宝島 船の料理番, ロバート・ルイス・スティーヴンソン

争いの相談


甲板を勢いよく走る足音がして、船員たちがキャビンや水夫部屋から駆け上がってくるのが聞こえた。そして僕はすぐさま、樽から飛び出して前の帆の後ろにとびこみ、船尾にとってかえして、甲板の広い所にちょうどよく飛び出して、ハンターさんとリバシー先生が風上の船首に走って行くところに合流した。

船首には、すでに船員がみんな集まっていた。立ち込めた霧は、月が姿をあらわすのと同時に晴れわたった。はるか南西には二つの低い山が二マイルほど離れてみえ、その一つの背後には三つめの高い山がそびえたち、その頂上はまだ霧の中だった。三つの山は鋭い円錐のような形をしていた。

僕はその景色をほとんど夢心地でながめた。というのもまだ一、二分前の身震いするような恐怖から立ち直ってはいなかったのだ。そのとき、スモレット船長の命令する声が聞こえた。ヒスパニオーラ号は二ポイントだけ風の方を向き、島の東側を通りぬける針路をとった。

「さて、いいか」全ての帆が張られると、船長は言った。「だれか、あの前方の島を以前に見たことがあるものはいるか?」

「見たことがありますよ」シルバーが申し出た。「ある貿易船で料理番をしていたときに、水を汲みにいったことがありますぜ」

「停泊所は南側で、小島の陰になるのか?」船長は尋ねた。

「そうです、あれはどくろ島って呼ばれてました。かつては海賊のたまりばで、船に乗っていたある水夫が海賊がつけた名前を知ってたんで。あの北のやつを前マスト山、一列に並んでる三つの山を、前マスト山、大マスト山、後マスト山と呼んでたんでさぁ。もっとも大マスト山は、あの雲がかかった大きなやつですが、たいていは望遠鏡山なんて呼ばれてました。船をきれいにするのに停泊して、あの山に見張りをおいたからですな。すいません、結局のところやつらが船を停泊してきれいにしたのはあそこです」

「ここに海図があるが、」スモレット船長は言った。「ここがあの場所か見てくれないか」

ロング・ジョンの両目は海図を見るときに輝いたが、紙が新しいのでがっかりするのは僕には分かっていた。それは僕らがビリー・ボーンズの衣装箱で見つけた地図ではなく、その正確な写しだったから。全てが、名前も高度も水深も完璧だったが、それもあの赤い十字架と書き込みを除いてのことだった。シルバーはひどく困惑したにちがいないが、平然とそれを押し隠した。

「そのとおりです」シルバーは答えた。「あの場所に違いありません、たしかに。とっても上手に書かれてますな。誰が書いたものなんでしょう? 海賊たちときたら無知ですからな、まったく。そうです、ここです。『キッド船長の停泊所』、たしかわしの船のやつもそんな名前で呼んでました。南はとても流れが速いんで、そんでもって西の岸を北のほうに流れてるんでさぁ。たしかにばっちりですぜ、」シルバーは言った。「船を風上にむけて、島の風上を通るのはね。どちらにせよ、船を入港してきれいにするなら、あそこよりいい場所はないでしょうな」

「ありがとう、君」スモレット船長は言った。「あとでまた助けてもらうかもしれんが、今は行ってよろしい」

僕は、ジョンが島について知ってることを話したときの冷静なことに驚かされた。僕自身ときたら、やつが僕の方へ寄ってきただけでも、もうどきどきするしまつだった。僕が林檎の樽に隠れてやつの相談を盗み聞きしたなんてことは、やつは無論知るよしもなかった。ただそれでも僕は、この時すでにやつの残忍さと二枚舌、そしてその支配力にすっかり恐れをなしていたので、やつが手を僕の腕にかけたときは、ほとんど身震いをかくせないくらいだった。

「うん、」やつは言った。「この場所はいいところだぞ、この島はな。若者が上陸すると、水浴びもできりゃ、木にも登れる。ヤギも狩れるし、ヤギが行くようなあの山々だって登れるし。若い頃を思い出すぜ、まったく。松葉杖のことなんか忘れちまいそうだ。若い頃に戻って、足の指が十本揃ってたら痛快だろうな。ちょこっとばっかし探検でも行く時には、わしに言うんだぞ。なんか食べるものを持たせてやるからな」

そしてこれ以上はないほどに僕の肩を親しげにぽんぽんとたたくと、びっこを引いて歩き出し下へ降りていった。

スモレット船長と大地主さんとリバシーさんは、後甲板でなにやら話しあっていた。僕は自分の話を知らせたくてたまらなかったけれど、みんなが見ている前で話に割って入るわけにもいかなかった。僕がなにやらもっともらしい言い訳をいろいろ考えていたところに、リバシー先生がちょうどそばに呼んでくれた。先生はパイプを下に置いてきてしまったが、タバコの奴隷みたいなものなので、僕に取りに行ってもらおうとしたのだ。僕はだれにも聞かれないで話せるくらい先生の近くにいくと、すぐに切り出した。「先生、話があります。船長と大地主さんとキャビンに来てください、それからなにか用でもつくって僕をよんでください。恐ろしい知らせがあるんです」

先生はほんの少し顔色を変えただけで、すぐに自分をとりもどした。

「ありがとう、ジム」ととても大きな声でいい、「知りたいのはそれだけだよ」とまるで先生が僕になにか質問したかのように、そうつけ加えた。

そう言うと、くるりと背中をむけ二人との話に戻った。しばらくいっしょに話していたが、だれも驚いたり、声を荒げたり、ましてや口笛をふいたりはしなかったが、リバシー先生が僕のお願いを伝えてくれたのは明らかだった。というのも、僕が次に耳にしたのが、船長がジョブ・アンダーセンに命令をくだしたことで、それから笛が吹かれ全員が甲板に集められた。

「君たち」スモレット船長は口火を切った。「ひとこと君たちに言っておきたい。われわれが目にしたあの島が、航海で目指してきたところだ。トレローニーさんが、知ってのとおりとても気前のいい紳士で、私に一言、二言おたずねになったんだ。それで私は、船のだれもが階級をとわず義務をはたしており、私はこれ以上望んでも望めないくらいだと答えられたわけだが、そこでだ、トレローニーさんと私と先生はキャビンに行って、『君たち』の健康と幸運を祝して一杯飲むことにした。もちろん君たちにも酒だるがふるまわれるので、『われわれ』の健康と幸運を祝して飲んでほしい。私がどう思っているかも言っておこう。すばらしいことだと思う。君たちも同意してくれるなら、気前のいい紳士のために万歳をしようじゃないか」

万歳の声が当然のように起こった。その声は本当に大きく心からのように響いたので、僕は正直に言うが、この同じ船員たちがぼくらの血をねらってるなどとはほとんど信じられないくらいだった。

「もうひとつスモレット船長のために万歳だ」最初の万歳の声がなりやんだときに、ロング・ジョンが叫んだ。

そしてこの万歳もまた本当らしいものだった。

万歳が終わるとすぐに、三人の紳士は下へ降りて行った。そしてほどなくジム・ホーキンズはキャビンにくるようにという伝言があった。

三人はテーブルを囲むように座っており、テーブルにはスペインワインが一本とレーズンが置いてあった。先生はパイプをふかし、かつらは膝の上においていた。僕はそれが先生が興奮したときのくせだということを知っていた。暖かい晩だったので、船尾の窓は空いていた。窓からは船の曳波に月が輝いているのを目にすることができた。

「さて、ホーキンズ君」大地主さんが言った。「いいたいことがあるそうだね。話しておくれ」

僕は言われたとおり、できるかぎりかいつまんで、シルバーの話したことを一部始終すべて話した。

話し終わるまで、口をはさむ人はいなかったし、三人の中で身動きひとつする人さえいなかった。最初から最後まで三人の目はずっと僕をみつめていた。

「ジム」リバシー先生は言った。「座ってよろしい」

そしてテーブルを囲む一人として腰かけさせると、ワインを一杯注いでくれ、両手にいっぱいレーズンをくれた。そして、かわるがわる三人と乾杯した。みんな頭をさげ、僕に一杯注いでくれ、僕の幸運と勇気をたたえて僕の健康を祝して乾杯した。

「さて、船長」大地主さんは言った。「あなたは正しく、私は間違っていた。自分がばかなのを認めて、あなたの命令を待ちます」

「ばかなのは、私もです」船長は答えた。「反乱をもくろんでいる船員が、事前にその兆候を見せないなんてことは聞いたことがありません。目がしっかりついてさえいれば見てとって、応じた手段もとれるんです。でもこいつときたら」船長はこうつけ加えた。「やられましたよ」

「船長」先生は言った。「言わせてください、それがシルバーなんですよ。本当にすごい男です」

「帆桁にでもぶらさげてやれば、すごい見物でしょうな」船長は答えた。「いや、話してるだけじゃしょうがない。私に三つ、四つは考えがあります。トレローニーさんが許していただければ、お話ししますよ」

「あなたは船長ですぞ、話していただくのは当然ですとも」トレローニーさんは威厳をもって答えた。

「第一に、」スモレットさんは口火をきった。「われわれは前に進みつづけなければなりません、引き返せませんからな。針路を変えろなんて口に出したが最後、すぐさま反乱ですよ。二つ目に、時間はまだあります。少なくとも宝物を発見するまでは。三つ目は、信頼できる船員もいるってことです。さて、遅かれ早かれ打って出なければなりません。私が言いたいのは、好機は逃すなっていうとおり、やつらが全然予期しないときを狙って打って出るということです。トレローニーさん、お宅の召使は数にいれてもいいでしょうな?」

「私とおなじように大丈夫」大地主さんは断言した。

「三人」船長は数えた。「私たちをあわせると、ホーキンズもいれて七人。正直な船員はどうでしょう?」

「トレローニーさんが自分で選んだ船員でしょうな」先生は言った。「シルバーに会う前にご自身で探された連中ですよ」

「いや」大地主さんは答えた。「ハンズだって私が選んだ一人だからな」

「私もハンズは信じられると思ってましたからな」船長もつけ加えた。

「それにやつらは全員イギリス人なんだからなぁ!」大地主さんはとつぜん叫んだ。「この船をこっぱみじんにしたいくらいのもんですよ」

「ええ、みなさん」船長は言った。「言えることはこれだけです。われわれはとにかくじっとして、油断なく警戒してなければなりません。男として試されている時です。打って出るほうがよっぽどすっきりするのは分かってます。でもだれが味方かがわかるまでは、どうしようもありません。じっとして風をまちましょう。これが私の意見です」

「このジムが」先生は言った。「誰よりも役にたってくれますよ。やつらもこの子には気を許してますし、なかなかよく気がつく子ですから」

「ホーキンズ、おまえをうんと信用するからな」大地主さんがつけ加えた。

僕はこれを聞いてほとんど絶望的な気持ちになった。全くお手上げだと思ったからだ。でも、奇妙なことの成り行きで、僕のおかげでみんなが助かることになったのだった。ともかく、とことん話し合ったが、信頼できるとわかったのは二十六人のなかでたった七人しかいなかった。七人のうちの一人は子供で、つまり大人でくらべると、僕たちの六人に対してやつらの十九人というわけだった。


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