オズの魔法使い, ライマン・フランク・ボーム

ライオン、獣たちの王に


せとものの壁からおりた旅人たちは、沼や湿地だらけで、背の高い不愉快な草におおわれた、あまり気持ちのよくない国にやってきました。歩くとすぐに泥だらけの穴にはまってしまいます。草がおいしげっているので、穴が見えないからです。でも、注意深く道を探すことで、みんな安全に動き続けてしっかりした地面にまでやってきました。でもそこは前にもまして荒れていて、下草の中を長いことくたくたになりながら歩いたあとで、みんなはまた森にやってきましたが、そこの木はこれまで見たどれよりも大きくて古いのでした。

「この森は実にすばらしい」とライオンはうれしそうにあたりを見回してきっぱり言いました。「これほど美しいところは見たことがない」

「陰気に見えるけど」とかかし。

ライオンは答えました。「そんなことはぜんぜんない。ここでずっと暮らせたらなあ。足の下の落ち葉もやわらかいし、古い木にくっついたコケも深くて緑だろう。野生の獣としてはこれ以上に快適なうちは望めないよ」

「いまもこの森に野生の獣がいるかも」とドロシー。

「いるだろうね。でも一匹も見あたらない」とライオンは答えます。

暗くて前に進めなくなるまで、一行は森の中を歩いてゆきました。ドロシーとトトとライオンは横になって眠り、木こりとかかしはいつも通り見張りをしました。

朝になると、また出発です。さほど行かないうちに、低いざわめきが聞こえます。野生の動物がたくさんうなっているかのようです。トトはちょっと鳴き声をあげましたが、他のみんなはだれもこわがりませんで、踏み固められた道をたどるうちに、森の中の広場にやってきましたが、そこでは何百匹ものありとあらゆる種類の獣が集まっておりました。トラやゾウやクマやオオカミやキツネや自然の中のあらゆる動物がいて、一瞬だけドロシーはおびえました。でもライオンは、動物たちが集会を開いているのだと説明しまして、みんなのうなり声やうめき方からみて、みんなずいぶん困っているなと言います。

ライオンが話していると、獣たちのいちぶがそれを目にして、大集会は魔法のようにすぐに静まりかえりました。いちばん大きなトラがライオンのところにきて、おじぎをしてこう言います。

「百獣の王よ、ようこそ! われらの敵と戦って、森の動物に再び平和を取り戻していただくのに、実によいときにおいでくださいました」

「何を困っているのかね」とライオンは静かにいいます。

トラは答えました。「われわれみんな、最近この森にやってきた兇暴な敵におびやかされているのです。実に巨大な化け物で、大きなクモのようで、胴体はゾウのように大きく、脚は木の幹のように長いのです。その長い足を八本持つこの怪物は、森の中を這いまわって、脚で動物をつかまえて口元に運び、クモがハエを食べるように食べてしまうのです。この兇暴な生き物が生きているうちは、われわれだれも安全ではありませんので、どうやって身を守ろうかと集会を開いたときに、あなたが通りかかったのです」

ライオンはちょっと考えました。

「この森にはほかにライオンはいるのか?」とたずねます。

「いいえ。前はいましたが、化け物がみんな食べてしまいました。それに、そのどれも大きさといい勇敢さといいあなたにはかないません」

「わたしがその敵を始末したら、みんなわたしにひざまづいて、森の王者として言うことをきくか?」とライオンはたずねました。

「よろこんでそうしましょう」とトラは答えました。そして他の獣たちもすさまじい声をあげました。「そうしましょう!」

「このでかいクモとやらは、いまどこにいる?」とライオンはたずねました。

「あちらの、カシの木の向こうです」とトラは前足で方向を示しました。

「このわたしの友人たちの面倒をみておいてくれ。わたしはすぐにこの化け物と戦いにいこう」とライオンは言いました。

仲間にさよならを言うと、敵と戦うためにほこらしげにでかけていったのでした。

大グモは、ライオンが見つけたときには横になって寝ていました。実に醜い姿だったので、その対戦相手は気持ち悪くて鼻をそむけたほどです。脚はトラが言う通り長いものでしたし、からだはゴワゴワの黒い毛でおおわれています。大きな口には、長さ三十センチもある鋭い歯が並んでいます。でもその頭とふくれた胴体とをつないでいる首は、ハチのウェストくらいの細さしかないのです。これを見て、ライオンはこの生き物を攻撃するいちばんいい方法を思いつきまして、目をさました相手よりは寝ている相手のほうが戦いやすいと承知していたので、大きくジャンプするとすぐに化け物の背中に着地しました。そしてその鋭い爪をむきだした、重い前足をひとふりして、クモの頭を胴体からたたき落としてしまいました。そして飛び降りてから、その長い脚がうごめかなくなるまで眺め、ちゃんと死んだことを確かめたのです。

ライオンは、森の獣たちが待っている広場に戻ると、誇らしげに言いました。

「もう敵をおそれる必要はないぞ」

すると獣たちはライオンに王として頭を下げまして、ライオンはドロシーが無事にカンザスに向かったらすぐに戻ってきて君臨することを約束しました。


©2003-2006 武田正代, 山形浩生. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。