カーミラ, ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ

プロローグ


以下に記された物語に添えられた論文上で、ヘッセリウス博士は、いささか丹念な注釈を書いており、とある女性が光明を投じた奇妙な主題についての彼の論説に対する参照を添えている。

この謎めいた主題を、その論説において、彼はいつも通りの学識と洞察力と顕著な率直さと熟考をもって取り扱っている。それは、非凡な男の論文集のシリーズの一巻を成すであろう。

この巻において、単に「門外漢」に興味を持たせるために私がこの件を出版するにあたっては、なんであれ、それを物語る知性あるレディの出鼻をくじくつもりは一切無い。そして十分に考慮した結果、私は、博識な博士の推論の要約や、彼が「複雑で、ことによると、われわれの二つの在り方(生と死)とその中間の存在についての最も難解で深遠な領域の一部」と記述した主題についての彼の文章からの抜き書きを提供する事を止めることにした。

私はこの論文を発見したとき、何年も前にヘッセリウス博士が始めた通信を、彼の情報提供者として賢く注意深かった人物と再開したいと切に願った。しかしながら、まことに残念なことに、その通信の休止期間の間に彼女は亡くなっていたことがわかった。

ただし、彼女は、おそらく、以下の頁に記された物語にほとんど付け加えることはなかったであろう。彼女はそれだけの実直さと入念さをもってその物語を伝えてきたのだと、私は断言できる。


©2008 山本雅史. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。