姉の結婚について、我が家の古びた牧師館に居ながら、ルイーザは、ずっとむやむやと気を縺れさせていた。婚約を知らされてからしばらく、姉に反対を唱えもしたルイーザだったが、沈着なメアリーの態度を前にしては、それも徒労だった。「マッシーさんについてあなたが言うことは、間違っているわ、ルイーザ。私は心から彼と結婚したいと願っているのよ。」ルイーザは怒りを深く胸におさめ、黙らざるを得なかった。だがこの険悪は、ルイーザに変化をもたらしつつあった。彼女の内に籠った怒りは、それまで揺るがず尊敬してきた姉に対しての、反撥の心を生んだ。
「私だったら、裸足で物乞いして歩いてでも、あんな奴と結婚したりしないのに!」と、マッシー青年のことを念頭において、彼女は言った。
だが、明らかにそうしたヒロイズムは、メアリーの高潔とは相容れないものだった。そして、メアリーよりも現実の手応えに忠実なルイーザは、俄然、姉が掲げる理想は、多分にいかがわしいものだということを、感じはじめた。本当に姉は、純潔だと言えるだろうか?──行動において不純でありながら、存在において精神的であるなどとは、矛盾ではないか? ルイーザはメアリーの高潔な精神性を信用しなくなった。彼女には、もうそれは真正とは信じられなかった。そして、姉がその精神性によって、途を誤ろうとしているのなら、なぜ父はその虚偽から姉を救ってやらないのか? 金銭のためだ! 父は事の成り行きに卑陋を感じながらも、金銭にそそのかされ、自分の考えを押さえ込んでしまった。母の方はと言えば、娘の選んだようにさせておけばそれでいい、という率直な厚顔だった。母はこんなことを言いもした──
「あの人がこれからどうなろうと、まあ、メアリーの人生は安泰でしょう、」──このあまりにあからさまで、浅慮な打算は、ルイーザを激怒させた。
「それなら救貧院に入って安泰な方がましだわ、」と彼女は叫んだ。
「それで、お父さんを面会に来させるってわけね、」と母は毒々しく応えた。母親のこうした不誠実な物言いは、母親への深い憎悪、心の奥処から沸き上がり、ほとんど自己嫌悪にも近い憎悪を、ルイーザに呼び覚ました。この憎悪を折り合いを付けるのは難しかった。その憎しみは、彼女の内でうごめき、燃えつづけ、いつしか彼女はこんなことを考えるようになっていた──「みんな間違ってる、誰もみんな間違ってる! みんな一かけらの愛情も持たないで、無意味なものを崇めて魂を引き砕いてる! でも私は愛を求める。みんなは愛情というものを否定したがる。それは、愛情を手に入れられなかったから、それが存在しないと言いたがってるに過ぎないんだ。でも私はそれを手に入れる。私は誰かを愛する──それこそが私の生きる理由なのだから。いつか結婚することになる男を、心から愛すること、それこそ私がすべてを賭けて望むことだ。」
こうして、ルイーザは誰からも孤立してしまった。彼女とメアリーとは、マッシー青年のことをめぐって反目した。ルイーザの眼には、マッシー青年と結婚したことで、メアリーは身を落としたように見えた。彼女の気高く、精神的な姉が、こんな風に肉体的に恥ずべき存在になったことに、ルイーザは我慢ならなかった。メアリーは間違っている、絶対に間違っている! もはや姉は尊敬に値しない、不完全でくすんだ人だ。姉妹は互いによそよそしくなった。依然として彼女たちは、お互いを愛していたし、人生のつづくかぎり、二人は互いを愛しつづけるだろう。しかし二人の途は、もう同じではないのだ。頑固なルイーザは、得体の知れぬ寂しさに見舞われ、憂い顔の彼女の顎は頑なさに強ばった。彼女は自分の途を歩み続けなければならない──しかし、どの方向へ? 虚ろで広漠とした世界を前にして、彼女は、おそろしい孤独に襲われた。一体どんな途を自分は見出せるというのだろう? けれども愛情を求める、心から愛せる男を求める、ひたむきな意志は、彼女のうちに抱えられていた。