スペイン戦争を振り返って, ジョージ・オーウェル

第五章


フランコに対するレジスタンスの背骨はスペインの労働階級、とりわけ都市部の労働組合のメンバーだった。長期的に見て……長期的に見た場合のみであることを忘れないことが重要である……労働階級は最も頼りになるファシズムの敵対者であり続けている。これは端的に言えば適切に社会を改革することによって労働階級が最も大きな利益を得るからである。他の階級や分類と異なり、恒久的に金の力で従わせることができないのだ。

こう言ったからといって労働階級を理想化しているわけではない。ロシア革命に続く長い闘争で敗れたのは肉体労働者であり、その責任は彼ら自身にあると感じずにはいられない。組織された労働階級による運動は様々な国で繰り返しあからさまで不法な暴力によって壊滅させられた。理屈上の連帯によって彼らと結びついている外国の同志たちはただ傍観するだけで何もしなかった。そしてこの根底には多くの裏切り行為の隠れた原因である、白人と有色人種の労働者の間には口先だけの連帯すら存在しないという事実が横たわっているのだ。過去十年の出来事の後で階級意識に基づいた万国のプロレタリアートのことなど誰が信じるだろうか? イギリスの労働階級にとってはウィーンやベルリン、マドリード、その他の場所で自分たちの同志が虐殺されようが昨日のフットボールの試合ほどにも興味を引かないだろうし重要でもないだろう。しかし、そうであっても他の者たちが屈服した後も労働階級はファシズムに対する戦いを続けるだろうという事実は何ら変わらない。ナチによるフランス征服の特徴のひとつは左派の政治的知識人を含む知識人たちの驚くべき背信だった。彼ら知識人たちはファシズムに対して最も大きな金切り声を上げた人々だったが、彼らのうちのかなりの部分は危機が訪れた時に敗北主義的行動へと流れていった。彼らは勝算がないことを理解できるだけの洞察力があり、さらに言えば賄賂を受け取ることもできた……知識人たちには買収するだけの価値があるとナチスが考えていたことは明らかである。労働階級について言えば話はまったく反対だった。自分たちを弄ぶ詐術を見抜くにはあまりに無知であり、彼らはファシズムがする約束を簡単に信じた。しかし遅かれ早かれ彼らは必ず再び戦いを始めるのだ。彼らがそうするのは、ファシズムのする約束では自身の肉体を満たすことができないことに必ず気がつくからである。労働階級に対して恒久的な勝利をおさめるにはファシストたちは全体的な生活水準を向上させなければならないだろうが、それは彼らには無理なことだし、おそらくそうしたいとも思わないはずだ。労働階級による戦いは植物の成長に似ている。植物は目も見えないし知能もないが、光に向かって上に伸び続けることだけはよくわかっていて、終わることのない落胆に直面しながらもそれをおこなうのだ。労働者たちは何のために戦うのか? ただ、まっとうな生活のためだ。そして彼らは今やそれが技術的に可能であることにますます気づいていっているのだ。この目標に対する彼らの意識は行きつ戻りつしている。スペインではしばらくの間だが人々は意識的に振る舞っていた。到達したいと思うゴールに向かって進み、到達できると信じていた。あの戦争の始め数ヶ月の、政府側スペインでの生活にあった奇妙に明るい雰囲気はそれが理由だ。民衆は共和派が友であり、フランコが敵であることを骨の髄まで知っていた。自分たちが正しい側にいることを彼らは知っていた。なぜなら彼らが戦っているのは何か世界が彼らに支払うべきもの、世界が彼らに与えることのできるもののためだったからだ。

スペイン戦争を正しい視点から理解するためにはこのことを思い出さなくてはならない。戦争の残酷さや浅ましさ、無益さ……そして今回の特定の場合の陰謀や迫害、嘘、意見の相違……について考えると決まって「どちらの側も同じくらい悪い。私は中立だ」と言いたくなる。しかしながら実際には中立であることはできないし、戦争でどちらが勝とうが同じということはめったにない。まず間違いなく一方が多かれ少なかれ進歩を支持し、もう一方は多かれ少なかれ反動を支持している。スペイン共和派が激しく憎んでいたのは大富豪、公爵、枢機卿、遊び人、頭の固い保守派、そしてどちらの側につくのか態度を自身ではっきりさせない者たちだった。本質的にはそれは階級戦争だったのだ。もし勝利していれば、あらゆる場所の民衆の信念が強くなったことだろう。しかし敗北し、世界中の配当振出人たちは手もみをした。これこそが現実的な問題であり、他のものは全て表面に浮かんだ泡に過ぎなかったのだ。


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