宝島 ジョン・シルバー, ロバート・ルイス・スティーヴンソン

結末


次の朝、僕らは朝早くから仕事にとりかかった。この巨万の富を一マイル近くも浜まで運んでいき、三マイルほどもボートでヒスパニオーラ号まで運ぶのは、こんな少人数では手に余るほどの大仕事だったのだ。まだ島をうろついている三人には、大して困らなかった。山の肩のところで一人見張りをたてておけば、ふいうちに対しては十分だったし、その上やつらも闘うのにはこりごりしていると僕らは思っていた。

そうして作業はてきぱきと進められた。グレーとベン・ガンはボートで行き来をし、残りのものは二人がいないうちに浜に宝物を積み上げた。二本の延べ棒を一本のロープの両端にぶらさげて、成人一人にはじゅうぶんな荷物だった。ただそれを持ってゆっくりと歩くのは、このうえなくうれしい仕事でもあった。僕は運ぶのには役にたたないので、一日中洞窟にいて、金貨をパン袋につめこんでいた。

一日中洞窟にいて、金貨をパン袋につめこんでいた。

めずらしいコレクションで、ビリー・ボーンズの箱と同じくらいさまざまな種類のものがあった。でもずっと量があり、もっと種類があったので、それを仕分けするのはとても楽しい作業だと僕はおもった。イギリス、フランス、スペイン、ポルトガル、ジョージ、ルイーズ、ダブロン、ダブル・ギニーそしてモイドール、シークインなどさまざまな金貨があり、ヨーロッパのここ百年のありとあらゆる王様の肖像を目にすることができた。糸のたばやクモの巣のような模様のついた、風変わりな東洋の硬貨もあり、丸い硬貨も四角い硬貨も、まるで首にでもかけるように真ん中に穴のあいた硬貨もあった。僕が思うには、世界中のありとあらゆる種類の金貨がここにあった。数はといえば、確かに秋の木の葉ほどもあって、僕の背中はかがんで痛くなり、僕の手は仕分けでずきずきいたんだ。

次の日も次の日も、この仕事は続いた。毎夕、ひと財産が船に積み込まれていたが、次の日はまたひと財産が控えているといったぐあいだった。そしてこのあいだ中、僕らは生き残った三人の反逆者の消息を耳にしなかった。

とうとう、たぶん三日目の晩だったと思う、先生と僕が山の肩のところで散歩をしているときに、島の低地をみわたせるそこで、風が、悲鳴のような歌っているような声を運んできた。僕らの耳に届いたのは断片で、すぐに静寂があたりをつつんだ。

「神のお許しを」先生は言った。「あの反逆者たちにも」

「よっぱらってるんでさぁ」シルバーは、僕らの後ろから声をかけた。

シルバーは、言っておかなければならないが、全く自由にふるまうことを許されていた。そして日々の冷たい扱いにもかかわらず、まるで特権を与えられた親しい召使のように、再びふるまっていた。実際、やつがどのようにして冷淡な扱いに耐え、みんなに気に入られようとしてうんざりもせず丁寧なふるまいをしたかは、注目に値するほどだ。でも僕が思うには、だれもシルバーを犬ほどにも扱わなかった。でもベン・ガンは別で、昔の操舵手をひどく恐れていた。それから僕もシルバーには借りがあったのだ。でもその件については、僕が思うにだれよりも悪く思ってももっともだったとも思う。なぜなら、シルバーが高原であらたな裏切りに思いをはせていたのを見たからである。従って、先生がシルバーにかなりそっけなく答えたのも無理はなかった。

「酔っ払ってるのか、気でもくるったのかだな」先生は言った。

「そうでしょうな」シルバーは答えた。「関係ないですがね、わしにも先生がたにも」

「おまえは、私に人間らしいなんて言ってもらおうとしてるんじゃないだろうな」先生はあざ笑いながら答えた。「でも私の気持ちを聞いたらおどろくぞ、シルバー船長。もしやつらが本当に気が狂っているなら、私は確かにあのうちの少なくとも一人は熱病にかかってるんだから、キャンプを離れ、私の体にどんなに危険があろうとも、私の技術を役立てねばならんな」

「どうか、先生、ぜんぜん間違っています」シルバーは口をはさんだ。「大事な命をなくしたくはないでしょう、確かに。わしはいま先生の味方です、すっかりね。そんでわしは味方がやっつけられるのはみたくありませんや。ほっときなさい、どれだけわしが先生にお世話になったかわかってますから。でもあそこにいるあいつらは、約束をまもれねぇんですよ。ぜんぜん。守りたくても守れねぇんですから。それにくわえて、先生が約束を守ることも信じられねぇんですよ」

「そうだろう」先生は言った。「おまえは約束をまもる男だよ。それはわかってる」

それが、その三人の海賊のことを聞いた最後だった。たった一度銃を撃つ音がはるか遠くで聞こえ、狩りでもしているのかと思われた。みんなで相談して、やつらをこの島に置き去りにすることが決まった。あえて言っておけば、ベン・ガンは大喜びで、そしてグレーも大賛成だった。僕らは十分な食料と火薬と銃弾、そして塩漬けのヤギの大半と、いくらかの薬とそしてその他の生活必需品、道具や服や、予備の帆や一、二尋のロープ、先生の特別な計らいで、タバコまでも置いていってやったのだ。

これが、僕らがこの島で最後にやったことだった。その前に僕らは船に宝物をぎっしりつめこんで、水をたくさんと危機に備えてヤギの肉の残りをつみこんだ。そしてとうとう、ある晴れた朝に、錨をあげて、僕らはそうするばかりになっていたのだ。そして防護柵で戦ったときに船長がかかげたのと同じ旗をかかげて、北の入江から出発した。

三人の男たちは、僕らが思ってたよりずっと近くで僕らの行動を見守っていたらしい。狭い水路を通って、僕らが南の先端のすぐ近くを通らなければならないとき、僕らは三人の男が一緒に砂地にひざまずいて、哀願のしるしに両手をあげているのを見てとった。三人をこんな哀れな島においていくなんて考えると、僕らみんなの胸がうたれた。でも僕らは、また反逆の危険をおかすわけにもいかなかった。そしてやつらを本国につれてかえって絞首刑にするのも、やさしさの裏返しであるようにも思われた。先生はやつらによびかけて、僕らが残したものと、それがどこに行けば見つかるかを伝えた。でも三人は僕らの名前をよび、神に誓って、慈悲をかけ、置き去りにしてこんなところで死なせないようにと嘆願した。

船が進みつづけ、とうとう、すぐには声が聞こえないところまで行くと、僕にはだれだかはわからないが、三人のうちの一人が叫び声をあげて立ちあがり、マスケット銃を肩に担いで発砲した。その銃弾はシルバーの頭をかすめてメインの帆を貫通した。

その後、僕らは舷側に隠れていたが、次に外を見たときは、やつらは岬から姿を消していた。そしてその岬もだんだん遠くなり、視界の外に消えた。とにかく、それが最後だった。昼前には、僕がとてもうれしかったことに宝島の一番高いところの岩でさえ、青い海の中へと消えて行った。

僕らは人手が足りなかったので、全員が手を動かさなければならなかった。ただ船長だけが船尾のベッドにねて、指令を出した。ずいぶん回復はしていたが、安静が必要だったのだ。僕らは船を近くのスペイン領アメリカの港にむけた。というのも本国まで、人手がなく帰る危険を犯したくなかったからである。そうしたので、風が邪魔するわ、二度の突風がふくわで、僕らは着く前にすっかり疲れ果ててしまった。

僕らが実に美しい陸に囲まれた湾に錨を下ろしたのは、ちょうど日が沈むころだった。そしてすぐに黒人やメキシコ系インディアンやその混血がのった伴舟が周りをとりかこみ、果物や野菜を売り、わずかな金をもとめて殺到した。そんなに快活な顔(特に黒人の)にかこまれ、トロピカルフルーツを食べ、なにより街の明かりに照らされているのは、闇と血にいろどられた僕らのあの島での滞在と実に対照をなしていた。そして先生と大地主さんは、僕を一緒につれて、夜の早いうちを岸で過ごすため上陸した。そこで二人はイギリスの戦艦の船長に出会い、意気投合し、戦艦に招待された。そしてつまり、あんまり楽しいときを過ごしたので、僕らがヒスパニオーラ号に帰ってきたときには夜が明けていた。

ベン・ガンは、甲板で一人きりだった。僕らが帰ってくるとすぐに、ひどく当惑したようすで、僕らにこう告白した。シルバーが逃げたと。ベン・ガンは、シルバーが二、三時間前に伴舟で逃げ出したのを見て見ぬふりをしたのだった。そして僕らに、あなたがたの命を救うためにそうしたのだと言ったのだ。もし片足のあの男がこのまま船上にいたら、いずれ命が危うくなったのは確かだというのだ。でもそれだけではなかった。料理番はなにももたずに逃げ出したわけではなかったのだ。やつはこっそり船の隔壁をこわし、硬貨のつまった袋を一つとりだして、たぶん三、四百ギニー相当だろう、行きがけの駄賃としたのだ。

これだけで厄介払いできたら安いもので、みな大喜びした。

さて、話をはしょれば、いくにんかの人手を雇い入れ、本国まで快適な旅をした。ヒスパニオーラ号はブランドリー氏がちょうど迎え船を出そうと考えていたときに、ブリストルに到着した。出航して、ともに帰還したのはたった五人だった。まったく確かに「酒をくらって悪魔が残りを片付けた」のだが、僕らはやつらが歌った他の船ほどひどいことにはならなかったわけだ。

七十五人で船出をしたが、
生きて帰ったのはたった一人

僕らはみな宝物を応分に分配した。そしてそれぞれの気の向くままに、賢くつかったものも、愚かに浪費したものもいた。スモレット船長は引退した。グレーはその金を貯めたばかりでなく一念発起して、偉くなろうと努めて、職にまい進した。そしていまや副船長となり、完全帆装の船の持ち主で、その上結婚しており、一家の主人となっていた。ベン・ガンといえば、千ポンドをもらったが、三週間もしないうちに使い果たし、いやもっと正確にいえば十九日で使い果たしたのだ。というのも二十日目には、金をもらいに戻ってきたのだから。それから小屋の見張りの仕事をもらい、まさに島で案じたとおりとなった。まだ健在で、多少ばかにはされているが子供たちにはおおいに好かれ、日曜や祝日には教会ですばらしい歌を披露している。

シルバーについては、何もしらない。あの恐るべき一本足の船員は、とうとう僕の人生からはすっかり姿を消してしまった。でもあえていえば、シルバーは年とった黒人の妻と落ち合って、鸚鵡おうむのフリント船長といっしょに楽しく過ごしていることだろうと思う。どうか、そうあってほしいものだ。というのもシルバーがあの世で楽しく過ごせる見込みは、きわめて少ないのだから。

銀の延べ棒や武器は、まだフリントが埋めたところに埋まっているのだろう。とは言うものの、僕はどうなっているかは知らない。確かにそこにあるかどうかは、僕の知ったことではない。牛と荷馬車のロープで引かれようとも、僕はあののろわれた島へ二度と行こうとは思わない。そして僕がみる最悪の夢は、あの島の岸にうちよせる波の音を聞いたときのことか、いまだ耳に響くフリント船長のするどい鳴き声に寝床から飛び起きたときのことなのである。「八分銀貨! 八分銀貨!」

終わり


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