オズの魔法使い, ライマン・フランク・ボーム

よい魔女グリンダ、ドロシーの願いをかなえる


でもグリンダに会いにいくまえに、みんなは部屋の一室に通されて。ドロシーは顔をあらって髪をとかしましたし、ライオンはたてがみからほこりをはらい、かかしは自分をたたいて精一杯かっこうよくして、木こりはブリキをみがいて関節に油をさしたのです。

みんな見栄えがするようになると、兵隊娘の後について、グリンダがルビーの玉座にすわる大きな部屋にやってきました。

グリンダは見るからに美しくて若かったのでした。髪は豊かな赤で、くるくると流れるように肩にかかっています。ドレスは純白ですが、青い目は優しそうに少女を見下ろしました。

「どうしたの、おじょうちゃん?」とグリンダはたずねました。

ドロシーは魔女に何もかも話しました。竜巻がオズの国につれてきたこと、仲間にどうやって出会ったか、そしてみんなが直面したすばらしい冒険のことなど。

「いまのあたしがいちばん望むのは、カンザスに戻ることなんです。エムおばさんはたぶん、何かあたしにひどいことが起きたんじゃないかと思うでしょうし、そうなったら喪に服そうとするでしょう。そして収穫が去年よりよくならないかぎり、ヘンリーおじさんにはとてもそんなお金はないはずなんです」

グリンダはかがみこんで、心優しい少女の上向きの優しい顔にキスしました。

「その優しい心に祝福を」とグリンダ。「カンザスに戻る方法なら確かに教えてあげられますよ」でもこうつけ加えました。「でも教えたら、金の帽子をわたしにくださいな」

グリンダとドロシーと仲間たち
金の帽子をわたしにくださいな。

「よろこんで!」とドロシーは叫びました。「だいたいもうあたしには役にたちませんし。あなたはこれを手に入れたら、翼ザルに三回だけ命令ができるんです」

「そしてたぶんわたしが翼ザルたちの助けがいるのも、ちょうど三回だけだと思うわ」とグリンダはにっこりして答えました。

そしてドロシーは金の帽子をわたして、魔法使いはかかしに言いました。「ドロシーがいなくなったらどうするの?」

「エメラルドの都に戻ります。オズが支配者にしてくれたし、みんなもぼくが気に入っているんです。たった一つ心配なのは、トンカチあたまの丘をどうやってこえようかということです」

「金の帽子を使って、翼ザルたちにあなたをエメラルドの都の門まで運ばせましょう。人々からこんなにすばらしい支配者を奪ってはいけませんものね」とグリンダ。

「ぼくは本当にすばらしいんですか?」とかかしがたずねます。

「非凡ですよ」とグリンダが答えました。

ブリキの木こりのほうを向くとグリンダはたずねます。「ドロシーがこの国を去ったらあなたはどうするのかしら?」

木こりは斧によりかかってしばらく考えました。それからこう申しました。「ウィンキーたちはとても親切にしてくれたし、邪悪な魔女が死んだあとはわたしに国を治めてほしがっていました。わたしはウィンキーたちが好きですので、西の国に戻れたら、ずっとあの国を治められたらと思うのですが」

「翼ザルへの第二の命令は、あなたをウィンキーたちの国に安全に運ぶことです。脳みそはかかしのものほどは目に見えて大きくないかもしれません。でもまちがいなく輝かしいですし――特に磨いたときにはね――ウィンキーたちをまちがいなく賢明かつ上手に治めることでしょう」

それから魔女は大きな毛むくじゃらのライオンを見ました。「ドロシーが自分のおうちに戻ったら、あなたはどうするの?」

「トンカチあたまの丘の向こうには、壮大な古い森がありまして、そこに暮らす獣たちはわたしを王さまにしてくれました。あの森に帰れさえしたら、そこで余生をとても幸せに過ごせるでしょう」

「翼ザルへの第三の命令は、あなたを森に運ぶことです。そうしたら金の帽子の力を使い果たしてしまいますから、帽子をサルの王さまに与えましょう。そうすれば翼ザルの群れは今後ずっと自由になれますから」

かかしとブリキの木こりとライオンは、よい魔女の親切に心からお礼をいいました。そしてドロシーも感激しました。

「あなたはお美しいだけでなく本当に善良なんですね! でもまだカンザスへの帰り方を教えてくれていません」

「その銀の靴が砂漠をこえてあなたを運んでくれますよ」とグリンダが答えました。「その力を知っていれば、この国についたその日にでもエムおばさんのところに戻れたんですよ」

「でもそうしたらぼくはこのすばらしい脳みそをもらえなかった!」とかかしが叫びました。「お百姓さんのトウモロコシ畑で一生をすごしていたかもしれない」

「そしてわたしも美しい心が手には入らなかった。あの森に立ってさびたままこの世の終わりを迎えたかも」とブリキの木こり。

「そしてわたしは永遠に臆病だったかもしれない。森中のどんな獣も、わたしについて何もいいことを言ってくれなかったかもしれない」とライオンもきっぱり言いました。

「みんなその通りだわ」とドロシー。「そしていいお友だちのお役にたてたのはうれしいと思う。でもこれでみんな、いちばん欲しかったものが手に入ったんだし、それにみんな治める王国を持てて喜んでいるんだから、あたしはそろそろカンザスに戻りたいんです」

よい魔女はいいました。「その銀の靴にはね、不思議な力がいろいろあるのよ。なかでもいちばんおもしろいのは、それが世界中のどこへでも三歩で運んでくれることで、その三歩のそれぞれは一瞬のうちに起こるのよ。あなたはかかとを三回うちあわせて、靴にどこへでも行きたいところへ運べと命令すればいいだけ」

「それなら、すぐにカンザスにつれて帰ってくれるように頼むわ」と子供は嬉しそうにいいました。

ドロシーは腕をライオンの首にまわすとキスをして、大きな頭をやさしくなでました。それからブリキの木こりにもキスをしましたが、こちらは関節にとって実に危険な形で泣いています。でもかかしのペンキの顔にはキスをしないで、やわらかいわらをつめたからだを抱きしめることにしまして、気がつくと愛すべき仲間たちとの悲しい別れで、ドロシー自身も泣いているのでした。

よいグリンダはルビーの玉座から立ち上がっておりてくると、少女にさよならのキスをして、ドロシーはグリンダが友人たちや自分に示してくれたいろいろな親切のお礼を言いました。

さてドロシーは重々しくトトをうでに抱きかかえると、最後にもう一度さよならを言ってから、靴のかかとを三回うちつけてこう言いました。

「おうちのエムおばさんのところにつれて帰って!」

すぐに彼女は宙を舞い、それがあまりに速すぎて、見えるのも感じられるのも耳をかすめる風の音だけでした。

銀の靴はたった三歩進んだだけで、そしてあまりに急に止まったので、草の上で何回か転げるまで自分がどこにいるのか気がつきませんでした。

でもゆっくりと、ドロシーは起きあがってあたりを見回しました。

「まあどうしましょう!」と叫びました。

というのもドロシーはひろいカンザスの平原にすわっていて、目の前にはヘンリーおじさんが、古い家を竜巻にもっていかれた後で建てた新しい農家があったからです。ヘンリーおじさんは納屋でウシの乳しぼりをしていて、トトはドロシーの腕からとびだして、すさまじく吠えながら納屋のほうに走っていきます。

立ち上がってみると、足はストッキングだけのはだしでした。銀の靴は空中飛行の途中でぬげてしまい、砂漠の中へ永遠に失われてしまったのです。


©2003-2006 武田正代, 山形浩生. この版権表示を残す限りにおいてこの翻訳は商業利用を含む複製、再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白 (http://www.genpaku.org/) 正式参加作品。