宝島 防護柵, ロバート・ルイス・スティーヴンソン

再びジム・ホーキンズによる物語:防護柵の要塞


ベン・ガンは旗をみると立ち止まり、僕の腕をつかんでひきとめると座り込んだ。

「おい」ベンは言った。「あれは味方だな、間違いない」

「いや、反逆者たちじゃないかなぁ」と僕は答えた。

「なんだって!」ベンは叫んだ。「成金以外には誰も来ないようなこんな場所だし、シルバーだったら海賊旗を立てることだろうよ、味方に間違いねぇよ。そう、あれはおまえの味方だよ。こぜりあいもあっただろう、おれが思うにおまえさんの味方が勝ったんじゃないかな。で、上陸して、あの古い防護柵の中にいるわけだ。そこはフリントが何十年もまえに作ったんだよ。まったく、フリントときたらかしらにふさわしい人だったんだ! ラム以外には、フリントにかなうものは見たことねぇ。怖いものはなんもなかったんだ。ただシルバーを除いてな、シルバーってのはどこか上品なところがあったからな」

「うん」僕も言った。「そうかもしれないな、というかそうなんだろう。それならなおさら、僕は急いで味方のところまで行かなくちゃ」

「だめだ」ベンは答えた。「行っちゃだめだ。おまえはいい子だ。それともおれは勘違いしてたかな。ただ、おまえはなんと言ってもまだほんのぼうやだよ。ところがこのベン・ガンときたら、なかなか目端がきくわけだ。ラムを飲んでたって、そこへは行かねぇな、おまえが行こうとしてるところだよ。ラムを飲んでたって行かねぇな、まぁ、おれがおまえが言う本当の紳士とやらに会って、名誉とやらにかけて誓うまではな。で、おまえは俺の言葉を忘れちゃならねぇぞ『貴いお方(そう言うんだぞ)貴いお方を信じてます』とな、それからつねるんだぞ」

そしてベンはこれで三回目になるが、にやりとしたあの調子で僕をつねった。

「そんで、ベン・ガンに会いてぇ時には、どこに行けばいいか分かってるな、ジム。今日おまえさんと会ったあの場所だぜ。来るときには手に白いものを持ってきてくれよ、もちろん一人きりだぜ。あぁ、こう言ってもらうことにしよう『ベン・ガンにはベン・ガンなりのわけがあります』って言ってもらうことにな」

「うん」僕は言った。「分かったと思う。あんたには言いたいことがあって、大地主さんか先生に会いたいわけだ。それで僕があんたと会ったあの場所で会いたいわけだ。それでいいかい?」

「あと、いつ?ってことか」ベンはつけ加えた。「そうだな、太陽をみて昼ごろから六点鐘ごろまでだな」

「わかった」僕は言った。「僕は行くよ?」

「忘れちまわねぇだろうな?」ベンは心配そうに尋ねた。「貴いお方、そしてベンなりのわけがあると言うんだぞ。ベンなりのわけがあるとな。それが頼みの綱なんだから。男と男の約束だぞ。よし、いいか」まだ僕をつかんでいたが、「おれはおまえさんを行かせるよ、ジム。それでな、ジム、もしおまえさんがシルバーと会うようなことがあっても、まさかベン・ガンを売るようなことはしないだろうな? おまえは決して口を割らないな? 知らないって言うんだぞ。もしやつら海賊どもが岸でキャンプでもするなら、ジム、朝には何人かは命を落としてると思うな」

ここで大音響がベンの言葉をさえぎり、一発の砲弾が木々の間を突き破り、僕ら二人が話していたところから百ヤードと離れていない砂地に落ちてきた。次の瞬間には、僕らはぱっとそれぞれの方向へ逃げ出した。

たっぷり一時間は絶え間ない砲声が島を揺り動かし、砲弾は森を突き破って着弾した。僕がそう思っただけかもしれないが、常に砲弾に脅かされて追い立てられ、ある場所から別の場所へと隠れまわった。ただ砲撃が終わりに近づいたころにも、柵の方には足を向ける勇気が湧かなかった。というのも柵の方は、砲弾が集中していた所だったから。ただ再びいくぶん勇気が戻ってきて、東の方へ大きく迂回して、岸の木々の間をそろそろと進んでいった。

ちょうど日が沈み、海風が森の中を吹き抜け、ガサガサ音をたて木々を揺り動かし、停泊場所の薄暗い水面を波立たせていた。潮もすっかり引いて、広々とした砂地が表れていた。昼間の熱気の後では、夜気が上着を通しても僕の体を冷たくした。

ヒスパニオーラ号は、まだ錨を下ろした場所に停泊していた。ただ間違いなく、その上にたなびいていたのは海賊旗、真っ黒な海賊の旗だった。僕がみていたときにも、赤く閃光が光り、残響が鳴り響き、砲弾がもう一発空を切りさき飛んでいった。それが最後の砲撃だった。

僕はしばらく這いつくばって、砲撃のあとの騒動を見守っていた。男たちがなにかを柵の近くの浜で、斧で打ち壊していた。それは後でわかったのだが、先生たちが乗ってきたボートだった。遠くの河口では木々の間から大きな炎があがっていて、そことヒスパニオーラ号のあいだを、小船が行ったり来たりしていて、僕がみたときにはあんなに憂鬱そうだった男たちが、子供みたいにオールを手にして叫んでいた。その声のようすからはどうやらラムを飲んでいるようだった。

とうとう、僕は柵の方へ戻ってもいいだろうと思った。停泊場所の東側を囲んでいる低地である砂州をずっと下ったところに僕はいて、その砂州はどくろ島と引き潮の時には、つながっていた。そして僕が立ち上がると、砂州のある程度先の方に、低木の間から一つの岩、ひときわ高く色はまっしろな岩が見えた。僕にはこれがベン・ガンが言ってた白い岩だとピンときた。そしていつかボートが必要になったら、どこをさがせばいいかこれでわかったわけだ。

それから僕は森の中を進み、裏手のところ、つまり柵の海岸側まで戻ってきて、すぐに信頼できる仲間に温かく迎えられた。

僕はたちまち自分の話を終え、あたりを見回した。丸太小屋は、屋根も壁も床も、丸太のままの松の木材で作られていた。床は一フィートか一フィート半、砂地から高くなっていた。ドアのところにはポーチが、ポーチの下には小さな泉があり、かなり変わった人工的な溜池となっていた。それは大きな船の鉄の釜で、底を抜いて、船長の言う「位置」まで砂の中に沈めていた。

小屋は骨組み以外にはほとんど残っているものはなかったが、片隅には暖房にするために石板がひかれていて、火がはいる古くてさびた鉄の入れ物があった。この小屋を建てるために丘の斜面と柵の内側は、立ち木がすっかり払われていた。われわれは切り株をみて、立派な高い木立ちが切り倒されたことがわかった。木立ちを切り倒した後、ほとんどの土は流されたり、礫土が覆いかぶさったりした。ただあの釜から小川が流れ出ているところは、厚くしきつめたこけやシダや地をはっている低木が、砂地にまだ緑を作っていた。柵のすぐ近くまで、みんなは防御のためには近すぎるとこぼしたが、木々が高くびっしりと茂っていた。陸の側は全てモミの木で、海の側はかしの木の割合が多かった。

前にも話した冷たい夕方の風が、この簡素な建物のあちこちのすきまから吹きこんできて、床に細かい砂まじりの雨を絶えずばらまいた。目にも砂が入ったし、口にも砂、夕食も砂混じりで、あの釜の底の泉にも、まったく茹ではじめたおかゆみたいに砂が踊っていた。煙突は屋根が四角くくりぬかれているだけで、外にでていく煙はほんの少しで、残りは小屋にうずまき、小屋のものは常に咳き込んで、涙を流しているしまつだった。

それに加えて、新しく仲間に加わったグレーが、反逆者から逃げてくるときに受けた傷のために顔に包帯をまいていたし、あのかわいそうな老トム・レッドルースはまだ埋められておらず、壁際に寝かされすっかり固くなって、英国国旗に包まれていた。

もしなにもせずに座り込んでいたら、みんな意気消沈してしまっただろう。しかしスモレット船長はそんな人ではなかった。全員船長の前によばれ、僕らを見張りの組にわけた。先生とグレーと僕で一組、大地主さんとハンターとジョイスでもう一組。みんな疲れはててはいたけれど、二人が薪集めに、他の二人がレッドルースの墓を掘りに行かされ、先生はコックを命ぜられ、僕はドアの見張りにさせられた。そして船長といえば、一人一人のところに行っては励まし、手が足りないとみれば助けてくれた。

ときどき、先生はドアのところにやってきて少し外気をすい、けむりで燻し出された目を休め、来るたびに一言僕に声をかけていった。

「あのスモレットって男は」先生は一回こう言った。「私よりすごい人だよ。私がこう言うってことはよっぽどのことなんだよ、ジム」

他のときにはやってくると、しばらく黙っていた。それから首をかしげて、僕の方をみた。

「そのベン・ガンっていうのは確かな男かい?」先生はたずねた。

「わかりません、先生」僕は言った。「ベン・ガンが正気かどうかもわからないんです」

「もしそれが疑わしいくらいなら、その男は大丈夫だな」先生は答えた。「三年も無人島にいて爪をかんでいたような男はね、ジム、私や君みたいに正気に見えはしないもんだよ。人間っていうのはそういうもんだ。その男が欲しがってると言ってたのは、チーズかな?」

「そうです、先生、チーズです」僕は答えた。

「そうかい、ジム」先生は言った。「食べ物にうるさいのにもいいことはあるみたいだな。私のかぎタバコ入れをみたことがあるかな? 私がかぎタバコをやるのはみたことがないだろう、その秘密はだ、あのかぎタバコ入れにはパルメザンチーズ、イタリア産の栄養たっぷりのチーズが入ってるんだよ。よし、ベン・ガンにはあれをもってけばいい!」

夕食をとる前に、トムじいさんを砂に埋葬して、僕らはそのまわりに帽子を脱いで、風が吹く中をしばらく立っていた。十分な量の薪が運び込まれていたが、船長が満足するには十分とはいえなかった。船長は頭をふって、僕たちにこう告げた。「明日はもっとがんばって薪をあつめてこなきゃなりません」それから、豚肉を食べ、めいめい強いブランデーを一杯飲んだ。先生と大地主さんと船長の三人が、隅にあつまって今後の見通しを打ち合わせていた。

三人はどうすればいいか、知恵がつきているようだった。食料の蓄えも底をついていて、助けがくるずっと前に飢餓のために降伏しなきゃならないようだった。でも最善の策はこうだと決まった。海賊たちが旗を降ろしてヒスパニオーラ号に乗って逃げ出すまで、とにかく海賊たちを殺すことだと。海賊たちは、既に十九人から十五人に減っていた。ほかに二人がけがをしていて、最低一人は、大砲の側で打たれた男だが、もし死んでなかったとしてもかなりの重傷だろう。やつらに一発くらわせてやるたびに、こちらは命を落とさないように極力注意しなければならなかった。その上、僕らには二つの有力な味方があった。ラムと風土だ。

ラムについていえば、やつらから半マイルは離れていたけれど、夜遅くまで大声をだしたり歌でも歌っているのが耳に入った。風土についていえば、やつらは沼地でキャンプをしていて、医薬品も用意してないので、一週間もたたない内に半数は寝込むだろうと先生はかつらにかけて誓った。

「だから」先生はつけ加えた。「こちらが先に全員やられなければ、やつらは喜んでスクーナー船で逃げ出すでしょう。やつらの目的は船なんですから、船さえあればまた海賊ができますからな」

「私がなくした初めての船でね」スモレット船長は言った。

みなさんも思うように、僕はつかれはてていた。寝付くまでに、何回も寝返りをうったあと、丸太のようにぐっすり眠りについた。

僕以外のものがすっかり起きだして、朝食をたいらげ、薪の山を前日の一・五倍も積み上げたころ、僕はがやがやする物音と人の声で目をさました。

「休戦旗だ!」僕は誰かがそう叫ぶのを聞いた。そしてすぐに驚きの声があがった。「やつだ、シルバーだ!」

そしてそこで、僕は飛び起きて目をこすりながら、壁ののぞき穴のところへ駆けつけた。


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