ふとっちょあらいぐまは、畑いっぱいのとうもろこしのことを考えると、悲しくなってしまいました。全部食べつくすなんて、絶対にできっこないのですもの。でも、ふとっちょは決心しました。できるかぎりのことをしてやろうと。毎晩のようにとうもろこし畑をおとずれ、甘くて柔らかいとうもろこしの粒を満喫してやろうと。
次の日、夜になると、ふとっちょはさっそく農夫のグリーンの畑に出発しました。とても暗いとは言えない夜でした。でも、暗い夜がおとずれるまでなんて、待っていられませんでした。お母さんや妹たちや弟が出かけるのを待っていることすら、できませんでした。彼は、ひとりで先を急ぎました。とうもろこし畑が見えてくると、ほっとしました。とうもろこしがなくなってしまうのではないかと、心配でしかたがなかったのです。農夫のグリーンがつみ取ってしまうか、森の住民たちが全部たいらげてしまうかもしれないと、思っていたのです。でも、ちゃんとありました――とうもろこしの森が、月光の下でそよ風に吹かれて、波うち、カサカサと音を立てていました。ふとっちょは大よろこびしながら、柵の横木をすり抜けました。
その晩、ふとっちょはとうもろこしの実を、おそらくいくらも食べはしなかったでしょう。それに、あるたった一つのものがなければ、もっとたくさん食べられた、とも言えなかったでしょう。一ぴきの犬が吠え声を立てました。それで、ふとっちょの楽しみは台なしになってしまいました。犬の吠え声は、ふとっちょが危険にかんじるほど、とても近いところで聞こえました。彼がかじりかけのとうもろこしの実をほうり出すほどの、近い場所でした。ふとっちょは、森にむかって急いで逃げ出しました。
すぐに駆け出したのは、ふとっちょにとって幸運でした。時間をおかずに、犬が彼の背後にせまってきたからです。することは一つしかありません。ただちに木に登らなければいけないということを、ふとっちょは知っていました。それで、まぢかにあって目に入ったおあつらえ向きの木に登りました――大きくて、枝が横に広がった、オークの木でした。その木は、柵の上におおいかぶさるようにして、一本だけ森から離れて立っていました。ふとっちょは大枝の上でうずくまると、すっかり安全になったように思いました。それなのに犬は、吠えたり、鼻を鳴らしたり、木に飛びついたり、たいそう大騒ぎしました。
ふとっちょは犬を見下ろして、少々しかってやりました。犬は恐くありませんでした。けれど、とうもろこし畑から追い払われたことで、腹が立ちました。犬なんかどこかに行ってしまえばいいのにと思いました。けれど犬は――農夫のグリーンの飼犬で、スポットといいました――立ち去るつもりはありませんでした。犬は木の下にいつづけて、ひどく大声で吠え立てました。ほどなくすると、農夫のグリーンと農場の作男がやって来る姿が見えました。ジョニー・グリーンと、つい最近ジョニーがもらった小さな子犬も、彼らと一緒でした。
農夫のグリーンは、ふとっちょを見て、がっかりした様子でした。「手をわずらわすには小さすぎる」と、グリーンは言いました。「あいつの毛皮はいくらにもならんよ。行こう、ほかにいるか探そう」
けれど、ジョニー・グリーンはあとに残りました。彼は、あのあらいぐまの子が欲しかったのです。そして、つかまえるつもりでもありました。子犬をふとっちょあらいぐまの見張りに残して、ジョニーは農家の母屋に戻りました。しばらくすると、ジョニーは肩に斧をかついだ姿で、またあらわれました。そして、オークの大木を切り始めました。ふとっちょあらいぐまは、ひどく不安になりました。ジョニーが斧を木にたたき込むたびに、木と一緒にふとっちょもふるえました。ふとっちょは、とうもろこし畑から逃げ出せたらいいのにと願い始めました。しかし、それも長いことではありませんでした。ジョニー・グリーンが、オークの大木を切りたおすという考えを、さっさとあきらめたからです。木は、切るのには固すぎ、そして大きすぎました。長い時間かかったのちに夜通しかかることが分かる前に、ジョニーは切るのを止めました。ジョニーは、もの欲しげにふとっちょあらいぐまを見上げました。そして、彼みずから木に登り始めました。けれど、ジョニーが登ると、ふとっちょはそれだけ上に登りました。このやり方では、ふとったあらいぐまの子を決してつかまえられないことを、ジョニーは知りました。
とうとう、ジョニー・グリーンは歩き出しました。子犬も、彼に呼ばれてあとについていきました。それから、ふとっちょあらいぐまは下におりました。でも、とうもろこし畑には戻りませんでした。ひと晩の冒険としてはもうじゅうぶん、ということにしたのです。けれど、学ぶことはありました――少なくとも、ふとっちょはそう思いました。いったん木に登ってしまえば、人間はだれも彼に触れることができないのだと、決め込んだのです。〈木を切りたおすことはできない!〉と、ふとっちょは信じ込んでしまったのです。いつか、ふとっちょが間違いだったと知るときが来るのかどうか、みなさんはたぶんあとでお分かりになるでしょう。