ライオンと一角獣:社会主義とイギリスの特質 第二部「戦時の商店主」, ジョージ・オーウェル

第三章


過去六ヶ月の間、「第五列」についてはさかんに語られてきた。ときおり無名の狂人がヒトラー支持の演説をして勾留されたり、おおぜいのドイツ難民が抑留されたりしている。これはまず間違いなくヨーロッパでの私たちの評判に傷をつけたはずだ。もちろん明らかなことだが、オランダやベルギーでのように大規模な組織だった第五列の軍勢が武器を携えて突然通りに姿を現すという考えは馬鹿げている。それでもなお第五列の危険が存在していることは確かである。イングランドが敗北するとしたらどんな状況かを考えればそれに思い当たる。

空襲が大規模な戦争に決着をつけることはおそらくはないだろう。イングランドが侵略・征服される可能性はあるだろうが侵略は危険な賭けだし、もし実行して失敗すれば私たちは前よりも強く結束し、より賢明になるだろう。さらに付け加えれば、もしイングランドが外国の軍隊に侵略されればイギリスの人々は自分たちが敗北したと知っても闘争を続けるだろう。彼らをずっと抑えつけ続けられるだとか、ヒトラーが百万の軍隊をこの島々に駐留させ続けようとするだとかいったことはありそうにない。○○○や○○○、○○○による政権(名前はあなたにも埋められるだろう)の方がヒトラーにとってはずっと望ましい。イギリス人が脅されて降伏することはないだろうが、説得されるか、丸め込まれるか、騙されれば実に簡単に降伏するのではないだろうか。ミュンヘンでそうだったように、自分たちが降伏していると気づかないうちにそうなればなおさらだ。戦況が悪くなるよりもうまくいきそうに思える時こそ、そうしたことは最も容易に起きる。ドイツやイタリアのプロパガンダの大半の脅し口調は心理的思い違いを誘おうとする。とはいえ、それに騙されるのは知識人たちだけだ。一般庶民にとって適したやり方は「引き分けにしよう」と持ちかけることだ。こうした方針に沿った講和交渉がおこなわれれば親ファシストたちは歓声を上げるだろう。

しかし親ファシストとはいったい誰のことなのだろう? ヒトラーの勝利は超富裕層、共産主義者、モズレーの支持者、平和主義者、カトリック内の特定のグループにとって魅力的なものだ。また銃後の状況がひどく悪くなれば労働者階級の比較的貧しいグループは積極的な親ヒトラーとは言わないまでも敗北主義的な立場へと振れることだろう。

この種々雑多な人々からなるリストを見るとドイツのプロパガンダである「全員にあらゆるものを提供する意志」の大胆不敵さが見て取れる。しかしさまざまな親ファシスト勢力は自覚的な一致団結の活動をおこなってはおらず、それぞれのやり方で活動している。

共産主義者はまず間違いなく親ヒトラーと見てよく、ロシアの方針が変わらない限りそれは続くだろうが、たいした影響力は持っていない。現在は低調なモズレーの黒シャツ隊の方がずっと危険である。おそらく軍隊の中にも支持基盤を持っているからだ。とはいえその最盛期においてもモズレーの支持者は五万人もいなかったはずだ。平和主義は政治運動というよりは心理学的珍品である。暴力の完璧な放棄を唱える極端な平和主義者の一部はついにはヒトラーを熱心に支持し、反ユダヤ主義を軽く扱うことさえしている。これは興味深いことではあるが、さして重要ではない。「純粋」な平和主義は海軍力の副産物であり、極めて安全な立場にある人々にしか訴える力を持たない。さらに言えばそれが否定的で無責任なものである限りはたいした献身を呼び起こすこともない。ピース・プレッジ・ユニオンの会員で年間会費の支払いをしている者は十五パーセント以下しかいないのだ。こうした平和主義者や共産主義者、黒シャツ隊といった人々が努力しようともそれによって大規模な反戦運動が巻き起こることは無いだろう。しかし降伏交渉をおこなう裏切り者の政府にとっては事態をおおいに容易にしてくれる助けとなる。フランスの共産主義者と同様に、彼らは富裕層の半ば自覚的な代理人となることだろう。

本当の危険は上からのものだ。貧しい者の友人、財閥の敵対者になるといった最近のヒトラーの一連の談話に関心を奪われるべきではない。ヒトラーの素顔は「我が闘争」、そしてその行動にある。相手がユダヤ人だったり、積極的に自分に反対している場合を除けばヒトラーが裕福な者を迫害したことは一度もない。彼は資本家の権力のほとんどを取り上げる中央集権化した経済を支持しているが、社会構造の大部分は以前のままにしている。国家が産業をコントロールしているが富裕者と貧困者、主人と従僕はいまだ存在している。従ってそれは真の社会主義に反しており、金満階級は常に彼の味方なのだ。スペイン内戦の時にはそれが明瞭に現れたし、フランスが降伏した際にもそれははっきりと見て取れた。ヒトラーによる傀儡政権は労働者ではなく銀行家や耄碌した将軍、腐敗した右派政治家の一団からなっていたのだ。

そうした自覚的な裏切りという劇的事態はイギリスでは成功する見込みがずっと低い。試みられる可能性さえほとんど無いだろう。とはいえ多くの付加税納税者にとっては今回の戦争はまさに常軌を逸した同族争いであり、あらゆる労力をかけて止めるべきものである。「平和」運動が上層部のどこかに足場を築いていることは疑いない。おそらく影の内閣はすでに組閣されているだろう。こうした人々が機会をとらえるのは敗北の瞬間ではなく、不平家によって倦怠が強められる停滞期のことになる。彼らは降伏ではなくただ和平についてのみ語るだろう。そして自分たちが最善の結果のために活動しているのだと自分たち自身と他の人々に言い聞かせることは疑いない。大勢の失業者が山上の垂訓を引用する大富豪に導かれる……これこそが私たちにとっての危機なのだ。しかし、いったん妥当な水準の社会的公正が準備されればそうしたことは生じない。ロールスロイスに乗った淑女はゲーリングの爆撃機編隊よりもずっと道徳に対して大きな損害を与えるのである。


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