宝島 ロバート・ルイス・スティーヴンソン 第三部

どのように海岸の冒険をはじめたか


翌朝、甲板に出た時には島の様子はすっかり変わっていた。風はすっかりやんでいたけれど、夜の間に船はずいぶん進んでいて、今は低い東岸の南東半マイルあたりのところで停泊していた。灰色の森が島の表面の大部分をおおっていた。この島の一様な色合いは、低いところにある黄色の砂地の層や、多くの背の高い松の種類の木々で乱されていた。その木々は、あるものは飛びぬけて、あるものは群生して他の木より背が高かった。ただ島の全体は、同じような色合いでくすんでみえた。植物の上には山々がそびえ、頂上のあたりはむき出しの岩だった。山はみんな奇妙な形をしていて、望遠鏡山が300から400フィートくらいでその島で一番高い山だったが、形も一番奇妙だった。あらゆる方向からみても切り立っていて、とくに頂上は突然切り取られたようで、像をのせる台のような形をしていた。

ヒスパニオーラ号は、甲板排水穴が海のうねりの下になるほど揺れていた。帆の下げたは滑車にあたり大きな音をたて、舵はあちこちに音をたててぶつかり、船全体がまるで工場みたいにきしんだり、うなったり揺れたりした。僕は後方支索にしっかりしがみついてなければならなかった。そして周りの世界はめまいがするほどぐるぐる回って見えた。船が航海をしているときは立派な水夫としても通用するくらいだった僕だが、船がじっと停まって揺れているので、吐き気をおさえることができなかった。特に朝のなにも食べてない時には。

たぶん島の外観のせいだと思う。森は灰色で憂鬱な感じだったし、頂上の岩はごつごつしていて、 けわしい浜にできては砕ける波を見たり聞いたりすることができた。少なくとも、日は照りつけていて暑かったし、僕たちのまわりでは海岸の鳥がえさをとったり鳴き声をあげていたので、こんなに長く 海の上にいた後では、誰でも喜び勇んで上陸するにちがいないと思うかもしれないが、僕ときたらすっかり落ち込んでいた。そもそも初めて前方にその姿を見たときから、僕は宝島のことを考えるだけでも嫌だった。

僕たちは退屈な朝仕事をかたづけ、風がふきそうな気配は全くなかったので、ボートを何艘か降ろして船員を乗りこませ、船を引くこととした。3マイルから4マイル、島の角を廻って、どくろ島の背面の停泊場所まで狭い水路をいかなければならなかった。僕も志願して、もちろんできる仕事はなにもなかったがボートの一艘にのりこんだ。だらだら汗がでるほどの暑さで、船員たちは仕事にもうれつな不満をもらした。僕の船ではアンダーソンが指揮をとっていたが、船員たちに命令に従うようにさせるどころか、自分が一番大声でぶつぶつ言ってるしまつだった。

「ふん、」悪態をつきながらこうこぼしていた。「いつまでもこのままじゃねぇんだ」

僕はこれはずいぶんよくないしるしだなぁと思った。その日まで船員たちは、きびきびとすすんで仕事をしていたから。だけど島を一目みただけで、規律がすっかり緩んでしまったのだ。

停泊場所にいくまでずっと、ロング・ジョンが舵取りのそばにたって船の指揮をしていた。やつはその水路をとてもよく知っていた。測鎖で水深を測っている男が、海図にあるよりずっと深いと報告したが、ジョンは一顧だにしなかった。

「このあたりは引き潮で強い流れがあるんだ」やつは言った。「だからここの水路は削られてるわけだ、まあいうなれば鋤で掘られてるようなもんだな」

僕たちはちょうど海図で錨が描かれているところに停泊した。一方は本土、もう一方はどくろ島で、どちらの岸からも3マイルほどの所だった。底はきれいな砂で、錨をなげこむと鳥の一群がぱっと舞いあがり森の上で鳴き声をあげたが、すぐにふたたび舞い降り、全てがふたたび静まりかえった。

停泊場所は陸で囲まれていて、森の陰にかくれ、木々は高潮のとき潮が満ちるところまで生えていた。海岸はたいてい平らで、山の頂上は遠く、まるで円形劇場の観客席みたいに、こちらに一つあちらに一つ、あそこに一つといったようにその場所を取り囲んでいた。むしろ湿地というような2本の小川が、この池といってもいいような場所に注ぎ込んでいた。海岸のその部分を囲む木々の葉は、毒々しくあざやかだった。船からは小屋や柵はみえなかったが、木々にすっかり隠れているんだろう。もし船室昇降口にあの海図がなかったとしたら、僕らはこの島ができてから初めて停泊した人間だと思ったかもしれない。

風もまったくなく、半マイル向こうで浜辺に打ち寄せ岩にくだける波の音以外、物音一つしなかった。その停泊場所には、独特のよどんだ匂い、水浸しの木の葉や腐りかけの幹の匂いがただよっていた。僕は先生がくさった卵をかぐように、鼻をくんくんさせているのを目にした。

「宝物はいざしらず、」先生は言った。「熱病があることにはこのかつらを賭けてもいいね」

船員のふるまいはボートでも注意すべきものだったが、船に戻ってきたときにはまさに危機がそこまで迫っていた。船員たちは甲板に横になって、不満をぶちまけていた。ささいな命令1つでも、ふくれっつらでしぶしぶと適当にそれをこなした。正直な船員までもがその悪い影響をうけたにちがいない。なぜなら他人を正そうというものは一人だっていなかったのだから。反乱が、明らかに、雷雲のように僕らの頭上におおいかぶさっていた。

ただこの危険をみてとったのは、キャビンの僕たちだけではなかった。ロング・ジョンはこちらのグループからあちらのグループへと熱心に行き来して、懸命にいろいろ忠告していた。手本としては、誰もこれほどよい手本はしめせないくらいだった。やつは確かに、やる気も礼儀正しさもいつも以上だった。誰に対しても笑顔で接し、もし命令を受ければ、すぐさま松葉杖をついて、このうえなく機嫌よく「アイ、アイ、サー」と答えたものだ。何もやることがない時には次から次へと歌を歌い、それはまるで他のものの不平不満を隠そうとでもするかのようだった。

憂鬱な午後の全ての憂鬱な出来事の中でも、このロング・ジョンの明らかな心配りはもっとも悪いことのように思われた。

僕たちは、キャビンで相談した。

「さて、」船長は言った。「もしもう一つでも命令をだすようなことをしたら、船全体が一気に雪崩をおこしますよ。気づいたでしょう、こんな具合です。私にすら乱暴な返事をするんですから、私にですよ。もし私が言い返せば、その瞬間にやりが何本も飛んでくることでしょう。なにも言い返さなければ、シルバーがなにかあるぞと気づきますから、そうしたらお手上げです。さてわれわれが信頼できるのはたった一人ですな」

「それは誰ですか?」大地主さんが尋ねた。

「シルバーですよ」船長は答えた。「やつは私やあなたと同じくらい事態を落ち着かせようとしてるんです。今はつまらんいさかい程度ですから、チャンスがあればすぐに説得してやめさせるでしょう。私が言いたいのは、そのチャンスをやつに与えてやろうということです。船員たちに午後の上陸を許してやりましょう。全員で行けば、船を操縦できるし、誰もいかなければ、いいでしょう、キャビンに立てこもるんです、神が正しきものを守ってくれるでしょう。何人かがいけば、覚えておいてください、シルバーがやつらを子羊みたいになだめて船につれもどしますよ」

そうすることに決めて、弾をこめたピストルが確かな味方に配られた。ハンター、ジョイス、レッドルースに秘密を打ち明けたが、僕たちが考えていたより大して驚きもしなかったし、ずっとやる気に満ちていた。そして船長が甲板にもどって、船員たちに話をした。

「君たち」船長は言った。「本日は暑いし、みんな疲れていて元気がない。上陸してもなにも悪いことはあるまい、ボートはまだ海上だし、ひとっぱしりしてくれたまえ。午後の間は、何人上陸してもかまわない。日没の30分前に号砲でしらせることにする」

僕は信じているが、あのばかなやつらはこう考えていたにちがいない。上陸すれば、宝物で向こうずねをうつだろうなんて。というのも、全員すぐさまふくれっつらをやめて、遠くの山でもこだまするくらいの声でバンザイをしたからだ。鳥たちはまた羽ばたいて、停泊場所の周りで鳴きさけんだ。

船長は賢かったので、じゃまするようなことはしなかった。すぐさま姿をけし、一行を取りまとめるのはシルバーにまかせた。船長がそうしたのは本当によかったと思う。もし船長が甲板にいたら、状況に目をつぶっているふりをすることは、もはやできなかっただろう。状況はきわめて明白だった。シルバーが船長で、反乱をおこす頑強な船員たちを掌握していた。正直な船員は、僕はすぐにそういうものがいたことを知るのだが、とてつもなく頭がわるいやつらだったにちがいない。もしくは、本当のところはこうだったのだろう。船員たちはみんな首謀者に影響されてただけだと、それ以上でも、それ以下でもないのだろう。そして少数のものはもともと善良なので、それ以上影響をうけて悪くなることもなかったのだろう。怠けてこそこそずるをするのと、船を乗っ取って罪のない人をたくさん殺すのはそもそもまったく別のことなのだ。

とにかく、とうとう一行がまとまった。6人の船員が船にのこり、残りのシルバーを含む13人がボートに乗りこみだした。

僕らの命を救うのに重要な役割を果たしたあの狂った考えの最初の一つが、僕の頭に浮かんだのはその時だった。シルバーが6人をのこしたとすれば、船を乗っ取って戦えないのは明らかだった。6人しか残らないのだから、キャビンの人たちにも僕の助けが当座必要ないのも、また明らかだった。僕はすぐさま上陸しようと思い立ったのだ。すぐに船の側面から滑り降りると、一番近いボートの前の三角の部分にもぐりこんだ、と同時にボートは押し出された。

誰も僕には気づかず、ただボートの漕ぎ手だけが「ジム、おまえか、頭を下げてろ」と言っただけだった。ただシルバーは他のボートから、めざとくこちらを見ていて、それが僕かどうか確かめようと大声をだした。その時から、はやくも僕は自分のしたことを後悔しはじめた。

船員たちは、浜辺まで競走した。僕の乗っていたボートはスタートも早かったし、軽くてまた漕ぎ手もよかったので、他の船をはるかに引き離し、ボートの先が岸の木の間につっこむと、僕は一本の枝につかまってぶらさがり、手近の茂みに飛びこんだ。シルバーや他の船員たちは100ヤードは後ろにいた。

「ジム、ジム!」シルバーが叫ぶ声が聞こえた。

しかし当然のことながら、僕は注意を払わなかった。飛び跳ねて、しゃがんで、かき分けたりしながら振りかえらずにもうこれ以上走れないというところまでまっすぐ走った。


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