メイカーズ 第三部, コリイ・ドクトロウ

第四十七章


スザンヌはベッドで食べる朝食にはもううんざりだった。そんなものが実在するなんて思っても見なかったが確かにそれは実在した。毎日のように午前七時前になるとレスターはベッドから抜けだし、三十分後には日替わりのメニューがのせられたトレイを手に戻ってくるのだった。ステーキ、ブリトー、ワッフル、自家製シリアル、ギリシャ風ヨーグルトが添えられたフルーツサラダ。今日のメニューはエッグマフィンとしぼりたてのグレープフルーツジュースだった。トレイにはいつもフレンチプレスした挽きたてのコナコーヒーと布ナプキン、そして彼女がニュースを読めるよう彼女のコンピューターが添えられていた。

二人が毎日いっしょに充実した時間を過ごしていることを確認するための友好の儀式というのが建前だった。しかし実際の所、レスターは食事の心配と彼女が無理に楽しげに振舞っているのではないかの心配ばかりしていた。ついでに言えば彼女はファトキンスではない。三千カロリーの朝食は彼女の健康のためにはならなかった。

昔の気持ちを取り戻して改めてスタートを切った幸せなカップルとして過ごすことはプレッシャーだった。一緒にシャワーを浴びようと入ってきたレスターに背中を流してもらっている時、花束を手に彼が帰ってきた時、朝一緒に朝食を食べるために彼と一緒にベッドに横たわる時、彼女は常にそれを感じた。

彼女は黙りこくったままキャビアの乗ったロシア風パンケーキをつまみ、自分のコンピューターをいじっていた。彼女の横ではレスターがものすごい勢いで三千カロリー分のフライドドーナッツを平らげながら片手で自分のマシンを叩いている。

「本当においしいわ。あなた。ありがとう」かき集められるだけの誠意をこめて彼女は言った。こんなことをしてくれる彼はほんとうに度量の広いすてきな人間だ。彼女はもはや自分の人生で何が起きようが楽しむことのできない不機嫌な老女にすぎないのだ。

彼女のコンピューターにはボイスメールが届いていた。普段はないことだ。ほとんどの人はメールを送ってくる。発信元はフロリダ・ターンパイクの公衆電話だった。

「チャーチさん。私は……あー、最近あなたとお近づきになった者です。あなたの休暇中に。内密にお話したいことがあります。今、あなたのところに伺おうと同僚と移動中で午前中には到着すると思います。できれば会っていただける時間を作って欲しいです」

彼女はそのメッセージを二回、聞き直した。レスターが身をのりだした。

「いったい何ごとだ?」

「信じられないかもしれないけどディズニーの人間だと思う。あなたに話した男よ。デスが以前、一緒に働いていた人」

「そいつがここに来るのか?」

「そのようね」

「そいつは驚いた。ペリーには教えるなよ」

「どうして?」

「あいつがその男の喉笛を食いちぎっちまうからさ」レスターはロシア風パンケーキを一口噛みとった。「俺はその手助けをしちまう」

スザンヌはサミーのことを考えた。友達になれるタイプの人間ではなかったがとても親切にしてくれたことは事実だ。極悪人というわけでもなさそうだった。サイコパス指数もあの会社の平均値より少し高い程度だ。もっとおかしな人間もあそこにはいる。彼女は見たことがあるのだ。

「そう。それじゃあ私は一人で彼に会った方が良さそうね」

「まるでそいつは医者と患者の間での相談事をしたいみたいだな」

「もしくは懺悔ね」

「そいつがなにか内部情報を漏らすと思っているんだろう」

「こういう電話がくる時はそう決まっているものよ」

考え込んだ様子でレスターは食事を続け、それから手を伸ばして彼女コンピューターのキーを叩くとボイスメールを再生した。

「なんていうかずいぶん声が明るくないか?」

「そうね。いつもの彼じゃない。たぶん良い知らせがあるのよ」

レスターは笑うと彼女の皿を運んでいった。戻ってきた彼はシャワーを浴びるために服を脱いで裸だった。惚れ惚れするほどいい男だった。彼はいたずらっ子のような笑顔を浮かべると彼女の毛布をさっとはぎとった。

ベッドの足元の方で立ち止まると彼は彼女を見た。彼の笑顔が興奮でひきつったのが彼女にはわかった。視線を下に移さずとも彼がいきり立っているのがわかる。彼の瞳には彼女は美しいものとして映っているのだ。彼女にはそれがはっきりとわかった。ベッドの足元には紗織りの明るい色のスカーフで覆われた鏡が置かれている。レスターの旅行土産の派手派手しいマグネットが縁に貼り付けられたその鏡を覗きこめばカッテージ・チーズのようにでこぼこの表面の脂肪がつき、袋のようにゆるんだ皮膚をしたたるんだ中年の女が目に映る。

数えきれないほどのファトキンスガールとレスターは寝てきた。外科手術と化学的な肉体増強でマネキンのような肉体を作り上げた女たち、人目につく場所でセックスマニュアルを読み、性器の締りの筋力計測スコアを自慢するような女たちだ。

だが彼女をみつめる彼の様子を見れば自分こそ彼がこれまで愛してきた女たちの中でもっとも美しい女で、自分のためなら彼はなんでもするだろうということが彼女にはわかった。これまで愛してきた誰よりも彼女のことを愛していることがわかるのだ。

いったい私は何に文句があると言うのだろう? 飢えた彼にのしかかられながら彼女は思った。


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