ふとっちょあらいぐまは、ぎょっとして目をさましました。ちょうど、ふとっちょが逃げ込んだクリの木を、農夫のグリーンと作男が切りたおしたときにそっくりな騒音が聞こえたのです。
「お母さん! これはなんの音なの?」ふとっちょはさけびました。
「木こりたちが来てるんだよ」あらいぐま夫人が言いました。「この沼の大木をぜんぶ切りたおしているのよ」
「なら、ぼくたちは逃げなくちゃならないんだね?」ふとっちょがたずねました。
「いいえ! 連中はこの木をかまいやしないよ」お母さんは言いました。「古い木だし、うろが空いてるからね――そういうのは切らないんだよ。連中がえらぶのは、よさそうに見える木だけなんだよ」
「でも、この木はいい木だと思うんだけどなあ」ふとっちょは混乱しました。
「そのとおりさ! わたしたちにとってはいい木よ。けど、木こりたちにとってはちがうの。連中には使い道があまりないのよ」
ふとっちょあらいぐまはそれを聞くと安心しました。木こりたちが働く様子を、大いに面白がって上からこっそりのぞき見しました。けど、注意して自分の姿が見えないようにしました。木こりのかがやく斧がなにをするものなのか、わかっていましたから。
夜になると、ふとっちょの楽しみはますます増えました。木こりたちが寝しずまると、ふとっちょは小川のそばの森の中の彼らのキャンプに行き、おいしいごちそうをたくさん見つけました。それらのごちそうの名前はひとつとして知りませんでしたが、すべて同じように食べました。ふとっちょがとりわけ気に入ったのは、じゃがいもでした。ぞんざいな調理人が、平なべの中の残り物を、たき火のそばにほったらかしにしていました。たき火は消えていました。平なべは、たき火のそばの木の切りかぶの上に置いてありました。ふとっちょあらいぐまは切りかぶにのぼり、平なべの中にこっそりとしのび込みました。じゃがいもをひと口味見すると、ふとっちょはすっかり夢中になりました――とてもおいしい味でした――彼は平なべをひっくり返し、切りかぶから落としてしまいました。じゃがいもが灰の中に転がり落ちました。
ブリキの平なべが下に落っこちると、ふとっちょはわきへ飛びのきました。ガチャンガチャンとたいそう大きな音がしました。彼はほんのしばらく息をひそめ、耳をすませました。しかし、だれも目をさまして身動きしたりしませんでした。彼はじゃがいもを追いかけて灰の中にざぶんと飛び込みました。
ヒャーッ! ふとっちょは、あらんかぎりのはやさでまた飛びのきました。灰の下に、熱く燃えた石炭がたっぷりしかれていたのです。ほんの三つ数えるあいだ立ちつづけることも我慢できないほどでした。彼は足のうらをやけどし、まるで百ぴきのハチに刺されたように痛みました。
ふとっちょはばたばたと足を上げたり下げたりしました。みなさんがそれを見たら、ふとっちょはダンスをしているのかしらと思ったでしょう。みなさんはきっとお笑いになったでしょう。彼の格好はこっけいでしたから。
けれどふとっちょあらいぐまは笑いませんでした。じつのところ、彼は泣き出さんばかりでした。もうひと口食べるまで居つづけることもできませんでした。彼はびっこを引きひき家に帰りました。それから数日のあいだ、彼はお母さんの家から外に出られませんでした。ただベッドに横たわり、やけどが治るのを待っていました。
それはたいそう辛いことでした。おいしいごちそうのことを考えて焦れることしかできないのですもの。彼は、また歩けるようになるまで木こりたちがどこにも行きませんようにと願いました。