統治二論, ジョン・ロック


本書を訳出するに当って、『モーレイ世界文庫』及び『エヴリイマン文庫』のテキストと、一八〇一年ロンドンで刊出されたジョン・ロック全集のそれとを比較して見る機会を得た。『モーレイ世界文庫』はロバート卿の『パトリアーカ』をも併せ載せて居り、その点で重宝であるが、肝心のロックの『政治論』(編註:統治二論を指す)の方で相当に省略が施されて、時には本文に誤謬があるのみならず、句点の打ち方の間違いも少なくない。『エヴリイマン文庫』のテキストはそれほどひどくはないが、やはり、所々に省略などがあって、結局、古い版が一番よく分かり、一番正確で一番信頼出来ると考えざるを得ないのである。従って、読者によって本訳書に見出される、新しい版にない文節は、すべて一八〇一年の全集版から補って訳したものである。

訳出、並びに校正に際しては、嶺卓二教授及び松浦高嶺君の御助力に負うところが甚大であった。ここに深く御両君に感謝の意を表する。私はあまり本を読んでいないが、本書ほどに多くの大切なことを教え、しかも面白く読める書物はあまり他には無いと断言してはばからない。著者が冷静且つ上品な紳士的態度で、学者ぶるような用語は一切避け、誠に打ち寛いで、明快な、よく調和のとれた、そしてどこかに造味のある会話風の文体で、支配の起源や政治社会の在り方について哲学するところには、至妙なうま味があると思う。私達はこの味を再現することに相当苦心し、あたう限り原文に忠実にそして正確に訳出することを努力したことを附記しておく。

尚、本訳書刊行について竜口直太郎氏並びに明石総一氏の御尽力と、前記の貴重な一八〇一年版の借用を許された法政大学の御好意とを深く感謝する。

昭和二十三年四月二十五日

松浦嘉一