ジョージ・オーウェル

スペイン戦争を振り返って 第六章


スペイン戦争の産み出したものはロンドン、パリ、ローマ、ベルリン……いずれにせよ、スペインではない場所へと落ち着いた。一九三七年の夏が過ぎると、物事が見えている者たちは国際情勢に何か大きな変化が無い限り政府側に勝ち目がないということに気がついた。そしてネグリンネグリン:ファン・ネグリン。スペインの医師、政治家。スペイン内戦末期に共和派として共産党内閣の首相を務めた。や他の者たちと戦うという決断は一部には、実際には一九三九年に勃発した世界大戦が一九三八年に始まるのではないかという期待に影響されたものだった。おおいに宣伝されている政府側の不和は敗北の主因ではない。政府側の民兵組織は急ごしらえで、武装も貧相であり、その軍事的な構想も平凡なものだったが、もし最初から完璧な政治的合意が存在していたとしてもそれは変わらなかっただろう。戦争が勃発した時点でスペインの平均的な工場労働者はライフルの撃ち方さえ知らず(スペインに国民皆兵制度があったことは一度もない)、左派の伝統的な平和主義は大きな障害だった。スペインで従軍した数千人の外国人は優れた歩兵隊を作り上げたが、どういった種類のものであれ専門家と呼べる者は彼らの中には極めて少なかった。革命が妨害されなければあの戦争に勝つことができたというトロツキストの主張はおそらく間違っている。工場の国有化、教会の解体、革命宣言の発布によって軍隊が効率的になることは無いだろう。ファシストたちが勝利したのは彼らの方が強く、彼らが現代的な軍隊を持っていた一方で他方はそれを持っていなかったためだ。それは政治的戦略で帳消しにできるものではなかった。

スペイン戦争で最も不可解だったのは大国の振る舞いだった。実際のところあの戦争の勝利はドイツとイタリアによってフランコに与えられたものであり、彼らの動機は明白で十分なものだった。フランスとイギリスの動機はもう少し理解が難しいものだった。一九三六年には、たとえそれが数百ポンドほどの価値の武器程度であっても、イギリスがスペイン政府を手助けするだけでフランコは敗走し、ドイツの戦略が激しく混乱させられるであろうことは誰の目にも明らかだった。当時、イギリスとドイツの間での戦争が近づいていることを予見するのに千里眼は必要なかったし、それが始まるのは一、二年のうちであると予言することさえできた。しかし最も卑劣で、臆病で、偽善的なやり方でイギリスの支配階級はあらん限りの手を尽くしてスペインをフランコとナチスの手に引き渡したのだ。なぜか? 彼らが親ファシストだったからというのがその明白な答えだ。疑いなく彼らはそうであったし、ドイツに立ち向かうことを選ぶ最後の土壇場が来るまでそのままだったのだ。しかしフランコを支持する裏でどのような計画を実行に移していたのかは極めて不明瞭だった。おそらく明確な計画など全く無かったのだろう。イギリスの支配階級が邪悪なのか、たんに愚かなだけなのかは現代における最も困難な疑問のひとつであるが、それはある特定の瞬間においては極めて重要な疑問である。ロシアに関して言えば、スペイン戦争における彼らの動機は全くもって不可解だった。左がかった者たちが信じていたように彼らがスペインに介入したのは民主主義を擁護し、ナチスを阻むためだったのだろうか? それではなぜあれほど不十分な規模の介入しかせず、窮地に陥ったスペインを最終的に放置したのだろうか? それともカトリック教徒たちが主張するようにスペインでの革命を後押しするために介入したのだろうか? それではなぜスペインの革命運動を全力で壊滅させ、私有財産を擁護し、労働階級よりも中流階級に権力を手渡したのだろうか? あるいはトロツキストたちが示唆するようにただスペイン革命を妨げるために介入したのだろうか? それではなぜフランコを支援しなかったのか? 実のところ、彼らは複数の相矛盾する動機に基づいて行動していたのだと考えるとその行動を最も簡単に説明できる。スターリンの外交政策は主張されているような悪魔的に巧妙なものではなく、たんに日和見的で愚かなものであると私たちが感じるようになる日が来ると私は思う。しかしいずれにせよ、ナチスは自分たちのおこなっていることを理解し、その対抗者はそうではないことをスペイン内戦は示してみせた。あの戦争は低い技術水準での戦いであり、そのおおまかな戦略は極めて単純なものだった。武器を手にした方が勝つだろうというものだ。ナチスとイタリアはスペインのファシストの友人たちに武器を与え、西側の民主主義国とロシアは友人になるはずだった者たちに武器を与えなかった。そしてスペイン共和派は滅び、「共和国であれば決して惜しまぬものを得る共和国であれば決して惜しまぬものを得る:19世紀のイギリスの詩人ロバート・ブラウニングの詩「Apparent Failure」からの引用」ことになったのだ。

他の国々のあらゆる左派が疑う余地なくそうしていたように、勝利の見込みが無くなったスペイン人たちを戦い続けるよう励ますことが正しかったのかは回答の難しい質問だ。私自身は正しいことだったと考えている。生き残りという観点から見ても戦わずに降伏するより戦って征服された方がましだと思うからだ。ファシズムに対抗する大規模な戦略の効果はいまだ評価できる状態にはない。みすぼらしく、武器も無い共和派の軍隊は二年半の間、持ちこたえた。敵が予期していたよりも長い期間だったことは間違いない。しかしそれによってファシストの行程表がかき乱されたのか、それとも反対に、ただ大規模な戦争を先延ばしにしてナチスに兵器を整備するための余裕を与えただけなのかはいまだはっきりしない。


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