宝島 ジョン・シルバー, ロバート・ルイス・スティーヴンソン

かしらの没落


こんな番くるわせがこの世にあるだろうか。六人の男は全員、まるでなぐられでもしたかのようだった。ただシルバーは、すぐさまその打撃から立ち直った。それまでは競走馬のようにシルバーの全ての関心は、あの黄金に注がれていた。でもそれは一瞬にしてぴたりと止んだのだ。そして冷静に気をとりなおし、他のやつらががっかりしていることを自覚する余裕も与えずに、自分の計画を変更した。

「ジム」シルバーはささやいた。「これをもっとけ、何かあったときのための備えだ」

シルバーは、二連ピストルを僕にわたしてくれた。

同時にしずかに北の方に二、三歩あるいていき、ぼくら二人が穴をはさんで他の五人と向かい合うようにした。それから僕を見てうなずき、まるで「やっかいなことだな」とでも言うようだったが、僕もちょうど同じ事を考えていた。もうシルバーの顔つきは、やつらの味方のものとはいえなかった。僕はたえず寝返りをするのに腹をたて、こうささやかずにはいられなかった。「また寝返ったんだ」

シルバーには答える余裕はなかった。海賊たちはどなったりののしったりしながら、次から次へと穴の中に飛び込み、手で掘り始めたのだ。掘るときには板をわきにどけた。モーガンが金貨を一枚見つけた。モーガンはそれを大きな声で悪態をつきながら、上にかかげた。それは二ギニー金貨で、やつらは十五秒ほど、それを次から次へと手渡した。

「二ギニーだと!」メリーは、それをシルバーに向かってふりながらほえた。「これがおまえの言う七十万ポンドか? おまえは取引がうめぇんじゃなかったのか? なに一つへましたことがないって、この唐変木が!」

「こぞうども、掘ってみろよ」シルバーはごうまんに冷たくいいはなった。「くるみでも見つかるんじゃねぇか、わしは知らんがな」

「くるみだと!」メリーは金切り声で叫んだ。「やろうども、聞いたか? いっとくぞ、やつは先刻ご承知だったんだ。やつの顔をみろ、そこに書いてあるじゃねぇか」

「なんだって、メリー」シルバーは言った。「また船長を目指すのかい? ずうずうしいやろうだよ、まったく」

でも今回は全員メリーの味方だった。後ろ姿でも怒りの面持ちで、穴からはいあがりはじめたが、僕は一つこちらに好都合なことに気づいていた。全員シルバーと反対の方向に登って行ったのだ。

そして僕らは片方に二人、もう片方に五人、穴をはさんで立っていた。だれも口火をきるほど勇気があるものはおらず、シルバーは身動き一つしなかった。シルバーは松葉杖をつき直立して、やつらを見つめた。僕が見た中で一番落ち着いているようにみえた。シルバーは勇気のある男だった。間違いなく。

とうとう、メリーが何か話した方がいいと思ったようだった。

「ものども」メリーは言った。「やつらはたった二人きりだぞ。一人はおれたちをこんなとこまで連れてきて、大失敗させたやろうだ。もう一人はおれが心臓をつかみ出してやりたい若造だ。さあ、やろうども」

声をあげ、手をあげて突撃をしようとしたそのときに、バン、バン、バンと三発のマスケット銃の銃弾がしげみから放たれた。メリーは頭から穴に転げ落ち、頭に包帯をした男はコマみたいにくるくるっとまわって横向きに倒れて死んだが、体はぴくぴくひきつっていた。そして他の三人はきびすをかえし、全速力でにげだした。

瞬きする間もなく、ロング・ジョンはピストルを二発もがき苦しむメリーへ撃ちこみ、やつが最後の苦悶でジョンをにらみつけると、「ジョージ」とジョンは言った。「わしがとどめをさしたぞ」

同時に、先生、グレー、そしてベン・ガンがまだ煙のでているマスケット銃をもち、ナツメグの木々のあいだからでてきて、僕らと合流した。

「前進!」先生はさけんだ。「全速力だ、みんな。ボートへの退路を断たなきゃならん」

そして僕らは大急ぎでかけだした。ときどき胸まであるようなやぶを突っ切っていった。

僕は言っておこう。シルバーは僕らについてこようとしていた。シルバーがやり遂げたことといったら、松葉杖で胸の筋肉が裂けよとばかりに走り、頑強な男でさえかなわないくらいだった。これには先生も同意見だった。とは言うものの、シルバーはすでに僕らの三十ヤード後ろにいて、僕らが坂の頂上についたときには、窒息死寸前だった。

「先生」やつは叫んだ。「あれを見てください! 急ぐこたぁないですよ!」

確かに急ぐ必要はなかったのだ。高原のより開けた場所で、僕らには三人の生き残りがまだ始めと同じ方向で後マスト山に向かってまっすぐ走っているのが見えたからだ。僕らはすでに、やつらとボートの間にいた。そして僕ら四人は座って一息つき、その間にロング・ジョンが、汗をぬぐいながら、ゆっくり僕らに追いついてきた。

「ありがとうごぜぇます、先生」シルバーは言った。「きわどいときに来てくださった。わしとホーキンズにとって。それからおまえだ、ベン・ガン!」シルバーはつけ加えた。「おまえはいいやつだよ、確かにな」

「ベン・ガンだよ、おれは」置き去りにされた男は、困ってうなぎみたいに身をくねらせながら答えた。「それで」しばらく間をおいてつけ加えた。「どうだい、シルバーさん? 調子はいいだろ、そうじゃねぇかい」

「ベン、ベン」シルバーはつぶやいた。「おまえがやってくれるとはな!」

先生は、やつらが捨てていったつるはしを取りにグレーをやった。そしてゆっくりと坂を下ってボートがあるところまで行くときに、それまでに起こったことを先生は話してくれた。それはシルバーの興味をいたくひく話だった。そしてうすらぼけのベン・ガンが、最初から最後までヒーローなのだった。

ベンは、長く一人きりで島をさまよう内に、骸骨をみつけた。その所持品をうばったのはベンだったのだ。ベンは宝物も見つけた。それを掘り出し(穴の中に落ちていた半分に折れていたつるはしは、ベンのものだった)背負って、高い松の木から二つの頂のある島の北東にある洞窟まで、うんざりするほど行き来をして、ヒスパニオーラ号がつく二ヶ月も前から安全に保管しておいたのだった。

先生は、攻撃のあった午後にベンからこの秘密をききだし、次の朝には停泊所から船がなくなったのをみて、シルバーのところに行って、もう必要がなくなった海図をやり、ベン・ガンの洞窟には沢山のベン・ガンが塩漬けにしたヤギの肉が十分あったので、食料もシルバーにやり、柵から二つの頂のある山へ安全に移動するために何もかもをやったのだった。そこではマラリアの心配もいらず、黄金も守れるといった具合だった。

「君についていえば、ジム」先生は言った。「私の気持ちは違ったんだが、一番いいと思われることをやるしかなかったんだ。とくに自分の義務に忠実な人たちにとってね。君はそうしなかったんだから、いわば自業自得ともいえるだろ?」

ただあの朝に、先生が反逆者たちにしかけた恐ろしい落胆に僕がまきこまれることがわかったので、先生は洞窟まで走りに走って、大地主さんを船長を守るために残し、グレーとベン・ガンをつれて出発したのだ。松の木の側で待ち構えられるように、島を対角線上に突っ切っていったが、すぐに海賊たちの方が先行しているのが見えたので、ベン・ガンを先にやって、とにかく何かやらせて足止めしようとしたのだ。そしてベン・ガンは昔の船乗り仲間の迷信を利用してやろうと思いつき、それが成功し、グレーと先生がおいついて、宝さがしの一行がたどりつく前に待ち伏せすることができたのだった。

「あぁ」シルバーが言った。「わしは、ホーキンズが一緒で幸運だった。さもなきゃ、わしが切り刻まれても何とも思わなかったでしょうからな、先生」

「あぁ何とも」リバシー先生は楽しそうに答えた。

こうして、僕らはボートのところまでやってきた。先生はつるはしでその一艘をばらばらに壊し、それから全員もう一艘にのりこんで、北の入江をめざして出発した。

八、九マイルの船旅だった。シルバーはくたくたに疲れていたが、他のみんなと同じように、かいをとらされていた。そして舟はおだやかな海の上をぐんぐん進んだ。すぐに僕たちは海峡をこえて、島の南西の角をまわった。そこは四日前に、僕らがヒスパニオーラ号を曳いて入ったところだった。

僕らが二つの頂の山を通り過ぎるとき、僕らはベン・ガンの洞窟が黒い口をあけ、そこにマスケット銃にもたれかかっている人影がいるのを認めた。それは大地主さんだった。僕らはハンカチをふり、万歳三唱したが、シルバーも負けず劣らずそれに加わった。

三マイル進むと、北の入江の入り口で僕らは他ならぬヒスパニオーラ号がただよっているのにでくわした。最後の満潮でもちあがり、もし南の停泊所みたいに風がつよかったり、強い潮の流れがあったら、僕らは二度とこの船を見つけられなかったか、もしくはどうしようもなく座礁しているのを見つけたかもしれない。実際は、メインの帆がやぶれたくらいで、傷ついたところはほとんどなかった。そして他の錨をつかえるようにして、一尋半の水底に投げ込んだ。僕らはみな、ベン・ガンの宝物がある家の近くのラム入り江まで漕いで行った。そしてグレーが一人で、ヒスパニオーラ号までボートで戻り、番をしてその夜を過ごした。

浜から入り江の入り口にかけてはゆるい坂になっていた。その頂上では、大地主さんが僕らを迎えてくれた。僕に対しては大地主さんは愛情がこもったやさしい態度で、僕の脱走については何もいわず、しかりも誉めもしなかった。でもシルバーが丁寧にお辞儀をすると、いくぶん顔を紅潮させた。

「ジョン・シルバー」大地主さんは言った。「おまえはひどい悪党でペテン師だ。それも途方もないペテン師だよ、まったく。おまえを告訴するなといわれてる。あぁ、告訴はしないよ。でも死人がおまえの首にひき臼みたいにぶらさがってるのを忘れるな」

「ご親切にありがとうございます」ロング・ジョンは、ふたたびお辞儀をしながら答えた。

「よくもありがとうなんて言えたもんだな!」大地主さんは叫んだ。「わしにとっては全く義務を果たしてないってことになるんだからな、とにかく控えてろ」

そうして僕たちはみな洞窟に入っていった。そこは広くて風通しの良い場所で、小さな湧き水ときれいな池があり、その上にシダがおおいかぶさっていた。下は砂で、大きなたきびの前にスモレット船長がねていた。そして遠い隅には、炎にぼんやりちらちらと光るものがあって、僕は硬貨の大きな山と金の延べ棒が四辺形に積み上げられたものをそこにみた。それこそがフリントの宝物で、僕らがはるばる探し求め、ヒスパニオーラ号の十七人の命を費やしたものなのだった。それを集めるためにどれくらいかかったのだろう。どれほどの血と哀しみが費やされ、どれだけの立派な船が沈められ、どれほどの勇敢な人が渡り板を目隠しして渡らされたのだろう。そしてどれほどの大砲が発射され、どれほど残忍なことやうそや残酷なことがあったのだろう。たぶん生きてるものでわかるものはいないだろう。でもこの島の三人の男、シルバーとモーガンとベン・ガンは、罪にも荷担して、その分け前を得ようとしたが無駄に終ったわけだった。

「おはいり、ジム」船長がいった。「おまえはおまえなりにいい子だよ、ジム。でも私は、もう君とはいっしょに航海にはでないよ。君は私にしてみれば、あまりに生まれながらの幸運児だよ。おまえか、ジョン・シルバー? 何しに来たんだ?」

「自分の義務を果たしにです、船長」シルバーは答えた。

「あぁ!」船長は言った。そして船長が言ったのはそれだけだった。

その晩に僕が味方の人に囲まれて食べた夕食といったら。ベン・ガンの塩漬けのヤギや、いくつかのごちそうや、ヒスパニオーラ号からもってきたワインやなんやかんやがあった。みんな楽しそうで、幸せそうだったことは僕が保証する。そしてシルバーはほとんどたきびがあたらない後ろにひかえていたが、たっぷり食べ、何か用があるときはすぐ前にとんできて、僕らが談笑しているときには控えめにそれに加わったりもした。航海にでかけたときと全く同じ、人当たりのいい、丁寧な、こびへつらう船員そのものだった。


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