メイカーズ 第三部, コリイ・ドクトロウ

第四十一章


世界がディズニーから学べること

スザンヌ・チャーチ

ディズニーを切って捨てるのは簡単なことだ。最近、彼らはライドではなく訴訟ばかり生み出しているし、その脳天気さと安っぽさは有名だ。企業広報は企業特有の受け身の三人称から外れたべたべたと甘ったるい人を見下すような赤ちゃん言葉を使っている。おおかた子供たちが両親を困らせるために金切り声を上げて騒ぎ回るよう計算しているのだろう。

だがディズニーパークにしばらく滞在すれば自分が見過ごしているものに気がつくことができるだろう。私はこの一週間ウォルトディズニーワールドに滞在している。なかなか居心地のいい場所だ。いや居心地がいいどころではない……すばらしい場所だ。

おそらくこの場所での細やかな気配りについては聞いたことがあるだろう。ファンタジーランドの天井にかかる屋根は優美な曲線を描き、ジョージ王朝風のタイルやおかしな形の煙突、そしてどこかアニメ風のガーゴイル(以前、ゴス系アトラクションだった時の名残りだ)で飾られている。飾り立てられた人目を引くアトラクション正面から目を上に移し、見事な出来の看板のさらに上に目をやらなければなければそういった装飾を目にすることはできない。言いかえれば私のようにあら探しでもしようとする者でもなければそれに気がつくこともないだろうということだ。そこには輝く金色のプレートが埋め込まれている。その装飾を施した者の技量を誇るために埋め込まれたものだ。

そのプレートはこの場所で裏方として働く人々について何がしかを語っている。彼らはこの場所で得た職を大切に思っているのだ。最近では何を作り上げたかよりも誰を訴えたかということで有名なディズニーという企業について考えるとき、私たちはそのことを見過ごしてしまいがちだ。

だが彼らが作り上げたものを見てみるといい。ここにはサファリパークがある。動物園のようなものだ。だがここでは自分たちの娯楽のために気高い動物たちから尊厳を剥ぎとるという不快な行動に参加している気分を感じさせられることはない。この場所の動物たちは私たち毛無し猿一族の近くを自由に歩きまわっているのだ。両者の間を隔てるものは水路やカモフラージュされた側溝、古代遺跡の模造品といったものだ【詳しくはこちら】

これも六つあるパークの一つにすぎない。パークのそれぞれは六つから七つの「ランド」に別れ、それぞれのランドには独特の魅力、文化、習俗がある。これ以外の施設も周りにはある。二つの新しい町、ゴルフコース、自転車競技場。保護地区の湿地帯では地元の自然保護活動家と一緒に小型ボートでのツアーを楽しむことができる。しかし最近、彼らが始めた安価な製造装置を見れば数百万ドルを費やして作り上げられた施設や人造湖、張り子の山々、おもちゃの大量輸送システムを作りあげるといった神をも恐れぬ行為もかすんでしまうことだろう。

もちろんディズニーパークにとって小規模な製造システムは珍しいものではない。彼らの小さくてスマートなディズニー・イン・ア・ボックスを見てみよう。私はそれに対抗する側でそれを記録してきた。ネットワークに接続された立体物プリンターというのが一つの見方だ。だが別の見方をすればそれはわずか数ヶ月で完全に……まだその戦いは続いているが……市場に浸透したすばらしいヒット商品カテゴリーバスターなのだ。

ここに来る時、私は退屈して嫌気し、そのうえ一セント残らず金を巻き上げられることを覚悟していた。予想は裏切られた。このパークは大勢のお金とは縁遠い人々のためのものだ。本当だ。それぞれの歩道や散策路は計画的に作りこまれ、トイレに向かう通路にさえ子連れ優先のものがある。このように気配りの行き届いた場所ではあるが、そこには間違いなく大勢の泣きべそをかく子供たちと苛立つ親たちがいる。

だがそれをディズニーが大金を稼ぎだす商売をおこなっているせいにするのは酷だろう。そう結局、問題はそこなのだ。一万人の「キャストメンバー」(ディズニーは本当に彼らをそう呼んでいる。最低賃金で優雅な入浴介助の仕事をしていようがそれは一緒だ)をあたりに配置して、ごみ拾いや不気味なほど明るい態度で新顔「ゲスト」全員の相手をさせるとなれば安い価格でそれを維持するのは不可能なのだ。

「退屈」と「嫌気」に関して言えば……まだそれは感じていない。退屈……そんなことは想像もつかない。まずここには世界中の中産階級が集まり、まるでブルジョアの国連とでも言うべきものができあがっている。親馬鹿な両親を後ろに従えた中国の「小皇帝」がロシアンマフィアの小さなプリンスと友情を育み、そのプリンスの両親はといえば建物正面の隠しカメラをうかがいながら神経質にニコチン吸入器を取り出している。愉快な風景だ。

人間観察が趣味でなければもちろんライドもある。靴箱で作ったジオラマを進化させた芸術作品だ。ハワイ式の宴会もあるし鮫と一緒に室内でスクーバダイビングを楽しむことも可能だ。正真正銘の低俗なナイトクラブが集まった島もある。そこに行けば家族連れでは味わえないような珍しい行為をおこなう人々と出会うことができるだろう。最後に挙げたものは仕事終わりのちょっとしたお楽しみを探す「キャストメンバー」に大人気のようだ。

嫌気についてはどうだろう? もし私が親だったらうんざりするような経験をしていただろうと思う。しかし一度、この場所のリズムをわかってしまえばどの商業エリアも通らずに歩き回れる順路があることに気がつくだろう……すばらしい冒険的な遊び場、自然の中でのハイキング、動物に触れ合える動物園、乗馬体験、スポーツトレーニング場といったものだ。半クォートの高果糖油がたっぷりのシナモンパンを食べて血糖値の上がった子供たちは驚異のスペクタクルに全身で驚きを表現しながら口を開けて立ち尽くすことだろう。彼らのニューロンに新たな接続が形作られて壮大さや驚嘆、美しさに対する一生ものの審美眼が身につくだろうことは間違いない。

この場所では私たちは犯された罪を愛し、同時にそれを犯した罪人を憎んでしまうのだ。この企業は訴訟と不正な工作を頼みにしているが同時に本物の芸術作品を作りあげる本物の芸術家を大勢抱えていることもまた確かなのだ。

もしあなたがまだ行ったことがないのであれば行くべきだ。おっと、もちろんどこか観光地化されていない場所にも行ってほしい(もしそんな場所を見つけられればの話だが)。キャンプや私がこれまでたくさんの記事を書いてきたあのライドの一つにも行ってほしい。だがもし何十億もの資金によって行い得ることの明るい面……この娯楽の要塞の城壁の外からでは決してうかがい知ることのできないもの……を目にしたいと思うのなら、チケットを買うべきだ。


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