メイカーズ コリイ・ドクトロウ 第三部

第五章


夕食の時間になると二人はシャワーを浴び(ギプスのせいで手が届かない場所は彼女が嬉しそうに洗うのを手伝ってくれた)、着替えて家を出た。ペリーはシャワーの後で鎮痛剤を飲んでドアを出る頃にはそいつが効き始めていた。秋の夜の風は爽やかで肌寒いくらいだった。

男が近づいてくるのに気がついたのは二人が最初の曲がり角まで来たときだった。「ペリー・ギボンズさんですよね?」イギリス風のアクセントに小さく突き出た太鼓っ腹、大きな白いダウンジャケットを着て首元にはスカーフを巻いている。

「そうだけど」ペリーは答えた。彼はその男を見た。「どこかで会ったことが?」

「いいえ。会ったことはありません。ですが私は報道でずっとあなたのことを読んでいます。実にすばらしい」

「ありがとう」ペリーは言った。有名人扱いされるのは……どこかおかしな気分だった。とにかくヒルダの目の前でこんなことになったのは誇らしかった。「彼女はヒルダ」彼は言った。彼女が男と握手すると、男がねずみのような二本の前歯を見せてほほえんだ。

「フレッドです」男が言った。「よりによってこんな場所であなたに会えるとは本当に嬉しいです。この町で何を?」

「友達に会いに来ただけだよ」ペリーは答えた。

「フロリダのあなたのところで何か騒ぎが起こっていましたよね? やつらがここのライドにやったことは私も見ました。いまいましい騒ぎだ」

「ああ」ペリーは言って自分のギプスがはめられた腕を指した。「逃げ出すにはいいタイミングだった」

ヒルダが口を開いた。「私たちこれから夕食に行くんですけどよかったら一緒にどうです」

「お邪魔をしちゃ悪い」

「いいえ。遠慮なさらず。ライド関係で会った人とはみんな仲間です。大歓迎します」

「おやおや。そこまで言ってくださると私としてもお断りできませんね」

ルークとアーニーはガールフレンドを連れてもう来ていた。他にもたくさんの若者たちがいた。全員がスカンジナビア系というわけではない。ベトナム系の者やミャオ族モン系の者、就労ビザで入国したデシの子孫らしい者もいたがみんな中西部に馴染んだ姿で健康そうだった。彼らは学生向けの食堂でものすごい量の食事をした。食事にはじゃがいもが大量に使われ、ビールジョッキは頭の大きさほどもあった。ペリーは鎮痛剤が代謝されるまでの数時間はビールを我慢していたが薬が切れると酒盛りに加わってあっという間に泥酔した。彼はみんなに騒動の様子やデス・ウェイツのこと、協同組合のことや反撃の計画について語った。

「どうも僕には腑に落ちないな」ルークの友達の一人が言った。ロースクールの大学院生で音楽産業の訴訟から大学生を守るために自分がやっている法律相談仕事の話をずっとペリーの耳元で語っていたやつだった。「いや、警官に狙いを定めるのはわかるんです。やつらはあなたたちに手荒な真似をした。だけど警官がどれだけの金を持っているっていうんです? もっと金で肥え太ったターゲットを狙うべきだ。つまりディズニーです。商標権の濫用、訴権の乱用、そんなところですね。ハードルはかなり高くなるけど、もし裁判に勝てば信じられない額の金になる。やつらから金を巻き上げられるんですよ」

ペリーはぼんやりと彼を見た。他の者と同じように彼は若かったが弁が立ち、それが本当の自信から生まれているようにペリーには見えた。彼は自分の才能を知っている、あるいは自分にはそれがあると思っているのだ。彼の広い額に赤いあざが孤島を描いていた。このあざはこの若者と向き合った者をたじろがせるのだろうと彼は思った。「ディズニーを訴えて五年後に現金を手に入れたとして……それが今の俺たちの役に立つのか?」

若者は頷いた。「そう聞かれるんじゃないかと思ってました。それについてはもう十分に検討済みです。やるべきことは行動を起こすことだけだ。こいつはすごいことになりますよ」部屋は静かになっていた。みんなが集まって耳を傾けていた。テーブルの中央に置かれたピッチャーからフレッドがペリーにビールを注ぐ。「あなたがやらなきゃならないのはこいつのための投資資本を集めることです。こいつはとんでもない額の金になる。とんでもない額だ。ディズニーには十分な資金がある。一大裁判になりますよ。

ですがあなたの言うとおり、こいつが金になるまで十年か十五年はかかるでしょう。この訴訟にかかる費用は百万ドルにはなる。ですから投資のための組織を作るんです。たぶんディズニーから三〇〇〇万ドルは取れる。それに陪審員による懲罰処分だ。もし手元に残るのが半分としてもこの投資は十五倍のリターンになる。大金持ちを探し出してて一六〇〇万ドル借り入れて、裁判費用を彼につけておくんです」

あまりのことに驚いてペリーは言葉に詰まった。「冗談だろう。そんなことができるのか?」

「それが知的財産訴訟のやり方なんですよ! あるまぬけなエンジニアが潰れかけの自分のスタートアップのためにでっちあげの特許をとりました。その後、会社は泥の中に沈んでいった。ところが一人のベンチャー投資家が現れてその会社を買った。会社は方向転換して他のちゃんとした事業を営む会社を特許権侵害で訴えだしたんです。訴えられた方はその特許の取り消しを米国特許商標局に求めるために必要な資金を募り、みんながそれに一口乗ったんです。ベンチャー投資は最近ではビジネス訴訟の資金集めの方法としては一般的なんです」

フレッドが笑い声を上げて拍手をした。「すばらしい! ペリーさん。こいつはすばらしいですよ。やってみてはどうです?」

ペリーはテーブルを見つめた。ビールジョッキの取っ手を指先でなぞる。「俺はものを作る作業に戻りたいだけなんだ。その話は馬鹿げてる。俺の人生の十年を誰かを訴えることに使えだと?」

「あなたが訴訟をする必要はない。ここが重要なところです。外注するんですよ。あなたは金を得られる。面倒事は他の誰かが全て引き受けてくれる」ヒルダが彼の肩に手を回した。「スーツどもにも何か仕事をあげなきゃ……さもないと彼ら不安になって面倒事を引き起こすわ」

ペリーとヒルダはまるで今までで一番おもしろいことを聞いたとでも言うように笑った。フレッドと他の者もその笑いに加わり、ペリーは酔っぱらいらしい走り書きでティジャンとケトルウェルにその情報を伝えるためのメモをとった。パーティーはそれから間もなくして大きな笑い声とささやくような笑い声の中で終わり、彼らは千鳥足で家路へとついた。フレッドはペリーに熱のこもった握手を求め、いささか長すぎて感傷的な抱擁をヒルダにし、最後にはヒルダに押し返されて抱擁を終えながらいくぶん大きな笑い声を上げた。

「さあそれじゃあ」ペリーは言った。「愛しの我が家へと帰ろう」

ヒルダは彼の股間を軽く叩くと家へ向かって走りだし、彼はそれを追いかけていった。


前へ 目次 次へ