カーミラ, ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ

医師


カーミラは彼女の部屋に付き添いが寝ることを聞き入れようとはしませんでしたので、彼女が彼女の部屋の戸口で捕まえられることなしに別のあのような遠足をしようとしないように、私の父は彼女のドアの外に召使を一人寝かせるように手配しました。

その夜は静かに過ぎました。そして翌朝早く、私には一言も言わずに父が使いをやって呼んでいた医師が、私を診察するために到着しました。

ペロドン夫人が書斎まで私を連れて行きました。そしてそこに、白髪でめがねを掛けた、以前にも私が言及した、まじめで小柄な医師が私に面会するために待っていました。

私のことを彼に話すと、私が話を進めるにつれて医師はどんどん深刻な表情になっていきました。

私たち、つまり私と医師とは窓の凹んだところのひとつで向き合って立っていました。私の話が終わると、ほんの少し恐怖に取り付かれたように、両目で私を熱心に見つめながら彼は壁に肩を預けました。

一分間沈思した後、彼はペロドン夫人に私の父に会えるだろうかと訊ねました。

それにしたがって父は呼び寄せられ、そして父は微笑みながら入ってくると言いました、「お医者さん、貴方をここに連れて来るとは私はなんと愚かな年寄りだ、と貴方は私に言おうとしているのではないかと思っているのですがね。そうなら良いと思ってるのです」

しかし、医師が非常に真剣な顔で自分のほうへ父を手招きすると、父の笑顔は消えて暗い表情になりました。

父と医師とは、私がちょうどその医者と話し合っていた同じ窓の凹んだところでしばらく話し合いました。熱心で論争するような会話でした。部屋はとても広くて、私とペロドン夫人とは好奇心でじりじりしながら向こうの端に一緒に立っていました。しかしながら、彼らはとても低い声で話しているので一言も私たちには聞こえず、深い出窓の凹みが医師を視界から完全に隠していました。そして私の父もご同様で、足と腕と肩だけが見えるだけでした。そして、厚い壁と窓とが形成する別室のようになっていたためなのでしょう、声はそれほど聞き取れませんでした。

しばらくして、私の父の顔が部屋のほうに向きました。それは、青ざめ、物思いに沈み、そして動揺していたと私には思えました。

「ローラや、お前、少しこちらに来なさい。マダム(ペロドン)、貴方を煩わすつもりはありません(お引取り下さい)、お医者さまが言ってるので、直ちに」

言われたとおりに私は近寄りましたが、そのとき初めて、少し不安を感じました。なぜなら、私は病気だとは感じませんでしたが、私は非常に体が弱っているのを感じたのです。そして、人は常に、体力は望みさえすれば取り戻されるものだと思っています。(がそうではなく、私は体に力が入りませんでした。)

私が近づいたとき、私の父は私に手を差し出しましたが、目を医師に向けたままでした。そして言いました。

「確かに非常に奇妙だ。私は完全には理解できない。愛しいローラ、こちらへおいで。さあ、シュピールスベルグ先生の言うことをよくお聞き、そして、落ち着くんだ」

「貴女は最初の恐ろしい夢を体験した夜に、首のあたりに、肌を突き刺す二本の針のような感覚があったと言いましたね。まだそこは痛みますか?」

「いえ、まったく痛くありません」と私は答えました。

「これが起きたと思う場所を指で指し示すことができますか?」

「喉からほんのちょっと下で――ここです」と私は答えました。

私は部屋着を着ていて、それは私が指し示した場所を覆っていました。

「さて、納得してもらいますよ」と医師は言いました。「貴女のお父さんがほんの少し貴女のドレスを下げるのを気にしてはいけません。あなたがかかっている病気の徴候を見つけるためには必要なことなのです。」

私は同意しました。それは、襟の端からほんの一インチか二インチ下がったところでした。

「ああ、神よ! ――そう、ここにある」父は真っ青になって叫びました。

「今、ご自分の目でご覧になりましたね」と医師は心配していた通りだったといわんばかりの陰鬱な手柄顔で言いました。

「なんなのです?」と怯え始めて私は叫びました。「なんでもないよ、お嬢さんや。小さな青あざだよ、貴女の小さい指の先くらいの大きさの。そして、さあ、」とお父さんのほうを向いて彼は続けました。「問題は何がなされるのが最善か? ということだ」

「なにか危険があるのですか?」と非常な恐怖におののいて私はき立てました。「危険は無いと信じていますよ、お嬢さん」と医師は答えました。「貴女が元気にならない理由はないし、貴女が直ちに良くなり始めない理由も判りませんね。そこが喉を絞められる感覚が始まる場所なのですね?」

「はい」と私は答えました。

「そして――出来るだけ良く思い出してください――貴女がたった今述べた、あなたに向かって流れる冷たい流れのようなあのぞくぞくすることの所謂中心は同じ場所なのですね?」

「そうだったかも知れません。そうだと思います」

「おお、お解かりですか?」彼は父に向き直って付け加えました。「ご夫人に一言申していいですか?」

「もちろんです」と私の父が言いました。医師はペロドン夫人を呼び寄せて言いました。「ここの私の若き友人は健康には程遠いと判りました。重大な成り行きにならねばいいと願っています。しばらくしたら私が説明するいくつかの手順が必要となるでしょう。しかし、今のところは、マダム(ご夫人)、あなたはできるだけ一瞬たりともローラさんを独りにさせないようにするのです。差し当たり貴女に与える必要のある心得はそれだけです。それは絶対に必要なことなのです」

「あなたを頼りにしていますよ、マダム、分かっていますが」と父が付け加えた。

ペロドン夫人は熱意を持って彼に応えました。

「そしてお前、愛しいローラや、お医者さまの指示をよくまもるんだよ」

「他の患者に関しても貴方の意見をお伺いしたいのですが、その病人の症状もちょうどいま貴方に詳しく説明された私の娘の症状に少し似ているのです――非常に程度は穏やかなのですが、同じ種類のものだと私は確信しています。患者は若い女性で――私たちのお客様です。貴方が今夜また立ち寄ってくださるのなら、ここで、夕食をお取りになるといい、そうすれば彼女に会えます。彼女は午後まで降りて来ないのです」

「ありがとう」と医師は言いました。「そうですね、今夜七時にご一緒しましょう」

それから、彼らは私とペロドン夫人への指示を繰り返しました。そして、この暇乞いの世話で父は私たちをその場へ残し、医師と一緒に歩いて出ました。そして私は彼らがお城の前の草で覆われた高台の上を、道やお堀の間でどうやら熱心な会話に没頭しながら、同じ歩調で上り下りして歩いていくのを見ました。

医師は振り返りませんでした。彼がそこで馬にまたがり、暇乞いの挨拶をし、それから森を抜けて西のほうへ馬に乗って去っていくのを私は見ました。

それとほとんど同時にドランフィールドから手紙を持って配達人が到着するのを見ました。そして、馬から降りて、鞄を父に手渡すのが見えました。

一方、ペロドン夫人と私は二人とも、医師と父とが一致して課した奇妙で熱心な指示の理由について憶測にふけっていました。夫人は、後で私に語ったところでは、医師が急な発作を懸念していたのではないか、そして、迅速な補助無しでは、発作を起こして命を失うか少なくとも深刻に傷つくのではないかと心配していました。

その解釈は私の心に浮かびませんでした。そして私は、おそらく私の神経にとって幸運なことに、その手配は、私が興奮しすぎたり、未熟な果物を食べたり、若い人たちがしがちだと疑われている五十ものばかげた物事のどれかを、私がしでかさないように予防する付き添いを単に確保するために指図されたのだと、想像しました。

およそ半時間後に私の父が入ってきました――手に手紙をひとつ持って――そして言いました。「この手紙は遅れて配達された。シュピールスドルフ将軍からだ。彼はここへ昨日来るつもりだったらしいが、明日まで来ないかもしれないし、今日ここへ来るかもしれない」

彼は開いた手紙を私の手に置きました。しかし父は、特に将軍のように好意を持っているお客が来訪するときはいつもそうであるように、喜んでいるとは見えませんでした。

それどころか、まるで父は、将軍が紅海の海底にいればいいと思っているように見えました。率直に言えば、人に漏らさないと決心している何かが父の頭にあるようでした。「ねえ、お父さん、教えてよ?」と私は、突然彼の腕に手を置き、確かですが、彼の顔を哀願するように見つめながら言いました。「おそらく、」と、彼は私の目の上の髪を優しくなでながら答えました。

「お医者様は私のことを酷い病気だと思っているの?」

「いや、お前。お医者様は少なくとも、もし、完全な回復への本街道への正しい道程が取られたら、一日か二日でお前は完全に回復するだろうと考えているよ。」と彼は少し冷たく答えました。「私たちの良き友、将軍が他の日を選んでいてくれたらと思うよ。つまり、彼に面会するときは、お前が完全に元気になっていたら良いと思うのだ」

「でも教えてよ、お父さん」と、私は言い張りました。「お医者様は私のどこが悪いと思ってるの?」

「なんでもないんだ、私を質問攻めにしないでくれ」と、記憶の上では彼がそれまでに見せたことが無いほどの苛立ちを見せながら父は答えました。そして、まるで私が傷ついているように見えるとでもいうように私を見ながら、私に接吻し、そして付け加えました。「一日か二日の内にお前は全てを知るだろう。それは私の知る全てでもある。それまでの間はそのことで思い悩んではいけないよ」

彼は背を向けて部屋を後にしました。しかし、これら全ての奇妙な出来事について、不思議に思ったり、悩んだりする前に戻ってきました。それは単に、カルンシュタインへ行くつもりで十二時に馬車を用意させているので私とペロドン夫人も彼と一緒に行かないかと言うためだけでした。彼は用事があって、それらの絵のような土地の近くに住んでいる牧師に会いに行くつもりでした。そして、カーミラはまだそれらを見たことが無かったので、彼女が降りてきたら、ラフォンテーヌ嬢と一緒に追ってくることになりました。ラフォンテーヌ嬢は、その廃墟のお城で私たちのために整えられる所謂ピクニックのための品々を運んでくることになっていたのです。

それゆえに、十二時には私は用意ができており、そしてその後すぐに、私の父とペロドン夫人と私とは計画された馬車旅行に出かけました。

跳ね橋を過ぎると右のほうへ向きを変えました。そして急勾配のゴシック式の橋を越えて廃村とカルンシュタイン城の廃墟へと向かって、西の方へと街道を辿りました。

どんな森の馬車旅行であっても、より素敵だとは想像できません。地面はなだらかな丘や谷間になり、全てが美しい木で包まれ、全体としては、人工的な植林や早生栽培の耕地や刈り込みが与える比較的形式ばった点には欠け、変化に富んでいます。

その土地の変化は、しばしば道を取るべき方向から逸らすように導き、そして、ほとんど無尽の地面の変化のなかで、起伏のある谷間の横や丘の急峻な腹の周りを巡って、道が美しく曲がるようにさせます。

これらの場所の一つを曲がったとき、私たちは突然私たちの古い友人、将軍が、馬に乗った使用人に付き添われて、私たちのほうへ向かって馬を御して来るのに出くわしました。彼の大型旅行鞄は賃借りした我々が荷車と称するところの荷馬車に乗せられて後に着いて来ていました。

私たちが馬車を止めると、将軍は馬を降り、いつもと変わらない挨拶の後、彼は容易く、馬車の空いた席を受け入れ、そして、彼の馬はお城へ彼の使用人を乗せて送ることを承諾しました。


©2008 山本雅史. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。