メイカーズ 第三部, コリイ・ドクトロウ

第五十一章


スザンヌはレスターの部屋のドアは叩かなかった。レスターは落ち着くべきところに落ち着くだろう。ペリーさえどうにかすれば。

彼女はライドで働く彼を見つけ出した。ヒルダはメンテナンス区画に引っ込んでいる。彼は数台のロボットの調整をしているところだった。腕のギプスは外れていたが健康な左腕と比べると明らかに細くて弱々しげで青白く、筋肉が落ちていた。

「こんにちは。スザンヌ」最近ではいつもそうするように彼はよそよそしげで、それが悲しみを催させたが彼女はそれを押し込めた。

「ペリー。しばらくここを閉めて。緊急事態なの」

「スザンヌ。今、忙しいんだ。ここを閉めている暇なんか……」

レモネードの売店のカウンターを彼女は強く叩いた。「いい加減にして。ペリー。今まで私が大げさに騒ぎ立てたことがないことはあなたも知っているでしょう。ここを閉めることがどういうことかはよくわかっている。聞いて。私たちの関係が上手くいっていないのはわかっているわ。私たちみんなよ。それもずっと長い間。だけど私はあなたの親友だし、あなたは私の親友でそれは何が起きようと変わらない。そして私は今、ここを閉めて話し合いをする必要があるってあなたに言っているの。言うことを聞いて。ペリー」

彼は長いこと考えこむようにしながら彼女を見つめた。

「お願い」

聞こえないふりをしながら自分たちの順番が来るのを待つ四、五人の客が並んだ列の方に彼が目をやった。

「申し訳ありません。みなさん。彼女の話が聞こえたでしょう。緊急の用事です。ええっと。そうだ……」カウンターの下を引っかきまわすと彼が紙切れの束を手に立ち上がった。「通りの向こうにトレンス夫人の喫茶店があります……ここらで一番のカプチーノを出しますし、菓子パンはどれも焼きたてだ。俺のおごりです。これで勘弁してもらえませんか?」

「行きましょう」スザンヌは言った。「時間が無いわ」

彼女は彼を連れてメンテナンス区画へ入っていくと二人で扉を閉めていった。手を自分のズボンで拭いながらヒルダがロボットから顔を上げる。彼女は本当に美しく、ペリーを見るその顔には純粋な愛情が見てとれた。この二人の若々しい完璧な愛情を見て、スザンヌの心にはこみ上げてくるものがあった。

次にヒルダはスザンヌの方を向き、その表情が警戒するような強張ったものに変わった。ペリーがヒルダの手をとる。

「それで話っていうのは何なんだ。スザンヌ?」彼が聞いた。

「まずは私の話を全て聞いて欲しい。いい?」二人が頷く。彼女は一息に全てを二人に話した。サミーとギニョールのこと、あのポストカードと二人が訪ねてきた時のおかしな状況のこと……そしてかかってきた電話のこと。

「つまり彼はあなたたちを買収したがっているっていうこと。ライドや町は欲しくない。彼が欲しいのは……なんと言ったらいいか……創造性なのよ。買収申し込みを勝ち取ったわけ。彼は和解を望んでいる。それで本当のニュースはここからなんだけど、彼は今、窮地に立たされている。フレディが彼から無理に話を聞き出さそうとしている。もし私たちでこの問題を取り除くことができれば、何でも要求することができるようになる」

ヒルダの口がぽかんと開いた。「ふざけてるの……」

ペリーが彼女を黙らせた。「スザンヌ。なんで君はここに来たんだ? レスターに話せばいいじゃないか? なぜレスターは俺にそのことを話していないんだ。いったい何が起きているんだ?」

彼女は顔を曇らせた。「レスターに話していないのは彼があなたより簡単にこの買収に乗ると私が思っているから。これは千載一遇のチャンスだわ。あなたはものすごく悩むだろうと思う。あなたに最初に話したのはそうすれば私たちはこれを乗り越えることができると思ったからよ。本当はこんなことには関わり合いになりたくないけれど関係者みんなが最後には互いを憎みあうようになるのはもっと嫌。今あなたたちはその状況に突き進んでいる……ゆっくりと駄目になっていっている。どれだけ長い間、あなたとレスターは会話をしていないと思っているの。一緒に食事をすることさえしていないじゃない? どれだけ長い間、私たちは一緒に座って笑うことをしていないと思っているの? どんなにすばらしいことにも何かしらの終わりはあるけれど、その次にはまた本当にすばらしいことが始まるのよ。

あなたたち二人はニューワークに立ち会った。大勢の人がニューワークでとんでもなく裕福になったけれど、あなたたちは違った。いまこそ変革の対価を受け取るチャンスなのよ。この問題を解決するのよ……あなたたちならできる。それにこれはあなたたちだけのためじゃない。あのデスという子のためにもなる。裁判所が十五年かけて言い渡す正義をあなただったら今すぐ彼に与えることができる」

ペリーが顔をしかめた。「金のことなんて俺はどうでも……」

「ええ。それは立派なことだわ。他にも理由はある。これは言わずにいた。あなたが自分で思いつくかどうか見ていたのよ」

「何だ?」

「なぜ時間が重要な点かわかる?」

「フレディが汚い手を使おうとしているからだろう……」

「それであなたたちだったらどうやってこの問題を解決する?」

ヒルダがにやりと笑った。「なるほど。それはいいわね」

スザンヌが笑う。「ええ」

「何なんだ?」ペリーが尋ねた。

「フレディは情報を集めるのは得意だけど嘘と真実を見分けるのはそうでもない。私の考えではこれこそやつにつけいる隙だわ。私たちから適当な情報を漏らしてやればあいつを都合よく動かせる……」

「笑いものにしてやれると?」

「ミンチにしてやれるわ」

ペリーは笑い始めた。「腹いせするためにこの取引に乗るべきだって言っているのか?」

「ええ。そういうことね」スザンヌは答えた。

「気に入った」彼が言った。

ヒルダも笑い声を上げた。スザンヌは手を差し出してペリーと握手を交わし、その後、ヒルダとも握手した。

「それじゃあレスターを探しに行きましょう」


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