宝島 ジョン・シルバー, ロバート・ルイス・スティーヴンソン

敵のキャンプ


たいまつの赤い明かりが丸太小屋の内部を照らし出すと、僕が心配していた中でも最悪のことが現実のこととなっていた。海賊たちが小屋も食料も分捕っていたのだ。コニャックの樽も、豚肉もパンも前と同じだった。ただ僕の恐怖を十倍にもしたのは、捕虜の気配が少しもないことだった。考えられるのは、皆殺しだった。そして僕の心は、なぜみんなといっしょに皆殺しにされなかったのだろうかとひどく苦しめられた。

海賊は六人で全員で、他に生き残っているやつはいなかった。そのうち五人が立ち上がっていたが、とつぜん酔っ払って寝ていたところをたたき起こされたので、赤くはれぼったい顔をしていた。六人目はひじで自分の体を支えているだけだった。死にそうなほど青い顔をしていて、血がにじんだ包帯を頭にまいていて、最近その傷を負って、そのあと手当てをうけたばかりであることは明らかだった。僕はその男が大襲撃で撃たれて、森に逃げ帰った男であることを思い出した。それがこの男であることは疑いの余地がなかった。

鸚鵡おうむは、くちばしで毛づくろいをしながらロング・ジョンの肩に止まっていた。僕が思うには、ジョンもかつてそうだったよりいくぶん青白く、より厳しい顔をしているように見えた。ジョンは、交渉にやってきたときの素晴らしい幅広の上着を羽織っていたが、泥でよごれ、森のするどい野ばらで裂けたりしてひどくいたんでいた。

「おや、」シルバーはもらした。「これはこれはジム・ホーキンズじゃないか、驚いたな! 立ち寄ったってところか? いいだろう、よくきた。歓迎しようじゃねぇか」

それからブランデーの樽に腰をおろすと、パイプをつめはじめた。

「そのたいまつを貸してくれや、ディック」シルバーは言った。そして火がつくと「いいぞ、おまえ」とつけ加え「その火は薪の中にいれとけや。それからおまえら紳士方だよ。座ったらどうだい! ホーキンズのために立ってる必要はなかろうよ。このぼうやも許してくれるよ、まちがいねぇな。ところで、ジムや」タバコを中断して「おまえがここにくるのは、この年老いたジョンにもうれしい驚きだけどな。おまえが賢いぼうやだってことは、最初に目をつけたときからわかってたしな。でもここに来たのはどうも合点がいかねぇな、そうだな」

これに対しては、とうぜんのことながら、僕は返事をしなかった。やつらは僕を壁際に立たせていたが、僕はシルバーの顔を見つめながら、きっぱりした態度でそこに立っていた。僕は、外見は大胆にみせかけていたが、心の中は絶望一色だった。

シルバーは至極落ち着いて、パイプを一服二服し、それから再び話をはじめた。

「さて、ジム、おまえはここにきた」シルバーは言った。「わしの気持ちも聞いてもらおうか。わしはおまえのことを気に入ってたんだ。わしはな。おまえは元気のいいぼうやだし、わしが若くてかっこよかったときに生き写しだからな。わしはいつもおまえが仲間に入ってくれて、一緒にやってくれたらなぁと思ってたんだ。それに死ぬときは、紳士らしく死んでもらいたいともな、そんで今はそうするときみたいだな。スモレット船長は、すばらしい海の男だ。それはわしも認めるよ、ただ規律に厳しすぎるんだよ。『義務は義務』だからなぁ、確かに正しいや。おまえもあの船長とは距離をおけ。あの医者だっておまえのことを怒ってたぞ、『恩知らずのいたずら小僧』って言ってたな。つまるところはこういうことだ。もうおまえは、おまえの味方の方へは戻れない。やつらはおまえを味方とは思ってないからな。だからおまえが一人で、それはさびしいぞ、第三勢力でもおこすつもりじゃないなら、どうしてもシルバー船長の組へ入らないといけないな」

ここまではまずまずだった。とにかく味方はまだ生きてるわけだ。それで、僕が逃げ出したことを船長たちが怒っているというシルバーの言葉を少しは信じたけど、僕はそれを聞いて悲しむよりはむしろ安心した。

「おまえがわしらの手中にあることについては、なにも言うまい」シルバーは続けた。「おまえはここにいるけれど、まちがいなしにな。わしは万事相談に図るタイプだからな。脅していい結果になったためしがねぇ。もしおまえが手下になるなら、よし、仲間になれや。もしそうしないなら、ジム、そうだな、嫌って言ってもかまわねぇぜ。言えよ、かまわないぞ、船の仲間じゃねぇか。もし船員でこれよりフェアなことが言えるやつがいるなら、お目にかかりてぇもんだな!」

「じゃあ、いま返事をしなきゃいけないのかい?」僕はとてもおどおどした声で尋ねた。このひどい話のあいだ、僕は迫りくる死の恐怖を感じざるをえなかったし、僕のほおはほてり、そして心臓は胸で苦しいほどどきどきしていた。

「ぼうや」シルバーは言った。「誰も無理じいはしねぇ。じっくりと考えろや。わしらは急がせたりもしねぇ、仲間だからな。おまえがいっしょだと、時がたつのがこれほどうれしいとはな、そうだろ」

「そうだね」僕は少し大胆になって言った。「もし僕が選ばなきゃならないなら、僕は何が本当のことか知る権利があるわけだね。あとはどうしてあんたたちがここにいるかと、僕の味方がどこにいるかもね」

「何が本当だって?」海賊の一人が低いうなるような声でくり返した。「それがわかりゃさぞかし幸運だな!」

「話しかけられるまでは、口をしっかり閉じてることだな」シルバーは厳しくその男をどなりつけた。それから最初のやさしい口調で僕に答えた。「昨日の朝、ホーキンズ君」シルバーは言った。「二時間交代の見張り時間に、リバシー先生が休戦旗をもってやってきたんだ。言うには『シルバー船長、おまえは裏切られたぞ、船は行っちまった』と言うんだ。うん、たしかにわしらは酒をくらっていて、景気づけに歌ってたかもしれねぇ。そうしてないとは言わねぇよ。少なくとも、だれも見張りはしちゃいなかった。外をみたら、ぶったまげたぞ、あの船がありゃしねぇ! あんときくらいあほう面のやつらは見たことねぇ。そんで、おれが一番あほう面だったと言ってもいいかもしれねぇ。『さて』と先生は言ったんだ。『協定を結ぼうじゃないか』って。わしらは協定を結んだよ、先生とわしでな。それでわしらはここにいる。食い物、ブランデー、丸太小屋、おまえらが十分なほど切ってくれた薪、まあいえばあの立派な船のマストの先から船底までそっくりだな。やつらといえば、歩いて出てったよ。どこに行ったかはしらねぇな」

シルバーは、静かにパイプをふかした。

「そんでおまえさんが自分もその協定に入ってると思うといけねぇから、」シルバーは続けた。「最後に聞いた言葉を伝えとくよ。わしは聞いたんだ『何人で行くんですかい?』。『四人だ』と先生は答えた。『四人で一人は負傷している。あの子供については、どこにいるか知らないし、困ったやつだ』と言ってたな。『いずれにしても気にしないよ。ずいぶん困らされたからね』そう言ったんだぞ」

「それで全部?」僕はたずねた。

「あぁ、それがわしが聞いた全部だよ、ぼうや」シルバーは答えた。

「それで今度は僕が選ばなきゃいけないんだ?」

「そうだ今度はおまえが選ぶ番だ。ちがいねぇ」シルバーは言った。

「さてと」僕は言った。「僕は、なにを覚悟しなきゃいけないかよくわかってないほどばかじゃないよ。最悪の事態を覚悟してる。君たちとかかわってから、ずいぶん人が死ぬのをみたからね。でも君たちに一言二言、言っておかなきゃならない」僕は言った。このときまでには、僕はもうずいぶん興奮していた。「それで最初はこういうことだ。今はひどい状態だ。船はなくなる、宝物も手に入らない、仲間は死ぬ、計画は全部だいなしだ。それでもし誰がこうしたのか知りたいなら、それは僕なんだ! 僕が島を発見したあの晩にりんご樽の中にいて、君らがいうことを聞いてたんだよ、ジョン、それからディック・ジョンソン、それとハンズだ。もうハンズは海の底だけどね。それですぐさま君らの全ての言葉を伝えたんだ。それでスクーナー船だけど、錨綱をきったのは僕だし、船に乗っているやつを全員やっつけたのも僕だ。あと君らの誰一人として見つけられないようなところに隠したのも僕だ。最後に笑うのは僕らだよ。最初からぜんぶ先手先手なんだ。きみらは、蝿ほども怖くないね。殺したきゃ殺せばいいし、見逃してくれてもいい。でも一つだけ言っておく、それで最後だ。もし見逃してくれれば、終ったことは水に流して、もし君らが法廷に海賊として立つときも、できるだけのことはする。きみたちが決めればいい。もう一人殺して何の得もしないか、僕を見逃して絞首刑を免れるための証人を一人残すかだよ」

僕は話を止めた。なぜなら、言っておくと、息も切れたし、驚いたことに、誰一人として身動きせず、羊のようにじっと僕の方を座ってみつめていたからだ。そしてまだ僕を見つめている間に、僕は再び口火を切った。「で、シルバーさん」僕は言った。「あなたがここにいる中では一番ましな人だと信じてるから、最悪のことになったら、どうか僕のことを先生にどんなだったか知らせてください」

「そいつは肝に銘じておこう」シルバーはそう言ったが、あまりに奇妙な口調だったので、僕としてはどうしてもシルバーが僕の頼みをあざ笑っているのか、僕の勇気にとても感心しているのか分からなかった。

「おれはそいつに一つつけ加えてぇ」赤褐色の顔色をした船員、モーガンという名前の男だった。僕がロング・ジョンのブリストルの波止場の居酒屋で見かけたやつだ。「黒犬を知ってたのもやつだぞ」

「あぁ、それにな」料理番はつけ加えた。「もう一つつけ加えよう、こんちくしょう! ビリー・ボーンズから地図をかすめとったのもこいつだったんだ。最初から最後まで、ジム・ホーキンズに秘密をばらされっぱなしだったんだ!」

「そら、やっちまえ」モーガンは悪態をつきながら言った。

それから立ち上がると、まるで二十才の若者のようにナイフを引き抜いた。

「やめろ、おまえら!」シルバーが叫んだ。「おまえは何さまのつもりなんだ? トム・モーガン。たぶん自分のことを船長とでも思ってるようだな、たぶん。ところがどっこい、よく教えといてやるよ! おれに逆らってみろ、たくさんのやつらがおめえの前に行っちまったところに行くんだぞ、三十年近くもそうだったようにな、桁はしにぶら下げられてぇか、やれやれ。そんで渡り板はどうだ。しまいにゃ、ふかのえさだ。わしと面とむかって、その後いい日を迎えられたやつはいねえぞ、トム・モーガン、よく知ってるだろうよ」

モーガンはだまりこんだが、しゃがれた声で別のものがぶつぶつ言った。

「トムが正しいぞ」

「おれは、こいつにもうじゅうぶん長くやられて我慢してきたぞ」他のものがつけ加えた。「もしこのうえ、おまえさんにもやられるくらいならおれは首をつるよ。ジョン・シルバー」

「この紳士方のなかで、誰かわしとやりあいたいと思っているやつがいるのかい?」シルバーが、右手には火のついたパイプを持ちながら、樽にすわりつつぐっと身をのりだしてほえた。「思ってることを聞かせろや。おまえらは口がきけねぇわけじゃないだろ。やりたいやつはやればいい。こんなに長く生き残ってきて、いまさら最後になってラム樽をくらってるようなやつらに邪魔されるようなわしじゃねぇぞ。短剣をとれ、やりてぇやつはな、そうすりゃそいつの血の色がおがめるだろうよ、松葉杖なんて関係ねぇ、パイプをすい終わる前にやってやる」

だれも身動き一つしなかった。だれ一人口答えしなかった。

「おまえたちはそんなやつらだよ、だろ?」シルバーは、パイプをくわえてつけ加えた。「あぁ、おまえらはそろいもそろって見かけ倒しなんだよ。闘う価値もありゃしねぇ、そうだろ。たぶんおまえらにも正しい英語はわかるんだろうな。わしは選ばれた船長だ。わしはえらい人間なんだ。おまえらは、成金みたいに闘う気はないんだな、くそったれ、いいだろう、そんなもんだよ! わしはこのぼうやを気に入っている。こんなに立派なぼうやは見たことがねぇ。このぼうやは、この丸太小屋にいるおまえらねずみを合わせたよりもずっとえらいやつだ。わしが言いたいのはこういうことだ。このぼうやに手をかけるやつは、わしが相手だ。これがわしの言いたいことだ。よくわかっただろうな」

その発言の後は、長い沈黙が支配した。僕は壁を背にしてまっすぐ立っていた。心臓は大きなハンマーで叩かれたみたいにどきどきしていたが、一すじの希望の光が僕の心にさしていた。シルバーは壁にもたれかかり、手をくんで、パイプを口の端にくわえ、教会にでもいるように落ち着きはらっていた。でもシルバーの目はたえず不従順な部下を見張っていた。やつらは、だんだん丸太小屋の遠い方の端に集まっていき、僕の耳には川の流れのように、耳ざわりなささやき声がたえず聞こえてきた。次々とやつらはこちらを見上げて、赤いたいまつの光がしばらくやつらのいらだたしげな顔を照らし出した。ただやつらの視線の先は僕ではなく、シルバーだった。

「おまえらには、言いたいことがたくさんあるみたいだな」シルバーが一言、つばをぺっと吐いてもらした。「堂々と言って、わしにきかせろや、でなきゃやめとくんだな」

「申し訳ないがな、」一人の男が言い返した。「あんたはずいぶん規則をやぶってらっしゃるが、たぶん守ってくれる規則もあるんだろう。船員には不満があるんだ。網通しのスパイクなんかでの脅しは通用しねぇぞ。ここの船員も他の船員みたいに権利があるんだ。好きにやらせてもらうぜ。おまえさんの規則でも、おれらは一緒に話せるんだろ。申し訳ないがな、あんたを今のところ船長とみとめるよ。でも自分の権利を主張させてもらう。外に出て会議をするぜ」

丁寧に船員式の敬礼をすると、この男は、背が高く、人相が悪い、黄色い目をした三十五くらいの男だったが、冷静にドアの方へと向かい家の外に姿をけした。一人また一人と同じように、通り過ぎるときに敬礼をして、同じいいわけをつけ加えた。「規則なんで」一人は言った。「水夫部屋の会議なんだ」とモーガンは言った。そして一人また一人と言葉をはいて、全員出て行き、後にはシルバーと僕とたいまつだけが残された。

料理番は、すぐにパイプから口を離した。

「さて、なあ、ジム・ホーキンズ」シルバーはどうやら聞こえるくらいの声だが、しっかりした声でささやいた。「おまえは半分死にかけてるようなもんだよ。もっと悪いことには、拷問かもな。やつらはわしをのけもんにしようとしてるからな。でも覚えとけよ、どんなときでもわしはおまえの味方だ。そうするつもりはなかったんだ。まったくな。おまえが一席ぶつまでは。わしはあの大きな船をなくしちまうし、おまけにしばり首なもんで、やけになりかかってたんだ。でもわしはおまえが正しいやつだってことがわかったんだ。自分にこう言い聞かせたよ、ホーキンズの味方になれ、ジョン、そうすればホーキンズはおまえに味方をしてくれるぞと。おまえはわしの最後の切り札で、誓って、ジョン、おまえはわしと一心同体なんだよ! 持ちつ持たれつだな、とわしは言ったんだ。証人を救えと、そうすれば証人がおまえをしばり首から救ってくれるとな!」

僕はなんとなくわかりはじめた。

「なにもかもなくなったんだ?」僕はたずねた。

「あぁ、くそ、そうなんだ!」シルバーは答えた。「船はなくなる、首もあやしい、そんな具合だよ。あの湾を探したが、ホーキンズ、スクーナー船はみつかりゃしねぇ。わしはタフだ。でも力が尽きたよ。やつらとあの会議について言えば、わしにいわせりゃ、やつらはまったくのばかで臆病ものだ。わしはおまえの命をやつらから救ってやるよ、できればな。ただ、覚えておけよ、ジム。持ちつ持たれつだ。おまえはロング・ジョンを首吊りから救うんだぞ」

僕にはまったく自信はなかった。頼まれたことはまったく望み薄なようにも思えた。シルバーは根っからの海賊で、最初からの首謀者なんだから。

「できるだけのことはするよ」僕は答えた。

「決まりだ!」ロング・ジョンは叫んだ。「おまえはきっぱり自分の考えを話した。そんでもってわしにもチャンスがめぐってきたわけだ!」

シルバーはたいまつのところまで跳ねていって、そこではたいまつが薪にたてかけられていたが、パイプにまた火をつけた。

「わかってくれよ、ジム」戻りながら、シルバーは言った。「わしには分別があるんだ。わしは地主さんの味方だよ。わしには、おまえが船を無事にどこかに置いてあるって分かってるんだよ。どうやったかはわからねぇが、とにかく無事だろうよ。思うに、ハンズとオブライエンがだまされたんだろう。大体やつらは、二人とも信用ならねぇんだ。でも聞いとくれ。わしはなにも聞かないし、他のやつらにも聞かせやしない。わしには勝負が決したことがわかるんだ。そうだ。わしはしっかりしたぼうやを知ってるぞ。あぁ、おまえは若いけど、おまえとわしが力をあわせりゃ、ひと仕事ができる!」

シルバーは、ぶりきの缶に樽からコニャックを注いだ。

「飲んでみるか、よぉ?」シルバーはたずねた。でも僕が断ると「いいよ、わしがかっくらうからな、ジム」と言った。「わしは飲まなきゃなんねぇ、やっかいなことが差し迫ってるからな。そんでやっかいなことについて言えば、どうして先生はわしに地図をくれたんだろう? ジム」

僕の驚いた顔をみて、シルバーはそれ以上何も聞かなかった。

「あぁ、いいよ、でもくれたんだよ」シルバーは言った。「なんか理由があるんだろうな、間違いなく。なにかが確かにある、ジム。よかれあしかれな」

そして最悪の事態を予想する人のように大きな金髪の頭を左右にふりながら、もう一杯ブランデーを飲んだ。


©2000 katokt. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。