宝島 ジョン・シルバー, ロバート・ルイス・スティーヴンソン

宝さがし フリントの地図


「ジム」シルバーは僕らだけになったときに言った。「もしわしがおまえの命を救ったなら、今度はおまえがわしの命を救ったわけだな。わしはそのことを忘れねぇ。わしは先生がおまえに逃げようと言ってるのが見えたんだ。目の端でね。わしはおまえが断ってるのも、聞こえるのと同じくらいはっきり見えたんだ。ジム、おまえに一つ言っておきてぇ。これが最初の希望の光だよ、攻撃に失敗して以来はじめてのな、おまえのおかげだ。そんで、ジム、わしらはさしあたって宝さがしに行かなきゃならねぇ。封緘命令みたいなもんだ。わしには気にいらねぇが。おまえとわしは一緒にいなきゃいけない。背中合わせみたいなもんだよ。そんでわしらはお互いの首を、どんなことがあろうが守ろうじゃないか」

ちょうどそのとき一人の男が、たきびのところから朝食の準備ができたと声をかけた。僕たちはすぐに砂地のそこらに腰かけ、ビスケットや揚げたなんやかんやを食べた。やつらは雄牛を丸焼きにするくらいの火をおこしていた。そしてあまりに熱くて、風上からしか近づけないくらいで、風上から近づくときも用心しなければならなかった。まったく同じような無駄が、料理するときにもみられた。僕が思うに食べられる三倍の量は調理されていたのだ。するとそのうちの一人が、乾いた笑いをうかべ、残ったものを火の中にくべた。ふつうと違うものがくべられて、ふたたび火はもえあがり炎をあげた。僕は生きててこれほど明日のことを考えない男たちは見たことがなかった。やつらのやり方を説明すれば、その日暮らしとしかいいようがない。食べ物は無駄にするは、見張りは寝ているで、こぜりあいは大胆にやってのけるけど、こんなようすじゃキャンプが長く続くようなことにはやつらは全く向かないことが僕にはよくわかった。

シルバーでさえ、食べ散らかして、肩にはフリント船長をとまらせ、やつらのむとんちゃくには一言も文句をいわなかった。そして同じくらい驚いたのは、このときシルバーが示した態度がいままで見たこともないほどずるいものだということだった。

「ほら、おまえら」シルバーは言った。「バーベキューがおまえらのためにこの頭で考えてやるなんて、おまえらは幸運だぞ。わしはわしが欲しいものを手に入れるんだ。絶対、やつらは船を持っている。どこにあるのか、わしには分からん。でもわしらが宝物を手に入れたら、船を飛び回って探し当てればいい。それから、おまえら、わしらはボートを持ってる分有利だろ」

そしてシルバーは、口の中を熱いベーコンでいっぱいにして続けた。シルバーは、やつらの希望と自信をとりもどした。そして僕が思うに、同時に自分の希望と自信をもとりもどしたのだ。

「人質についてはな」シルバーは続けた。「このぼうずが好きなやつらと話すのも、あれが最後じゃねぇか。わしは少しばかり知ってることもあるんだ。このぼうずに感謝しないとな。でももう終わりだし、終ったんだ。宝さがしに行くときには、このぼうずをロープでつないで行こう。なんでかって、なんかあったときに、覚えとけよ、そのときにはこのぼうずも金みたいなもんだからな。船や宝ものを両方手にいれて、楽しい仲間と海に出さえすればだ。ホーキンズ君とも話し合って、もちろんあいつにも分け前をやろう。親切にしてくれたお礼だ」

男どもが上機嫌なのには、なんの不思議もなかった。僕についていえば、恐ろしくて下を向いていた。シルバーが今言ったような計画が可能なことがわかれば、二重の裏切り者なのだから、その計画を採用するのになんのためらいもなかっただろう。両方の陣営にまだ足をかけていたのだった。そしてせいぜいが単にはだか一貫で首吊りから逃げ出せるだけのわれわれの陣営より、宝物と自由がある海賊たちの陣営の方を選ぶことは、疑いもなかった。

いや、たとえリバシー先生との約束を守らなければならないはめにおちいったとしても、僕らにも大変な危険があるわけだ! シルバーの部下の疑惑が確かなものとなって、シルバーと僕が命をかけて戦わなければならないとしたら、どんなことになるのだろう! シルバーは片足だし、僕は子供で、あの五人の屈強なすばしっこい海の男たちと戦わなければならないのだ。

この二重の不安にくわえて、味方の行動も依然として謎だらけだった。柵をでていったことも、海図の件も説明がつかないし、先生のシルバーへの最後の警告「宝物をみつけたときには、危険にそなえるんだな」も全く理解できなかった。そして僕が朝ご飯を食べていてもろくろく味もせず、どんな不安な気持ちをいだいて宝さがしに出かけたのか、すぐにわかってもらえるだろう。

だれかがそこにいて僕らの姿を見たら、とても奇妙に見えたことだろう。全員薄汚れた船員服を着て、僕以外のみんなは完全武装していた。シルバーは二丁の鉄砲を、一丁は前に一丁は後ろにつけ、大きな短剣を腰に、四角いすその上着のポケットそれぞれにピストルをいれていた。その奇妙な格好の仕上げとして、フリント船長が肩にとまって、なんやかんやと意味のない船乗り言葉をしゃべくりちらかしていた。僕は腰にロープをつけて素直に料理番のあとをついていった。料理番はロープの端を空いてる手か、強く口でくわえてるかしていた。まったく、僕は踊る熊の見せ物といった風だった。

まったく、僕は踊る熊の見せ物といった風だった。

他の男たちはいろいろな荷物を背負っていた。何人かはつるはしやショベル。というのもそれがやつらがヒスパニオーラ号から持ち出したまさに必需品だったのだから。他には昼食に豚肉、パン、ブランデーをもっていた。僕がみるところではそれらはみんな僕らの貯蔵物だったもので、前の晩にシルバーが言ったことは本当であることがわかった。もしシルバーが先生と取引をしなかったなら、反逆者たちは、船もなくなってしまったので、清水をのみ、狩りをして生き延びるほか仕方がなかったにちがいない。水はやつらの口にはあわないだろう。船員というものは、たいてい射撃も上手くないものだ。それにもまして、食べ物がこんなに不足しているのに、火薬がどっさりあるということもありそうにはないことだったが。

このように装備をして、僕らは出発した。頭にけがをしたものまで、日陰にいなければならないはずなのに一緒に来て、ばらばらに一人一人浜まで、二つのボートがあるところまでやってきた。このボートをみても海賊たちがよっぱらってばか騒ぎをしたあとがあり、一つは腰をかける横木が壊れていて、両方ともどろが中に入っており、水もかいだしてなかった。安全のために二艘とも持っていくこととなり、二手にわかれて僕らは停泊所の水面にこぎだした。

ボートを岸によせると、地図の見かたで多少議論が起こった。赤い十字はもちろん案内の印としては大きすぎたのだ。そして裏に書かれている言葉は、次に示すように、いくぶんあいまいなところがあった。覚えているだろうか、こう書かれていた。

北北東より一ポイント北の、望遠鏡の丘の肩の部分、高い木
どくろの島の東南東より東十フィート

高い木が目立つ目標だった。そして僕らの正面では、停泊所が二百から三百フィートの高さの高原に接していて、北のほうでは望遠鏡山の南の肩の傾斜につながっていた。そして南の方へはのぼっていて、荒地でけわしい高地、そこは後マスト山とよばれている場所だった。この高原の頂上には、点々とまばらにさまざまな高さの松の木が生えていた。あちらこちらに、異なった種類の木が四十から五十フィートも他の木よりもたかくそびえているので、そのどれがフリント船長の言うあの「高い木」なのか、その場所に行って、コンパスをみてみるしかなかった。

ただそんな事情だったのだが、船に乗って、半分も行かないうちからそれぞれ自分で好きな木を選んでる始末だった。ロング・ジョンだけが肩をすくめて、たどり着くまで待てと命令をくだした。

僕らはシルバーの命令で漕ぎ手をつかれさせないように、ゆっくりこいだ。そしてずいぶん長い間こいだあと、二本目の川の河口、望遠鏡山の森の割れ目をくだってくる川の河口に上陸した。そこから、左へとまがって、僕らは高原への坂を登りはじめた。

はじめは、重いぬかった地面で、足をもつれさせる沼地に生えている植物のせいで、なかなか前に進めなかった。でも少しずつ、山はけわしく、足元は石ころになり、森もその植生をかえ、より開けた土地にやってきた。特に今近づきつつあるのは、この島でも一番気持ちのいい場所だった。香りが強いエニシダや花をたくさんつけた低木が、草にとってかわっていた。緑の濃いナツメグがあちこちに、赤い幹で大きな影をつくっている松の木とともに点在していた。そしてナツメグの香りが、松の木の香りと混じっていた。空気はさわやかで、かすかに風がふいていて、そして強い日ざしのもとで、とても気持ちよく感じられた。

一行はおうぎ型にひろがって、大声をあげてあちこちに飛び回っていた。真ん中に他の者よりだいぶ遅れて、シルバーと僕が続いていた。僕はロープでしばられ、シルバーは息をきらして、すべりやすい砂利の上で足をひきずっていた。ときどき実際、僕はシルバーに手をかしてやらなければならなかった。そうしなかったら、シルバーは足をすべらして、山から転がり落ちてしまったにちがいない。

僕らはこうして半マイルも進んだだろうか、高原の頂上に近づいていたときに、一番左にいた男が、まるで怖気づいたように大声をだした。つづけざまに叫んだので、他のものもその方向に走っていった。

「宝をみつけたはずはねぇな」モーガンは、右から僕らを追い越してそう言った。「もっとてっぺんにあるはずだからな」

実際、僕らもその場所に行って見てみると、それは宝とは似ても似つかないものだった。とても大きな松の木の足元に、緑のつる草にうもれて、人の骸骨がぼろきれの衣服といっしょに地面の上にあり、つる草でいくぶん骸骨がもちあがっていたのだった。少しの間は、みんなぞっとしたと僕は思う。

「船乗りだな」ジョージ・メリーが言った。他のものより大胆だったので、近くまでいってぼろきれの服を調べたのだ。「少なくとも、上等の船員服だな」

「そうだな、そうだろう」シルバーは言った。「そんなもんだろうよ。僧正の服が見つかるとでも思ってるんじゃねぇだろうな。わしが思うに、この骨の位置はどうだろう? 自然とはいえねぇな」

確かに、もう一度見てみると、その死体は自然な位置にはとうてい見えなかった。でも多少乱れているのを別にすれば(それはたぶん鳥がついばんだか、つる草が徐々に死体を包んだのだろう)、その男はまっすぐに横たわっていた。両足はある方向をさしており、両手は水に飛び込むように足とは正反対の方を指していた。

「わしのまぬけな頭でも、一つ思いついたことがあるぞ」シルバーは言った。「ここにコンパスがある。どくろ島の頂上が出っ歯みたいになってる。方位を測ってくれ、この骸骨にそってな」

そうしてみると、果たして死体は島の方を指していて、コンパスは東南東の東を指していた。

「そうだとおもったぜ」料理番は叫んだ。「これが指し示してるんだ。ここをまっすぐのばすと、北極星とお宝があるって具合だな。まったく! フリントのことを考えると、背筋が寒くなるぜ。やつの冗談だ、間違いねぇ。やつと六人でここに来たんだ。やつは六人全員を殺した。それからこいつをここまで引きずってきて、コンパス通りに横たわらせたんだ、まったく! この骸骨は背が高いな、髪は黄色か。そうだ、アラダイスじゃねぇか。アラダイスだと思わねぇか、トム・モーガン?」

「そうだな、やつだ」モーガンは答えた。「覚えてるぜ。金を貸してたんだ、そうだ。そんでわしのナイフも陸に持ち出したんだぞ」

「ナイフと言えば」他の男がいった。「どうしてナイフが転がってないんだろう? フリントは船員のポケットをさぐるような男じゃないがな。それに鳥だってあんなもんは持っていかないだろうに」

「確かに、そのとおりだ!」シルバーは叫んだ。

「ここには何ひとつ残ってねぇな」メリーはまだ、骨のまわりをさぐりながら言った。「銅貨の一枚もタバコ入れさえねぇ。どうも不自然だな」

「ないな、確かに。そのとおりだ」シルバーも同意した。「不自然だ。良くない感じだな。まったく! おまえたち、でもフリントが生きてたら、おまえらにもわしにもさぞかしひどいことになっただろうなぁ。やつらも六人、わしらも六人だ。そんでやつらは今、骨になってるわけだしな」

「フリントの死に際ならこの目でみたぜ」モーガンが言った。「ビリーが俺を中に入れたんだ。そこでフリント船長が横になっていて、目には銅貨をのっけてたんだ」

「死んでた。確かにやつは死んでた。もうあの世に行っちまった」頭に包帯を巻いた男が言った。「でも、もし幽霊が歩くとしたら、フリントの幽霊は歩くだろうな。かわいそうに、悪い死に方をしたからな、フリントは!」

「そうだな、そのとおりだ」他のものも言った。「怒ったとおもえば、ラムをもってこいとどなって、歌ったりしたからなぁ。『十五人』が十八番だったな。本当のことをいえば、あの歌を聞くのはそれ以来好きじゃねぇぜ。暑い日で窓が開いてて、あの歌がはっきりと聞こえてきて、あの人はもう死にかけていたんだ」

「やれやれ」シルバーは言った。「そんな話はやめとけ。やつは死んだ。そんで歩きもしねぇ、わしがよくわかってる。少なくとも昼間はぜってぇに歩かねぇよ。心配は猫も殺しちまうからな。ダブロン金貨を目指して前進だ」

僕らは確かに出発した。でも照りつける太陽やぎらぎらとした日の光にもかかわらず、海賊たちはもう森の中をばらばらになって走ったり、大声をあげたりはしなかった。並んで息をひそめて話をしていた。あの死んだ海賊の恐怖が、身にしみていたのだ。


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