鏡の国のアリス, ルイス・キャロル

どっちが夢を?


「陛下、そんなに大きな声で鳴くもんじゃありませんわ」とアリスは目をこすり、子ネコに向かって敬意ときびしさをこめて申しました。「もう、とってもすてきな夢を見ていたのに、目がさめちゃったでしょう! でも、おまえもいっしょだったわよね、子ねこちゃん――鏡の国の世界中ずっと。知ってた?」

子ネコたちのとっても不都合なクセとして(というのはアリスがまえに言ったせりふですが)、こちらが何を言っても、必ずミャアと言うことがあります。「『イエス』だけがミャアで、『ノー』がニャアとか、そういう規則があればいいのに。そうすれば会話が続くでしょう。でも、いつだって同じことしか言わない人と、話のしようがないじゃない!」

この時にも、子ネコはミャアと言っただけでしたので、それが「イエス」の意味か「ノー」の意味かを当てるのは不可能でした。

そこでアリスはテーブルの上のチェスの駒をさがしまわって、赤の女王クイーンを見つけだしました。それから炉端のじゅうたんの上にひざまずいて、子ネコと女王クイーンをご対面させました。そして、勝ち誇ったように手をたたきます。「さあ子ネコちゃん、おまえが変身したのがそれだと白状なさい!」

(「でも、駒を見ようともしないのよ」とあとでお姉さんにすべてを話しているときにアリスは言いました。「顔を背けて、見ないふりをするの。でも、ちょっとはうしろめたい感じだったから、たぶん赤の女王クイーンさまだったのよ、ぜったいに」)

「もうちょっと背筋をのばしてすわんなさい!」とアリスは楽しげな笑い声をたてます。「それに、何を――何を鳴こうか考えてる間、会釈なさい。時間の節約になる、でしょ!」そしてアリスは子ネコを抱き上げると、小さくキスしてやりました。「赤の女王クイーンとなった名誉をたたえて」だそうです。

イラスト: ダイナとアリスと子ネコたち

「かわいいスノードロップ!」とアリスは続けて、肩越しに白の子ネコをながめました。白の子ネコはまだじっと洗面中です。「白の閣下、ダイナはいったいいつになったら、おまえを洗い終わるのかしらねえ。夢の中でおまえがあんなにみすぼらしかったのも、そのせいにちがいないわ――ダイナ! おまえ、白の女王さまの顔を洗ってるって知ってた? 不敬罪だわよ!」

じゅうたんに片ひじをついて、あごに手をあてて心地よく寝っ転がり、子ネコたちをながめながら、アリスはさらに続けました。「そしてダイナはいったいなんになったんだろう? ねえダイナ、おまえ、ハンプティ・ダンプティになったの? たぶんそうだと思うな――でも、まだお友だちには言わないほうがいいわよ。あたしもまだはっきりしないし」

「ちなみにね、子ネコちゃん、おまえがほんとにあたしの夢の中にいたんなら、おまえがぜったい楽しんだはずのことが一つはあるわ――すごくたくさん詩を朗読してもらったんだけれど、それがみんなお魚のことなの! 明日の朝にはほんとうにおおごちそうよ。朝ごはんを食べてるとき、ずっと『セイウチと大工』を暗唱してあげるわ。そうしたら、朝ごはんがカキだってつもりになれるでしょう!」

「さあ子ネコちゃん、こんどは、あれをすべて夢にみたのがだれだったかを考えてみましょう。まじめにきいてるんだから、そんなに前足をなめてばかりいるんじゃない! ダイナに朝、洗ってもらったばっかりでしょう! つまりね、夢を見たのは、あたしか赤の王さまかのどっちかにまちがいないのよ。赤の王さまはあたしの夢の一部よね、もちろん――でも、そのあたしは、赤の王さまの夢の一部でもあったのよ! だからほんとに赤の王さまだったのかしら、子ネコちゃん? おまえは赤の王さまの奥さんだったんだから、知ってるはずでしょう――ねえ、おねがいだから、考えるのを手伝ってよ! 前足なんかあとでいいでしょうに!」でも意地悪な子ネコは、反対側の前足をなめはじめただけで、質問が聞こえないふりをするばかりでした。

あなたはどっちだと思いますか?


©2000 山形浩生. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。