ふとっちょあらいぐまが、老犬スポットに追われてとうもろこし畑のそばのオークの大木に登った、次の晩でした。農夫のグリーンの家では、夕食を食べおわったところでした。牛の乳をしぼり、馬にかいばをやり、ニワトリはすべて鳥小屋の中にしまわれました。農夫のグリーンは、ブルー山の山かげからのぼる月を見上げました。
「今夜もあらいぐま狩りに行くぞ」彼は、ジョニーと作男に言いました。「沼のあらいぐまども、とうもろこしにつられてまた出て来るはずだ。月が少しかげったら、すぐ出発だぞ」
さあ――しばらくすると、彼らはとうもろこし畑に出かけました。やっぱりです! 老犬スポットが、ほえ始めました。
「スポットが木に追いこんだぞ!」すぐさま農夫のグリーンが言いました。彼らはそろって、森のふちを目指して急ぎました。そこでスポットが、あらいぐまを背の高いクリの木に追いこんでいました。月明かりの下で、彼らはあらいぐまの姿をまざまざと見ることができました。「別のちっこいやつだ!」農夫のグリーンがさけびました。「まいったね。とうもろこし畑にやって来るあらいぐまは、どれもこれも子どもなのかい。昨日の晩おれたちが見たやつよりも、小さいじゃないか」
とはいうものの、農夫のグリーンには、高い木の上にいるのがふとっちょあらいぐまだということなど、わかりっこありませんでした。ふとっちょはこのとき、もう少しで森の中に逃げこむところでした。ですが、その手前で、木に登らねばなりませんでした。じつのところ、スポットがあれほど近くまでふとっちょにせまらなかったら、ふとっちょは森の中にたどり着き、木から木へと飛び移って逃げ去ることができました。しかし、大きなクリの木のまわりには、飛び移れるほど近くに木がなかったのです。ふとっちょはそこにとどまり、人間たちが行ってしまうまで待たねばなりませんでした。彼は、おそれてはいませんでした。大きな木の上で、すっかり安心しきっていました。ジョニー・グリーンが父親にこう言ったときも、彼はほほ笑みを浮かべただけでした――
「ぼく、あのあらいぐまの子がほしいよ。あいつはかわいいペットになるよ」
「ペットだと!」農夫のグリーンがさけびました。「キツネをペットにして、ニワトリを盗まれたのを忘れたのか?」
「気をつけるからさ」ジョニーは約束しました。「それに、つかまえたほうがいいと思わないの? そうすれば、あいつももうとうもろこしを食べないよ」
農夫のグリーンはほほ笑みました。彼自身も、大昔は少年でした。ちょうどジョニーくらいの年ごろに、あらいぐまをペットにしたことがあったのを忘れてはいなかったのです。
「いいだろう!」グリーンはとうとう言いました。「もう一度だけチャンスをやるぞ、ジョニー。だが、あのあらいぐまの子がおれの鳥を殺さないよう、おれが見張るはめになるんだろうな」
ジョニーは、そのようなことにはならないと約束しました。それから、彼の父親と作男は、斧をとり上げました。ふたりは高いクリの木をはさんで向かい合わせに立つと、木を切り始めました。
なんとまあ、木くずが飛ぶこと! 最初の一げきから、ふとっちょにもわかりました。今度のは、前の晩にジョニーがしようとしたのとは、切り方がまるでちがいました。大木はまるで、ほどなくして地面に打ちたおされることを知っているかのように、身をふるわせました。
ふとっちょあらいぐまはというと、先のことはわかりませんでしたが、木がたおされるときには自分も落ちるのだろうと思いました。彼もまた、恐ろしさに身をふるわせました。大枝のまわりに自分の体をすっかり巻きつけ、できるだけしっかりとしがみつき、じっと動かないようにしました。