現代憲政評論 選挙革正論其の他, 美濃部達吉


本書は著者が最近数年間に新聞紙又は雑誌に発表した論文の中政治上の時事問題に関係するものを集めたものである。

本書を刊行するに至つた重なる動機は岩波書店主人の勧誘に在る。著者は大正十五年六月に帝国大学新聞に関係することとなつてから以来、編集者の依嘱に応じ、政治上又は社会上の時事に関するその折々の感想を、時々同新聞の紙上に掲載し来つたが、岩波君は平生此等の拙文を愛読せられて居たといふことで、著者に向つて頻に之を一冊に纏めることを慫慂しょうようせられた。それ等の拙文は固より学問的研究の結果に出でたものではなく、草卒の間に書き下した断片的の随想に過ぎないもので、再びこれを世に問はむとするほどの自信あるものではないが、兎も角も自分の書いた論文が一冊に纏まることは、著者に取つて甚だ喜ばしいところであるので、喜んでその勧告に従ふと共に、他の新聞紙又は雑誌に掲載したものも、時事に関するものは併せて之を集録し、以て本書を為すに至つたのである。

本書録する所の拙文は合せて三十篇で、その中稍々やや論文の体を為せるもの三篇は、それぞれ独立の表題を付して之を巻頭に収め、その他の二十七篇は一括して「時事評論」と題し、執筆の時の順序に従つて逐次之を集載することとした。最初の三篇中「選挙革正論」及「貴族院論」の二篇は、本書の刊行に際し、新に増補修正を加へたものであるが、その他の諸篇は、単に多少字句を修正した箇所が有るに止まり、大体に於いては嘗て発表したものをそのまま修補する所なく収録したものである。

何れも貧弱なる論文に過ぎないが、現代の日本の立憲政治に対して著者の抱いて居る思想は、此等の断片的の随想の中にも、一貫して随所に現はれて居ることと思ふ。諸君子の教を乞ふことを得ば幸甚である。

昭和五年一月