寝つかせ話:ふとっちょあらいぐまの物語, アーサー・スコット・ベイリー

ふとっちょあらいぐまと魚つり


ある日、ふとっちょあらいぐまは、家からそれほど遠くないところを流れる小川をうろついていました。水辺のふちで、あっちこっちで立ち止まっては、うずくまりました。魚は取れないかと思っていたのです。あるとき彼は、小川の深いよどみのほとりの岩のあいだに横たわり、静かにじっとしていました。目は、すきとおった水の中をさぐっていました。ふいに、なにやら光るものを見つけました。全身が黄色と赤色をしたものが、ふとっちょあらいぐまの右手前方の水の上で、ぴかぴか光っていました。カブトムシだ。それか、大きなハエだ。ふとっちょは、カブトムシが大好きでした――食べるのが、ね。ですから、ぐずぐずしませんでした。その光るものは、水の上でちょこちょこ動きまわり、少しもじっとしていませんでした。ふとっちょは、すきを見て前足を伸ばし、それをつかみ取りました。それを口の中にほうり込むと、たいそうおかしなことが起こりました。ふとっちょの体が右側にぐいと引っぱられ、水の中に引きずり込まれたのです。

ふとっちょはおどろきました。カブトムシやハエの力がこれほど強いとは、聞いたこともありませんでしたから。なにかがふとっちょのほっぺたをちくりと刺しました。彼は、光るものが刺したのだと思いました。光るものを口から出そうとして、またおどろきました。光るものは、彼の口の中にしっかりと突きささり、なにがなんでも離れないようでした。そのあいだ、ふとっちょは、水の中を引きずられ続けていました。彼は、恐くなってきました。最初に気づいたのは、細い糸でした。それは、彼の口から伸びて、小川のよどみの向こうへとまっすぐに続いていました。糸をずっとたどっていきますと、糸のとぎれれた先に、人間がいるのが見えました――人間が、小川の反対岸に立っていました! 人間は、できるかぎりのはやさで糸をたぐり、ふとっちょを自分のほうに引きよせていました。

みなさんは、ふとっちょあらいぐまが、ただおびえていただけだったと思いますか? 彼は、後ろに飛びすざりました――水の中で、できるかぎりそうしました――そして、泳いで逃げようとしました。口の中をけがしました。それでもひるまずに、変わらない強さで、水の中にもぐったり、後ろに引いたりしました。頭をぐいぐい引っぱったり、もがいたり、身をよじったり、のたうったりしました。もう逃げられないと、ほとんどあきらめかけた、まさにそのとき、派手な色のカブトムシだか、ハエだか、とにかくなんだかが、ふとっちょの口の中から飛び出しました。それと一緒に、糸もどこかに飛んでいきました。少なくとも、ふとっちょあらいぐまはそう思いました。ふとっちょは急いで川岸まで泳ぎ、やぶの中に逃げ込みました。

さて、これは本当に起こったできごとでした。農夫のグリーンは、マスを取りに小川にやって来ました。グリーンは、つり糸の先に、ぎじ餌を結んでおきました。赤と黄色の羽根のうら側に、つり針が隠されているものです。彼は、小川の流れにそって、とても静かにぎじ餌を動かしました。魚をおどろかせないためです。とても少ししか物音を立てなかったので、ふとっちょあらいぐまは、グリーンにまったく気づきませんでした。農夫のグリーンには、ふとっちょの姿が見えませんでした。ふとっちょは、岩のあいだでかがんでいましたから。ふとっちょがぎじ餌に手を伸ばしてつかみ取ったとき、農夫のグリーンは、ふとっちょ自身よりもなおいっそう、このできごとにおどろきました。ふとっちょの口からつり針が外れなければ、農夫のグリーンはもうちょっとで、これまでだれ一人つったことのないような、奇妙な魚をつり上げるところでした。

農夫のグリーンは、ふとっちょがやぶの中に逃げ込むのをながめながら、ひどくおもしろがっているようでした。彼は、長いこと大声でげらげら笑っていました。でも、ふとっちょあらいぐまは、ちっとも笑いませんでした。口の中があまりにもひどく痛んでいたし、ひどくおびえてもいたのです。でも、とてもとても、よろこんでもいました。おかしなカブトムシが、どこかに飛んでいってくれたのですから。


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