秋がとっぷりとふかまり、辺りがひどく冷えこんできました。あらいぐま夫人とその子どもたちは、数日のあいだ家の中に閉じこもりっきりでいました。けれどこの日、あらいぐま夫人は、お陽さまの照る外に出て新せんな空気をすい、ごはんを食べたら気持ちがよかろうと考えました。
ふとっちょは、あらいぐま夫人の子どもたちの中で、ひとりだけ眠っていませんでした。そして、ひどい空腹をうったえました。そこであらいぐま夫人は、ふとっちょを一緒に連れていくことにしました。
狩りはおもわしくありませんでした。鳥の卵は、木々の中のどこにも見つかりませんでした。大きい川や、小さい川や、もっと小さい川は、すべて凍りついていましたので、ふとっちょとお母さんは魚をつかまえることができませんでした。そして、とうもろこしはというと――農夫のグリーンが、とうのむかしに最後の実をつみ取ってしまっていました。ふとっちょは、今が夏だったらいいのにと思いました。けれど、夏のめぐみのおいしい食べ物のことを考えると、ますますお腹が空いてしまうだけでした。お母さんがするどい声でこう言ったときには、ふとっちょはすっかりみじめな気分になってしまいました。
「その木に登りなさい! 急いで! なにも聞くんじゃないよ」
さて、いつものふとっちょは、お母さんを気づかうなんてことは、すぐにそうしたってよさそうなときだって、しやしませんでした。ところがこのとき、お母さんが立ち止まり、辺りの空気のにおいをかぎ回ったのには、すぐに気づきました。お母さんはまるで、なにか気に入らないものがあるような様子でした。
ふとっちょにはそれだけでじゅうぶんでした。彼は、手近な木に大急ぎで登りました。お母さんがなにか危険なものを見つけたということが、彼にはわかったからです。
あらいぐま夫人は、ふとっちょのすぐ後ろからぴったりついてきました。そして、ふたりそろって枝葉の中に隠れるやいなや、お母さんがかぎ取ったものの正体が、姿をあらわしました。
ジョニー・グリーンです! ジョニーは、ふとっちょたちが身をひそめている木の真下を通りすぎました。あらいぐま夫人は、ジョニーを盗み見て、ブルブルガタガタと、それはひどく身をふるわせました。ふとっちょは、そんなお母さんに気づかずにはいられませんでした。
「いったいどうしたの?」ジョニー・グリーンの姿が見えなくなると、ふとっちょはすぐさまたずねました。
「ぼうしさ!」あらいぐま夫人がさけびました。「あの子のかぶってるのはね、あらいぐまの毛皮のぼうしなんだよ!」さあ、あらいぐま夫人が腹を立てているのかどうか、みなさんはわかりますよね? 「農夫のグリーンの家の近くには絶対に行っちゃいけないよ」あらいぐま夫人は、ふとっちょに注意しました。「ぼうしとか、てぶくろとか、コートとか、そういうもんになりたくないだろう?」
「もちろんだよ、お母さん!」ふとっちょは、心から自信を持って言いました。そんな冒険は、ちっとも楽しくないに決まっています。そしてその場で、農夫のグリーンの家にはこんりんざい近寄らないぞと、自分自身に言い聞かせました。ふとっちょがどのくらいちゃんと覚えていられるのか、わたしたちはこれから知ることになるでしょう。
その午後、ふとっちょあらいぐまは、たいそうごきげんな話を聞きました。カケスのジャスパーから聞いたことです。
カケスのジャスパーは、とてもそうぞうしいアオカケスで、沼に住んでいるふとっちょたちの隣人でした。ほかの多くの鳥たちは、寒くなると南にわたりますが、彼はそうしませんでした。彼は、冬が好きなのです。そして、森のいたるところでひっきりなしにわめき立てたり、うるさく口出しをして、つねに森の住民を困らせていました。彼は、たいそうな騒動好きなのです。
そしてね! ふとっちょとお母さんは狩りをおえて家にもどると、ふとっちょは家の外にとどまりました。彼は、高いマツの木のてっぺん近くまで登ると、手足を伸ばし、広い背中にお陽さまの光があたる心地よさを楽しみました。そこをカケスのジャスパーが見つけて、ごきげんな話を教えたのでした。ふとっちょは、その話を聞いて大よろこびしました。なぜなら、まだお腹が空いていたからです。
カケスのジャスパーがふとっちょに話したこととは、こういうことです。農夫のグリーンは、四十羽くらいのふとった七面鳥を飼っており、グリーンの家の前庭に生えている枝をひろげたオークの木に、毎晩鳥小屋代わりにとまらせている、というのです。
「ぼくが七面鳥好きだったら、ぜったい夜にそこに行って、しっけいしちゃうね」と、カケスのジャスパーは言いました。