地下室の手記 第一部 地下室, フョードル・ドストエフスキー

第十章


君たちは永久に壊れることのないクリスタルパレスを、すなわちこっそり舌を出したり、ひそかに軽侮のしぐさをしたりすることの許されない、そのようなものを信じている。だが、もしかしたら、僕がこの建築物を恐れているのは、それが水晶でできていて、永久に壊れることなく、こっそり舌を出すことさえ許されないからかもしれない。

ほらわかるでしょう、宮殿の代わりに鳥小屋があるとして、雨でも降ったら、僕は、もしかしたら、濡れないように鳥小屋に入り込むかもしれないが、それでも僕を雨から守ってくれたことに感謝して鳥小屋を宮殿とみなしたりはしないもの。君たちは笑う、それどころか言うだろう、そういう時は鳥小屋も邸宅もまったく同じだと。そうだ――と僕は答える――濡れない、それだけのために生きていかねばならないなら。

だがいったいどうする、もしも僕が、そんなことのためだけに生きるのでもないし、またどうせ生きるなら、それはもう邸宅で暮らすんだ、との思いに取りつかれたら。それが僕の欲求だ、それが僕の願望だ。君たちがそれを僕から削りとるには、僕の望みを変えるのみだ。さあ、変えたまえ、他のもので僕を魅惑したまえ、他の理想を僕に与えたまえ。だがさしあたり、僕はまだ鳥小屋を宮殿とみなしたりしない。そうさな、クリスタルパレスが蜃気楼であり、自然の法則に従えばあってはならないものであり、ただ僕が持ち前の愚かさゆえに、我が世代のいくつかある古くさい不合理な習慣ゆえに考え出したものである、ということにしてもいい。だがそれがありえないものだということは、僕には関係ない。それが僕の欲望の中に存在する、いやむしろこう言ったほうがいい、僕の欲望が存在する間存在する、としてもかまわないじゃないか? もしかしてまた笑っているのか、君たちは? どうぞ笑ってくれ。僕はあらゆるあざけりを甘受するが、それでもやっぱり言いやしない、食べたい時に満腹とは。それでもやっぱりわかっている、自然の法則にしたがって存在するものだからとか現実に存在するものだからとかいう理由だけで無限に循環するゼロに、妥協に、僕が満足はすることはないと。貧しい借家人たちのための千年の契約のアパートで、何かの時のために歯科医ワーゲンハイムも看板を掲げるすばらしい建物、僕はそれを僕の欲望の王冠とはみなさない。僕の願望を破壊したまえ、僕の理想を消し去りたまえ、僕に何かましなものを示したまえ、そうすれば僕は君たちについていく。君たちは、あるいは、言うだろうか、かかわりあうに値しないと。だがそれならそれで僕だってそのまま君たちにお返しできる。僕たちは真剣に議論しているんじゃないか。が、君たちは僕に注意を向けてくださるのがお嫌ですと、そういうことなら頭を下げてまで頼みはしない。僕には地下室がある。

だが今のところ僕はまだ生き、欲求する、――だから、そのすばらしい建物のためにたとえレンガ一つでも運ぶくらいなら、僕の手よ、萎えるがいい! 僕がさっき、舌を出してひやかしてやれないという理由だけでクリスタルパレスを拒絶したことは気にしないでくれ。僕がそう言ったのは決してそれほどまでに舌を出すのが好きだから、というわけではない。僕は、もしかしたら、舌を出さずにいられるような建築物が、今日までどこを見ても君たちの建築物には見出せないことに腹を立てただけかもしれない。逆に、僕自身がもう二度と舌を出したいと思わないようなことが実現したら、それだけでも、ただただ感謝から、僕は自分の舌をすっかり切り取らせてもいい。そんなふうにできるはずがないとかアパートの部屋で満足しなければならないとか、そんなことまで僕には関係ないさ。いったい何のために僕はそのような願望つきで創られているのか? 僕の一切がいかさまでできているという結論に至る、それだけのために僕が創られたなんてことがありうるだろうか? そこに一切の目的があるなんてありうるだろうか? そんなばかな。

だが、しかし、ご存知だろうか。僕は確信するのだが、僕たち地下室の仲間はくつわで抑えつけておかなければならない。こいつは黙って地下室に四十年間座っていられるけれども、明るいところに出るやいなやわっとばかりに、それはもうしゃべるわ、しゃべるわ、しゃべるわ……


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