ふとっちょあらいぐまは、リスが大好きでした。そして、こんなふうにお話すると、おかしいと思うでしょう。ブルー山に住んでいるリスたちの中で、ふとっちょあらいぐまをほんの少しでも好いている者は、一ぴきもいませんでした、なんて。しかし、ふとっちょあらいぐまがリスが好きだというときは、食べるのが好きだという意味なのです。ですから、リスたちがふとっちょのことを嫌っているわけは、もちろん、もうおわかりでしょう。実際のところ、リスたちはいつも、ふとっちょからできるだけ遠ざかっているようにしていました。
昼中ならば、木のてっぺんからてっぺんへとうろつき回るふとっちょを避けているのは、リスたちには簡単でした。リスたちは、ふとっちょよりもずっとよく、相手を見つけ出すことができました。けれど、夜は――ああ! 事情がずいぶんちがうのです。ふとっちょあらいぐまの目は、昼中のリスたちよりも、夜の暗やみのほうが、いっそうするどいのです。しかし、哀れなリスたちは、みなさんが寝室の明かりを消し、ベッドの毛布に安全にくるまっているときと同じくらい、なんにも見えないのです。
そうなのです――夜になると、リスたちは、木の上の巣穴の寝どこに入ります。彼らはほんの少ししか、見ることができません。そして、彼らが寝どこの中にいるときは、安全とは言えません。なぜなら、ふとっちょあらいぐまがリスをつかまえにやって来ても、彼らには決してわからないからです。または、ふとっちょのお母さんや、弟や、妹のどちらかか、あるいはふとっちょのいとこがやって来ても、つかまえられる前にそうと知ることができないのです。
ふとっちょは、夜のリス狩りを、とても楽しい気晴らしと考えていました。リス狩りをすれば、いつでもつねに、おいしい肉を手に入れることができました。ヘムロックの大木でオオタカにおそわれた恐ろしさを、おおかた忘れかけてからは、彼はリスや眠っている鳥をさがして、毎晩のように木のてっぺんをうろつき回るようになりました。
しかし昨日の晩は、リス狩りをしていて、こりごりする目にあいました。ふとっちょは、大きなクリの木を半分ほど登ったところで、幹に空いた穴をのぞき込みました。その穴の中に、リスが住んでいるにちがいないと思い込んだのです。しばらく耳をすませていると、中でなにかが動く物音が聞こえました。しめしめ! ふとっちょは、中にリスがいると確信しました――数ひきのリスがいるのだろうと。
ふとっちょあらいぐまの目が、緑色に変わりました。それがあらいぐまのくせなのです。食べるときや、弟の黒っちょや妹のふわっちょやかわいっちょと遊ぶとき、おびえているときなど、どんなときでも、こうなるのです。今は、おいしいおやつを食べられるのだと確信したので、ネコみたいに目が緑色に変わったのです。彼は前足を穴の中に入れ、中をさぐり回りました。
ウワア! ふとっちょはさけび声を上げました。前足を、入れたときよりもはるかにはやく、出しました。なにかが、彼の手をひどく強く突きとばしたのです。"なにか"はすぐにわかりました。ふとっちょがこれまで見かけたことのない、気むずかしそうな顔をした、年老いた浮浪あらいぐまでした。
「どういうつもりだ、いたずらっ子め。こんなふうに休んでいるところを邪魔するのは?」みすぼらしいよそ者が、さけびました。
「ごめんなさい。あなただとは思いもしなかったんです」ふとっちょは、口ごもりながら言いました。
「思いもしなかっただと! だれだと思ったんだ?」
「リ……リスだと思って!」ふとっちょは、消え入りそうな声で言いました。彼はちょっぴりべそをかきました。前足で、浮浪あらいぐまを引っかいてしまったからです。
「ほ、ほう! そりゃあいい! おもしろい冗談だ!」浮浪あらいぐまは、心の底からおかしそうに笑い声を立てました。それから、恐ろしい顔でふとっちょをにらみつけたので、ふとっちょはあやうく木から転がり落ちそうになりました。「家へ帰れ」浮浪あらいぐまは、ふとっちょに言いました。「今度ここに来たら、ただじゃおかんぞ。聞こえたか?」
「はい、わかりました!」ふとっちょは言いました。そして、家に帰りました。その後、ふとっちょがその木をそうっとしておいたことを、みなさんも疑わないでしょう。ふとっちょは、二度とその木に近づきませんでした。