジムかい?」

「まさしくジムでさぁ」シルバーは答えた。

先生は直立不動の姿勢をとり、一言もしゃべらなかった。動き出すまでには数秒かかったように思われた。

「ふむ、ふむ」先生はとうとう口を開いた。「仕事が先で、お楽しみはその後だな。おまえさんが独り言でいうようにな、シルバー。おまえさんの患者を全員診てやろうじゃないか」

先生が丸太小屋に入るとすぐに、僕の方を険しい目でちらっと見たが、すぐに病人相手に仕事をはじめた。先生は、こんな裏切りものたちの悪魔に囲まれて、いわば髪の毛一本にしがみついているにもかかわらず自分の運命を知っているかのように、なんら恐れを抱いていないようだった。そしてまったくイギリスで家庭を訪問してふつうに診察するように、患者に話しかけていた。先生の態度は、僕が思うに、海賊たちにも影響を与えたと思う。というのは何もなかったようにやつらもふるまっていたからだ。まるで先生が今でも船医で、やつらは忠実な下級船員であるかのように。

「とてもいいぞ、きみたち」先生は包帯をまいた頭の男に言った。「おまえほど危うく難をのがれたやつはいないぞ。おまえの頭は、鉄みたいに固いにちがいない。よし、ジョージ、調子はどうかな? たしかにいい顔色だ。どうしておまえの肝臓はさかさまなんだ。薬をのんでるか? こいつは薬をのんでるかな、みんな?」

「アイ、アイ、サー。確かに薬を飲んでます」モーガンが返事をした。

「というのも わしが海賊の医者というか、そう呼びたければ監獄の医者といってもいいくらいのもんだからな」先生はほとんど楽しそうに言った。「私の名誉にかけて、ジョージ国王“国王ばんざい!”と絞首台にかけるのに、一人として欠かすわけにはいかんからな」

悪党どもは互いに顔を見合わせたが、この強烈なあてこすりを静かに受け止めるだけだった。

「ディックの調子がわるいみたいです、先生」と一人が口を開いた。

「どれどれ?」先生は答えた。「さぁ、ここにこい、ディック。舌をみせてごらん。いいやもし気分がよかったら驚くぞ! この男の舌はフランス人を驚かすにはばっちりだな、もう一人熱病だ」

「あぁ、そうだ」モーガンが言った。「聖書を破いたりするからだぞ」

「おまえの言い方をかりえば、このうえないほどばか者だからだ」先生が答えた。「いい空気と毒だらけの空気の区別もつかんのか、乾燥した土地と、ひどい伝染病が蔓延している沼地との区別がな。私が思うにはありそうなことだが、あくまで一つの意見だがな、おまえさんたちにはみな、マラリアにかからないようにしようって考えはないのかい。沼地でキャンプだって? シルバー、おまえには驚きだよ。ここにいる他のやつらよりは、少しはかしこいと思ったがな。健康については基礎の基礎もしらんとはまったく」

「よし」先生はひととおり薬をだして、みんなが薬をのむと、それは本当にいかにもおかしいといった風で、血をながした犯罪者の海賊や反逆者というよりは慈善学校みたいなものだった。「よし、これでおしまいだ。それじゃあ、あのぼうやと話をさせてもらおうか」

そして頭でかるく僕の方を示した。

ジョージ・メリーはドアのところにいて、なにかひどい味の薬でものんだみたいにつばをはいたり、ぶつぶつこぼしていた。でも先生の申し出の最初の一言を聞くなり、ひどく興奮してドアをあけると、「だめだ!」とどなって悪態をついた。

シルバーは、空いてる方の手で樽をたたいた。

「静かにしやがれ!」シルバーは一声ほえると、ライオンのように自信をもってジョージの方を睨みつけた。「先生」と声の調子をふつうにして続けた。「ちょっと考えさせてくだせぇ、先生がこの坊やを気に入ってるのは分かってますからな。先生の親切には十分感謝してますとも、知ってるように、先生を信頼してますし、食事と同じように薬ものんでます。そんで全部おさまりがいいような方法をとりたいんでさぁ。ホーキンズ、おまえの紳士の名誉に誓って、おまえさんは紳士なんだろ、生まれはいやしくともな、誓って逃げないといえるか」

僕は、すぐに言われた通り約束した。

「それなら、先生」シルバーは言った。「柵の外にでてくだせぇ、そこにいったなら、わしがこのぼうやを柵の内側までつれて行きまさぁ。柵ごしに話はできるでしょうや。いいんじゃないですか、先生。大地主さんやスモレット船長にはわしらみんな、恩があるからなぁ」

反対の大合唱がすぐにでもおこりそうで、シルバーの鋭い目でのにらみつけがそれを押さえていたが、先生はすぐに丸太小屋を離れた。シルバーは、両天秤をかけているのを徹底的に非難されていた。自分のためにそれぞれにいい顔をしていて、自分の側の仲間や人質の利益を犠牲にしていたことを非難されていたわけで、ある意味では、それはまさにシルバーがしていたことそのものだった。僕にはあまりにそのことが明白だったので、今回はどうやってやつらの怒りをおさめるのか想像もできなかった。でもシルバーは、残りのほかのやつを足して2倍くらいはすごいやつだった。昨晩の勝利がシルバーに有利に働いていたのである。シルバーは、みんなにおまえらは考えられるかぎりのうすらぼけやろうだと言い、そして僕が先生とはなすことは必要なんだと、やつらの目の前で地図をひらひらさせながら言った。そしてまさに宝さがしをするその日に、約束をやぶるつもりじゃねぇだろうなと尋ねたのだ。

「いいや、そんなことはさせねぇ!」シルバーは叫んだ。「時期がきたら約束をやぶるとも、でもそれまでは、先生をだまくらかしてやる。もしやつのブーツを、ブランデーでみがくはめになってもな」

それからシルバーは、やつらに暖炉に火をつけるように命令して、ゆっくりと松葉杖をもちだして、片手を僕の方におき、さわいでいるやつらを置いて、じっくり説得するというよりは弁舌さわやかにごまかして静かにさせた。

「ゆっくりだ、ぼうや、ゆっくり」シルバーは言った。「やつらはわしらが急いでいるとみたら、ぎらぎらした目でわしらをとりかこむだろうよ」

それで僕らはとてもゆっくりと砂地を、先生が柵の向こうがわで待っているところまで歩いて行った。そして十分に話ができるところまでくると、シルバーは立ち止まった。

「ここまでつれてきたこともよく覚えといてくだせぇ、先生」シルバーは言った。「そんでこのぼうやが話すでしょうが、どうやってこいつの命を救ったかもね。あとそのために罷免されたことも、覚えといてくだせぇ。先生、わしほど危ない目にあったら、いわば命をなげだしてですぜ。やさしい言葉のひとつをかけてもいいとは思いませんかな? 今じゃわしの命だけでなく、ぼうやの命も取引に入っていることも憶えておいてくだせぇ。そんでわしに正直に話してもらって、先生、お願げぇですから、少しでも希望のもてることをお願いしますぜ」

シルバーはいったん外にでて、味方と丸太小屋に背をむけると人が変わったようだった。ほおはくぼみ、声はふるえ、まるでこれほど真摯な人はいないくらいのものだった。

「どうしたんだ、ジョン、何が怖いんだ?」リバシー先生はたずねた。

「先生、わしは臆病ものじゃねぇ、決してそんなことはねぇ!」そういってシルバーは指をならした。「臆病ものなら、こんなことは言わねぇからな。でも正直にいえば、わしは絞首台が怖いんでさぁ。あんたはいい人で正直だ。わしはあんたみたいにいい人はみたことねぇ! そんでわしがやったいいことを忘れねぇでくだせぇ、悪いことも忘れはしないでしょうが。わしは脇へよけてますよ、あなたとジムだけにしますや。このことも憶えておいてくだせぇ、できるかぎりのことですぜ、そうですとも!」

そういって、シルバーは少し後ろにさがった、その位置ではシルバーは何も聞くことは出来まい。そして切り株にこしをかけて、口笛をふきはじめた。そしてときどき僕や先生の方をみたり、不従順な部下の方をみるためにくるりと座りなおしていた。部下たちは砂地のところを丸太小屋とたきびの間で、豚肉やパンで朝食をつくるために行ったり、来たりしていた。

「さぁ、ジム」先生は悲しげにいった。「君はここにいたのか。自分で酒を醸造して、自分で飲むようなもんだ。確かに私は君を責めるつもりはないよ、でもあえていっておきたい、親切か不親切かは別としてもね。スモレット船長が元気だったときは、君は逃げ出そうとはしなかった。船長がけがをしてどうにもならなくなったら逃げ出すなんて、本当に、あまりに卑怯じゃないか!」

僕はこれを聞いて、そこで泣き出してしまった。「先生」僕は行った。「許してください。十分に自分を責めてます。どちらにせよ僕の命はないも同然です。シルバーが僕の味方になってくれなかったら、僕はいまごろ死んでただろうし。先生、でもこれだけは信じてください。僕は死んでもかまいません。僕はそうするのがお似合いだといってもいいくらいなんです。でも怖いのは拷問なんです。もし僕を拷問すると、」

「ジム」先生は口をはさんだ。その声の調子は変わっていた。「ジム、そんなことには耐えられん。抜け出そう、抜け出して逃げて行こう」

「先生」僕は言った。「僕は約束しました」

「わかってる、わかってる」先生はさけんだ。「どうしようもないんだ、今はね。いっさいがっさい私のせいにしてくれていい、非難も恥もね。でもこのままここには置いておけないよ。飛び越えるんだ! ひとっとびで、外に出れるんだ。さぁ、かもしかみたいに逃げ出すんだ」

「いいえ」僕は答えた。「先生だってご自分ではそんなことをしないのは、知っておられるじゃないですか。先生も大地主さんも船長もそうはしない、僕だってそんなことはできません。シルバーは僕を信頼してくれてるんです。僕は約束しました、もどります。でも、先生、まだ話は終わりじゃないんです。もしやつらが僕を拷問にかけたら、船がどこにあるかをもらすかもしれないんです。僕は船を手に入れたんです。幸運だったし、危険もおかしたけれど、船は北浦の南浜にあって、高潮線のすぐ下です。半潮ならぜんぜん水にはつかっていないと思います」

「船だって!」先生はさけんだ。

僕は急いで先生に僕の冒険を話し、先生は黙って僕の話を聞いていた。

「運命みたいなものがあるな」僕が話し終わると先生はもらした。「事態がすすむごとに、私たちの命を救ってくれるのは君なんだから。それなのにひょっとして、私たちが君を見殺しにするなんて思ってるんじゃないだろうね。それじゃああまりに割にあわないだろう。君は水先案内人、そうベン・ガンを見つけた。君が今までしたことの中では、一番いいことだったよ、いやいいことになるだろうよ。たとえ90才まで生きることになってもね。そう、神にかけて。ベン・ガンについて言っとこう! まったく本当にすごいやつだよ。シルバー」先生はさけんだ。「シルバー! 私は一つ忠告させてもらうよ」先生は、料理番が近づいてくると話をつづけた。「宝さがしはあまり急いでやらない方がいいぞ」

「どうしてですかい、できるかぎりはしてみますが、難しいですな」シルバーは言った。「お言葉ですが、わしには宝さがしでしか、わしとぼうやの命を救えないんですよ。わかってくださるでしょう」

「そうだな、シルバー」先生は答えた。「もしそうなら、もう少し言っておこう。宝物を見つけたときには、危険にそなえるんだな」

「先生」シルバーは言った。「男と男のあいだの話としたら、わけがわかりませんよ。あなた方が何を目的としてるのか、なぜ丸太小屋を離れたのか、なぜ地図をわしに渡したのか、わしにはわからんのです。でもわしは目をつぶらされて希望の言葉の一つもなしに、あんたがたの言うとおりにしたんですからな。でももうたくさんです。もしあんたがたがどうしようと思ってるか素直にいってくれないなら、そういってください。わしもかじを離しますぜ」

「いいや」先生はじっくり考えながら言った。「これ以上私にはいえないんだよ。それは私の秘密じゃないんだ、わかるだろシルバー。でも言える事は言っとくよ。でも思い切って言える分だけだよ、ほんの少しだ。船長に怒られるからな! 第一にすこしばかり希望の光をやろう。シルバー、もし私たちが2人ともこのおおかみの罠から逃げ出せたら、おまえを救うためにも全力を尽くしてやるよ、もちろん偽証はできないがな」

シルバーの顔は明るくなった。「それ以上いわないでくだせぇ。わかりますぜ、わしの母親でもそれ以上いえないでしょうよ」シルバーはさけんだ。

「さて、それが最初の譲歩だ」先生はつけくわえた。「第二に一言、忠告だ。そのぼうやをいつも手近においとくんだ。助けが必要なら、大声をだせ、すぐに駆けつけるから。私がいいかげんなことを言っているかは、それでわかるだろうよ、じゃあな、ジム」

そしてリバシー先生は僕と柵ごしに握手して、シルバーにはうなずいて、森へ足早に消えていった。


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