統治二論 後篇 社会政治の真の起源、限界及び目的に関する論文, ジョン・ロック

第十章 国家(コモンウェルス)の諸形態について


一三二 前述の如く、人々が初めて結合して社会関係を結ぶに際し、多数党が自然に共同社会の全権力を自分らの手中におさめる。かくて多数党がこの全権を行使して時々、共同社会のために法律を定め、彼等自身で任命した役人にそれらの法律を執行させることが出来れば、その時にこそ、政体は完全な民主政体となるのである。さもなければ、立法権を小数の選ばれた人々とその相続人や後継者に委ねてもよい。その時には寡頭政体となる。あるいはまた、ただ一人の手中に委ねられば君主政体となる。それが彼とその相続人に委ねられるのなら世襲君主政体である。彼のみに終身委ねられて、彼が死ねば、ただ後継者を指名し得るだけの権力が彼等に返却される場合には選挙君主政体となる。またそれ故に、適当と思う通りに、以上の諸政体を組合わせて、種々取混ぜた政体をつくることも出来る。そして立法権が最初多数党によって一人もしくはそれ以上の人々の手に、終身あるいは一定の期間委ねられ、次いで期限が来ればその最高権を再び多数党の手に戻すべきものとすれば、かくてそれが復帰される時、共同社会は再び立法権を気に入った人々の手に新たに手放し、新政体を組織することが出来る。即ち政体の如何は最高権、即ち立法権をどこにおくかにあり(劣勢力が優勢力に命令を与えたり、優勢力以外の者が法律を定めるべきだと考えることは不可能であるから)国家コモンウェルスの形態とはこのように立法権のおき方に応じて定められるものである。

一三三 「コモンウェルス」(訳註:「共同社会」もしくは「国家」を意味する)という言葉によって、いつでも、民主政体とか、その他の政体を意味するのではなくて、ラテン人が civitas という語によって表わした「独立庶民社会コミュニティ」を意味すると解してもらわねばならぬ。そのラテン語に最もよく一致する英語がこの「コモンウェルス」であり、それは「コミュニティ」という言葉では表現されず(というのはこの語は政治的支配下において従属的地位にある「庶民社会コミュニティ」を意味することがあるからである)、更に「都市シティ」では一層表現出来ないような(われわれが聞いている「都市シティ」という語は「国家コモンウェルス」とは全然異なる観念をもつから)一種の人間社会を最も適切に表わしている。それ故に、不明瞭を避けるために私は「コモンウェルス」という言葉をその意味に使うことを許して頂くように折入ってお願いする。ジェームズ一世王もその語をこの意味で使っておられたように拝察するが、それこそこの語の真の意味だと思う。これをもし好まない人があれば、もっとよい言葉と変えることには、私はその人に賛成である。